大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・299『弥次喜多みたいな』

2022-04-17 16:40:16 | ノベル

・299

『弥次喜多みたいな』頼子 

 

 

 玄関の前を通りかかったら大きな声がした。

「ちょっと、そこの一年生!」

 声で分かった。長瀬先生が一年生を叱ってる。

 なにごとにも白黒のハッキリした先生で、いけないことをした生徒に容赦がない。

 で、玄関のガラス越しに見ていると……なんと、叱られているのは、我が愛しき後輩二人。

「なにやらかしたんだろうね?」

 わたしの疑問を無視して、ソフィーは周囲を見渡す。

「ヨリッチ、次は、真理愛館よ」

「え、なにが?」

「あの二人の行き先よ」

「そなの?」

「うん」

 ソフィーは、校内では友だち言葉だ。どうかするとタメ口ったりする。呼び方も『殿下』じゃなくて『ヨリッチ』だしね。

「あれ、ちがうよ」

 二人は、真理愛館のある外ではなくて二階への階段を上がっていく。

「だいじょうぶ、先回りしてやろう」

 自信満々に言うので、図書館として使われている真理愛館へ。

「ちょっとだけ代わってくれる? 昼休みいっぱいは座ってるから」

 カウンターに行くと、図書当番の三年生に声を掛けるソフィー。

「え、いいの? ソフィー当番じゃないでしょ?」

「うん、大丈夫」

「よかった、職員室に用事があったから助かる」

「どうぞどうぞ。ヨリッチは目立たないところで見てて、もう三十秒もしたら、やってくるから」

「うん」

 ソフィーは、ササッと手櫛で髪の分け方を変えると懐からメガネを取り出した。

 わたしが二階の書架の陰にまわると同時に二人が入ってきた。

―― キョロキョロしちゃってぇ、初々しいなあ ――

 どこかで見た印象……思いついて吹き出しそうになる。

 小学生の頃読んだ『東海道中膝栗毛』の弥次さん喜多さんが、初めて奈良の大仏を見た時の様子に似ている。

 目を輝かせてキョロキョロしちゃって、とっても可愛いぞ(^0^;)。

「あのう、本は、いつから借りられるんですか?」

 留美ちゃんがカウンターのソフィーに質問した!

「あ、一年生ですね。来週には図書館のガイダンスがあるから、それ以降になります」

 シラっと応えるソフィー。

「蔵書数は、いくらくらいなんですか?」

 え、気づいてない?

「えと、ちょっと待ってね……」

 司書室に入って笑いをこらえるソフィー。

 でも、それは一瞬の事で、なにやら司書の先生と会話すると、またポーカーフェイスで戻ってきた。

「開架図書が15000、閉架図書が20000冊だそうですよ」

「「35000冊(꒪ȏ꒪)!!」」

「あ、声大きいよ」

「「すみません」」

 目を丸くすると、外したメガネを拭いているソフィーにも気づかずに、外に出ていく二人。

 さすがに、真理愛館に居る間は我慢したけど、予鈴が鳴って外に出て、二人で思い切り笑ってしまった。

 こっそり校舎の陰から窺うと、二人は高山右近と細川ガラシャの像の前で盛り上がってる。

 

「ハアー……さくらはまんまだけど、留美ちゃんは変わったわねえ……」

 ソフィーが感慨深そうにため息をつくと、わたしもつられてため息になる。

「そうだね……」

「ヨリッチ、寂しいの?」

「そんなことない! です!」

 昔のソフィーの口調で返してやったけど、女王陛下の諜報部員である、我がガードは、シレっと「さあ、鐘がなるわよ」と指を立てる。

 すると、ソフィーが魔法をかけたように五時間目のチャイムが鳴ったのであった(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード

 

 

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魔法少女マヂカ・268『帰ってきたブリンダはエコノミー症候群よりひどかった』

2022-04-17 10:26:13 | 小説

魔法少女マヂカ・268

『帰ってきたブリンダはエコノミー症候群よりひどかった

語り手:マヂカ  

 

 

 風の便りだ。

 

 突然帰ってきた訳を聞くと、ブリンダは魔法少女のローブを脱ぎながら返事した。

「ちょっと、わたし風呂上りなのよ。埃が立つじゃない!」

「すまん、風の精霊たちにもみくちゃにされながら帰ってきたんで、あちこち痛いんだ。ちょっと、揉んでくれ。揉まれながら話してやる」

「もう!」

 ペシ!

