大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・103『西之島チルル空港』

2022-04-16 16:36:51 | 小説4

・103

『西之島チルル空港』越萌マイ(児玉隆三)  

 

 

 朝霞駐屯地の前から飛び立って南南東に90分、!マークがバク転したような島が見えてくる。

 西之島だ。

 去年、小笠原村から独立して西之島市になった。

 堂々の国際空港を持ち、人口も十万を超えては村でもあるまい。

 かつて、会社、村、胡同と呼ばれた地域は、それぞれ『南区』『東区』『西区』と改編され、市庁舎は、かつて北としか呼称されていなかった『北区』に置かれている。

 北区の西端からは橋がのびていて、埋め立てによって造成された『西之島国際空港』に繋がっている。

 今日は、その国際空港ではなく、南区の南端のチルル空港に下りる。

 空港は『氷室空港』と呼称されるはずだったが、社長の氷室が固辞し、落盤事故で最後まで遺骨の引き取り手が現れなかった犠牲者の名にちなんでいる。

 

 プシューー

 気蓄機から盛大な蒸気を吐き出して着地させる。

 エプロンまで滑走させるのも待ちきれない様子で、空港ビルから数名の、おそらくは氷室カンパニーの人たちが駆けてくる。

 ウィーン

 ハッチが開くと、馴染みの加藤恵たち、カンパニーの主要メンバーが集まっている。

「出迎え有難う、恵。こちら妹の越萌メイ、越萌姉妹社の専務です」

「ようこそ、メイさんマイさん。こちらが氷室カンパニー社長の氷室睦仁です」

「氷室です。もっと早くお会いしたかったんですが、本決まりになるまでは会ってはいけないと社員に止められまして、失礼いたしました(^_^;)」

「いえ、こちらもメイから同じことを言われていましたので、お互いさまです」

「わたしの横に居ますのが、西之島銀行本店店長のニッパチです」

「ようこそ……あ、失礼、音声の切り替えを……ようこそいらっしゃいました。ごいっしょに開発計画を実施できることを楽しみにしております」

 きれいな女性の声になったので、ちょっとビックリ。これまでの事前折衝の記録はでは、パチパチの声はデフォルトの男性音声だった。でも、指摘するのは失礼だ。ポーカーフェイスで通す。

「その隣が、技術部長のシゲ老人です。一徹ものですが、技術に関しては柔軟な考え方をしてくれます」

「ああ、そういうことで、よろしく。ところで、おたくのボートは、ちょっと変わってるねえ」

「ええ、むかし大阪で考案された軽コスモボートが原型になっているんです。うちのメカニックが資料を基に作ってくれまして、フチコマって言うんです」

「あとで見せてくれっかい?」

「ええ、どうぞどうぞ」

「止した方がいいですよ、ぜったい分解しますから」

「余計なこと言うな、メグミ!」

「アハハ、いいですよ。お互い刺激し合うのはいいことですから」

「いえ、島中のメカニック呼んできて見せびらかしますから、パーツは、あちこち回って、元に戻るのには一か月はかかりますから」

「そんなにはかからねえ、二週間であげてやらあ!」

「あはは、それは、ちょっとご勘弁を……」

 アハハハ

 みんなが笑う。いい出だしだ。

「市長や他の代表の者たちには、明日以降会っていただけるように調整しています。わざわざお越しいただいて、不手際なことで申し訳ありません」

「いいえ、それだけ可能性の高い土地、そして事業ということです。先が楽しみです」

「はい、そうです。それでは宿舎の方にご案内いたします、まずは、空港ビルの方へ」

 フチコマを整備士に任せると、なんだか、昔からの知り合いのような気やすさで空港ビルに向かった。

 管制塔の向こうには、西之島火山が暖機運転中のSLのように煙を吐いている。

 その逞しさは、吉兆のようにも見え、天下大乱の凶兆のようにも見えた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
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せやさかい・298『校内探検・図書館ほか』

2022-04-16 10:00:57 | ノベル

・298

『校内探検・図書館ほか』さくら 

 

 

 中学では文芸部やったさかい違いが分かる。

 

 普通の学校にあるのは『図書室』なんです。そやけど、ここは『図書館』なんです。

『図書室』の『室』いうのは、建物の中の一室のこと。『図書館』いうと独立した一個の建物。

 イメージとしては、通い慣れた堺市の中央図書館。

 で、目の前の『真理愛館』は、まさに、この図書館なんですわ!

 神戸の異人館にあってもおかしないクラシックな建物で、屋根はうろこみたいで、真ん中に尖塔が立ってて時計と風見鶏が付いてる。

 入り口のドアには五段の石段。脇にスロープが付いてるのは今風やけど、入り口のドアは重厚な木製でブロンズの看板に『S・MARIA・HOLE』の飾り文字。

 ズイン

 ノブに手を掛けようかと思ったら、自動で開いたんでビックリ。

「うわあ……」

 留美ちゃんが歓声をあげる。

 つられて首を上げると吹き抜けのホール。

 書架は天井まであって、奥に階段を上って二階……にも書架が並んでるみたい。

「今日は見るだけね」

 念を押しておく。留美ちゃんは本の虫やさかい、ほっといたら放課後まで居りかねへん(^_^;)。

「雑誌もラノベも充実してるね!」

「ほんまや」

 中学では、PTAの申し入れで、おもしろいラノベはみんな書架から外されてしもた。

 ラノベにはR15指定のもんなんか、実はほとんどない。

 せやけど、PTAはタイトルとかイラストとかがイカガワシイというだけで禁書目録に入れてしまう。

「あのう、本は、いつから借りられるんですか?」

 こらえきれずにカウンターの係りに質問する留美ちゃん。

「あ、一年生ですね。来週には図書館のガイダンスがあるから、それ以降になります」

 品のよさそうな図書係りの三年生が教えてくれる。

「蔵書数は、いくらくらいなんですか?」

「えと、ちょっと待ってね……」

 図書係りさんは、奥の司書室に聞きに行ってくれる。

「開架図書が15000、閉架図書が20000冊だそうですよ」

「「35000冊(꒪ȏ꒪)!!」」

「あ、声大きいよ」

「「すみません」」

 とりあえずは、驚いたところで図書館を出る。

 用心してたから、昼休みは、まだ五分ほど残ってる。

「あっち行ってみよか?」

「うん」

 足を伸ばしたのは正門入った校舎の脇。

「これは、誰の像?」

 ミッションスクールには似合わへん和服のチョンマゲとロン毛の男女の石像。

「高山右近と細川ガラシャだよ」

「あ、ああ、これがあ!?」

 ビックリしたけど、よう分かってません。大阪に縁のあるキリシタンの人やった……よね?

 奥の方には芝生の丘があって、キリストと、それに額ずくモブキャラさんたちの石像。

「ほかにも、十二使徒とかあるよ、これは……」

 留美ちゃんの目が燃えてくる。

 あやうく十二使徒探しをしそうになるのを我慢して教室に戻りました。

 

 放課後も見てみたいとこだらけ。

 しかし、不用意に回ると、すごい部活の勧誘に出くわしてしまうので、様子を見ながら探検。

 ひょんなことで、弓道場に入り込んで、生まれて初めて弓を射ったりしたんやけど、また今度話すね。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・19『栞の記者会見』

2022-04-16 06:24:28 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

19『栞の記者会見』  

 

   


「ハンパなことでは、終われませんなあ」

 マスコミ相手の記者会見の前に、校長と栞の父親との共通した見解であった。

「全部さらけだしましょう」という点でも一致していた。下手に隠し立てしたり、庇っていては、後で訂正を繰り返し、問題がスキャンダル化し、何度もマスコミや世論の晒し者になる。それは避けようという点でも一致していた。

「校長先生、府教委との事前調整は?」

 教頭が、ノッソリ入ってきて、他人事のように言った。

「報告はしてあります、火の粉は被りたくないんでしょ。それ以上のことは言ってきません」

 自身その出身であるので、官僚の姿勢は手に取るように分かっているのだ。

 

「……とういうのが、今回の事件、事故のあらましであります」

 100人を超えるマスコミ相手に説明を終え、いま一度、深く頭を下げる校長であった。

「冒頭においてもお詫びいたしましたが、今回のことで、心身ともに御本人を深く傷つけ、並びに保護者、そして学校関係各位、府民の皆様にご心配、ご迷惑をおかけしましたことを学校長として、深くお詫びいたします」

「詫びてしまいですか。学校の体質そのものに大きな問題があるように思うんですが、学校長として、今後の改善や、改革の方向性は持ってるんですか?」

 記者が、ねネチコク絡んでくる。

「それに、お答えする前に、保護者であるお父さんから、間違いや、補足があれば言及していただきます」

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 ひとしきりシャッター音がして、栞の父親の写真が撮られる。

「みなさん、なぜ私の写真を許可もなくお撮りになるんですか。うちの子は未成年であります。親の面体が知れれば、本人が簡単に特定されることをお考えにはならんのですか。まず、その無責任さについて抗議いたします。特に最初にシャッターを切ったA新聞のあなた。御社の未成年事案の報道規定についてお聞きしたい……バカヤロー、そんなイロハも上司に相談しなければ、答えられないようじゃ、報道記者の資格は無い!」

 手島は、最初にかました。

「B放送、エンターキーを押すんじゃない。時程については、うちの子がコンマ秒単位で君たちの映像を撮っているんで、言い訳はできない。N放送、この子のカメラは200度の広角。死角じゃないからな。君の薄笑いもちゃんと記録してある。あとで、薄笑いの理由を聴取するんで、君は、A新聞、B放送共々に残りなさい。編集はききません。うちの子が持ってる広辞苑はカバーで、中身はパソコン。SNSでも実況しておる。言動には、注意されたい」

 栞が、広辞苑のカバーを外すと、カメラとマイクのついたパソコンが出てきた。

「C新聞、ええかげんにせえよ。今、間違った振りをして、パソコンの電源コードを抜いたな。君も、後で残りなさい。ちゃんとIDも撮ってある。ちなみに、そのコードはダミーだ」

 他の、カメラマン達が指摘された記者やカメラマンを撮り始めた。

「あんたらは、本当にハイエナだな……学校長の話に補足はありません。ただ私は、うちの子の法定代理人として、湯浅教諭を道交法の進行妨害、また、梅田教諭と共謀し、うちの子に対し、威力業務妨害、傷害、逮捕監禁、交通事故現場の証拠隠滅。中谷教諭に対しては、うちの子が提出した5通の書類についての証拠隠滅、並びに、公務員の職務専念義務違反により告訴致します」
 
 会見会場は水を打ったように静かになった。そして、栞が真っ直ぐ立つと、カメラを自分に向けて宣言した。

「わたし、被害者の手島栞です。あとの画像は、テレビカメラでご確認ください」

 この行動には、父親も校長も驚いたが、栞はもう止まらない。

「わたしが、一番言いたいのは、大阪府の総合選択制の学校と、総合選択の授業そのものです。詳しくは、わたしの『栞のビビットブログ』に載せてありますので、それをご覧ください。かいつまんで申しますと、高校の授業の形骸化と、その質の低下、課外活動の主軸であるクラブ活動の軽視です。7時間目まで授業をやられ、下校時間が5時15分では、日常的に時間外活動をしなければ、部活が成り立ちません。元凶はここにあります!」

 栞は、パッツンパッツンの通学鞄とサブバッグ、そして体操服入れの袋をゼミテーブルの上に置いた。

「総重量5・5キロになります。これを持って満員電車に乗るんです。これは、学校の教務、各教科が縦割りになって、学校として有機的なカリキュラム決定がなされていないことの象徴的な現れです。ちなみに、これは、月曜日の時間割に合わせたもので、意図的なものではありません。後日、曜日毎の携帯品とその重量をブログで公開しますので。ご覧下さい。有機的な教育計画、カリキュラム、教育行政を要求します。具体的にわたしは、授業の単純化を提唱します。国・数・英・理・社に収れんされ、その中で幅を持たせるべきです。先生によっては、この総合学習のために、5種類の授業を持っていらっしゃる方もいます。高等の名に値する授業が、果たして可能なんでしょうか。そして……」

「栞、それぐらいにしておきなさい」

「……はい」

 記者会見は、半ば栞の独演会の感で終わった。

「栞、覚悟しときや。ブログ炎上やで……」

 自宅待機の三人を送り届け、学校に戻ってきた乙女先生は、講堂の入り口で、そう呟いた……。
 

 

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