大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・104『西ノ島は千代田区に似ている』

2022-04-19 16:19:30 | 小説4

・104

『西ノ島は千代田区に似ている』越萌マイ(児玉隆三)  

 

 

 わ、千代田区に似ていますねえ!

 西之島の上空3000mからの眺望を見て、メイが女子高生のような声を上げた。

「千代田区に例えた人は初めてですよ(^▽^)」

 氷室社長が、自分の学校を褒められた男子生徒のように、声を弾ませる。

「ワハハ、御山を皇居に見立てるわけかい!」

 シゲ老人も顔をシワクチャにし、他の者たちも、興味深そうに3000m下の西之島に見入った。

「ということは、有楽町から霞が関の東半分くらいがカンパニーの南区ですね」

 氷室社長が嬉しそうにポインターで南区のあたりをなぞる。

「ナバホ村の東区は丸の内ですよ、村長!」

「丸の内とは、なんだ?」

 兵二が扶桑幕府将軍の近習らしく注釈するが、ナバホ族の村長にはピンとこない。日本語には、かなり慣れたようだが、日本の地理までは分からない。兵二が耳打ちすると、電気が点いたような明るさで声を上げる。

「おお、大酋長の重臣たちが住むところか! マヌエリト感激した!」

「天皇は大酋長じゃねえぞ」

 シゲ老人が注意するが、同席の者たちは暖かく笑っている。

 ナバホインディアンである村長にとって『大酋長』というのが最高の尊称なのだ。村長は、越萌姉妹社にも最大の敬意を払ってくれていて、酋長の正装である地面に着いてしまうくらい長くてゴージャスな羽根飾りを身に着けてくれている。

 初めて会ったころ、村長の日本語はたどたどしかったが、今では、兵二や氷室社長と変わらないほどだ。

 インディアンとしての誇りからか、言葉の終りに「マヌエリト」と付け加えることが多い。

「フートンは四谷か……四谷と言えば、四谷怪談、同志お岩さんの古さとか?」

「あたしは、その『お岩』じゃないわよ」

「これは、なかなかの辻占かも……今期のリゾート開発地区は、神田・秋葉原地区に当てはまりますよ!」

「「「「「おお、アキハバラ!!」」」」」

 恵の指摘にみんなが感動する。

 アキバの略称で呼ばれる秋葉原は、五年前に二百年祭を行い、ますます賑わいを増して、世界で一番のオタクの聖地になっている。そのアキバと方位的に一致しているのは幸先のいいことだ。

 恵の姿は緒方未来のコピーだ。

 このプロジェクトで初めて会った時には驚いた。他人の空似かと思ったら、兵二から『化けたのはいいが、固着してしまって元に戻らない』と聞かされて、これは因縁だろうと思った。

「身の引き締まる思いです」

「いや、越萌姉妹社さんなら、実績、実力ともに問題ありません。大いに期待しています」

「じゃあ、千代田区との相似ってインスピレーションも湧いてきたところだから、姉妹社さんの歓迎パーティーにしよう!」

 賛成!

 お岩さんの提案に皆が賛成して、VRが終了。西之島3000上空の仮想空間から、カンパニーの食堂に戻ってきた。

「氷室社長、市長さんは間に合いませんでしたね」

「申し訳ありません、市長は、資金調達と運用の件で国と交渉中で、少し長引いているようです。本当にすみません」

「いえ、プロジェクトが進んでいる証拠です。そうだ、現場に行くついでに市役所に寄ってみます」

「そうですか、それではカンパニーの者も付けましょう」

「痛み入ります」

「いつまで喋ってんの、宴会だよ、宴会!」

 お岩さんに叱られて、取りあえずは英気を養うことにした西之島総合開発の顔合わせだった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西之島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・22『新入部員さくや・2』

2022-04-19 06:13:12 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

22『新入部員さくや・2』

     

 


