大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・4『さよなら三角また来て四角』

2022-04-27 11:40:32 | 小説6

高校部     

4『さよなら三角また来て四角』

 

 

 え……着替えるんですか?

 

「言ったろ、部活中は着替えるって。今日から正式な部活が始まるんだ。鋲も着替えなくちゃならんだろ」

「えと……だって、これセーラー服ですよ(^_^;)」

「あ……トランスなんとかで五月蠅いんだったな。じゃ、選ばせてやる……どっちにする?」

「じゃあ、学生服の方で」

「そうかぁ……ほれ」

「なんで、つまらなさそうにするんですか(^_^;)」

「いや、セーラー服の方が似合うと思っていたんでな。ま、気にするな」

「じゃ、着替えてきます」

「ここで着替えるんだ。部活中は部室を出てはいかん」

「え、そうなんですか?」

「ああ、集中力の要る部活だからな」

「ええと……」

 

 部室を見渡す……教室一つ分の大きさはあるんだけど、身を隠すところがない。

 

「手間のかかる奴だなあ……よし、こうすれば恥ずかしくないだろ」

 段ボールの中から唐草模様の風呂敷を出したかと思うと、先輩の制服をかけたマネキン人形に持たせて目隠しにした。

「えと……ま、いいや」

 覚悟を決めて目隠しの陰で着替える。学生服なんて着たことが無いから、首元の窮屈さが馴染めない。

「ほう……着やせするタイプなんだな」

「え?」

「すまん、そこの鏡に映るもんでな。あ、向こうを向いていよう」

「……(////·-·´///)」

 さっさとズボンを履き替えて、上着を着る。

「着替えました!」

「よし……なんだ、ちゃんと襟を留めんか」

「留めるんですか?」

「当たり前だ、詰襟を留めないのは、制服のリボンが無いのと同じだぞ」

「……えと……あれ……」

 初めての詰襟なので、なかなか留まらない。

「不器用だなあ……」

「え……あ……」

 先輩が寄ってきて留めてくれる、鼻息のかかる近さ! シャンプーの匂いとかするし!

「よし、これでいい……顔が赤いぞ」

「あ、アハハ……」

「そうか、こんな近くに異性に迫られるのは初めてなのか」

「あ、その……」

「わたしも不器用なんでな、ま、鋲も慣れろ」

「はい」

「じゃ、さっそく始めよう。そこに座ってくれ」

 

 先輩は、部屋の隅にある向かい合わせの椅子を示した。

 座ると、足もとが明るくなる……え、魔法陣?

 

「最初は目が回るかもしれん、目をつぶってもいいぞ」

「はい」

 素直に目をつぶると、足もとがグラッとした。

 グィーーーン

 遊園地のコーヒーカップが回るのに似ているけど、そこまでは激しくない。

「よし、目を開けていいぞ」

 

「…………ここは?」

「始まりの地だ」

 

 オフホワイトというかライトグレーというか、目に痛くない程度の白い世界。何も描いていない液タブの画面的な感じ。

「ええと……そこだ」

 先輩が少し離れたところを指さす。

 何もないと思っていたら、音もなく大きな横になった三角形が現れた。

「よっと」

 先輩が小さく蹴ると、三角は膝の高さほどに浮きあがった。

「なんですか、この三角は?」

「アーカイブのゲートだ。しばらく使っていなかったので三角になってしまったんだ……そっちの方を持ってくれるか?」

「あ、はい」

 先輩と二人で三角の一辺を持つ。

「暖かい」

「うん、起動し始めてるんだ。だが、入り口として機能させるには、もうひと手間いる。わたしの合図で引っ張ってくれ。リヤカーを引っ張るくらいの力でいいぞ」

「リヤカーなんて曳いたことないです」

「えと……じゃ、適当にやれ、いくぞ……イチ、ニイ、サン!」

 ギイイ…………ポン!

 軽いショックがあって、三角は変形した。

「四角になりましたね!」

「ああ、これで、しばらく置いておけば安定する。今日はここまでだ。じゃ、戻るぞ」

「あ、はい」

 

 来た時とは逆の順序で部室に戻った。

 

「あの三角と四角はなんなんですか?」

「言ったろ、アーカイブへのゲートだ」

「はあ……」

「さよなら三角また来て四角だ」

「は?」

「分かりやすいだろ」

「はあ」

「じゃあ、今日はここまでだ。わたしは後片付けするから、先に帰っていいぞ」

「あ、はい」

―― え、これでおしまい? ――

 思ったけど、口にしたら、また変なことが起こりそうなので、大人しく校舎の外に出る。

「ええ?」

 

 ほんの十分ほどしかたっていないと思っていたけど、もう西の空に日が沈みかけていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・30『赤いスウェット』

2022-04-27 06:36:46 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

30『赤いスウェット』

          


「お母さんには二度会い、お父さんには一度も会えへんもん、なーんや!?」

 今日の日本史Aの始まりが、これだった。
 まるでナゾナゾ。いや、ナゾナゾそのものだった。そもそも最初の授業がデーダラボッチの話だった。

「むか~しむかし、常陸の国にデーダラボッチいう、雲を突くような大男がおった。毎日こいつが海岸に行っては、しこたま貝を口に含んで、もぐもぐしながら住みかに帰っては、ぺぺぺと貝がらを吐き出した……これから何が分かる?」

 正解は貝塚であった。

 関東地方の貝塚は海岸線から遠く離れたところで発見される。これは縄文時代の温暖な海進期に、海岸線が関東平野の奥まで達していて、たくさんの貝が採れ貝塚ができた。二千年ほど昔に始まった海退によって海岸線がひいて、今のそれと変わらなくなり、古代人たちは「なんで、こんな海から離れたとこに貝殻がいっぱいあんねん?」と、思った。で、まさか海岸線が移動したりするなんて思いもつかなかった。ほんでデーダラボッチいう巨人をしたてて、つじつまを合わせた。

「ファンタジーや思えへんか!?」

 で、デーダラボッチ、ダイダラボッチの分布範囲を黒板の地図に記す。

「これで、縄文時代が温かったのが、ようわかる。農業せんでも、食い物はどこにでもあった。ジブリの作品にも、こいつが出てくるなあ」

 で、ひとしきりジブリの話をして、あとは教科書○ページから○ページまで読んどけ。で、プレ縄文と縄文時代の話はおしまいである。並の教師なら二週間はかかる。乙女先生の信念は近現代史にある。それまでは、こんな調子。三年の生徒達は、乙女先生の授業をバラエティー番組のように思っている。

「答えわかったか?」

 生徒たちは、顔を見交わし、クスクス笑うだけ。

「イマジネーションのないやつらやなあ。正解はクチビルや!」
「ええ!?」
「クチビル付けて母て言うてみい」

 生徒たちは、パパとかババとか言って喜んでいる。

「平安時代は、そない発音したんや。微妙にクチビルが付く。で『ファファ』になる。ほかにも濁音の前には『ん』が入る。今でも年寄りの言葉に名残がある。『ゆうべ』は『ゆんべ』になる。せやから、当時の発音で源氏物語を読んだら『いんどぅれの、おふぉんときにてぃかふぁ……』」

 表情筋を総動員してやるので、笑い死に寸前のようになる者も出る。乙女先生は、半分冗談で酸素吸入器を持ち歩いている。

「で、こういう言葉を表現しよ思たら、漢字では間に合わんよって、片仮名・平仮名が生まれた『お』と『を』の発音の違い分かるか?」

 何人かが手をあげる。「O」と「WO」を使い分ける。クラスの1/3が分からない。で、生徒たちに教えあいをさせる。「え」と「ゑ」の違いも披露し、今の日本語が平板でつまらなくなってきたと脱線して、「国風文化」が終わりとなり、来週はめでたく摂関政治と院政のだめ押しをやって「武家社会」に入る。

 乙女先生は、無意識ではあるが、日本史Aという授業の中で、総合学習をやっている。ちなみに、乙女先生は、日本史とはいわずに国史と……たまに言う。

「えー、こんなのもらってもいいの!?」

 栞が、喜びと驚きを同時に表現した。昨日来たさくやのお姉さんがMNB受験のためにスウェットの上下とタンクトップをくれたのである。

「へへ、お姉ちゃんも、若かったらやりたいとこや言うてました」
「変わったブランドだね『UZUME』いうロゴが入ってる」
「まあ、一回着てやってみましょか?」

 そこは女の子同士、チャッチャッと着替えてスタンバイ。以前も思ったが、さくやはナイスバディーだと思った。この子が制服を着ると、とたんにありふれたジミ系の女子高生になるから不思議だ。似たようなことはさくやも思った。制服の栞は硬派の真面目人間に見えるが、歌ったり踊ったりすると、目を疑うほど奔放になる。

「これ、ステップとターンが、とても楽にできる!」
「それは、なによりですう!」

 MNBのオーディションは明日に迫っていた……。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする