大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 67『懐古の町を目指して』

2022-04-06 12:13:31 | ノベル2

ら 信長転生記

67『懐古の町を目指して』信長 

 

 

 豊盃は、その名の通り三国志南部の豊かな盃のような街で、商業、工業、流通業が盛りだくさんに発達し、その核としての軍都の機能も三国志有数。魏の洛陽、呉の建業、蜀の成都に並ぶ規模と歴史を誇っていて、扶桑(転生国)を平らげれば、ここが首都になるというのが豊盃人の隠れた望みでもある。

 しかし、山手線の内側ほどもある豊盃すべてが豊かであるわけではない。

 歴史が古い、その分だけ、取り残された地域がある。

 

 南西の外れに懐古という、名前からして後ろ向きの町がある。

 かつては、豊盃から長城外に遠征するための拠点で、町と、その周囲からは遠征部隊の兵士志望の者が集まり、ついには集落を形成したことが始まりという尚武の町であった。

 懐古という町の名も。正しくは皆虎と書いた。

 住人のほとんどが兵士志望で、壮丁(成人男性)のことごとくが虎のように勇猛であることから付けられた。

 遠征のための門が東寄りに移転したため、遠征部隊も皆虎には駐留しなくなり、町は予備役や傷病兵たちが、来るはずもない遠征軍の到来を待って、昔を懐かしむ町になり果てている。

 往時の賑わいを知っている豊盃の者たちは、なんとかしてやろうと、定期市を開いて街の衰退を食い止めようとしたが、ボランティアは別にして若者たちが進んで住もうと思うような町ではなくなった。住人たちが老境に差し掛かると、定期市の開催さえ困難になり、発展する豊盃の陰になって、ほとんど顧みられることが無くなってしまった。

「懐古の町で新制部隊のパレードをやるぞ!」

 茶姫が突然の触れを出したのは、装備変更の二日後の朝。

 そのあくる朝には営庭に集合させた部隊を懐古に向かわせたのだ。

 

「なんか、思い付きで動いてない?」

 

 馬首を寄せてきて市が文句を言う。

「俺は、好きだぞ」

「なんで? 触れを出したのは昨日だよ。それを、今日パレードしたって、そんなに人は集まらないでしょ?」

「これはマラソンのようなものだ」

「マラソン?」

 懐古からは街道が延びている。寂びれた旧街道で歩兵部隊の進行には不向きだが、兵のことごとくが騎兵の茶姫部隊には問題がない。

 旧街道は、そのまま蜀の成都、呉の建業、さらに足を伸ばせば洛陽に繋がっている。

「赤備えの騎兵部隊、見た目が華やかだ。噂を聞いた者たちがコースに集まる。成都や建業の鼻先を掠めて洛陽に進めば、人は何事かと思う。やがて、懐古に戻ると知らせておけば、人はゴール地点の懐古に一番多く集まる」

「でも、茶姫の部隊は鉄砲だよ、ミニェー銃装備の軽騎兵だよ、そんなのがやってきたら、呉も蜀も警戒して迎え撃ってくる。三国は、互いに敵同士なんだから」

「その間もなく通り過ぎていく。驚かせて評判をとれば成功だ『魏の茶姫、次は何をする気だ?』とな」

「そんなに上手くいく? 兵站は、どうすんの?」

「バカか?」

「バ、バカ言うな!」

「兵站を伴わないからこそマラソンになる」

「え? ええ?」

「まあ、茶姫のやることを見ていろ」

「むう」

 鼻を鳴らしながら、市は近衛の隊列に戻って行った。

 無任所の気楽さで、俺は部隊の周囲を走りながら茶姫部隊の仕上がりを見物している。

 大したものだ、馬も兵も力に溢れてカッコいい。

 これなら、武田の騎馬軍団に匹敵するかもしれない。そいつが、全員ミニェー銃を装備して、堂々の行進だ。

 沿道には、早くも噂を聞きつけた豊盃の住人たちが見物に並んでいる。

 懐古の町を直前にして、俺は、部隊の最後尾に回った。

 

 ん?

 

 最後尾に遅れること、一丁あまり後ろに砂煙。

 近づいてみると、茶姫部隊の旗印、旗印の下には、必死で馬車を走らせる兵站部隊。

 兵站を連れてきている!?

 さすがに驚いた。

「やあ、職少佐!」

「おお、検品長! 同行の命令を受けていたのか?」

「いいえ、自分の一存です」

 検品長が、指し示した後ろに付いて来ているのは、品長の部下の荷馬車一つきりだ。

「バカですから、着いていくしかありません(^_^;)」

 愛すべき律義さだ。それ以上ではないが、こういう部下を大事にする茶姫は信頼を勝ち得るだろう。

 バカの足元を見てやりたくて、輜重小隊の周囲を周る。

「一人足らんようだが?」

「あ、曹素さまにご挨拶に出しました」

「挨拶、あんなに邪険にされてか? 移動の手続きは終わっているのだろう?」

「はい、手続き上は。しかし、旧主でもありますし」

「律義者だなあ……茶姫は知っているのか?」

「はい、お知らせしましたら、添え状までいただきまして、検品長、喜びに耐えません!」

「そうか、身をいたわりながら着いてこい」

「はい、職少佐!」

 ピシ

 馬に一鞭あてると、進軍の先頭に戻る。

 砂煙の向こう、懐古の町のくたびれた門が見えてきた。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

  

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・8『長屋門のダンゴ屋』

2022-04-06 08:50:02 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

8『長屋門のダンゴ屋』     

    

 


「ここですよ」
「こんなところに、お団子屋さん……」

 伊邪那美神社の前で校長に声をかけられた乙女先生は、そのままタクシーに乗って駅前まで戻ってきた。校長が、ぜひ紹介しておきたい店があるというので、付いてきたのだ。

 一見古い北摂の民家であるが、長屋門の軒下に「団子屋 津久茂」の看板がぶら下がっていた。

 長屋門をくぐると、広い庭に、文化財クラスの母屋が、品の良い日本庭園に囲まれて、おとぎ話のように佇んでいた。

「佐藤先生、こっちですよ」

 庭と母屋に見とれていた乙女先生を校長が呼び止めた。

「え……ああ」

 振り向くと、長屋門の内側の壁が取り払われていて、団子屋さんになっていた。

「恭ちゃん。草団子二つ」
「はーい」

 暖簾の向こうの厨房から、若い女性の返事がした。

「いいお店ですねえ」
「ありがとうございます。なんやったら、奥の座敷行かはります?」

 お茶のお盆を持って、恭ちゃんが勧めた。

「いいの?」
「ええ、もうちょとしたら花見帰りお客さんで混みますよって」

 二人は、母屋の座敷に移動した。

「ほんまは、こっち改造してお店にしたいんですけどね。ほんなら、お蕎麦も湯豆腐も大っぴらにやれますねんけど」
「重要文化財じゃね」
「ほんま、釘一本うたれませんからね」
「門の方は、違うんですか?」
「あれは、明治になって改築したもんですよって、ほんまにエライ家に生まれたもんです。ほんなら、すぐにお団子お持ちしますから」

 恭ちゃんは、長屋門のお店へ戻った。

「……あの恭ちゃんが経営してるんですか?」
「ええ、なかなかしっかりした人ですよ。うちの前身のS高校の卒業生です。S高校の敷地はもともとは、この津久茂さんの持ち物だったんですよ。それを、学校を建てるんで、府に譲ってくださったんです。で、ここに赴任した時にご挨拶に伺ってからのお付き合いです」
「校長先生も、押さえるとこは押さえてはりますね」
「いやあ、佐藤先生の神社まわりは思いつかなかった」

 校長は、人のいい笑顔になった。民間時代は営業職だったのかもしれない。

「売ってから、大阪府に希望ヶ丘て、名前付けられたことだけはショックでしたねえ」

 団子を、座卓に置きながら恭ちゃんが言った。

「もともとは、小姫山とか、里山とかいうてたんですけどね」
「ああ……なんか聞いたような」
「神社でですか?」
「ええ……そやったかなあ」

 神社での記憶は、ほとんど飛んでしまっている乙女先生である。

「うち、あの伊邪那美さんとこの氏子総代やってますねんよ」
「恭ちゃんちは、昔からの庄屋さんだもんな」
「はは、江戸時代の話ですよ。今は、お団子屋さんやってなら食べていけません。そやから、氏子総代いうても、なんもでけへんで、廃れてましたやろ」
「いいえ、なかなか趣のある神社で」
「お口のお上手な。わたしらも、神社だけやのうて、なんとかしたい思てますねんけどね……」

 恭ちゃんは、遠くを見るような目になった。乙女先生は、どこかで同じような目をした人に会ったような気がした。イザナミさんと同種の憂いのある目であるが、むろん、乙女先生は思い出せない。

「やあ、お客さんに、しょうもない話してしもて。伊邪那美さんまで行ってもろて、ありがとうございます。ほな、ごゆっくり。あ、お客さんやわ」

 恭ちゃんは、長屋門のお店の方に戻った。

「ボクの元の職業分かりますか」
「どこかの会社の営業でしょ!?」
「はは、光栄だな」
「違いますのん?」 
「文科省の小役人ですよ」

 校長は、ビスケットの小袋を出し、細かく割って、池の鯉にやった。思いの外寂しそうだった。

「その元を質せば、柴又の団子屋のセガレですけどね」
「あ、ふうてんの寅さん!」
「はは、これを言うと、いつも言われますよ。あんな風に生きられればいいんですけどね」

 ビスケットをやり終わっても鯉は、散っていかなかった。

「向こうに、一匹だけ、寄ってこない鯉がいるでしょう」
「ああ、あの岩のところ」
「あいつは、この家の人間からでないと餌を食べないんですよ」
「ニクソイ鯉ですね」
「いつか、飼い慣らしてやろうと……いや、どうも子供じみてますなあ」
「……鯉の滝登り」
「え……?」

 鯉が一匹、驚いて跳ねた。

「あ、いや。なんとなくゴロ合わせです」
「見透かされたかと思いましたよ」
「なにか、青雲の志とか?」
「もう、そんな歳じゃありませんけどね……ボクね、嫌いなんですよ」
「何が?」
「学校の名前」
「うちの?」
「希望ヶ丘青春高校なんて、まるで生徒達が読んでいるライトノベルに出てきそうな名前でしょう」
「わははは、いかにもいかにも」

 乙女先生の豪快な笑い声に、群れていた鯉が、びっくりして散っていった。

「希望ヶ丘高校って、神奈川にあるんですよ。で、取って付けたように、青春をくっつけて……あ、他の先生や生徒たちには……」

 校長が目を上げると、門をくぐってくる女生徒と目が合った。

 これが、手島栞との出会いであった……。

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・7『神さまのお願い』

2022-04-06 08:46:57 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

7『神さまのお願い』     

    

 


 気が付くと、乙女先生は境内の真ん中に立っている。

「あれ……」
 
 雰囲気がまるで違う。

「これって……別の神社?」

 二の鳥居まで戻ってみると、来たときと同じ五メートルほどの階段。駆け下りて、一の鳥居で、振り返る。


「やっぱし、ここや……」

 石畳の道が「く」の字に曲がって、五メーターほどの石段が続き、二の鳥居。それをくぐると……そこからが違う。ちょっとした野球場ほどの広さの境内は、幼稚園の園庭ほどの広さしかない。拝殿も社務所も、うらさびれている。ただ、境内を取り囲む桜だけは見事に満開であった。

 境内の端に気配を感じた。見ると小さな祠(ほこら) 

 近寄ると、小さな剥げっちょろげた扁額。かすかに木花開耶小姫と読めた。

――ちょっと見栄を張りました。お願いしたこと、よろしゅうに……。

 伊邪那美の声が、頭の中で鈴を振ったように響いた。

 お願い……そうだ、約束したんだ。ダンプカー三台分の桜の花びらに埋もれながら、

 でも、思い出せない……なんだっけ……。

――思いださんでも、ええんです。心の奥にちゃんと刻ましてもらいましたよってに。

「そういうわけにはいきません。だって、約束したんやから」

 木花開耶小姫をもとにもどす。

 これはダンプ三台分の桜に埋もれる前に聞いた。でも、桜に埋もれながら約束したことが思い出せない……どころか、二柱の神さまの顔もおぼろになってきた。必死で思い出そうとすると、どんどん遠くなっていく。まるで、目覚めたときに、それまでみていた夢が、どんどんおぼろになって消えていくように……。

「わ!」

 思い出しながら一の鳥居をくぐると、突然目の前をタクシーが走り抜けた。それに驚いて、乙女先生の記憶は完全に消えてしまった。

 といっても、記憶喪失になったわけではない。ここでイザナミとコノハナノサクヤコヒメに会った記憶が消えてしまったのである。

 もどかしい思いで鳥居を振り返ると、後ろから声を掛けられた。

「やあ、佐藤先生!」

 走り抜けたタクシーが、電信柱一本ほど前で止まっており、後部座席の窓から、校長の笑顔が覗いていた。

 

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