 乙女先生の最初の授業は一年生だった。

 生徒は全員教室に着席、指示もしないのに、日直とおぼしき生徒が「起立! 礼! 着席!」と号令をかけ、みんなが一糸乱れずやったことにカルチャーショックを受けた。

 入学式で、まあ、大人しめの子達だと感じたが、規律心が高いのに感心した。

 しかし、よく見ると、多くの生徒が、不安で落ち着かない気持ちを抑え込んでいることがよく分かった。先日来の学校の混乱を、一年生なりに敏感に感じているのだろう。

 乙女先生は、サラサラと黒板に図を書いた。


     >  A  <


      < B > 


「AとBのカッコで括られた空間、パッと見い、どっちが広いと思う。ハイ、どっち!?」

 生徒に手をあげさせると、Aが広いとするものが圧倒的に多かった。

「ほんなら、日直。ここに来て、このメジャーで測ってごらん」

 日直の男子は、赤い顔をして計りに来た。

「……え……?」
「5ミリ以下は誤差と考えてね」
「どっちも同じです……1メートル」

 生徒達から「ええ……!?」という声が上がった。

「あんたらは、<とか>いう記号のせいで騙されてるんです。<をどっちむけに付けるかで、見え方が全然違う」

「ああ……」という納得した声が上がった。中にはノートに図を書き、自分で確認する生徒もいた。

「ええか、勉強いうのは、こういうことや。世の中のことは、たいがい<が付いてる。むつかしい言葉でバイヤスという。このバイヤスを見抜く力を、あんたらはこの三年間勉強するんや」

 それから、乙女先生は、サラサラと世界地図をフリーハンドで描いた。

「おお~!」

 というどよめきが起こった。これは、生徒達が、これが世界地図だと分かり、それをフリーハンドで描いた事への、素直な驚きであった。前任校の生徒は驚かなかった。世界地図であることが分からなかったからである。

「あんたらは、世界地図と分かったから驚けてる。この半島はなんていう?」
「はい、C半島です」
「このC半島の国では、日本の評判が、チョト悪い」

 すると、あちこちで、C半島のことを噂する声が上がった。

「うん、あんたらの気持ちも、よう分かる。悪口言われて喜ぶアホはおらんもんなあ。せやけどな、このC半島にある国は、過去一回だけの例外を除いて植民地になったことがない、世界で一つだけの半島国家や」

「へえ……」

 静かに感心した声が湧いてきた。

「いま、ここにある国は、反日であることで、民族やら国家の統一やら団結を維持しよとしてる。そない分かると、ちょっと反日の聞こえ方が変わってくる」
「ああ……」
「と、簡単に納得すんなよ。たとえ、そんな理由があったとしても、ちゃうことはちゃうと言わならあかん。ただ、どういうとこにバイヤスがかかって、そないなるんかという理解は必要言うこっちゃ」
「な~る……」

 生徒は、完全に乙女先生のペースに巻き込まれた。

「大阪は、150年ほど前までは日本一の街やった。東京ができてから値打ちが下がった。特に教育において、その傾向が強いと言われてる。それで、『特色ある学校づくり』とか『人間力のある教育』やら言い始めてる。で、君らは気の毒に、その真っ最中に、この希望ヶ丘青春高校に入学した。今、大阪の高校はバイヤスがかかってる。君らは、そのバイヤスを見つけ、また、逆に利用して勉強したらええ。バイヤスこそが勉強の活力になる!」

「「「「「「「ハイ!」」」」」」」

 生徒達は、乙女先生のロジックにひっかかり、入ったばかりの学校の混乱や自分たちの不安さえ、前進する力に変えてしまった!

 始業の時は、チャランポラ~ン チャランポラ~ンと聞こえていたチャイムも、しっかりキンコンカンと聞こえて授業は終わった。

「すみません、佐藤先生」

 かわいい女子生徒が寄ってきた。

「なに?」
「これ、演劇部の入部届です。先生顧問やから、受け取ってください」
「え、ウチ、演劇部の顧問?」
「はい、そないなってますよ」

 乙女先生は、バレー部の副顧問だと、思っていたが……たしかにオリエンテーションのパンフには、乙女先生が演劇部の主顧問になっていた。こういう事には頓着しない性格なので、あっさりと受け取った。

「先生の授業、とても分かり易いです。ほんならよろしくお願いします!」

 ペコンとお辞儀して、女生徒は行ってしまった。

 あらためて見ると、墨痕鮮やかに「石長さくや」と書かれていた……。

 

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