大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・328『飛んでイスタンブール』

2022-08-05 10:54:46 | ノベル

・328

『飛んでイスタンブール』さくら   

 

 

 イスタンブールの在トルコヤマセンブルグ大使館の朝です。

 

 ダイニングの窓から入って来る日差しはレースのカーテンでろ過されているとは言え、あっぱれ真夏の日差しです。

 せやけど、日本製のエアコンが効いてるので三日目になる旅行で痺れてる脳みそを、ほどよくアイドリングにしてくれてます。

 

 昨日は、タイのバンコクからインドのニューデリーはインディラ・ガンジー空港まで飛んで給油。

 インディラ・ガンジー空港では飛行機から下りることも無く、そのままイスタンブール向けて飛び立った。

 インドを真ん中に据えたアジア大陸の南を一気に飛び越えるというか、かすめるというか。

 プロペラ機はジェット機と違って低いとこを飛んでることもあって、地上の事がよう見える。

「バングラディシュ、インド、パキスタン……別々の国だけど、ほんとは一つの国になるはずだったんだよ」

 右の窓から見えるインド亜大陸を見ながら頼子さん。

「みんなイギリスの植民地だったけど、ガンジーはまとめて一つの国として独立させようと思ったんだけどね……」

「ガンジーって、暗殺されたんですよね」

 メグリンが食いついてくる。

「うん、そのせいもあって、まとまって独立はできなかった」

「宗教が違うのよね、ヒンズー教とイスラム教。スリランカは仏教だし」

 詩(ことは)ちゃんの補足で、うちの脳みそでも、ぼんやりとイメージが湧いてくる。

「ヒンズーのインド、イスラムのパキスタンとバングラディシュ、仏教のスリランカに分かれたんですよね」

 留美ちゃんの理解は、うちの二歩先をいってるし(^_^;)

「バングラディシュは東パキスタンと言って、パキスタンの一部だったんですよ」

 メグさんがモニターに地図を出して、ダメ押しの説明。

「西パキスタンとの格差が大きすぎたんで、五十何年か前に独立したんです」

「かくも、国とか国境とかは移ろいやすいものだ……って、締めくくりになるのよね」

 なんか、頼子さんがまとめに入った。

「そうです、国家というものは、実は不確かで頼りないところがあるものなのです」

 まとめた紐を、また解いていくメグさん。

「国家には求心力が必要なのです。求心力の無い国は容易くバラバラになって、バラバラになると国民は割を食って、大変な苦労をします。周辺の国にも大変な迷惑がかかります」

「それゆえに、国際社会の一員としての国家と、求心力である王室の重要性に思いをいたし、王族であることの自覚を持たなければならない」

「そうです、殿下」

「なんか、メグさん、サッチャーさんに見えてきたわよ」

「え……!?」

 さすがのメグさんもサッチャーさんみたいと言われると息を呑まはります。

 サッチャーさんの元祖は鉄の女と言われた、イギリスの女性総理大臣。

 アルゼンチンの軍事政権に売られたケンカを正面から買って出て、フォークランド紛争の勝利を勝ち取ったオバチャン。

 以来、イギリスにケンカを売る国は、21世紀の今日になってもありません。

 勉強からきしのうちが、なんでサッチャーさんについては詳しいかというと、サッチャーいうあだ名のメイド長で女王陛下の秘書も兼ねてるという、すごいオバハンが居てるというか、今度の旅行でも、ぜったい絡んでくるからやさかいです。

 コクピットで攻〇機動隊の草〇素子みたいにかっこよく副操縦士をやってるソフィーでも頭の上がらんオバハン。

 本名は……あかん、思い出したら、ぜったい祟られる(;'∀')。

「でも、バングラディシュって、国旗が日の丸なんですよね」

 メグリンが指を立てる。

 モニターの地図には、すかさず各国の国旗が現れる。メグさんも行き届いてる。

「そうです、建国に当っては日本をリスペクトして、緑地の日の丸にしたんです。それも敬意を払って、日の丸の位置を少しだけ左にずらしてあります。他にもパラオ共和国が独立に当って国旗をライトブルーにイエローの日の丸にしました……」

 ええと……ご節ごもっともやねんけど、頼子さん寝たフリしてるし。

 頼子さんは、なにかにつけて、こういうレクチャーされてるんやろねえ。

 まあ、その後は、そういう通過する国の食べ物の話になって、機内食にもインドのナンとかカレーとかが出てきて旅の雰囲気は盛り上がった。

 

 バタン

 

 そんなことを思い出してると、ダイニングのドアが、ちょっと乱暴に開いて軍服のソフィーが入ってきて、頼子さんに耳打ち。

 いっしゅんビックリした頼子さんやったけど、一言二言やりとりすると、中学の時にイタズラ思いついた時みたいな顔して、うちらに宣告した。

「みんな聞いて、イスタンブールからはオリエント急行で行くわよ!」

 有無を言わせんドヤ顔で、その貫録は王女を通り越して女王陛下の貫録やった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・077『貝殻の時計』

2022-08-05 06:46:55 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

077『貝殻の時計』   

 

 

 
 気が付くとクロノスの時計店に戻っていた。

 
 狭い店内にはショーケースや壁や天井にまでびっしりと時計が置かれたり掛けられたり、ただでさえ狭いフロアは畳一畳分ほどしかお客のスペースがない。

 そのフロアに出発した時同様に丸椅子に掛けている。

「まあ、初めてだから仕方がないか……」

 クロノスは、わたしの顔も見ないで時計に手をかざした……あれはミッドウェーに転送される直前に見ていた時計だ。

「えい」

 クロノスが小さな掛け声をかけると、その時計は微細なポリゴンのようになって消えてしまった。

「消してしまうのか?」

「滅びた世界だからね……時計自体はスマホのアイコンみたいなものだ。残していても紛らわしいだけさ」

「さて、次は……」

 クロノスは少し視線を彷徨わせて、入り口近くの貝殻の形をした時計を指さした。

「今度は、わたしも付いていくからね」

 
 貝殻時計の文字盤が白く光り、瞬くうちに広がったかと思うと、わたしを包んでしまう。

 フッと立ち眩みに似た浮遊感に襲われた……。

 
 土手道を歩いている。

 少し前を植木職人のようなナリをしたクロノスが歩いている。

 土手道はクロノスと歩いている他に並行して、もう一本高い土手道が走っていて、背の高い方は前方の雑木林の所で曲がっていて、先が見通せない。

「ここは……」

 どこかと訊ねようとしたら、並んで伸びているもう一つの土手が鳴りだした。

 カタン カタン カタン カタン カタン カタン カタン カタン

 なんだか、時計の化け物でも現れそうな気配だ。

「そんなもんじゃない……」

 クロノスの視線を追うと、カタンカタンの音が急速に大きくなってきて、雑木林の横から華奢な蒸気機関車が現れた。

 ポーーーーーーーーーー

 華奢な割には盛大な煙を吐きながら近づいて来て、わたしの前を走っていく。

 石炭の臭いが鼻につき、豪快な風を巻き起こし、八両ほどの客車を牽引して走り去っていく。

「下りの横浜行きさ、もう四十分もすれば上りがやってくる」

「明治時代……か?」

「明治十年かな、西南戦争が終わったころさ……さ、こっちだよ」

 鉄道の土手に気をとられていると、クロノスの声が下から聞こえる。少し手前が下り口になっていて、クロノスはもう下りていたのだ。

 下りていくと『ここより大森村』の道標があって、村の手前にある屋敷の門を潜った。

「この屋敷でなにかあるのか?」

「大したことじゃないよ……」

 屋敷の中に入るのかと思ったら玄関を前にして、横の庭の方へ周って行く。

 庭には農機具の小屋や大八車や名前の分からない農機具が置いてあるほかに、ちょっとした庭園になっていて、そこそこの大百姓の屋敷であるように思われた。

「感じのいい庭だな」

 振り向くと、クロノスは一休みした植木屋の爺さんという風情で庭石に腰掛けてキセルをふかしている。

「ここからが仕事だ」

「なにをするんだ?」

「行水をしてもらう」

「え?」

「そこの盥で行水をしてもらう」

 それだけ言うと、クロノスは蚊やり豚のようにポカっと煙を吐き出した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・25『先輩にキャンセルのメールをしたワケ』

2022-08-05 06:31:10 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

25先輩にキャンセルのメールをしたワケ 



 調子に乗ってしまったよ。

 学年末テストが終わって気が弛んだと言うのか膨らんだと言うのかねえ……。

 サブカルチャー研究会というのは我ながらいいアイデアだったと思ってる。そのことに間違いはないよ。


 いまや世界に冠たるアニメもマンガ映画と呼ばれていたころは三級以下の文化だったらしい。

 マンガそのものも長い間差別されていたんだよ、信じらんないけど。

 マンガみたいだ。という言い方は「低級だ」「お笑い草だ」「品が無い」「子どもっぽい」「子供だまし」「いつか卒業するもの」などというマイナスのイメージしかなかった。

 だけど、いつの時代からかアニメと言われるようになると評価が変わってきた。

 わざわざ大人が時間を潰して映画館に行ったり本屋さんに並んだりするものなんだ。真面目な顔して評論もするしね。お金的に言っても文学やら普通の映画を抜いてガンガン稼いでいるしね。

『君の名は』とか空前の大ヒットで、SFとしても青春物語としても伝奇物としても大成功の記念碑的アニメ。デリケートでファンタジーな世界は世界中で支持を得ている。調べまくったわけじゃないけど、村上春樹さんの『騎士団長殺し』よりもファンは多いし理解もされてるんじゃないかなあ。あ、『騎士団長殺し』はお父さんが買ってた。「どんな話なの?」って聞いてみて、いちおう説明してくれるんだけど、イミフ。たぶん、お父さんも分かってないと思う。

『騎士団長殺し』はざっと150万部 『君の名は』観客動員は1000万人超えなんだそうだよ。

 もう勝負あったって感じだと思うんですけどね。

『騎士団長半殺し』てな本は出てこないけど、『君の名を』てなエロゲはちゃんと出てるもんね。

 まだアズサルートしかやってないけど、すっごく感動したもんね!

 あけすけに言えばパロディーってか便乗なんだろうけど、それでも、すっごく人を感動させる作品に仕上がってる。

 エロゲってのは万人にお勧めできるもんじゃないけど、エロゲが秘めているパッションとかエモーションとかは注目していいんじゃないかなあ。『冬のソナタ』の監督は日本のエロゲが好きだとかネットで出てたよ。冬ソナ自身、某エロゲと似てるらしい。同じアイデア、似たプロットで、一部のファンは冬ソナはパクリなんじゃないかって言う人もいるけど、優れたものは自然に似てくるて言うしね。そういうとこ掘り下げるてか、好きな者同士で話ができたらなあって思う。
 
 もちろん、学校で「エロゲ研究会」なんてできるわけがない。

 だから考えたってか閃いたんだ(^_^;)。

『サブカルチャー研究会』 

 別にごまかしてるんじゃないわよ。

 エロゲってのは二次元カルチャーの核になると思うんだよね。じっさいエロゲから良質なノベルとかゲームを派生せている。

『あいてつ』とか『この青空に翼を広げて』とか『インハート』とかのゲームやアニメは元々エロゲだったんだもんね。

 それでサブカルチャー研究会を立ち上げることにした。

 ペンタブとパソコンでチラシをこさえて後期選抜の合格発表で撒くことにしたんだ。

 合格発表には、オメガ先輩がきれいな女の人……と思ったら従姉の小松さんと来ていた。離れたところに小菊ちゃんがいたので、小菊ちゃんがうちの学校を受けたんだと分かる。小菊ちゃんの合格発表には一悶着あったんだけど、主題はそこじゃない。

 落ちた子にチラシを渡すわけにはいかないので、午後の合格者説明会で撒くことになっている。

 で、これがちっとも受け取ってもらえない。

「サブカルチャー研究会でーす!」

 精一杯の笑顔でなけなしの情熱籠めて差し出すんだけど、受け取ってもらえたのは二三人。

 いっしょに勧誘していた軽音やダンス部なんかは早々と入部希望者が名乗り出ている。

 サブカルチャーってマイナーすぎたのかなあ……と思ったけど、どうやら違う。

 チラシを渡そうとして合格の子たちの顔を見ると目をそらされる。中には露骨にビックリしているような子も居て、正直メゲた。

 ここのとこオメガ先輩といっしょのことが多くて、で、オメガ先輩は普通に接してくれるので思い違いをしてしまったんだ。

 あたしのΣ顔は、やっぱ人に避けられる。そのことを思い知った合格発表だった。

 担任の堂本先生が合格発表の担当で、とうぜんビラまきの最中に目が合った。

――世の中甘くないんだぜ――

 口にはしないけど、そんな目であたしを見る。

 凹みまくって先輩にメールした。会って話を聞いてもらいたかった。

――よし、わかった――

 たった七文字だけど気持ちの籠った返事が返って来た。

 でも、土壇場でキャンセルのメールを打たざるを得なかった。

 だってね……

 なんの前触れもなくハワイのお祖母ちゃんがやってきたんだもん(;'∀')!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする