大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・301『え(#°д°#)!?』

2022-04-24 10:32:02 | ノベル

・301

『え(#°д°#)!?』さくら 

 

 

 殺生やなあ……

 

 朝ごはんの食器を洗てたら、ダイニングのテーブルでテイ兄ちゃんの声。

「なにが殺生やのん?」

 残りの食器を取りにリビングへ行くと、新聞見ながら口を尖らせとおる。

「中学の内申書、75人分も間違うてて、合格するハズやった子が入試落とされてたんや。逆に、ほんまの内申よりも高くなった子もおって、わやくちゃや」

「ええ、どこの間抜けな街?」

「堺市や」

 

 え(#°д°#)!?

 

 思わず持ってた食器を落としてしもた!

「あっと!」

 うちの性格をよう知ってる留美ちゃんが、ダッシュして来て受け止めてくれる。

「アハハハハ」

 笑ってごまかしたけど、ちょっと足元の地面が無くなってしもた感じ。

 

 入学以来、学校の中が珍しくって留美ちゃんと探検しまくり。探検しすぎてクラスの事には目ぇ向いてへんので、担任のペコちゃん先生に怒られた。

 留美ちゃんは、ええ子やさかいに、直ぐに切り替えられたけど、うちはあきません。

 むろん教室には居るようにしたんやけど、じっとしてると眠たなってくる。

 ほんでもって、どうかすると授業中も寝てしまう。

 さすがに、現社の時間、ペコちゃん先生にあてられて「ハヒ!?」って返事して起きたんやけど、寝起きのブチャムクレ。デボチンは赤いし、ヨダレは垂れてるし、クラスのみんなに笑われるし。

 他の教科でもウツラウツラすることが多くて、これではあかんなあと思う。

 

 うちは、ほかの子ぉよりもアホなんちゃうやろか……?

 

 そんなことをチラホラ思てたとこ。

 そこに『内申書間違い事件』ですやんか、それも、ほんまの内申よりも高くなった子も居るって!

 きっとうちのことや!

 どないしょ!

『酒井さん、あなたの入試成績は、本来の合格点に達していないことが判明しました。申し訳ないけど、合格を取り消します』

 校長室に呼び出されて校長先生から宣告されてる姿が浮かび上がって来る。

「ちょっと、へんな妄想するんじゃないわよ(^_^;)」

 今や姉妹同然の留美ちゃんには、すぐに知れてしもて恥ずかしい。

「アハハ、だいじょぶだいじょぶ(^_^;)」

 

 で、家の手伝いやらしてるうちに忘れてしもたら、なんとペコちゃん先生がやってきた。

 

「やっぱ、お寺とか神社とかは落ち着くね……」

 ご本尊の阿弥陀さんに手を合わせてから、振り返るペコちゃん。

「学校に残してるもの取りにきたついで」

 この場合の学校は安泰中学。先生も寛いでしまうと地が出てしまうみたい。

「ところで……」

 切り出されて、朝の事が蘇る。

 いきなり校長先生に言われたらショックやから、担任のペコちゃん先生が下話に来た!?

 ちょ、留美ちゃん、なんでうちの手ぇ握るん!?

「じつはね……」

「はひ(;'∀')」

「月曜からうちのクラスに入って来る子がいるの」

「「え?」」

「わけは言えないんだけど、堺の中学の子でね。うちのクラスで堺から来てるのはさくらと留美ちゃんだから、気に掛けてあげてくれると嬉しいの」

「「え、あ……」」

「ハハ、ますます、本当の姉妹みたいになってきたね」

「ハハ、よう言われます」

「えと、その人の名前とかは?」

「……ま、月曜のお楽しみということで。じゃ、これで失礼するわ」

「はい」

 

 山門まで見送りに行くと、ピザ屋のデリバリーみたいな赤い屋根付きバイク。

「中古で買ったの、屋根も付いてるし三輪だしね、荷物もっぱい入るんだよ。嬉しくってワックス掛けたらピッカピカ」

「新車みたいですね!」

「ボディーに不二家って書いたらピッタリ!」

「え、あ、アハハハハ」

 ふり残りの雨が、バイクのボディーにもペコちゃん先生の頬っぺたにも小気味よく弾かれて、ええ感じ。

 思わずスマホを出して三人で写真を撮りました。山門の葉桜がきれいな緑で、うちらもバイクも瑞々しく栄えて、ちょっと嬉しかったです。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・27『アイの手前にて』

2022-04-24 06:11:29 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

27『アイの手前にて』

      

 


 どこかで見たことのあるやつらだなあ……乙女先生は思った。

 生指の官制研修のあと、前任校の先生と心斎橋通りを歩いていて気づいたのだ。ギンガムチェックと生成のサマージャケットの二人連れが歩いている。ギンガムチェックが、笑い転げた拍子にストローハットを飛ばしてしまった。それが乙女先生の足もとまで転がってきて確信になった。

「さやかと栞!?」

 と言うわけで、栞とさやかのコンビは乙女先生馴染みの喫茶店の奥に座っている。奥と言っても個室ではなく、L字の店の底辺にあたるところで、乙女先生が学生時代からの指定席である。前任校の友人は、カウンターの中で甲斐甲斐しく働いている。

 そう、ここは、その友人の両親が、半ば趣味でやっている、その道の(乙女先生のような人種)通の店である。
 店の名前は「H」と書いて「あいの手前」と読む。

「なるほど……!」

 看板を見て、さくやは笑い、栞は感心した。

「これって、『愛』と『遭い』を掛けてるんですね。だから『H』なんて、ドキッとするような字でも品よく見えるんですよね」

 乙女先生の友人は、その感覚を喜んだが、乙女先生の顔は、ちょっと厳しかった。

「栞、あんたは最近ちょっとした有名人やねんさかい、あんまり、こんなとこうろつかんといて欲しいな」
「あ、だから、私服で髪も変えてきたんです」
「せやけど、分かってしもた」
「そら、乙女ちゃんやさかいに」

 ミックスジュースと、ブラックコーヒーをテーブルに置きながら、友人が言った。

「確かに、よう見たら、SNSでお馴染みの栞ちゃんやて分かるけど、普通にしてたら分からへんよ。ま、もっとも、その眼力で淀屋橋高校の校長のアデランス見抜いたんやろけど」
「あのオッサンは、そのまた前任校でいっしょやったさかい、誰でも分かる」
「まあ、はよ本題に入って解放したげえよ。問題行動あったわけやないねんさかい」
「せや、本題や。あんたら何しとったんや?」

 さくやは、ソワソワと。栞は、じっと乙女先生の目を見ている。短い付き合いではあるが中身が濃いので、栞が、なにか計算しているらしいことはすぐに分かった。

「結果がでるまでは内緒にしていただけますか?」
「話の中身によるなあ……」

 甘い顔をしてはいけないと、乙女先生はブラックコーヒーを口に含んだ。

「わたしたち、MNBを受けるんです」
「ウ……!?」

 久々に飲む『H』のブラックコーヒーの香りで、予期せぬ感動の顔になってしまった。

「うわー、先生も驚いて、喜んでくれはるんですね!」

 さくやが見事に誤解した。

「うちも、最初はぶったまげて、ほんで嬉しなってしもたんです♪」
「なんでまた、MNBなんか?」

「フライングゲットです。和訳すれば、発展的な先取りです」

「どういうこっちゃ?」
「半分は、先生の責任です」
「は……?」
「箕亜のダンス部見たじゃないですか!」
「まあ、あんたらのしょぼくれた演劇部の刺激になったら思てな」
「すばらしかったです。でも、あんなのうちの学校じゃ無理です。ウェブでも調べましたけど、箕亜は、あそこまで行くのに20年かかってます。わたしたち、20年も高校生やってられません」
「いや、あれは気合いを……」
「気合いは、しっかり入りました。で、この実行です。こんどのことでは教育委員会も動いているようですけど、けしてうまくいきません。いままで、教育委員会が音頭を取ってうまくいった例はありません。説明は、これで十分だと思います」

 乙女先生の頭には、特色ある学校づくり・ゆとり教育・必修クラブ・宿泊学習・体験学習など、ほとんど失敗に終わった取り組みが頭を巡った。

「考えたんです。高校演劇とは、高校生がやる演劇です。間違ってないですよね?」
「うん。愛ちゃん、コーヒーお代わり!」

 さくやが、いそいそとコーヒーのお代わりを運びにかかった。

「演劇とは、広い意味で肉体を使うパフォーマンスのことです。だったらMNBも同じです。あそこの構成メンバーの半分は現役の高校生です。在阪のパフォーマンス集団の中で、一番ビビットに活動でき、可能性があるのがMNBだと結論づけました。なにか間違ってます?」
「そやけど、あそこ、平日2時間、土日は6時間のレッスンやで」
「先生、詳しい~。はい、コーヒーお代わりです♪」
「部活も熱を入れればそんなもんです。部活を教育活動から外して、地域のスポーツ・文化活動にしよう……府教委が、将来的に考えてることですよね」
「ほんまに、栞はよう知ってんねんな」
「先生は、わたしがやることに心配なんですよね……ありがとうございます」

 確かに、近頃理論派高校生として名前が出始めている栞がやることに……世間の栞を見る目が心配ではあった。

 当の栞はヒョットコみたいな顔で、ミックスジュースを飲み干すと、勝ち誇った顔になった。

 この顔が波乱を呼ぶような気が、乙女先生はした……。

 

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