大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・287『八丈島沖空中戦・3』

2022-08-29 10:05:41 | 小説

魔法少女マヂカ・287

『八丈島沖空中戦・3語り手:マヂカ 

 

 

 定遠・鎮遠の船霊は中国どころかアジア系でもない。ブリンダやサム同様の欧米系だ。

「そうか……思い出した、あの二人はドイツ製だったんだ」

 孫悟嬢の呟きで思い出した。

 日清戦争の頃の中国艦艇はことごとく欧米製だ。

 かくいう日本も第一次大戦後に戦艦扶桑ができるまで、主力艦の大半は英国製だった。

 だったが、日本は輸入した艦艇にさまざまに手を加え、性能も姿形も日本の軍艦に変えていった。

 最後の輸入戦艦であった金剛は、終戦直後の呉港で見た時は、並んで擱座していた純国産の伊勢・日向と比べても遜色がないほどの日本美人だった。

 定遠・鎮遠の佇まいに中華を偲ばせるものは、艦首両舷に取り付けられた龍の彫り物ぐらいでしかない。

 人の姿になった定遠・鎮遠は頭にティアラを付けていて、そこに兜の飾りのように小さな龍が付いていることが、中国艦であった名残……いや、鎮遠の方は、戦闘で失われたのか、その龍さえ付いていない。

 

「おのれ、劣等魔法少女め……かくなる上は、この得物で勝負だ!」

 

 シャラン!

 

 意外に無骨なロングソードを抜いた。

 秀逸な容貌、それに相反するように無骨な長剣。

 シャラン

 こちらが実体化させた得物は反りの浅い村正の打ち刀。孫悟嬢は祖父ゆずりの如意棒だ!

 セイ!

 裂ぱくの気合いが揃った。

 ガシ! ゲシ! チュイン! カキーン!

 共に二合打ち合わせた後、再び距離を取り、睨み合いながら八丈島の上空を回った。

「二人とも、これは日本の悪党ファントムと魔法少女の戦いだ。なぜ、中国の船霊が出しゃばる!?」

「そういう、お前こそ孫悟空の孫娘でありながら日本の肩を持つ?」

「質問に質問で返すな!」

「サル女に返す答えなどもっておらん! 尋常に勝負しろ!」

「ムキー! サル女だとぉ!」

 トオオオオ!

 怒りに頬を染め、如意棒を上段に構えて突き進む孫悟嬢。

 横から手出しさせないために、鎮遠に打ちかかって牽制する。

 チュイン! カキーン! ガシ! ゲシ! ガキーン!

 トー! セイ! オリャー!

 ガシガシガシ! ガキーーーン! チュイーーン!

 激しい打ち合いのため、八丈島の海は、嵐のように沸き立って、港を出たフェリーや漁船が、港内に退避し始めている。

 出撃の度に思う。いまだに、人を巻き込んだことはないが、気象庁は、この突発的局地的な嵐をどう説明するんだろうと他人事ながら心配になる。

 ガキーーーン!

「ここらへんにしておこう……」

 防波堤を蹴って打ち込むと、鍔迫り合いの火花を散らせながら鎮遠が囁いた。

「なんだと?」

 不審の眼差しを向けると、剣を下段に構えたままプールの向こう側ほどの距離を置いて唇の形だけで伝えてきた。

―― 戦うのは本意ではない ――

「なんだと?」

―― こんど、ティアラに龍が付いていないことを説明する ――

「鎮遠……」

―― じゃあね ――

 そこまで言うと、数百メートルほども斜め上に飛んで、姉の定遠を横抱きに掴まえて虚空に向かってジャンプした。

「こら、離せ! 鎮遠!」

 瞬間、妹をなじる定遠の罵声の前半分だけが空に残響した。

 チンエーーーン!

 気象庁は、島の東西を吹いていた風が八丈島の山腹にぶつかることによって生じた自然現象であると、苦しい解説をしていた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・49『キャーーーー!!』

2022-08-29 06:39:33 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

49『キャーーーー!!小菊 





 いくつかの原因があると思う。

① あたしの制服がピッタリサイズで、ブカブカサイズが多い一年には見えないこと。お祖父ちゃんが「小さくなったら、またあつらえりゃいいさ。お仕着せ(制服)は粋に着こなさなくっちゃ」と言て、ピッタリのをあつらえてくれたのが裏目に出た。

② 担任の田中先生が頼りない。配布物のことで一言言ったら、それからずっと頼りにされてしまっている。

③ 何の因果か、腐れ童貞の雄一が……いちおうアニキだったりするんだけど、何回も、うちの教室やら講堂やらにやってきてクラスメートの前に顔を晒す。信じらんないけど、あれがイケメンの上級生に見えているらしい。その雄一に対等以上の口の利き方をしている。

④ 出席番号いっこ前の増田さん(ほら、暗くて愛想のない子)が、変になついてきて、なんだかあたしの子分みたくなってきたこと。入学一週間目で子分を従えている一年生なんてありえないし。

 ……そんなこんなで、あたしは、しっかりものの留年生ということになってしまっている!

「だから、今日はあたしが買ってくるから!」

 食堂前で宣言した。

 学食は入学三日目から利用してんだけど、一年生には珍しいのね。増田さんは、教室でお弁当が食べられない子で、あたしにくっ付いてきた。で、券売機の列に並んでると担任の田中先生に放送で呼び出されて「あ、わたしが買っときます」と、増田さん。それ以来一週間、増田さんがパシリみたく券売機に並ぶようになってしまったのよ。で、ますます親分子分みたくなってきたので、今日こそは「あたしが買ってくるから!」になったわけよ。

 そんで、あと三人でランチの食券二枚が買えるところで悲鳴が上がった。

 キャーーーーーー!!

 悲鳴に続いてドヨメキやらザワメキ!

 なんかあったんだ!? 列を離れて駆けつけた。

 増田さんが倒れている。で、抱えた胸のあたりからは湯気立ってラーメンの出汁の匂いがする。傍らにはトレーとぶっちゃけられたラーメン鉢が三つ転がっている。

 あたしは、壁際にあったバケツを掴んで、張ってあった水を増田さんの胸にかけた。

「だれか、もっと水!」

 火傷は、その初期に大量の水を掛けて冷やすことが重要なんだ。でも、こういう時に大勢の人間がいると、誰も動かないもんだ。

「ちょっと、あんた水!」

 直ぐ近くに居た男子に命じる。

「お、おお!」

 返事はよかったけど、こいつはコップの水を持ってくる。

「バカ! もっとたくさん!」

 周囲のバカたちは、次々に水を満たしたコップを持ってくる。

「こんなんじゃ足りないわよ!」

 すると「南」という名札を付けた食堂のオバチャンがホースを持ってきてくれた。

「これでやんな!」

 上着を脱がして、まんべんなく水を掛けてやる。増田さんの目は虚ろになってきた。
 ほんとは上半身裸にして水を掛けてやらなきゃならないんだけど、なんせ食堂の中、それははばかられる。

「救急車、とりあえず保健室に運んだ方がいいよ」

 オバチャンの声をもっともだと思って顔を上げたところに腐れ童貞。

「ちょ、あんた担いで!」
「お、おお」
 
 胸を火傷しているので、兄貴はお姫様抱っこで増田さんを抱えて保健室に走った。

 しっかり者の留年生は、もう確定的になってきてしまった!
 
  

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする