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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・2『初めてのアーカイ部』

2022-04-18 15:47:09 | 小説6

高校部    

2『初めてのアーカイ部』  

 

 

 へえ、二回モデルチェンジしてるんだ……。

 

 玄関わきのショーケースには歴代の制服が飾ってある。

 元々、要高校は女子高だったから、共学になる前の2001年までは赤線三本のセーラー服。

 その横には二組の男女の制服。

 二十年続いた制服は、今年から改定されて、その横に並んでいる。

 以前の共学制服は、特徴のない紺のブレザー。

 この四月からの制服は、ちょっとカッコいい。

 女子のブレザーは一見変化がないみたいなんだけど、微妙にウエストが絞ってあって、ボタンの位置も二センチほど高い。そのぶん襟元がつぼまってるんだけど、シャッキリしていて、スマートで脚が長く見える。

 男子は、ほとんど詰襟なんだけど、襟が低いのと首元の角を丸くしているので、雰囲気が柔らかい。

 そして、一応男女の別はあるけど、トランスジェンダーへの配慮で、性別にかかわらず、どちらを着てもいいことになっている。でも、入学式で男女逆の制服着用者は見なかった。

 校舎も五か年計画の改築が完成して、まるで新設の学校に入学したみたいだ。

 お祖父ちゃんは、古い学校だ的に言ってたけど、自分の記憶にある昔の印象を言ったんだろう。

 これは嬉しい思い違い。やっぱり、施設とかは新しい方がいいよ。

 

 どこの学校でも、そうなんだろうけど、部活の勧誘はすごかった。

 みんな部活のユニフォームを着たり、部活の道具を持って必死に勧誘していて、見ている分には楽しい。

 こういう勧誘では、吹部とか軽音とか演奏のできる部活はアドバンテージが高い。勧誘も、そんなにガッツイタ感が無いので、それぞれ一曲聞いてしまった。

 ダンス部は、よくスタミナが持つなあと感心。だけど、よく見るとメンバーは三班あって、交代しながら踊っている。

 まあ、全員踊り出したら、ピロティーの半分がダンス部が占領してしまうだろう。

 驚いたのは、コスプレ同好会。

 コミケとかは行ったことないけど、SNSで見たコミケみたいなコスを着て、みんなが写真を撮っている。

 メイド服とか巫女服はどうってことないんだけど、ハイレグの魔法少女とかサキュバスとかはどうなんだろね(^_^;)。

 もう十回くらい「うちの部活に!」って迫られたけど「もう決まってますから(^_^;)」というと残念そうな顔をされたり、早まっちゃいけない的なことを言われたり「え、どこに決めたの!?」と迫ってこられたり。

「アーカイ部です」

 そう答えると「え、それなに?」って顔をされる。茶華道部の三年生だけが「アーカイ部じゃ仕方ないね」と返された。

 

 それで、部活の勧誘広場(正門からピロティーにかけて)を離れて、部室があると言われている旧校舎を目指した。

「え…………?」

 旧校舎は、ホームページの写真とかで見た旧校舎ではなかった。どう見てもそのもう一つ前の木造校舎。

 旧々校舎と言った方がいいような、明治村とかに似つかわしい建物だ。

 それも、中央部分と思われる玄関を含んだ部分だけが残されていて、いかにも文化財という感じ。

 玄関も廊下も電気が点いていない。階段の踊り場の窓からこぼれてくる明かりが唯一で、玄関に足を踏み入れただけなのに、ちょっと閉じ込められた感がある。

 

 ギシ……ギシ……

 

 恐るおそるという感じで足を進めると、階段の横、一つ扉を隔てて『亜々会部』の気の札がかかっている。

 トントン

 ひょっとしたら留守かと期待したけど、しっかり返事が返って来る。

「入れ」

 女の人の声だけど、特殊部隊の女性隊長を思わせるような厳しい感じ。お祖父ちゃんならララ・クロフト、いや、攻殻機動隊の草薙素子って言うだろう。

 覚悟を決めてドアノブを握る。

 ギーー

「失礼します」

「新入生の田中鋲だな、話は聞いている」

「あ…………」

 顔を上げて驚いた。薄明りの部室の奥、肘掛椅子をクルリと回して、こちらを向いた女子生徒。

 コンマ一秒で、ロン毛美人だと知れるんだけど、この人の制服はショーケースで見たばかりの赤線三本のセーラー服だ。

 思ったとたんに、頭がクラっとした……。

 

 

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やくもあやかし物語・134『土星の輪から石ツブテ』

2022-04-18 10:39:14 | ライトノベルセレクト

やく物語・134

『土星の輪から石ツブテ』 

 

 

 わたしの生活圏はめちゃめちゃ狭い。

 

 家は三百坪もあるんだけど、ふだんの生活は自分の部屋とリビングぐらいで済んでしまう。

 外に出ても、一丁目と二丁目と三丁目で済んでしまう。

 一丁目が自分の家で、学校が三丁目。二丁目は、その途中で、折り返しの坂道と、その前後の道。

 まあ、中学生の生活圏って、基本的に家と学校だもんね。

 図書委員仲間の小桜さんや杉野は部活とかもやってるみたいで、わたしよりは世界が広いかも。

 たまに、図書室の窓からグラウンド見ると、小桜さんや杉野が部活やってるのが目に入る。

 二人とも、図書委員の時とは別人。元気に走ったり球を投げたりして、学校のホームページに『生徒の日常』とか『スクールライフ』の見本の写真に使えそう。

 わたしは、自分の姿を写真とかに撮って愛でる趣味は無いけど、自分の部屋でくつろいでいる姿は、グラウンドの二人に負けていないと思う。それくらいの自負はある。

 でも、八畳に満たない部屋でくつろいでるのと、グラウンドで元気に部活してるのとでは、次元が違って比較にならないよね。

 

 そんなわたしが、ロケットに乗って土星に向かってる。

 

 火星でロケットのAIが『エマージェンシ―エマージェンシー!』って叫んで、アキバからいっしょに乗ってくれていたみんなが二段目に移動。わたしも、避難しようと思ったら、ハッチが閉まってしまって、わたしだけが三段目に残されてしまった。

 チカコと御息所はポケットにすっこんでしまっているし、アキバ子はふたを閉めてるし。ほんとに、わたし一人だよ。

「イザとなったら言ってください、空き箱の中に入れば、とりあえずアキバにはテレポできますから」

 責任を感じたのか、フタをちょこっと開けてアキバ子が言う。

「う……うん」

 あいまいな返事。

 自分の部屋まで戻れて知らんふりしてられるならいいんだけどね、みんなが待ってる駅前広場になんか戻れないよ。

 ああ、なんか、ゲロ出てきそう。

 生唾呑み込んでゲロっ気を誤魔化す。

 すると、耳の奥がグチュって言って、シューって音がしてきた。

 鼓膜が裏返って、自分の血の流れる音が聞こえたみたいな(;'∀')。

 

 シューーーーーシューーーーーシューーーーー

 

 あ、これは土星の輪が回る音だ!

 真空の宇宙空間で音が聞こえるってあり得ないかもしれないんだけど、ぜったいそうだ。

 だって、音に合わせて土星の輪からツブテみたいなのがロケット目がけて飛んでくる。

「目をつぶらないで避けてく! 当たったら、ロケットなんかいっぱつだから!」

「避けるって……ワ!」

 危ないと思ったら、ロケットが自分の体みたくツブテを避けた。

「ね、できるでしょ!」

「う、うん……」

 ヒョイ  ヒョイ  ヒョイヒョイ  ヒョイ

 なんとか避けるんだけどらちが明かない。

 ツブテは土星と土星の輪の遠心力で飛んでくるんだよ。

 だったら、土星自体の回転を停めないとツブテは止まない!

 百回くらい避けていると、土星の回転するのよりも速い力でツブテが飛んできていることに気が付いた。

 思ったとたんに、土星の輪の上に犬が乗っているのに気が付いた!

 

 犬は人間みたいに二本足で立っていて、輪の中に無尽蔵にある石ころを掴んではツブテにして投げてきているんだ。

 土星の輪が回転して、向こう側に行ってしまいそうになると、反対側にテレポしてツブテを投げるって動作を繰り返している。

 き、キリが無いよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・21『新入部員さくや・1』

2022-04-18 06:18:35 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

21『新入部員さくや・1』

    

 

「うち、演劇部に入りたいんですけど」

 三年生への演説が終わって校門に向かうと、いきなり校門脇の桜の木から声がした。

 桜が喋るわけがないので、正確には視野の外になっている桜の木のあたりから人の声がした。不意を突かれた感じで、なんだかおとぎ話めいた気分になった。

 小柄なツインテール、見るからに一年生が立っていた。

「これ、入部届です!」

 いきなり、鼻の高さに入部届が突きつけられ、栞は珍しくたじろいだ。

「これで、二人の演劇部になりますね♪」

 どうにも調子が外れているのだが、その外し加減が小気味よく意表を突いてくる。栞は体勢を立て直すのに数秒かかった。

「珍しい、毛筆だね。石長さん。あなたが書いたの?」
「えと、保護者の名前以外はわたしです。それから、イシナガじゃなくてイワナガです、石長さくや」
「でも、わたし、今年はやる気ないよ」
「どーしてですかぁ! あ、やっぱ、時間のせいですか?」
「もあるけど、なんか去年一年やって、冷めちゃった」
「冷めたのなら、暖かくしましょう。季節的にも、これからどんどん暖かくなりますし♪」
「ハハハ、あなたみたいな子初めてだ。どうやって暖かくするの?」
「わたしとといれば、きっと暖かくなります。じゃ、明日から、よろしくお願いします♪」

 それだけ言うと、さくやは、さっさと行ってしまった。

「まあ、いいか。年下のお友だちぐらいにしとこ」

 角を曲がったところで、テレビのクルーとレポーターのオネエサンが待ちかまえていた。

「すみません。ナニワテレビなんですけど、手島栞さんですよね」
「はい、そうですが」

 この手合いは手玉に取りやすい。

「今度の、栞さんのレジストですけど……」
「言葉には注意してください。わたしのはレジストじゃありません。問題提起です」
「失礼、その問題提起ですけど。それに至った心境とか、今日は保護者説明会が行われますが。栞さんは出席なさらないんですか。夕べの記者会見じゃ、大活躍でしたが」
「ほんとうに失礼ですね。テレビ局の名前だけ言って、もう質問ですか」
「あ、ごめんなさい。わたし、アナウンス部の芹奈って言います。ほら、これIDです」
「お名刺、頂戴できますか?」
「あ、はいどうぞ」

 芹奈は、ホイホイと名刺を出した。栞はいきなりスマホを出した。

「もしもし、ナニワテレビのアナウンス部ですか。わたし、手島栞と申します。部長さんいらっしゃいますか……じゃ、次長さんでけっこうです」
「なんで、ウチの局に……」
「おたくに、芹奈澄香ってアナウンサーいらっしゃいますか……あ、この人です」

 芹奈を写真に撮って送信した。

「……本物、じゃ、どういう社員教育されてるんですか、ただでも狭い通学路。カメラさん、音声さん、ADさんで道が塞がってます。取材のあり方に気を付けてください」

 芹奈はじめ、クルーは道ばたに寄った。

「それから、わたしの問題を取り上げてくださるんなら、一年のスパンで取材して下さい。教育問題を芸能問題と同じような興味本位で取り上げないでください。以上ご検討の上……むろん編成局長レベルでお考え頂かなきゃいけませんが。その上で、学校長を通じて取材を申し込んでください。なお、この通話と、取材の様子は録画、録音してます。このあとSNSに投稿します。以上」
「あの、手島さん……」
「以上、次長さんに申し上げた通りです。では、これで失礼します」

 万一のことを考え、フェンス越しに見ていた乙女先生は舌を巻いた。

 その夜、保護者説明会が開かれたが、校長は低姿勢ながらも、そつなくさばいた。

 謹慎中の教師たちは、警察の捜査と府教委の調査を待ち、校長として対応したいこと。また、外部の有識者を交えて学校改革のための委員会をたちあげること。それは府教委の意向もあり、現時点では、規模や構成までは言及できないこと。そして、トドメには、会議発足の暁には、ぜひ保護者の中からも参加してもらいたい旨を、一人一人の目を見ながらお願いした。校長に見つめられ二秒とは目を合わせられない者達ばかりであった。

 父から保護者会の様子を聞いて、栞は半ば諦めた。校長の対応は「学校を守る」という点では満点だったが、本気で問題を解決しようという意思が欠けているように思えた。真面目で真剣な話しぶり、筋の通った論理展開。ドラマで校長役が要るとしたら、この人ほどの適役はいないだろうと思った。

 ただ、刀に例えれば「良く切れる」ことを宣伝しているようにしか見えない。栞の好きな言葉は、こうである。

―― 良く切れる刀は、鞘の中に収まっているものだ ――

 その日の『栞のビビットブログ』はアクセスが二万を超えた。ナニワテレビの件はSNSにも流れ、電話に出た次長がニセモノの平のディレクターであったこともバレて、栞が投げたボールはテレビの報道のあり方にまでストライクゾーンを広げた……。

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