大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・293『大仙公園 I(アイ) のミステリー・2』

2022-04-05 13:02:36 | ノベル

・293

『大仙公園 I(アイ) のミステリー・2』さくら   

 

 

 ここで撮ってくれたのねえ!

 

 大仙公園に着いて、頼子さんの第一声がこれ。

「え?」

 分からんで、いっしゅんアホ顔のあたし。

「あ、わたしたちも楽しかったです!」

 留美ちゃんがなにやらジェスチャーして笑顔で目配せ。

「あ、思い出した!」

 アホのあたしも、留美ちゃんの心配りに二年前の春を思い出す。

 コロナの第二波で、ヤマセンブルグから戻ってこれんようになった頼子先輩のために、留美ちゃんと二人で大仙公園中の桜を撮りまくったんや。

 頼子さんも、お祖母さんの女王陛下も喜んでくれはって、うちも留美ちゃんも中学時代のええ思い出になってる。

 スマホ、まだ持ってへんかったさかい、テイ兄ちゃんのビデオカメラを借りた。

 留美ちゃんは、ちゃんと、そのビデオカメラで撮影する仕草をしてくれてた。スマホの仕草やったら分からへんかったと思う。留美ちゃんは、ほんまに行き届いた子ぉや。

 セイ!

 後ろで掛け声、思わず振り返ると、ソフィーが空中二回転して着地するとこやった。

「なにしてんの?」

「はい、あまりの麗らかさに、ジャンプしたい衝動にかられました。でも、目標も発見出来ました」

 サッと指さした方向は、うちがあてずっぽうに歩いてる方向よりも20度ほどズレてる……っていうか、ハイ、うちの方がズレてました! ごめんなさい!

「ほんとうだ、I が一個多いわよ!」

 アルファベットが並んでるだけやさかいに、裏から見ても I が一個多いのが分かる。

「よし、正体を確認!」

 頼子さんの掛け声で、全員でダッシュ!

 

 ああ、そういうわけか……。

 

 いっしゅんで全員が納得。

 D A I S E N I の最後の I には、PARKと彫り込んであります。

 つまり、DAISENPARK(ダイセンパーク)ということ。

「これデザインした人は、とてもバランス感覚がいいですね」

 ソフィーが腕組みして感心。

「そうだよね、I が一本くることでSが真ん中に来て、とってもバランスがいいよ」

「SはSAKURAのSやんか!」

 え?

 頼子さんとソフィーがポカンとして、留美ちゃんがクスクス笑う。

「あ、そうかさくらのイニシャルだ」

「自分もイニシャルはSです」

 そうか、ソフィーもイニシャルはSや(^_^;)

「わたしも、苗字は榊原だからSだよ」

「グヌヌヌ……」

「あ、でも、さくらは『酒井さくら』だから、ダブルSじゃない!」

「頼子さん、かっしこーい!」

 

「では、記念撮影しましょうか」

 

 いつのまにか、ジョン・スミスもやってきて、みんなでDAISENの前で並んだり、うしろから顔出したりして賑やかなひと時を過ごしました。

 

「ほんなら、ティータイム(^#▽#^)!」

 

 アホみたいに元気な声が聞こえたかと思うと、テイ兄ちゃん。

 月参りが二件あるのんで、今日は無理のハズやったんやけど、どこかで帳尻合わせてきたんやろね、嬉しそうにランチボックスぶら下げてやってきよった。

「テイ兄ちゃん、作ったんですか?」

 頼子さんが目を輝かせる。

 まさか……このクソ坊主は、料理はからっきしのハズやで?

「はい……と言いたいですけど、堺東でスナックやってる友だちが、自分らの花見のついでに作ってくれました」

「すごいですね、テイ兄ちゃんの人脈は!」

 さすが、ヤマセンブルグの王女さま。どう転んでも、褒めるツボは心得てはります。

 

「あ、この味は……」

 サンドイッチをつまんだとこで、留美ちゃんが思いついた。

「え、なに?」

「これ、カラオケスナック『ハンゼイ』でしょ!?」

「あ、ああ」

 あがり症の留美ちゃんの音楽のテストのために、お店借り切って練習したとこや。

 そう言えば、あの時も、サンドイッチが出てた。

 ジョン・スミスが、みんなにお茶を淹れてくれて……え、一人分多い。

「これは、ぼくの先輩の分。花見の好きな人だったんで……」

 そう言って、小さな写真たてを出した。

 チラ見すると、ジョン・スミスと同じユニフォームの男の人。

 あとで、頼子さんに聞くと、ジョージ・クロイツ中佐という人で、領事館の二代前の警備部長。先日ウクライナで亡くなったんやそうです。

 見上げると幸せ色の春霞、アホ言いながらお花見ができる幸せをかみしめました……。

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・6『木花開耶小姫』

2022-04-05 09:19:59 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

6『木花開耶小姫』     

   

 

「お待ち申し上げておりました……」
「よう、おいでくださいました……」

 二人の巫女さんが、ゆかしく丁寧なあいさつをしてくれる。

 乙女先生も頭を下げたが、二人のゆったりとしたテンポに合わず、顔を上げたときには、まだ二人の巫女さんは頭を下げたままで、慌てて頭を下げなおした。すると、桜の香りがあたりに満ち始めた。

「あ……」

 顔を上げると、思わず声に出てしまった。

「これ、急に、こないなことしたら、先生びっくりしやはる……」
「すいません。せめてものお持てなしのつもりやったんです……」

 拝殿は床だけになり、奥に本殿は見えるものの、まわりは一面満開の桜であった。はらはらと桜の花びらが、芳醇な香りとともに舞っている。

 クマリン(C9H6O2)という、桜の香りの成分が頭に浮かんでくる。

「ほほ、先生は、成分で桜の香りを感じはるんですね」

――なんで、わかったの……?

「これ、人の心を読んだりしたら、あきまへんえ」

 年上と思われる巫女さんがたしなめた。

「すいません。素直なお心してはるさかいに、つい……」

 年若の方の巫女さんが、いたずらっぽく笑う。

 桜の香り成分は、五年ほど前の春に、前任校の理科の教師が不器用に乙女先生を口説いたときの切り出しの言葉であった。クマリンというかわいい名前が、その理科の先生のイメージにぴったりなので、乙女先生は今でも、そのおかしさと共に覚えている。

「でも、わたし、クマリンより十歳ほど年上やよ」
「え、ええ……!?」

 クマリンは、正直に驚いていた。でも憎めない驚きようだった。

「と、年の差なんて!」

 頬を桜色に染めてクマリンは言った。桜色がバラ色になる前に、乙女先生は釘を刺した。

「わたしは、これでも既婚者やのん。今は佐藤やけど旧姓は岡目。分かってくれた?」

 クマリンは、息をするのも忘れて驚いていた。

「もしもーし、息しないと窒息して死んでしまうわよ」

 クマリンは息をするのを思い出した。そして乙女先生も、今、思い出した。

――あのころは、まだうまくいっていた。亭主に隠し子がいることは、まだ知らなかったから。茜……思い出は桜色やバラ色を通り越し、鮮やかな、その子の名前の茜色になってしまった。目頭が熱くなる。

「堪忍してくださいね、茜ちゃんのことまで思い出させて……」
「これ……」

 年上の巫女さんが、再びたしなめた。

「あ、あなた達って……?」

 はらはら舞っていた花びらたちがフリーズしたように、空中で静止した。

「わたし……伊邪那美(いざなみ)と申します。この子は木花開耶小姫(このはなのさくやこひめ)」
「え……ええ!?」

 乙女先生は、クマリンと同じ驚き方をした。木花開耶小姫がクスっと笑った。

「これ!」

 木花開耶小姫は、たしなめられっぱなし。伊邪那美の語気も強くなってきた。

「じゃ、お二人は神さま……!?」
「ええ、いちおう……」

 伊邪那美は、きまり悪そうに答えた。

「は、ははー!」

 乙女先生は、深々と頭を下げた。

「あ、そんなかしこまらんといてください」
「どうぞ、お楽に」

 フリーズしていた花びらが、再び舞い始めた。

「……というわけで、この木花開耶小姫をもとにもどしてやっていただけたらなあ……と、思てますのん」

 いつのまにか、桜餅とお茶が出てきて、ちょっとした女子会になってしまった。

「あの、つまり木花開耶小姫さんは、今のうちの学校の敷地においでになっていたんですか?」
「はい。あそこは、もともとは里山で、正式には小姫山て呼んでました」
「もっと正式には木花開耶小姫山」
「ほほ、そんな長ったらしい名前で呼ぶもんは、ここの神主さんが祝詞あげるときぐらいのもんです。普段は、ただの里山」
「もとは、その里山にお祀りされていらっしゃたんですね」
「ええ、ちょうど校門の脇の桜の横に祠がありましたんです」
「学校建てるときに、ここに合祀されたんですけど。ここも祭神のわたしさえ、忘れかけられてしもて……」
「居候の、わたしのことなんか……ウ、ウウ……」

 木花開耶小姫が泣き出した。

「ちょっと、あんた泣かんとってくれる……」
「ええやないですか、人間……いや神さまやけど、泣きたいときは泣いたほうがよろしい。武田鉄矢も言うてます」
「ウ……なんて?」
「悲しみこらえて、微笑むよりも。涙かれるまで、泣くほうがいい~♪」
「ホンマに……?」
「え、ええ! それ、あきません!」

 乙女先生の教師らしい励ましに、伊邪那美さんは驚き、木花開耶小姫は号泣し始めた。

「ウワーン!!!!」

 とたんに、ダンプカー三台分ぐらいの桜の花びらがいっせいに落ちてきて、乙女先生と二柱の神さまは花びらに生き埋めになってしまった……。
  

 

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