大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・1『お祖父ちゃんの仕事』

2022-04-12 20:34:16 | 小説6

高校部     

1『お祖父ちゃんの仕事』   

 

 

 すごい…………………………あ!?

 

 感動のあまり、お盆を落としてしまうところだった。

 ちょっと零れただけなので、ティッシュで湯呑とお盆を拭いて、サイドデスクの上に湯呑を置く。

「どうだ、いいできだろう」

 振り向くとお祖父ちゃん。

「うん、最高だね」

「はは、鋲の誉め言葉は、いつも『最高』だな」

「だって、最高だから」

 ディスプレーには、レトロな建物を背景に七人の人物が映っている。

 建物はコロニアル風と言われる明治時代の建物、明治の二十年代かな?

 洋装の男女に混じって和装の女の人、この時代は、和装の方がしっくりくる。

 明治とか大正のころの仕事は、よくある。昭和の初めくらいまでは和装が主流だ。

 日本人の体形……というよりは、着こなし身のこなしのせいだってお祖父ちゃんは言う。

 試しに脚を長くして見せてくれたことがあるけど、やっぱりサマになってなくて、お祖父ちゃんの目の確かさに感心した。

「動くんでしょ?」

「ああ、エンターキーを押して……」

 エンターキーを押すと、七人の人物は、なにか談笑しながら三人が椅子に座り、四人が後ろに立った。

「ズームしていい?」

「ちょっとコツが……」

 お祖父ちゃんが操作すると、一人一人の人物が順番にアップになっていく。

 実業家の一家なんだろうか、みんな幸せそうで、性格は違うけど、穏やかな表情をしている。

「和装の女の人、きれい……なんか凛々しいなあ」

「うん、お祖父ちゃんも好きなタイプだ……」

 お祖父ちゃんが操作すると、その和装の人は立ち上がって、クルリと一回りした。

「おお……」

「マガレイトっていうんだ、この髪型は……ほら、笑顔も素敵だろう」

「うん、でも、ちょっと話しにくそう」

「はは、鋲は女性恐怖症だからなあ」

「恐怖症ってほどじゃないよ、もう、たいてい平気で話せるよ」

「そうか、それはすまん」

『柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君~』

「おお……」

「骨格から、こんな声だろうって、喋らせてみた」

「こんな声だったの?」

「八割がた……東京弁だったら、こんな感じだ」

「今のは、和歌だよね?」

「与謝野晶子……ちょっと過激だったかな」

「これも注文なの?」

「それがな……」

「あ……」

 お祖父ちゃんがキーを操作すると、その和装の女の人は、夜明けの霧のように消えてしまった。

「依頼主の注文でな、この人は消してしまうんだ。たぶん、依頼主の一族には都合の悪い存在なんだろうさ」

「そうなんだ……」

 お祖父ちゃんは、会社や、有名人や、お金持ちの注文で、昔の画像や映像を処理する仕事をしている。本業は、古い映画や映像をデジタル処理して、このニ十一世紀の鑑賞に堪えるものにする仕事。

 お祖父ちゃんの手にかかって、見直された映画やテレビ番組はけっこうある。

 仕事だからやってるけど、トリミングで人や物を消してしまうのは、あまり好きじゃないみたい。

 でも、仕事だからね。腕もいいし。

 僕が大学を卒業して社会人になるまでは頑張るって言ってる。

 仕事以外は、からっきしってとこがあるから、家の事は、及ばずながら僕がやっている。

「あ、肘のところほころびてる」

「あ、トイレのドアにひっかけちまったかな」

「ソゲが立ってた?」

「ああ、家、古いからなあ」

「あとで直しとくよ」

「すまんなあ、リアルの家はデジタル処理できないからなあ」

「脱いで、繕うから」

「あとでいいよ」

「後にすると忘れちゃうから」

「そうかい、じゃあ……あ、明日から学校だな」

「うん、お祖父ちゃんのお蔭だよ、あやうく中学浪人するとこだった」

「まあ、施設は古いけど、いい高校だからな」

「うん、がんばるよ……」

 

 僕は高校受験に失敗した、それも二つも。

 二つ落ちるとは思ってなかったから、もう行ける高校が無くなってしまった。

 お祖父ちゃんは、いろいろツテやらコネやら使って調べてくれた。

 もう通信制の高校でもいいと思ったんだけど、お祖父ちゃんが、やっと見つけてくれて、新入学に間に合った。

 ピボット高校。

 能力的には、僕には過ぎた高校で、勉強について行けるかどうか心配なんだけど、頑張るしかない。

 入学に当っては、一つ条件がある。

 学校が指定する部活に入ること。

 これに関しては、僕に選択権は無い。

 で、その部活が、ちょっと想像がつかない。

『あーかい部』

 アーカイブのことか?

 でも平仮名だし、正確には『亜々会部』と書くらしい。

 要高校のホームページで見ても出てこないし、ちょっと意味不明。

 まあ、明日の入学式に出てみれば分かるだろう。

 お祖父ちゃんのセーターを繕い、ドアのささくれは、養生テープを貼って仮補修して、いつもより早く寝た。

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・15『マックスアングリー・2』

2022-04-12 08:27:40 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

15『マックスアングリー・2』    

    

 

 立ち上がった栞は、顔も手足も、いっそう青白い。

 怒りがマックスになってきた。乙女先生は、そう感じた……。

「中谷先生、先生が、わたしのバイト許可願いを受け取っていないというのは、嘘です」
「これが、当人が中谷先生に渡した許可願いの写しです」

 父親が、許可願いのコピーを出した。

「わたしが出そうと思ってたのに……」
「ボ、ボクは、こんなもん見たこともありません!」
「わたしは、受領書を要求しましたが、中谷先生は拒否なさいました。これが、その受領書です」

 栞は、父親が持参した袋の中から、ビニール袋に入った受領書を出した。

「そんな、なんにも書いてないもんに証拠能力は無い!」
「……どこまで言えば認めるんですか!」

 怒りのあまり、栞は音を立てて立ち上がった。乙女先生は倒れた椅子を元に戻し、顔で着席を促した。

「どうも、すみません。栞、感情的になるんなら発言をひかえなさい」
「ビニール袋に入っているのは、証拠品だからです……」
「あんまり穏やかな言い方やないな、手島」
「それ以外の言いようがありません。これには、わたしと中谷先生の指紋がついています」

 乙女先生は、違和感を覚えた。今まで、いろんな修羅場をくぐってきたが、こんなのは初めてだ。

「そんな、ハッタリかまして、知らんもんは知らん!」
「先生、録音中です。ご発言には気を付けられたほうがいい」

 父親は、そう言うとメガネを拭いてかけ直した。

「ここで、指紋検出をしてもいいですが、わたしがやっては証拠能力がなくなりますから」
「フン、やっぱりハッタリや」
「こういうことは、警察がやらなければ証拠にならないんです。刑訴法のイロハです。こちらを見てください……」
「手島、センセらは、おまえの指導拒否を問題にしてんねん。関係ない話は止めてくれるか」
「それは、発言の制止ですか」
「本題から外れてると、センセは思う」

 梅田は、父親に対抗するようにメガネを拭きだした。栞は、構わずに続けた。

「これは、中谷先生が、わたしのバイト許可願いと、カリキュラム改訂についての建白書をご覧になっている写真です」
「おまえ、携帯は出せて、掴まえた時に言うたやろ!」
「いや、指導ですよ。湯浅先生」
「携帯はお渡ししました。これはスマホです」
「スマホて、おまえなあ!」
「まあまあ、牧原センセ……」
「始業から、終業まで、携帯の類は使用禁止やろが」
「覚えてらっしゃらないんですか。わたしがお願いに行ったのは、放課後です」
「職員室の中で、そういうもん使うのは反則やろ」
「これは、廊下から撮ったものです。職員室のドアは開きっぱなしでしたから」
「しかし、職員室の中を撮るのは、不謹慎やろ」
「じゃ、卒業式の日に、職員室で撮る写真も不謹慎なんですね」
「へ、屁理屈を言うな!」
「わたしも、あまり誉められたことじゃないくらい分かっています。しかし、それまでに二回も提出したものを無視されています。この程度の証拠確保は許されると思います」
「仮に、そやとしても、オレが読んでるのが、手島の書類て、どないして分かるねん!」
「こうすれば、分かります」

 栞は、スマホの画面を拡大して見せた。明らかに栞の書類である。

「ぼ、ぼんやり見とったから、よう覚えてへんわ」
「先生は、読んだと、今おっしゃったばかりです。どちらにしろ、お受け取りになったことは確かです」
「そ、それは……」

 このアホが……という顔を梅田がした。

「バイトの許可願いは、空文化してる中で、わたしはきちんと出したんです。ですから、わたしのバイトは、本校において、著しい校則違反にはなりません。事情を知った上で、校長先生の許可も得ています」
「それは、手続きが……」
「書類の書式から言っても、学校長の許可があれば十分です。すまん、栞続けて」
「よって、わたしのバイトは合法です。それを制止したのは、道交法の進行妨害、刑法上の威力業務妨害、傷害、逮捕監禁、証拠隠滅にあたります。以上」

 中谷が、声を発する前に、父親が締めくくった。

「栞は未成年でありますので、わたくしが法定代理人として、告訴いたします。今日お見せしたものは全て、証拠品として警察に提出します。では、ただ今から、栞の怪我の診断書を取りにいきますので、これで失礼いたします」
「待ってください、お父さん」
「これは、失礼、まだ栞の父であることを証明しておりませんでしたな。略式ではありますが、これが運転免許書です。連絡先はこちらに……」

 差し出された名刺には『弁護士 手島和重』とあった。

「べ、弁護士!?」

 中谷の声がひっくり返った。

「今日は休日で、畑仕事をしておりましたので、こんなナリで失礼いたしました。では……そうそう乙女先生にはお世話になったそうで、御礼申し上げます」
「あ、乙女は名前の方で、苗字は佐藤と申します」
「こりゃ、失礼を。娘が乙女先生とばかり言うものですから。では、またいずれ」

 手島親子は行ってしまった。

―― オッサン、なかなかやるなあ ――

 乙女先生は、手島弁護士のネライが分かったような気がした。手島弁護士は告訴するとは言ったが、いつ告訴するとは言っていない。また、意図的に乙女先生というパイプを残した。

 しかし現実は手島弁護士のネライさえ超えて大きくなっていくのであった……。

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・14『マックスアングリー・1』

2022-04-12 08:07:32 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

14『マックスアングリー・1』    

 

   


「……というわけで、指導忌避のため、手島栞を停学三日といたします」

 慣れた口調で説明をしたあと、作業着姿で小さく俯いている栞の父親に、梅田は申し渡した。
 栞は青白い顔をして梅田を見つめ。父親は、小さくため息をついて、もうひとつ深く俯いた。
 同席した教師のほとんどが、立ち上がりかけた。

 乙女先生は一言言おうと息を吸い込んだ。

「気の早い先生がただ。話はこれからですよ」

 それまでと違って凛とした声で父親が言った。

「ここからは録音させていただきます。どうぞお掛け下さい」
「手島さん……」

 父親の豹変ぶりに、梅田がかろうじて声を上げ、他の教師(学年主任・牧原 学年生指主担・山本 担任・湯浅)は立ちかけた椅子に座り直した。これからが出番だと思った乙女先生は座ったままだ。

「指導忌避と言われるが、栞、以下当人と呼称します。当人は津久茂屋の配達途中でありました。原動機付き二輪車の胴体側面、荷台の商品に通常の目視で視認に足る表示がなされておりました。当人のエプロン、ヘルメットにも屋号が付いておりました、いかがですか、湯浅先生?」
「突然のことで、そこまでは分かりませんでした」
「これが、当該の原動機付き二輪車、並びに、当人がその折着用しておりました、エプロンとヘルメットであります」

 父親は、二枚の写真を出した。教師一同は驚きを隠せなかった。

「当人は、そのおり『すみません、配達中なんで、また後で』と声をかけております。なお、配達の荷物は当日、本日でありますが、卒業式が行われる姫山小学校の紅白饅頭でありました。8時20分という時間からも、当人が急いでいたことは容易に推測できるものと思量いたします」
「いや、なんせとっさのことで」
「湯浅先生は、当校ご勤務何年になられますか」
「な、七年ですが……」
「津久茂屋も、姫山小学校もご存じですね」
「は、はい」
「そうでしょう、この前後のいきさつは、タバコ店の店主も承知されています。当人の返事も含めて。この状況で、指導忌避と捉えるのは早計ではありませんか」
「いや、たとえそうでも、二回目は指導忌避です」
「ほう、待ち伏せが指導にあたるとおっしゃるんですか」
「お父さん、何が言いたいんですか!?」
「事実確認です。ご着席ください梅田先生」
「こいつ、いや、手島さんは、わたしと梅田先生の制止を振り切って、逃げよとしたんですよ。明らかな指導忌避です」
「この写真をご覧下さい。これが当人が制止されブレーキをかけたタイヤ痕です。あとスリップし転倒した場所まで、約9・5メートル続いております。なお当人の速度は30キロであったと思量されます……」
「なんで、速度まで分かるんですか!?」
「現場の道路は、傾斜角6度の未舗装の下り坂です。逆算すれば、簡単に出てきます」
「しかし、本人は抵抗したんで、許容される範囲で制圧したんです。立派な指導忌避です」
「この状況で自販機の陰から飛び出されれば、パニックになります。当人は務めて冷静に対処しようとして、こう言っています『進行妨害です。現状保存をして、警察を呼んでください』と」
「それが、指導忌避です。ゲンチャは、本校では禁止しとります」
「それは、後にしましょう。先生方がおやりになったのは道交法の進行妨害に該当します。事実事故が発生し、当人も進行妨害と認識、その旨を主張しております。それを無視して職務中の当人を連行されたのですから、事故の証拠隠滅、威力業務妨害になります。逮捕監禁も疑われます」

 その時、応接室のドアが開いて、栞の旧担任の中谷が、顔を赤くして飛び込んできた。

「バイトを許可した覚えはありません! そもそもバイト許可願いなんか、ボクは受け取ってません!」
「中谷先生ですな。お呼びする手間が省けた」
「て、手島は、勝手に、そう思いこんで、勝手にバイトやっとるんです!」
「あきれた人だな……」
「なにを!」

「お父さん、もういい。これはわたしの戦い。あとは自分でやる!」

 立ち上がった栞は、顔も手足も、いっそう青白い。怒りがマックスになってきた。乙女先生は、そう感じた……。

 

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