大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 68『吶喊!』

2022-04-13 11:43:53 | ノベル2

ら 信長転生記

68『吶喊!』信長   

 

 

 懐古の町へは南側から入った。

 

 町の南北を縦貫するようにパレードして、その足で北に向かい、魏の洛陽、呉の建業、蜀の成都を掠めるように駆け抜けて威容を示そうとしているのだ。

 何度も言うが、茶姫の騎兵軍団は輜重を伴っていない。

 追随しているのは、自発的に最後尾に着いてきた検品長の小隊規模の輜重だけだ。

 近代装備で言えば、戦車部隊が燃料や弾薬のトラック部隊を伴っていないのと同じだ。

 茶姫は、軍団規模で、三国に脅しをかけている。

―― その気になれば、輜重を連れて、三国のどこにでも攻め入ってやる。三国は茶姫の指揮に従え! ――

 女にしておくには惜しい奴だ。

 

 ギギギーー

 

 かつては、南進する討伐軍を歓呼の声で送り、凱旋軍を迎えた軍門だが、門扉も蝶番も錆びつき、再び閉めることは困難だろう。

 その、三十年開いたことが無いという皆虎門が軋みをたてて開いていく。振り返ると皆虎門の南には三丁ほどの軍路が堀を跨いで出征門に続いている。出征門を出れば転生国との緩衝地帯の森に出る。出征門はとっくに廃止されて楼閣を残すのみで、門そのものは壁と同じ磚(せん)で埋め固められている。

「懐古の者たち、我は三国は魏帝曹操の妹にして軍団長の曹茶姫である。これよりは、この曹茶姫が、この軍都を復興し、往年の栄と勲しを取り戻すであろう! これより、我が騎馬軍団は、懐古の大路を駆け抜けて見せる! 奮い立て勇者たち! 疾く大路に出でて、この勲しに歓呼せよ! 本日ただいまより、曹茶姫が懐古の字を廃し、皆虎の表記に戻すことを宣言するぞ!」

 ポン! ポポンポン! ポン!

 手回し良く花火が上がったのは検品長の荷馬車からだ。

 入場前に、茶姫が言葉をかけていたが、単なる労いではなかったようだ。

 花火は楼門の上空で『皆虎』の文字をなして、軍団のみならず、大路に出てきた住民たちからも歓喜の声が上がる。

 仕掛け花火なのだろうが、検品長、なかなかやる。

 

「吶喊(とっかん)!」

 

 抜刀した茶姫が吠えると、軍団は、馬蹄を轟かせながら大路を北に駆けだした。

「続け、市、後れをとるぞ!」

「う、うん!」

 馬腹を蹴った市が近衛の先頭に出てしまう。

 他の近衛騎兵が、後れを取らじと市に続き、茶姫が笑って振り返りる。

「逸るな、者ども!」

 アハハ ワハハハ

 軍団と大路の民たちにも笑いが広がり、もう一度茶姫が制すると軍団は少しだけ速度を落として陽気に進軍を始めた。

 

 ドーーーン!

 

 南の来福門を出ようとしたとき、皆虎門の方角から爆発音。軍団に緊張が走るが、茶姫は悠然と馬首を巡らせ、再び吠えた。

「騒ぐな者ども! 予定通りである! 真の進路は北だ! 者ども、北へ駆けるぞ!」

 茶姫が駆けだすと、もたげた頭に続く龍の胴のように旋回し、うねりながら部隊が続いていく。

 進むと、皆虎門の向こう、出征門を塞いでいた磚(せん)のつかえが爆破されて、転生の森が見えている。

 

 フフ…………曹茶姫、この信長に並ぶほどの者であるかもしれないぞ。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・16『乙女先生のデビュー』

2022-04-13 06:13:57 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

16『乙女先生のデビュー』  

   


 結果的に順序が逆になってしまった。

 生徒の懲戒に関しては、補導委員会の決定を校長に報告して了解を得てから、保護者を呼び出し懲戒内容を伝えるのが順序だ。しかし、今回は、その前に保護者である手島和重がやってきて、さんざん拗れたあとの報告になってしまった。
 梅田と教頭の誤算であったとも言える。指導忌避による停学三日なので、懲戒としては軽いもので、保護者も簡単に受け入れ、事後報告で済むと思っていたのだ。

「この懲戒内容は撤回してください」

 校長は落ち着いて(はらわたは煮えくりかえっていたが)指示した。

「停学三日程度の懲戒で、校長さんが異議差し挟むことは前例がおまへんけど」
「しかし、本人も保護者も、この懲戒には納得していないんでしょう」
「しかし、指導忌避の事実は……」
「道交法の進行妨害、刑法上の威力業務妨害、傷害、逮捕監禁、証拠隠滅まで、言われてるんですね。証拠写真まで付いて、相手は本職の弁護士だ。勝ち目はありませんよ」
「そやけど、センセ」
「メンツなんて、どうでもいい。これ以上言われるなら、職務命令にしますが」

 

『いや、分かって頂ければいいんです。名前に負けない、希望ある青春の高校にしてください』

 梅田が不承不承かけた電話の向こうで、栞の父が明るい声で言った。

『娘に代わります』
『もしもし、梅田先生。じゃ、わたし、明日から学校に行きますから』
「ああ」
『建白書は改めて、父と連名で、直接校長先生に内容証明付きの郵便で出しますので』
「ああ」
『えと、それから、懲戒については校長先生ご承知だったんですか?』
「あ……ああ、むろんや。懲戒は、学校長の名前で行うもんやからな」
『そう……念のために申し上げときますけど、これ事務所の電話なんです』
「それがあ?」
『事務所への電話は全て録音されてます。それでは乙女先生によろしく』

 梅田は、栞が切るのを待って、忌々しげに電話を切った。

 

「あら、立川さん、電話の調子悪いんですか?」

 朝一番に来た乙女先生は、自分よりも早く来て、電話をいじっている技師の立川に驚いた。

「はあ、事務から、生指の電話が通じないて言われましてね」
「だれかが、乱暴に扱うたんとちゃいますか」
「ハハ、この学校、名前は新しいですけど、施設はS高校のまんまですからね、どれもこれもポンコツで……こりゃ、交換だなあ」

 立川は、手際よく電話を交換しにかかった。

「まあ、終わったらお茶でもどうぞ」
「こりゃ、どうも……乙女先生……」
「どないかしました?」
「いや、まるで、新採の先生みたいですなあ!」

 

 今日は、午前中始業式。午後は入学式である。着任初日は校長から保険のオバチャンと間違われたので、精一杯のおめかしである。二十二歳の新任のころからスリーサイズは変わらない……と自認する乙女先生は、新任のころから勝負服にしているピンクのスーツ姿であった。地元岸和田の小原洋裁店であつらえたもので、「本人の心がけ次第では一生もんだっせ」と、女主人に言わしめた一品である。

 新転任紹介では、真美ちゃん先生と同じくらいのどよめきが生徒達から起こった。

 ただ校長の一言が余計だった。

「新任の天野真美先生は『新任ですでビシバシ鍛えてください』でしたが、佐藤先生は、こう見えても、本校が三校目というベテランです。諸君ビシバシ鍛えられてください。一年生の生指主担と、三年生は日本史の授業でお世話になります」

 仕方がないので、乙女先生は習慣で一発かました。

「全員……起立!! 気を付け!! 休め!」

 ドスの効いた声で号令をかけた。まるで本番前に円陣を組んだAKBのセンターのように気合いが入っていた。なお「AKB」と言うのは本人の意識で、校長などは若作りの天海祐希ぐらいに思った。

「ウチは、岸和田生まれのバリバリの河内女です。乙女なんたらカイラシイ名前やけど、意味は六人姉妹の末っ子で、オトンが『また女か』言うて落胆して、腹いせに「とめ」とつけよった。あんまりや言うんで、上のネエチャンが、「お」を付けてくれて漢字にしたら乙女てなカイラシイ名前になりました。岸和田でほったらかされて大きなったよって、多少荒っぽいでぇ。まあ、よろしゅうに……着席!」

 生徒もビビッタが、真美ちゃん先生の顔がひきつったのにはまいった。早く免疫を持ってもらわなければと思う。

 思ったより当たり前の生徒たちに見えたが、目に光がないような気がした。

 その中で、ただ一人、二年A組の中頃からオーラを感じた。チラ見した乙女先生は、それが手島栞であることが、すぐに分かった。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする