大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・269『富士山頂へ!』

2022-04-21 10:30:51 | 小説

魔法少女マヂカ・269

『富士山頂へ!語り手:マヂカ  

 

 

 富士は魔性の霊峰だ。

 

 とにかく美しい。原宿の屋敷を出発した時には敵愾心に満ちていた自動車組は、箱根山を越えて芦ノ湖の向こうに富士山が見えてくると、一様にため息をついてしまう。

 じかに登ったのは上野の山か飛鳥山ぐらいという東京の人間は、間違いなく感動してしまう。

 まして函谷関にも比肩される箱根の道は、大正時代の車には厳しい。

 這うようにして御殿場まで来た時には、警察車両のフォードが参ってしまい、高坂家のパッカードも五合目に差し掛かったところで言うことをきかなくなってしまった。誰言ううともなく車を降りて山頂を窺うと、御殿場では見えていた山頂が霧にかすんでいる。

「仕方がない、ここからは二人で行こう」

 ブリンダと二人決心を固める。

「万一にも負けることは無いと思うけど、きっとヘトヘトになってる。車を整備して待っていて」

「それに、討ち漏らしたザコが逃げてくるかも知れん、その時は頼むぞ」

「まかせてちょうだい!」

 霧子の力こぶは凛々しくも可笑しい。

「ノンコかて魔法少女やしぃ!」

―― 準魔法少女だけど ――という言葉は呑み込んで頷いてやる。

 一人足りないと思ったら、疲れが溜まったのか、詰子はパッカードの後部座席で寝息を立てている。

 詰子の働きは被服廠跡の働きで十分だ。

「まだ五合目です、どうぞ、これを持って行ってください」

 いつの間に用意されたのか、松本運転手が竹の皮に包んだおにぎり弁当と水筒を渡してくれる。

 竹の皮の結び目が独特、春日メイド長のそれだ。

 緊急事態にも高坂の屋敷は連携がとれている。三百年続いた武門の家ならではのことなのだろうが、高坂家の人たちの心映えは大したものだと思う。

「慶長の大地震では、ご先祖は一番に太閤殿下の許に駆けつけたのよ! 霧子も後れを取ることはないわ!」

「うん、その心意気やよしだよ!」

「行くぞ!」

 ブリンダと目配せすると、雲中の頂を睨んで駆けだした!

 

 タタタタタタ!

 

 背後に「頑張って!」「健闘を祈ります!」「いてまえ!」の声援を受けながら、あっという間に七合目。

 五合目のみんなはパッカードごと霧の底に沈んだ。

「すまん、背負ってくれ……」

「え、もうバテた?」

「すまん、飛行石があれば、富士の山頂なんてあっと言う間なのになあ」

「ディズニーの件も大変だったんでしょ」

「分かるか?」

「アメリカ一の魔法少女がジェット気流ごときで、ここまでくたびれやしないでしょ」

「オレもアメリカ人だからな」

「言えば、アメリカの恥になる……かな?」

「察してくれ」

「霊雁島の第七艦隊に出向になった時があったじゃない」

「ああ、司令の顔がコロコロ変わるやつなあ……レーガンだと思ったら……」

「うん、結局はウォルトディズニーだった。あれって、生前に借りがあったから……なんだね」

「国家機密だ……弁当を食べよう」

「手がふさがってる」

「すまん、オレをオンブしていては食べられないか」

「ブリンダ、ら抜き言葉は使わないんだ」

「え、あ、令和では『食べれない』だったか」

「古い日本を大事にしてくれてるのね」

「単なる癖だ……よし、肩車にしてくれ。それなら食べさせられる」

「いいよ、顔の前にお弁当持ってきて」

「こうか……おお、浮いた」

「日ごろはやらないんだけどね」

「ハハ、嫁の貰い手が無くなるか」

「魔法少女を嫁に? 悪魔か神さまでもなきゃ無理ね」

「それもそうだ」

 思い出す……二年前のあの日……要海友里に見られてしまったんだ、こういう食べ方をしているところを。それがきっかけで、調理研のみんなを巻き込んで、準魔法少女にしてしまった。

 わたしは、令和の時代には休息のためにやってきたはずなのに。

 帰りたい、令和の時代に帰って、調理研のみんなと馬鹿を言いながら日暮里で女子高生の日々を過ごしたい。

 ああ、ダメだ。

 どうも、富士山というのは人を力づけてもくれるけど、感傷的にもしてしまう。

 そうだ、思い出せ。

 M資金を巡ってツェサレーヴィチと死闘を繰り広げたのは、亜空間ではあったけれど、この富士山だ。

「思い出したか……」

あの時も、ブリンダと二人だったわね」

「ああ、あの時はツェサレーヴィチに情けをかけてやったばかりに、インゴット二つしか回収できなかったな」

「今度は………」

「情け無用!」

「徹底的に!」

「「やる!」」

 

 おにぎり弁当を食べ終え、握りこぶしを突き上げると、雲間の向こうに山頂、裂ぱくの声々と地響きが聞こえてきた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・24『お尻事件始末記』

2022-04-21 06:05:18 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

24『お尻事件始末記』

      

 


 二人を前にして、校長はなんと言っていいものか迷っていた。

 手島栞は、遠慮のない目で、アルカイックにスマイルしながら校長を見ている
 石長さくやは、呼び出された校長室が珍しく、気を付けしながらも目だけキョロキョロしている。

