大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 69『三人の斥候』

2022-04-20 13:51:14 | ノベル2

ら 信長転生記

69『三人の斥候』信玄   

 

 

 市と信長の偵察隊からは五度の便りが来た。

 

 便りは紙飛行機の裏側に書かれていて、それが学園の二宮忠八のところに届く。

 学院の者の中には「学園の者って大丈夫か?」といぶかる生徒会の石田三成のような者もいる。

 三成は切れ者だが、こういう裏も表も無く人を疑うところは可愛くない。最初は優位に立っていながら最後はボロ負けした関が原もむべなるかなだ。

「学院? 学園? ややこしいなあ」

 剣術馬鹿の武蔵が首をひねるので講釈してやる。

「性別が変わって転生してきた者が転生学院。同じ性別で転生してきた者が転生学園だ」

「あ、ああ……」

「学院の生徒会長は今川義元、生前は駿河の大名。日ごろから化粧をしてたけど、男だろう」

「うん」

「学園の生徒会長は坂本乙女、龍馬の姉だが、転生しても女だ」

「うん」

「つまり、次の転生で『今度はうまくやってやろう』と色気のある者が学院、『このままでいい』と思ってる奴が学園に行くんだ。武蔵も生まれかわったら、前よりスゴイ剣術使いになりたいと思ってるだろう?」

「そうか、向上心のある者が学院なんだな!」

 とたんに目が輝く武蔵、コミュ障のオヘンコだが根はいい奴だ。

「もう一つ聞いていいか?」

「ああ、なんでも聞いてくれ」

 時間までには間がある、暇つぶしに、武蔵はいい相手だ。一途なところも可愛いしな。

「あ、いま可愛いとか思ったろ、わたしのこと!?」

「あ、小粒のツンデレ。儂は好きだぞ」

「ちょ、寄ってくんな(#'∀'#)」

「ああ、すまんすまん……て、エンガチョは勘弁してくれよ」

「ちがう! 印を結んだんだ印を! 心頭滅却だ!」

「そうか、すまん。で、質問は?」

「学院の者が性転換しているのは呑み込めたけど、なんで、みんな美少女なんだ? それも、みんなタイプ違うし」

「それは、みんな高いレベルまで覇道を進んだからであろう。良く鍛えた太刀は、みな美しい。そして、みなそれぞれ景色が違う。そうだろ?」

「うん、そうだな、太刀はそれぞれに美しい……そうか、わたしは名刀なんだな!」

「ああ、そうだ」

「しかしな、信玄」

「なんだ?」

「ちょ、近いし(;'∀')」

「あ、すまん」

「どうして、わたしは三白眼なんだ? 時々だけど、鏡に映る自分が怖いときもある」

「いいじゃないか、ちょっと口下手だけど、武蔵の良いところは剣術の授業で立ち会って以来分かってるぞ」

「そ、そうか……って、触らないでくれる」

「あ、すまん」

 

「来た」

 

 バカ話に背を向けて双眼鏡を構えていた謙信が呟いた。

「来たか!」

 信玄、謙信、武蔵、儂たち三人だけの斥候部隊は、薮から飛び出すと、惜しげもなく丘の上に姿を晒して双眼鏡を構えた。

「同じ赤備えでも、曹茶姫がやるとクーールだな」

「三国志は人も馬も脚が長いからなあ……」

「近衛……ざっと百騎……信長と市が後ろに付いている」

「知らせの通り……あの二人は三国志の中に混じっても遜色ないなあ……」

「武蔵、なにをピョンピョン飛んでる?」

「馬の足元……乗り手の技量は馬の足元に現れる……って、高い高いしなくていいから(#'∀'#)」

「ワハハ……一個大隊は五百余り……」

「あ……馬首を巡らせた」

 敵の動きに敏感な謙信は敵に視線を向けたまま跳躍し、声もたてずに馬の背に佇立した。敵に次の動きがあれば、そのまま跨って接敵しようという姿勢だ。

 ひとたび動けば風の如くだが、大方は山の如くの儂とは好対照。

 この敏捷さと沈着、この衝突が面白く、幾度も戦い、ついには川中島で一騎打ちしたのが懐かしい。

 お蔭で、天下の事は、数丁先を曹茶姫と並んで疾駆する信長にしてやられたがな。

 突っ込んでくると思われた敵部隊は、森の前の街道をはみ出て手前の丘陵を西から東へと抜けていく。あれなら、校舎の三階からでも姿が見えるぞ。

「見せびらかしたかったみたいだな」

「謙信、お前が、車懸かりで俺の陣を掠めたのに似ているぞ」

「しかし、あれで引き返す……後ろに輜重を連れていない」

「信長の知らせの通りだな」

「なんだ、飽きたか謙信?」

「攻めてこないと確信した、さ、帰るぞ」

「そうだな、敵も後ろを見せ始めた」

 敵は、西から姿を現し、その統制のとれた部隊運動と盛大な砂煙を残して、東の森に姿を消しつつある。

「あ、紙飛行機」

 武蔵がジャンプして取ろうとしたら、ひょいと身を翻して謙信の懐に飛び込んだ。

「呪がかかっている……読むか?」

「読んでくれ」

「『敵はロジスティックスを欠いている 出征門前で確認』……二宮忠八からだ」

「なんだ、学園は忠八を斥候に出していたのか」

「いや、これは忠八が個人的にやっているんだろう」

 敵騎兵師団の馬蹄の音も消え果てて、夏の訪れを思わせるような雲が流れるのを見ながら学校に帰る三人であった。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

 

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せやさかい・300『ちょっと、あんたたち!』 

2022-04-20 09:13:22 | ノベル

・300

『ちょっと、あんたたち!』さくら

 

 

 あーーおもしろかったぁ!

 

 もう五日目になる校内探検に一段落つけて中庭のベンチ。

 仰ぎ見る空は、ヒノキ花粉もピークを過ぎたとかで、あたしらの心のように澄み渡ってる。

 

 ちょっと、あんたたち!

 

 背中合わせのベンチから声がしてビックリする!

「「あ、せんせい!?」」

 朝のSHRから顔見てない担任のペコちゃん先生が、怖い顔して睨んでる。

「え、あ……あ……」

「美人が台無しですよ」

 留美ちゃんのワタワタぶりも、うちのお愛想も無視して、こっちのベンチにやってきた。

 もし、不二家がホロ苦ビターチョコとか出したら、こういうペコちゃんがええなあと思ったけど言いません。

「同じ安泰中学出身だから仕方ないとこもあるけど、二人で動きすぎ」

「「え?」」

「なんか、反応までシンクロしてからに、ここは、真理愛学院高校なんだよ。二人でばっかり行動しないで、少しはクラスに溶け込む努力もしなさいよね」

「「あ……」」

 言われて初めて思い当たる。

「でしょ? クラスで友だちとかできた?」

「「あ……ああ(^_^;)」」

「休み時間になると、二人で喋ってるか、教室飛び出すかでしょ。先生、ちょっと心配だよ」

「「すみません」」

「わたしも新学年で忙しいから中学の時ほど構ってあげられないからね……天は自ら助くる者を助くだよ」

「はい」

 留美ちゃんは、しおらしく反省モードになるけど、うちは、かねてからの疑問がムクムクと湧いてくるんを押えられへんかった!

「ペコちゃん先生は、なんで真理愛高校に居てるんですか?」

「え、あ……」

 攻守逆転して、留美ちゃんの反省モードもすっとんでしまう。

「じつはね……」

 ベンチの背もたれに体重を預けて腕組みして空を見上げた。

 こういうポーズをすると、ペコちゃん先生は、ほんまにかいらしい。もし、企んで、こういう表情とかポーズしてんねんやったら、男殺しのペコちゃんて呼んであげる。

 けど、これは天然。

「実はね……安泰中学来た年に真理愛高校の採用、ほとんど決まってたんだけどね、諸般の事情で二年見送りになって、この一月に確定して、こうやって、何の因果か、あんたたちの担任してるわけですよ」

「そうだったんですか」

 留美ちゃんは納得の感じやけど、うちはひっかかる。

「ほな、安泰中学は腰掛けやったんですか?」

「……結果的には、そうなっちゃったけどね」

「ちょ、さくらぁ」

 気の優しい留美ちゃんは、止めときいう感じで袖を引く。

「真理愛は、うちの家から二分でこられるの」

「「え?」」

「学校の裏の方にある神社が家なのよ」

「そうやったんや!」

 いや、せやけどや……近いからいうだけで選ぶのは、中高生ならともかく、社会人というか教師としてはどうなんやろ。

「なんか、言い訳っぽくなるけどね。うちのお父さん体弱くって、神社って、よっぽど大きなところじゃないと大変なんだよ。ここも安泰中学も始業は八時だけども、家を出る時間は一時間違うからね……ま、そういう事情さ、文句ある!?」

「いえいえ」

「アハハハ」

「ね、あんたたちも、もう少しクラスに目を向けようね」

「「ハヒ(^_^;)」」

「あ、そうだ。わたし、ここでも文芸部の顧問だから、入るんだったら言ってね」

「「はい」」

 そう言うと、足早に職員室のある本館の方へ駆けていくペコちゃん。

 照れくさいんと違て、ほんまに忙しいからという感じ。

 一週間続いた学校探検も面白かったけど、この昼休みの五分ほどは、貴重やったと思う。

 しかし。

 カソリックの高校で神社の娘が先生やって、お寺の娘が生徒でいてて、日本はええ国やと思いました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・23『フライングゲット!』

2022-04-20 06:01:04 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

23『フライングゲット!』

     

 


「なんでも、心の中にあるものは話してくれてええねんよ」

 その人は、ラフなうすいグリーンのツーピースを着ていた。
 首には細いチェーンの先に勾玉型の飾りのついたペンダントをアクセントのようにぶらさげ、マシュマロをレンジで軽くチンしたような職業的な優しさ丸出しの顔をして、栞に寄り添った。

 府教委が、アリバイのように送ってきたカウンセラーである。
 数分前に名前を聞いたが、興味のない栞は、すぐに忘れてしまった。

「ほんとうに、なんでもいいんですか?」
「ええ、かめへんよ」
「なんで、わたしにカウンセリングが必要なんですか?」
「そら、そういうとこよ。人と話をするのに対立的な話し方するでしょ。それは手島さんが、今まで、どんなに否定的な扱いを受けてきたかが、よう分かるの。いえいえ、別に否定的な話し方でもええねんよ。とにかく話してちょうだい」

「根本的な話をしてるんです。カウンセリングが必要なのは、学校……大阪そのものです。カウンセリングする相手を間違えてます」
「そやけど、手島さんは、今度の勇気ある行動に出るのに、えらい神経使こたでしょ。で、ちょっと話したら、気い楽になるんとちゃう?」
「あのね、先生。わたしは学校に戦いに来てるんです。戦闘中ですので、ダメージは覚悟の上です。それとも、わたしの戦争に参加していただけます?」
「あのね……」
「これ、学校で問題が起こった場合の府教委の対応マニュアルです」

 栞は、A4の紙の束を置いた。

「管理職からの報告→事情聴取→指導主事の派遣→問題の解析・整理→保護者への説明と生徒への対応。これが過去の事象から読み取れる府教委の対応の大まかなマニュアルです。で、先生がやろうとなさっているのは、ここ。生徒への対応の中のカウンセリングに当たります。分かります?」
「はあ……」
「で、問題の解析・整理の段階で間違えているんです。個人としての生徒が、特定の教師から、暴行あるいはイジメを受けたのと同じ対応できているんです。わたしは本校のカリキュラム及び教育姿勢を問うているんです。その課程で、いささかの軋轢があるのは当然です。いいですか、大事なのは府教委のカテゴライジングなんです。教職員による生徒への暴行・イジメではないんです。むろん精神的な暴行と言っていい事象はありました。だから、父を代理人として告訴もしました。本命の問題は、あくまでカリキュラム、教育姿勢の問題なんです」
「そやけど、手島さん自身傷ついてるのは確かやろし……」
「あなたがやろうとしているのは、心臓が悪い大人を治すために、その子供の子守をしているようもんなんですよ。子守をしても親の心臓は治りません!」
「そやかて、手島さん……」
「先生は、硬直化したマニュアルに組み込まれた、意味のない歯車なんです。よく認識なさってください」

 そういうと栞は、相談室を飛び出した。カウンセラーは、予定の六時まではこなしたので、記録を整理してさっさと帰ってしまった。

「先輩、怖い顔してますよ」

 いつのまにか、さくやが横に並んでいる。

「ゲ、あなた、いつから居たのよ!?」
「校門出たとこから」
「演劇部は無いからね」
「ありますよ。先輩とさくや。顧問に入部願いも出してきましたし」

 駅前近くに来ると、フライドチキンのスタッフがチラシを撒いていた。

「あの、それもらえます?」
「あ、どうぞ。高校生10%割引中!」
「それじゃないんです。胸に付けてらっしゃるチキンのワッペン」
「え、ああ、ええよ。そのかわり店にも来てね」
「はいはい、そこの津久茂屋という団子屋さんもよろしく。わたし、不定期でバイトやってるから」
「そうかいな、お互いよろしゅうに!」

「さくやちゃん、あんた体育のハーパン持ってる?」
「あ、じゃまくさいよって穿いたままです」

 さくやがスカートを少しまくり上げると、学年色のハーパンの裾が見えた。

「ちょっと、こっち来てくれる」

「こんちは!」

「あら、栞ちゃん、今日はシフトには入ってへんけど」

 恭子さんが笑顔で言った。

「ちょっと着替えたいんで、門の陰貸してください。花見のときの小道具も貸してください。あ、この子、クラブの後輩で石長さくや(いわなが さくや)です」
「こんにちは、さくやです。よろしゅうに」
「いや、カイラシイ子やね!」

「いい、タイミングが大事だからね」
「はい、演劇部最初の試練ですね!」
「いくよ!」

 カウンセラーの先生は、バス組のようで、バス停で、バスを待っていた。向かいの団子屋の前に手島栞がいるのは分かっていたが、気づかないふりをしていた。

「カウンセラーの先生!!」

 バスに乗り込んだとたん、バスのすぐ近くから栞と、もう一人の女生徒の無邪気な声がした。カウンセラーの先生は、職業的な笑顔になり、窓を開け、声の方角に手を振った。

 とたんに、二人は後ろ向きになり、スカートをまくりハーパンをずらしてお尻を突き出した。むろん体育用のハーパンの下にラバーのお尻を付けていたのだが、一見するとホンモノに見える。そして、二人のお尻には大きなチキンのワッペンが貼ってあった。二人並べると「くたばれチキン」「カウンセラー!」と読めた。

 バスの中は大笑いになった。バスが動き出すと、二人は『フライングゲット!』とハイタッチして喜んだ。

 その日のSNSに、この画像が投稿されたのは言うまでもない……。

 

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