大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・266『マヂカ風呂上がりの憂愁』

2022-04-02 10:06:10 | 小説

魔法少女マヂカ・266

『マヂカ風呂上がりの憂愁語り手:マヂカ  

 

 

 敵わないと思ったのか、詰子は浴槽の反対側に泳いで行ってノンコと遊び始めた。

 二人とも精神年齢が近いせいか、コロコロとじゃれ合っている。

 それが、なんとも母性本能をくすぐるというか、霧子とJS西郷にはいいおもちゃのようで、二人の姉と二人の妹が仲良く入浴……オ、思わず韻を踏んでしまって『仲浴』なんて、シャレめいた造語が湧いてきた。

 まあ、仲良きことは良きことだ。

「先に上がるよ……」

 いちおうことわっておくが、気いちゃいない(^_^;)。

 キャハハ アハハ ウフフの嬌声をガラス越しに聞きながら、頭と体を拭いて身づくろい。

 虎ノ門事件まで一か月。

 敵は、予想の何倍も力が強い。

 わざとステッキ銃を盗ったり盗らせたり。あの銃には魔法めいた呪が掛かっていて、そういうゴタゴタが起こる度に威力が増していくのだ。浴室で嬌声をあげている詰子のようだ、かまってもらうほど、テンションが上がっていく。

 詰子の方は、風呂から上がって、布団に潜り込めば十秒もかからずに眠りに落ちて一件落着だろうが、敵は、そうはいかない。

 ステッキ銃の威力が上がるばかりではない。あの怪人の取り巻きたち。一体はやっつけたが、残り十二体。

 いや、そもそも、あの怪人だ。

 正体は読み切れないが、おそらくはトキワ荘。

 あそこで、没になったマンガの怨念たちが、この過去の大正時代まで侵食して悪さをしている。

 あまつさえ、虎沢クマを誘拐し、自らの傀儡に仕立てて、我々に敵対させようとしている。

 ブリンダに加え、JS西郷と詰子。それに、大連武闘会を経て力を増した霧子。いちおうノンコもいるが。

 これで勝てるか?

 いや、勝つだけではダメだ。虎ノ門で敵の目標になっている摂政宮殿下をお救いしなければならない。

 正直、手に余る。

 せめてブリンダがいてくれれば……。

 ブリンダは、この瞬間に向こうでの仕事が終わっても、サンフランシスコから船に乗って、戻ってくるのは一か月先。

 困った……困った時の神頼み……というと関東総鎮守の神田明神が浮かんでくるが、神田明神は、この震災で社殿が壊滅。鉄筋コンクリートの社殿が完成するのは、大正の末年……いや、昭和に入ってからではなかっただろうか?

 いずれにせよ、ここは、自分たちで踏ん張るしかないな……。

 風呂上がりだというのに、水に落ちたように浮かない気持ちで自分の部屋に戻る。

 階段の下で田中執事長、上がったところで春日メイド長に出会うが、お気の毒という感じで会釈されるばかり。

 二人は人間だから、魔法少女の悩みなど知る由もないのだろうが、何カ月もいっしょに暮していると、惻隠の情というのだろうか、何事かは分からぬままに同情はしてくれている。

 よし、頭を切り替えよう!

 自分の頬にピシャっと気合いを入れて、ドアを開ける。

 

 部屋に入ってビックリした。

 神田明神のクロ巫女が、巫女服姿で、恭しく頭を下げて挨拶するではないか!?

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・4『学校のご近所づきあい』

2022-04-02 08:08:11 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

4『学校のご近所づきあい』             

 

 

「申し訳ありません、すぐになんとかいたします」

 乙女先生は、集まっていた近所の住人にまず頭を下げた。

「早よ来てくれはったんはええけど、そんなノコギリやったら、間にあわへんよ」

 近所のボスらしきオバチャンが、下げた頭を押さえ込むように言った。

「でも、とにかく、なんとかします」

 真美ちゃんがノコギリをひき始めた。オバチャンたちの失笑。乙女先生は真美ちゃんを目で制止して、すぐに携帯をかけた。学校の事務に技術員室につないでくれるように頼んだ……待つこと数十秒。

『誰も出はりません』

 主査の答えに、乙女先生は事態を簡潔に説明した。

『そんなら、教頭さんと相談しますわ』

 気のない主査の答え。凡才教頭の暗い顔が浮かんだ。

「女の先生二人じゃ無理でしょ。消防署に電話しますわ」

 学校の対応の悪さに業を煮やしたボスが携帯を出した。

「ちょっと待ってください。なんとかしますから」

 そう言うと、乙女先生は空手の構えになった。

「ちょ、ちょっと先生……」

 ご近所さんたちが一斉に身を引いた。乙女先生は空手三段ではある。

 が、久しく使っていない。

――岸和田でダンジリ引き回してんねんや。これくらいのもん……と、思いつつもこめかみから汗が伝い落ちた。

 キエーーーーーーーー!!