 同席者は、学年生指主担と担任(湯浅は謹慎中なので副担)である。

「とにかく、問題が解決していないうちに、こういう行動は困るなあ……」

 さすがの校長も、煮え切らないグチのようになった。

 昨日の新子とさくやがやったことは、『女子高生、お尻抗議!?』というタイトルが付いて、SNSにアップロ-ドされてしまった。スカートをまくって丸出しにしたお尻に「くたばれチキン」「カウンセラー!」とチキンのワッペン。よく見れば、ラバーのお尻を付けているのが分かるのだが、一見本物に見える。そして『フライングゲット!』の台詞と、決めポーズまで入り、バスの乗客の笑い声まで入っている。一晩でアクセスは2000件に達していた。

「まあ、品位に欠ける行動ということで、校長訓戒で、お願いしたいと思います」

 二年の生指主担の磯野が提案した。

「それは、やらんほうが、ええと思います」

 乙女先生は、そう言うとスマホの画面を見せた。

「この動画はコピーされて、『フライングゲット』というタイトルでも出てます。あ、今コメントが入りました『あんたたちやるねえ。キンタロー(^0^)V』本物かどうかはともかく、これのアクセスも2000を超えてます。それに、なにより本人がブログで、この動画を貼り付けて、ひとくさり語ってます」

「『これで、いいのか府教委』です」

 涼しい顔をして、栞が申し添えた。

「ちょっと見せてもらえますか」

 乙女先生は、栞のブログを出して、校長に見せた。

「……『これでいいの、府教委のマニュアル対応!?』……過激だね」
「はい、府教委は、イジメと同じ対応でやってます。カウンセラーのオバサンの話も的はずれでした。それ、本人も分かってるから、駅前でわたしを見てもシカトしたんです。問題は大阪の高校教育のありかたそのものなんです。昨日のコメントは60件あまりですけど、賛成がほとんどです」
「こんなネットをオモチャにしてたら、そのうちしっぺ返し受けるで」

 二年の生指主担の磯野が、無機質に言った。

「そっくりそのまま、お返しします。わたしは傷つくのは覚悟の上です。もう一週間もこんなピント外れな対応やってると、社会問題化しますよ。乙女先生、梅沢忠興で検索してください」
「梅沢……聞いたことあるなあ」
「前文部大臣の諮問委員をやっていた教育学の権威ですよ。わたしの、上司でもありましたが……」
「あ、出てきました。『大阪府立希望ヶ丘青春高校からの考察』長い文章だ……」

 結局、今回の『お尻事件』は、校長の判断でお構いなしになった。校長は皆を帰した後、府教委の指導一課長と電話で長話をした。芳しい返事がなかった、あるいは進展がみられないことは昼の食堂で分かった。

 水野校長は、平気で生徒といっしょに昼を食べる。

 乙女先生は、前任校からの癖で、別の理由で食堂を利用する。いまだに生指としての食堂指導に入ってしまうのだ。もっとも、ここの生徒はお行儀がいいので、指導することはほとんどない。その分、生徒の話を聞いて、リアルタイムで、生徒の状況が掴める。

 栞のことは、やはり話題になっている。生徒の大半は、事の善し悪しは別にして、高校生離れした行動に違和感を持ち始めている。事がどちらに転んでも、栞は、学校の中で孤立していくだろう。

「校長さん、ちょっとまいってるで……」
「え、そうですか。楽しそうに生徒と話ししてますけど」

 真美ちゃん先生は、食後のアイスを美味しそうに食べながら、上の空で返事した。

「MNBの話で盛り上がってるみたいやけど、あれは演技やな。うどんが一筋残って、出汁もほとんど飲んでへん」
「え、そんなとこまで見てるんですか?」
「刑事と教師は、人間観察がイロハや……」

 真美ちゃん先生は、乙女先生が、すごいのか、みみっちいのか判断がつきかねた。

 仕事帰り、駅のホームの端に栞が立っていることに気が付いた。

「あ、栞やないの」
「あ、乙女先生……」
「あんた、ホーム反対側やろ?」
「今日は、これからナニワテレビです」
「今回のことでか……?」
「はい、急遽梅沢先生と対談することになりまして」
「あの、梅沢忠興!?」
「ええ、先生のご希望で……」
「あんた、本気の本気やねんなあ」
「ええ、でも、ほとんど蟷螂(とうろう)の斧だと思ってます。ちょっと毛色の変わった女子高生が面白いことを言ってる……いい時事ネタなんでしょう」
「達観してんねんなあ」
「なんで、こんなホームの端に立ってると思います?」
「え……?」

 意外な質問に、さすがの乙女先生も意表を突かれた。

「ここで、飛び込んだら、確実にわたしは電車にはね飛ばされ、わたしの体は、下りの線路中央か、このホームの中央に叩きつけられます……血みどろになって。駅の中央だから、いろんな人が見てシャメってくれるでしょう。そうしたら……世の中は、もっと本気で考えてくれるんじゃないかしら……」
「栞……」
「ハハ、驚きました? やったー、乙女先生、ドッキリカメラ成功!」

 栞は嬉しそうに、スマホで乙女先生を撮り始めた。

「……栞、電源入ってへんで」
「ハハ、冗談ですよ。ナニワテレビは、U駅の最後尾が一番近いんです。それだけです!」

 いっしょに電車に乗り込んだ乙女先生は、扉のガラスに映る栞の目に、深い闇を見たような気がした……。

 

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