「尻を叩くな、ただでも痺れてるんだ……イタタタタ……」

「で、風がどうしたって?」

「日本が大変だってな……震災の弱みに付け込んで進入してきた霊魔、それは日本の魔法少女が水際でやっつけた……マヂカたちの働きだろうと、オレも嬉しかったんだがな」

「やっぱり、魔界の噂は早いねえ」

「ところがだ『霊魔がやっつけられたというのに、なんで、お前たちは逃げてきてるんだ?』と聞いてやった。そうだろ、日本が落ち着いているなら、ジェット気流に乗ってアメリカまで逃げてくる必要はないもんな……すまん、太ももとふくらはぎ揉み解してくれ……あと、腰もな……ジェット気流はエコノミークラスよりもひどくてな……すると、口をそろえて『時空を超えて悪い奴が来る!』って言うんだ……今度ばかりは魔法少女に勝ち目はないって……それで、ディズニーのことも粗々に済んだことだし、思い切って、竜巻の精霊に頼んでジェット気流に乗せてもらったんだ。大西洋を越え、ユーラシア大陸を渡り、日本海に差し掛かって日本が見えてくると、ジェット気流は大きく蛇行して日本列島を避けていくではないか! これでは、日本に戻れず、グルグルと地球を周るばかりだ! で、思い切って樺太の上空で飛び降りて、あとは飛行石の力でなんとか……」

 グギ!

「ヒッ(⁽⁽ ⁰ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ⁰ ⁾⁾)!」

「わたしの飛行石は……?」

「す、すまん……」

 ブリンダが取り出した飛行石は、星砂のように小さくなってしまっていて、ベッドの上を転がると、ブリンダの鼻息で儚く飛んで行ってしまった。

 

 なんで走らなきゃならないのおおおお!

 

 あくる日、クロ巫女から連絡があった――霊魔が現れました――と。

 連絡してきたということは、暗に――加勢しに来い――ということだ。

 だいたい――これからは自分たちでやる!――と、わざわざ言いに来るのは――手助けに来い――ということだろうとは、思っていた。

 連絡の式神には地図まで持たせていたし、それも、令和の時代のグーグルアースの仕様だから、これは、もう、大至急ということなのよ。

 で、寝起きのブリンダとJS西郷と詰子を引き連れて現場まで走っている。ノンコと霧子は松本運転手のパッカードに乗せてもらって後を付いてくる。箕作巡査がフォードで追いかけてくれるのは心温まるんだけど、肝心の行き先がね……。

 どうして富士山頂なのよおおおお!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・20『栞のイマジネーション』

2022-04-17 06:22:19 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

20『栞のイマジネーション』 

   

 


 予想通り新子の『栞のビビットブログ』は炎上した。

 見出しがふるっている。ブログ名の下に《希望ヶ丘しい! 青春高校》と、一見意味不明だが――希望がおかしい――ともじってあって、栞が疑問に思った学校のカリキュラムが全て載っていた。

 単元毎の授業内容がコンパクトにまとめられている。一見して総花的な、良く言えば「浅く広く」 栞の言葉では、体系のない「その場しのぎ」の授業内容がよく分かる。

 また、教師が、この準備のためにどれだけ時間を取られているかにも触れてあり、生徒も教師も、総合的に無駄なことに時間と労力が取られていることもよく分かる。コメントは、あえて管理者の承認を外してあるので、生の反応がそのまま返ってきていた。

 おおむね「賛成」が2/3、「反対」が1/3というところである。気になるのは、「あなたのお陰で、学校は晒し者です」「評判落とした責任取れ!」という、明らかに学校関係者のものがあることである。

「あんたねえ、うちら三年のこと考えてへんやろ。進路にどれだけ影響ある思てるのん!」
「そうや、あんたみたいな気楽な二年生とはちゃうねんからね!」

 駅前で栞が三年生の女子に絡まれている。

 駅前の登校指導に出ていた乙女先生と真美ちゃん先生が、これに出くわした。

「……止めんと、あかんのんちゃいます?」
「もうちょっと様子みてからね……こら、そこの一年、団子になって歩くんやない! 自転車は一列で行け!」

 本務のほうに忙しい。

「大学は、推薦の場合、調査書と、面接が基本。一般入試は、センター試験と大学の入試で決まります。不安にさせたのは、謝ります。でも、わたしの主張に問題がないのはブログでも、You Tubeでも分かります。できたら、それに沿って理性的に話してください。うさばらしなら、なんでも書き込みしてください。事前承認とかの検閲はやってませんし、匿名も大歓迎です。これ以上は通行の妨げになります。本日、放課後、中庭で、お待ちしています。話のある人は来てください。じゃ、失礼します」

 栞はスタスタと行ってしまった。

「な、様子見て正解やろ。あとはウチやるさかい、真美ちゃん生指にもどっといて。今日は栞のことで、まだまだ、起こると思うよってに……ほら、そこの三年、いつまで溜まっとんねん。便秘になるぞ!」

 生指に戻ると、案の定だった。

「こういうことは、予測できたはずです。なんで立ち番を立てるとかして、学校の姿勢を示さないんですか!」

 謹慎中の梅田に代わり、首席の桑田が栞に詰め寄られていた。部長の机の上には、嫌がらせらしいメモなどが、小さな段ボール箱に一杯になっていた。

「原因は自分にもあるとは思わへんのんか?」
「思いません。わたしは三ヵ月も中谷先生を通じて申し入れをしてきました」
「中谷先生だけやろ」
「それが、意見具申の正規のルートでルールだからです。桑田先生、中谷先生とは背中合わせですね。申し入れしたときは三回とも席にいらっしゃいました。ご存じなかったんですか」
「知らん」
「パソコンで、トランプゲームやってらっしゃいましたよね」
「アホぬかせ」
「三回目に、思いあまって写真に撮って、偶然ですが、先生のパソコンの画面も写りこんでいます。職務専念上問題があると思われますが。また、首席という立場にありながら、直接わたしから聞いていないということで、白を切るのは問題ありませんか?」
「手島……!」
「ご注意しておきますが、ここに入室してからの発言は、全て録音してあります」

――録音をやめなさい――

 桑田は、メモに書いて示した。栞はシャ-ペンを取りだしノックした。

「これ、シャーペン型のデジカメです。日時こみで記録させていただきました」

 桑田の顔が、赤黒くなった。

「申し入れについては、善処する」
「善処とは?」
「関係教職員で協議の上、対応するということです!」
「いささか遅きには失しますが、了解します。失礼しました」

 栞は、さっそうと生指の部屋を出ていった。

「下足室は、出水先生に二十分間見てもらって、嫌がらせのメモを入れた生徒は記録してもろてます」
「そんな話は……」
「夕べしました。人の話はちゃんと聞こうね、桑田クン……記録は、公表しません。情報管理にも問題無いとはいえへんようやし。ほんなら、一年のオリエンテーションに行ってきます」

 放課後、十名ほどの、主に三年生の生徒が、栞を取り巻いた。

「いま、何時だと思ってるんですか!?」
「なんやて?」
「いえ、先輩のみなさんを責めてるんじゃないんです。ただ今四時四十分。もう時間が押しているんで始めさせていただきますが、ほんとうは、ここに来るつもりだったのに来られない方もいらっしゃると思います」
「せや、リノッチら来たがってたけど、進路説明あるさかいな」
「変だと思いませんか、希望、自主、独立が我が校の校是です。こんな放課後の時間、極端に短く、また、定見のない指導で時間をとられ、この憎き手島栞にも会いにこられないのは、おかしいと思われませんか?」
「そら、たまたま……」
「たまたまなんでしょうか。去年一年、わたしは演劇部にいました。ろくに稽古時間もとれず、予選敗退でした。で、今は部員は、わたし一人です。なぜでしょう。つまらない総合の授業に縛られ、縦割りの指導を受け、二年生の場合、放課後の1/3、三年生は2/3が食われてしまいます」
「そら、分からんことないけど、三年は進路かかってるさかいなあ」

「これを、見てください」
「ん?」

「演劇部の三年生が、どんなことで放課後の時間が取られたかということの一覧です」

 エクセルを使って。見事な一覧にしたものを皆に配った。栞は出席者を見込んでいたのだろうか、手許には自分の分しか残っていなかった。

「全部について分析しているヒマはありません。面接指導、論文指導に注目してください。面接指導は、文字通りの面接の練習と、進路先決定のための面接に別れます。実に三年生は、これに半分以上が取られています。他に各種行事や、そのための委員会とダブルブッキングしているものもあります」
「……ほんまや」
「で、言うもはばかられますが、面接指導のA先生、集会でのお話、いかがですか? くどくて長いだけで、中身が生徒に伝わりません。論文指導のB先生、定期考査で問題の論旨が分からないと苦情が出たことがあります……」

 栞の演説は30分の間に簡潔にまとめられていた。資料を配ったこと、主張することに統計資料の裏付けがあること、挙げる例が的確、かつ典型的で説得力があることで、十名の抗議者を賛同者に変えてしまった。

 蘇鉄の陰から聞いていて、乙女先生は感心した。

「あの子の演説は勉強になるなあ」
「ほんとですね。先生みたい!」

 本物の教師でありながら、成り立ての真美ちゃん先生は正直に感心した。

 そして、栞の話を、それと知られずに聞いていた一年生が一人いた……。 

 

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