 バキッ

 横綱の太ももほどの幹が二つに割れた。

「ヒエー……」

 アウェーな観衆から、驚きの声が上がった。伝い落ちる乙女先生の汗は脂汗になった。
 桜の幹は二つになっただけだが、自分の右手の骨はバラバラになった気がした……。

「先生、あとは任せてください!」

 技師の立川さんが、リヤカーにチェ-ンソーを載せてやってきた。

「やあ、青春高校にしては対応ええね」
「ええ気合いやったわ」
「モモレンジャーみたいやった!」

 ご近所が姦しくなってきた。

「先生ら、あんまり見かけへん顔やけど、転勤してきた人ら?」

 ボスがトドメの質問。

「あ、はい。今日赴任してきました。わたしが天野真美、こちらが佐藤乙女先生。で、こちらが技師の立川談吾さんです」

 真美ちゃんが元気に答えた。立川さんは手際よく、桜の幹を解体していった。

 乙女先生は小枝を拾うふりをして、石垣の下の側溝を流れる水で手を冷やした。ご近所さんたちも好感をもって手伝ってくれだしたので、痛みを気取られることはなかった。


「いやあ、お世話になりました」

 校長は自ら紅茶を入れながら、乙女先生をねぎらった。


 真美ちゃんは新任研修。立川さんは「職務上、当然のことですから」と、この場にはいない。乙女先生も好きこのんでブリトラにつき合う気は無かったが、こう見えても職場の人間関係には気を遣うほうなのだ。

 校長は本格的に紅茶を入れている。ティーポットに三杯の紅茶の葉を入れた。

「ワン、フォー、ユー。ワン、フォー、ミィー。アンド、ワン、フォー、ザポットですね」
「ほう、お詳しい。さっきの桜の件といい、かなり学校のありようにもいい勘をなさっておられるようですね」
「年相応の程度です」
「こんな言い方をしてはいけないんでしょうが、佐藤先生はお歳より、ずっと若く見えますね」
「わたし、若い頃から老けて見られたんです。二十歳で三十くらいに見られて、で、ずっとそのまんま。どこか抜けてるんでしょうね」
「いやいや、うちの家内なんか子どもを生んだとたんに大変身でしたよ」
「女って、そういうもんです。大変身は勲章ですよ」
「佐藤先生は?」
「亭主はいますが、子どもは……個人情報ってことで」
「ああ、これは申し訳ない」

 乙女先生は、亭主の娘である茜のことが頭をよぎった。しかし仕事中なので、すぐに頭を切り換えた。

「この学校は、人間関係がむつかしい……」
「そのようですね」
「わたしは、いわゆる民間校長です。元は銀行に勤めていましたが、思うところがあって応募したんです。さ、どうぞ」
「ダージリンですね……」

 乙女先生は、香りを楽しんだ後、用意されたミルクも砂糖も入れずに口に含んだ。

「ストレートでいかれるとは、紅茶にも通じておられるようだ」
「学生のころ紅茶屋さんでバイトしてたんで、ほんの入り口だけですけど」
「この学校も、やっと入り口です。統廃合から四年目、そろそろ中味を変えませんとね」
「総合選択制では、むつかしいですね」
「ま、鋭意努力中です。今年から、文理特推の教科を増やしました。良い結果が出ると確信しています。あとは……」

「校内のチームワーク、ヒュマンリレーションの問題ですね」

「いかにも。佐藤先生は、そのへんの平衡感覚も良いとお見受けいたしました」
「買いかぶりですよ。以前おった学校ではいろいろ……やらかしてきましたから」
「だいたいのところは承知しております。で、前任校の校長さんに無理を言って来て頂いたんです」
「あとは、ご近所との関係ですね。あまり良くないことは桜の一件でも、よう分かりましたから」
「地区の交流には、気を付けてはいるんですがね。先生方のご協力が、もう少し頂ければ」
「先生、この地区の一番の神社は、どこですか?」
「神社?」

 というわけで、乙女先生はこの地の鎮守伊邪那美(イザナミ)神社の鳥居の前に立っている。

 桜事件から三日がたっていた。

 乙女先生は岸和田の出身。だんじりで有名な岸城神社が、地元の要であることをよく分かっている。青春高校のある地区は旧集落と、新興住宅地に分かれているが、全体への影響力という点では旧集落の地区との繋がりが第一。

 で、その要である伊邪那美神社に御神酒(おみき)と玉串料を持ってやってきたのである。

 地元の人たちの心を掴むため、ほんの第一歩であるつもりであった。

 しかし、乙女先生は、ここで本物の神さまに出会うことになる……とは、夢にも思わなかった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・3『桜の枝』

2022-04-02 05:05:48 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

3『桜の枝』    

              

 


 職会のあと、社会科の教官室に行った。教科主任の前田から六人の同僚を紹介された。

―― まあ、この人達となら、なんとか波風立てずにやっていけそう ――

 乙女先生は、そう感想を持った。次に受け持ちの教科の方が気になった。

「日本史A」これは普通。しかし、「映画から見た世界都市」には驚いた。この希望ヶ丘青春高校は総合学科の学校であるので、社会科以外の教科も覚悟はしてきたが「映画から見た世界都市」。これはまるで、映画か観光の専門学校の科目である。新転任者に教科を選ぶ権限などない。取りあえずはアテガイブチと納得。

 職員室は管理職のお達しであろう、みんなの机の上は、昔の学校のように雑然とはしておらず。パソコンと小さな本立てのようなものがあるだけで、民間会社のオフィスを思わせたが、教官室は……地震のあとをとりあえず片づけました。と言う感じ。

 各自の机の上は、カラーボックスや本立てが二階建てや三階建てに。それだけで机の上1/3は占められ、残った2/3の半分も、うず高く、書類やプリントの山になっている。まあ、社会科の教師の机とはこんなものであるが、ここの乱雑さには、少しすさんだものを感じた。すさみようは六人の教師で微妙な差があったが、互いに干渉しないでおこうという、社会科独特の相互不干渉主義が生きているようで、取りあえず安心。

 社会科というのは、数ある教科の中で、最も個人の政治・社会に対する主観が出やすく、教授内容の統一などはとても出来るものではない。で、たいていの学校で社会(地歴公民などという長ったらしい名前は、現場では、まず使わない。会議などで教科予算などの利害が絡むときは別)の教師は個人商店のようなものである。乙女先生といっしょに日本史Aを担当する東野も、「よろしく」とだけしか言わなかった。

「じゃ、わたし、一年の生指主担やりますんで、ホームベースは生指の部屋に置きますので」
「でしょうね、あとで、教科の歓送迎会の日取りの打ち合わせだけ確認させていただきます」

 主任の前田の声を、聞いたとき、各分掌の会議が始まる放送が入った。

―― ああ、このせいか ――

 乙女先生は、生指の部屋に入ったとたんに理解した。

 生指部員のだれもが、部長の梅田と微妙な距離をとって座っているのだ。

 どうやら梅田は、部長として浮いている様子である。十二人の部員が揃って、学年当初の生指のスケジュ-ルを確認している間も、だれも梅田の顔を見ようとはしない。血の巡りのいい生指なら、学年の主担同士の情報交換や、最低でも挨拶があってしかるべきなのだが、それも「職会でやりましたから」の梅田の一言で省略された。連休前までのスケジュ-ルが確認されたところで、生指の電話が鳴った。

「はい、生活指導です」

 電話をとったのは、三年の生指主担の山本であった。

 あやうく電話で言い争いになるところであった。

「それは、生活指導の仕事ではありませんので、係りのものに繋ぎます」

 山本は、電話相手の話が終わるやいなや、そう答えた。応対の内容から、学校外部からのクレームであることはすぐに分かった。で、今の山本の一言で、相手の頭の線が切れたであろうことも、乙女先生には容易に想像できた。山本が、相手が再び喋り始めたとき、有無を言わせず内線電話を切り替えようとした。

「ちょっとかして」

 乙女先生は山本から受話器をふんだくった。

「はい、お電話代わりました。生活指導部の佐藤でございます……」

 相手は、すでに頭にきていた。生指に繋がるまで、いささか待たされ、そのあげくが山本の木で鼻を括ったような応対で線が切れたことは明らかであった。

 乙女先生は、丁重に電話の主に詫び、すぐに技術員室へ向かった。その背中を見送る生指部員の目は冷たかった。

「すんません。ノコギリと、ホウキと大きいゴミ袋三枚ほどお願いします」
「なんに使いはりまんねん?」

 技師のボスらしきオッサンがウロンゲに乙女先生に聞いた。乙女先生は簡単に事情を説明して、必要なものを受け取った。

――最初は、このオッサンのとこに電話があったはずやろ。と、思った。しかし転勤初日。イザコザは避けようと思った。

 玄関まで行くと、真美ちゃんが所在なげに立っている。

「乙女先生、何か仕事ですか?」
「ちょっとね」
「わたしも、いっしょに行きます。新任指導は午後からなんで、ヒマなんです」
「いいわよ」

 乙女先生のにこやかな返事は、真美ちゃんには逆の意味にとられたようで、正門に向かう乙女先生の後を、おニューのパンプスの足音が追いかけてきた。

 どうやら、道を逆に回ってしまったようだ。切り通しの石垣にぶつかって、回れ右をして再び正門前に戻り、学校の外周を時計回りにそって歩いた。東の角を曲がると、それがドデンと転がり、数名のオッサンとオバハンが待ちかまえていた。

 ドデンと転がっていたのは、学校の校庭から、折れて道に落ちた桜の枝だった。

 ただし、それは枝などというカワユゲなものではなく。幹と言ったほうがいいシロモノで。四メートルほどの生活道路を完全に塞いでいた。

 で、その桜の向こうで軽自動車が立ち往生していた。

 軽自動車のフロントグリルは、なんだか怒った小型犬のように見えた……。
 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする