大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・135『なんとか犬をやっつける』

2022-04-23 10:03:38 | ライトノベルセレクト

やく物語・135

『なんとか犬をやっつける』 

 

 

 自信を持ってください!

 

 石ツブテに怯むわたしを叱咤するアキバ子。

 でも、目だけ箱の隙間から覗かせて言ってるだけだから説得力がない。

 それに、いつのまにかロケットの外に放り出されてるし。

「いえ、繋がってますし!」

 アキバ子の言葉に振り返ると、アキバ子から伸びたか細い糸みたいなものがロケットに繋がっている。

 でも、それだけ(;'∀')。

「なんか、アリバイで繋がってるだけみたい」

「サッサとしなさいよ!」

「あ、いつの間に!?」

 わたしの胸元から抜け出して、御息所は空き箱の中から顔を覗かせる。ほとんど閉じられた箱の奥にもう一人分の瞳。

 あ、チカコも!

「「ガバメントよ、ガバメント!」」

 えらそうに言う二人。

 こないだ観たアニメの『平家物語』を思い出す。

 都落ちする平家を『はやくやっつけろ!』と源氏に催促する都の貴族みたいで、感じ悪い。

 わたしは木曽義仲でも九郎義経でもないよ……建礼門院徳子ならいいかなあ、最後まで生き残るし、CVも贔屓の清楚系声優さんだったし。

 ひとり洛北に庵を結んで亡き人たちの菩提を弔って、訪れた後白河法皇に反省させるのよ、ちょっとカッコいい。

 いたい!

 ほんのちょっと夢想している隙に石ツブテが当たった。

 石ツブテは堅めの発泡スチロールみたいで怪我はしないみたいなんだけど、ちょっと痛いし、屈辱感。

「このーーー!!」

 ガバメントをオートにして撃ちまくる。

 ハンドガンのオートだから機関銃のようにはいかない。

 機関銃は引き金ひいてる間、弾丸は出っ放し。

 ダダダダダダダダって感じ。

 ハンドガンは、引き金一回ひいて一発の弾。

 パン パン パンという感じ。

 リアルガバメントは八発しかマガジンに入ってないけど、わたしのは『義』のソウルがこめられているから、何発でも撃てる。

 パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン

 青龍戦でも慣れていたので、十発も撃つと命中率が高くなる。

 ガルル……

 犬は、自分の体を庇うのが大変そうで、飛ばしてくる石ツブテの量が減ってきた!

「励め、やくも! 敵は、もう壇ノ浦の平家みたいよ!」

 御息所が拳を振り上げる。

 とうとうツブテを投げることを諦めた犬は、土星の向こう側に回ったきり出てっこなくなった。

 

 やっつけたぁ? 仕留めた? 討ち取ったのか?

 

 三人囁くけど、箱は閉まったまんま。

 これで片付いたら、片付いてほしい……状況判断というよりは願望。

 そんなの分かってるから、両手で銃を構えたまま大きく深呼吸。

 目蓋の端っこがピクピクする。

 小学一年以来の発作だよ。

 極度に緊張して、それが続くと、こうなるんだ。

 三歳くらいにもピクピクになって、そのあとひきつけ起こしてひっくり返って、お母さん必死で看病してくれた。

 突然記憶が蘇る。

 でも、いまは、自分でなんとかしなきゃ。

 チラ

 土星の陰から、犬が顔を出す。

 今だ!

 ズキューーーン!

 エアガンのはずなのに、すごい音、すごい反動で、宇宙空間でバク転してしまう。

 キャイーーン!

 渾身の一発は、犬の眉間に命中して、犬は再び土星の陰に……勝った!

 

 そう思ったら、反対側の陰から犬を載せていた白いモヤモヤだけが現れた。

 

 あれは…………? なに? なんじゃ? なんでしょう?

 

 四人、呆然と見ていると、そのモヤモヤは、しだいに形を成して正体を現した。

 

「「「「虎だ(*゚◇゚*)!」」」」

 

 驚く声だけは揃う四人だったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・26『コップに半分の法則』

2022-04-23 05:42:36 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

26『コップに半分の法則』

 

      


 朝から栞の話でもちきりだ。

 一昨日収録された、梅沢忠興とのインタビューが昨日の朝に放映されたのだ。二時間に渡る話は45分に編集されていたが、論点は外していなかった。

 世論におもねってしまったために過剰になったカリキュラム、そのために、教師も生徒も無駄に神経・労力・時間が取られていることは、放送局が用意したフリップやテロップなどでも補強されていた。

 喋れる英語教育が必ずしも必要ではないという栞の意見は、視聴者には新鮮に聞こえた。重要な発言の時には過不足のないアップや、アングルで栞、梅沢を撮るだけではなく、一見無反応に見えていたMNBの榊原聖子が「うん」「なるほど」などと控えめにリアクションしているところも逃してはいなかった。

「わたしたちアイドルって、ザックリ目標を与えられるんです。で、レッスンの中で、ダンスや歌の先生達が、わたしたちを見て、具体的な指摘や、個人に合った目標とレッスンが与えられます。とっても指導がシンプルで的確ですね。ええ、わたしたちには無駄はありませんね」

「手島さんの話は、今の時代に蔓延している相対論や曖昧さがありません。主張にしろ、質問への答えにせよ、まっすぐ無駄なく答えてくる。セリナさん気づきました? あの子は、語尾を上げて相手にぶら下がるような話し方をしない。それでいて生意気じゃないんですよね。知性と論理性、幼さと美しさが同居している。お尻事件で、どんな子だろうと思っていましたが、話をして、その両極があの子の中に同居している自然さを……うかつにもこの十七に満たない少女のなかに「志」を感じてしまった。僕には、この人との対談そのものが大事件でしたね」

 と、二人の後撮りのコメントまで入っていた。

 生徒達の反応も、おおむね好意的だった。もっともアイドルの聖子の意見に引っ張られているところが大きいが、放送局のやることに珍しく納得した乙女先生であった。

「……以上の理由により、梅田、湯浅、中谷の三先生は書類の通り停職。その後、教育センターで半年の研修に入っていただきます。また、梅田、湯浅両先生につきましては、道交法の進行妨害、威力業務妨害、傷害により係争中でありますので、判決によっては、処分・指導内容に追加が加わることもあります。わたくし学校長は、監督・指導不十分で減給三ヵ月、戒告であります。また、第三者を交えた学校改革委員会が発足することになりました」

 今日は45分の短縮授業で、放課後は臨時の職員会議になり、栞の問題に関する府教委の処分と、学校運営のための、助言が伝えられた。

「なにか、この件についてご質問、ご発言はありませんか?」

 議長が事務的にみなに質問した。みなが俯いた沈黙の中、乙女先生が一人手をあげた……。

 

 栞は、さくやと二人で中庭のベンチに足を投げ出して座っている。職会の性質上教師は全員必出席で部活の監督ができない状況なので、どこの部活も休止なのだ。それでも二人は胸が騒いで帰りかねていた。

「今やってる職員会議で決まるんですね……」
「なにが決まるのよ」
「えと、先生らの処分とか……」
「なんにもならないわよ、そんなこと」
「そうですか……」

 さくやは、伸ばした脚をもとにもどし、姿勢を正した。といって、なにか思いついたわけではなく、この歳にになって初めて見る黄色いチョウチョに気が取られたのである。

「やあ、黄色いチョウチョや!」
「それが?」
「その年の一番最初に見たチョウチョが黄色やったら、その年は幸せな一年になるんやそうですよ。ラッキー!」
「それ、『ムーミン』に出てくるお話ね」
「へー、そうなんや!?」
「そうだ、ちょっと待ってて」

 栞は、側の食堂の自販機で、ジュースを二杯買いに行った。

「言うてくれはったら、うちが行きましたのに」
「勝手に決めたけど。さくや、オレンジね」
「はい、うち柑橘系好きなんです!」
「それ、半分飲んで」
「え、はい、喜んで、コクコク……」

 さくやは、計ったようにオレンジジュースを半分飲んだ。

「その半分になったオレンジジュースを、さくやはどう表現する?」
「はい、まだ半分残ってる……」

「大正解!」

「え?」

 そして、栞はまるまる残っているコーラを、さくやは半分のオレンジジュースで乾杯した。

「さくやが『半分しか残ってない』って言ったら、即、演劇部解散しようと思っていた」
「えー、そうやったんですか。よかったあ正解で(^_^;)!」
「まだ半分残ってるって、ポジティブさが、わたしたちには必要なのよ」
「はい」
「たった今まで、コップの中に閉じこめられていたオレンジジュースとコーラは、二人のお腹に収まって、やがて……」
「おしっこになります!」

 さくやが気を付けした。

「あのね、その前に体に吸収されて、わたしたちの力になるのよ」
「はい」
「ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した」
「発見した!」
「手島栞は、コップのコーラが空になるのを見て、高校生の力を発見した!」
「発見!……どういう意味ですか?」
「コップの中で、グズグズ悩んだり、チマチマ考えるのは止め! わたしは、コップを飛び出すの!」
 
 そうカッコヨク決めたところで、「ゲフ」っとオッサンのようなゲップが出た……!

 

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