せやさかい・293
ここで撮ってくれたのねえ!
大仙公園に着いて、頼子さんの第一声がこれ。
「え?」
分からんで、いっしゅんアホ顔のあたし。
「あ、わたしたちも楽しかったです!」
留美ちゃんがなにやらジェスチャーして笑顔で目配せ。
「あ、思い出した!」
アホのあたしも、留美ちゃんの心配りに二年前の春を思い出す。
コロナの第二波で、ヤマセンブルグから戻ってこれんようになった頼子先輩のために、留美ちゃんと二人で大仙公園中の桜を撮りまくったんや。
頼子さんも、お祖母さんの女王陛下も喜んでくれはって、うちも留美ちゃんも中学時代のええ思い出になってる。
スマホ、まだ持ってへんかったさかい、テイ兄ちゃんのビデオカメラを借りた。
留美ちゃんは、ちゃんと、そのビデオカメラで撮影する仕草をしてくれてた。スマホの仕草やったら分からへんかったと思う。留美ちゃんは、ほんまに行き届いた子ぉや。
セイ!
後ろで掛け声、思わず振り返ると、ソフィーが空中二回転して着地するとこやった。
「なにしてんの?」
「はい、あまりの麗らかさに、ジャンプしたい衝動にかられました。でも、目標も発見出来ました」
サッと指さした方向は、うちがあてずっぽうに歩いてる方向よりも20度ほどズレてる……っていうか、ハイ、うちの方がズレてました! ごめんなさい!
「ほんとうだ、I が一個多いわよ!」
アルファベットが並んでるだけやさかいに、裏から見ても I が一個多いのが分かる。
「よし、正体を確認!」
頼子さんの掛け声で、全員でダッシュ!
ああ、そういうわけか……。
いっしゅんで全員が納得。
D A I S E N I の最後の I には、PARKと彫り込んであります。
つまり、DAISENPARK(ダイセンパーク)ということ。
「これデザインした人は、とてもバランス感覚がいいですね」
ソフィーが腕組みして感心。
「そうだよね、I が一本くることでSが真ん中に来て、とってもバランスがいいよ」
「SはSAKURAのSやんか!」
え?
頼子さんとソフィーがポカンとして、留美ちゃんがクスクス笑う。
「あ、そうかさくらのイニシャルだ」
「自分もイニシャルはSです」
そうか、ソフィーもイニシャルはSや(^_^;)
「わたしも、苗字は榊原だからSだよ」
「グヌヌヌ……」
「あ、でも、さくらは『酒井さくら』だから、ダブルSじゃない!」
「頼子さん、かっしこーい!」
「では、記念撮影しましょうか」
いつのまにか、ジョン・スミスもやってきて、みんなでDAISENの前で並んだり、うしろから顔出したりして賑やかなひと時を過ごしました。
「ほんなら、ティータイム(^#▽#^)!」
アホみたいに元気な声が聞こえたかと思うと、テイ兄ちゃん。
月参りが二件あるのんで、今日は無理のハズやったんやけど、どこかで帳尻合わせてきたんやろね、嬉しそうにランチボックスぶら下げてやってきよった。
「テイ兄ちゃん、作ったんですか?」
頼子さんが目を輝かせる。
まさか……このクソ坊主は、料理はからっきしのハズやで?
「はい……と言いたいですけど、堺東でスナックやってる友だちが、自分らの花見のついでに作ってくれました」
「すごいですね、テイ兄ちゃんの人脈は!」
さすが、ヤマセンブルグの王女さま。どう転んでも、褒めるツボは心得てはります。
「あ、この味は……」
サンドイッチをつまんだとこで、留美ちゃんが思いついた。
「え、なに?」
「これ、カラオケスナック『ハンゼイ』でしょ!?」
「あ、ああ」
あがり症の留美ちゃんの音楽のテストのために、お店借り切って練習したとこや。
そう言えば、あの時も、サンドイッチが出てた。
ジョン・スミスが、みんなにお茶を淹れてくれて……え、一人分多い。
「これは、ぼくの先輩の分。花見の好きな人だったんで……」
そう言って、小さな写真たてを出した。
チラ見すると、ジョン・スミスと同じユニフォームの男の人。
あとで、頼子さんに聞くと、ジョージ・クロイツ中佐という人で、領事館の二代前の警備部長。先日ウクライナで亡くなったんやそうです。
見上げると幸せ色の春霞、アホ言いながらお花見ができる幸せをかみしめました……。