大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・152『チカコを捜す・和歌山のみかん畑』

2022-08-25 11:16:14 | ライトノベルセレクト

やく物語・152

『チカコを捜す・和歌山のみかん畑

 

 

 電話線を伝って和歌山に来ている。

 

 ほら、江戸城の天守台で見たでしょ。

 チカコと家茂さんが寄り添ってお話してるところ。

 家茂さん、忙しくって、めったにチカコと話す機会がないもんだから、頑張らなくっちゃいけないと思っていたよ。

 いろいろ話題を投げかけて、しまいには『千両蜜柑』ていう落語のネタまで持ち出して、やっとチカコを和ませて。

 チカコもブキッチョ。

 家茂さんが投げかけてくる話題を真面目に受け止めるんだけど、受け止めているうちに話題が次に行ってしまって、喜んでいる暇がない。

 家茂さんの話が早いわけじゃない。

 もともとそうなのか、縁切り榎で――楽しむ心――を置いて来てしまったせいか、すぐに反応できないんだ(わたしにも、こう言うところがあって、オヘンコとか感動の薄い奴とか思われる)。

 それで、家茂さんが将軍になる前にお殿様を務めていた紀州の話になって、やっと追いついた。

―― ああ、家茂さんは、紀州の、それもみかん畑が見える風景が好きなんだ ――

 チカコは思った。

 海が臨めるみかん畑。そこに行けば、将軍職でアップアップしている家茂さんではなくて、本当の家茂さんに会えると思った。

 海の見えるみかん畑なら、二人で、いつまでも仲良く心を通い合わせると思ったんだ。

 

 み~かんの花が咲いている~ 思い出の道~ 丘の道~

 

 三回目になると憶えてしまった『みかんの花咲く丘』をリフレイン。

「気に入っていただいたようですね」

「そういうわけじゃないけど、もう百回くらいリフレインしてるしぃ」

 今日は逓信大臣の交換手さんと和歌山に来ている。

 和歌山は神田明神の守備範囲から離れすぎているのでアカミコさんは付いてこれないんだ。

 その交換手さんも電波通信事業法の嫌がらせで携帯に参入できないので、固定電話が通じるとこまでしか行けない。

 みかん農家さんまでは電話線は繋がってるけど、さすがにみかん畑までは伸びていない。

 交換手さんだって、みかん農家さんの家から先には出られないんだけど、お祖父ちゃんが現役時代に使っていた携帯無線機を借りてきた。これだと、携帯無線機の電波が届く範囲まで交換手さんに付いて来てもらえる。

 だから、エッチラオッチラ

 天守台で家茂さんの頭に浮かんだイメージのみかん畑を探索して、これで四つ目。

 

「ごめんなさいね、やくもさん」

「ううん、だって間違ってなかったよ、どのみかんの丘にもチカコの気配が残っていたもの」

 

 そうなんだ、チカコもイメージを追って同じところを周っている。

 それが後手に回って、わたしたちはいま一歩のところで間に合わない。

 だからね、実は、今から向かうのは五つ目のみかん畑。

 一つとばせばピッタリだろうって、聞き耳を立てていた御息所のアドバイスなんだよ。

 

 で、ドンピシャだった。

 

 チカコは、もうお雛さんみたいな親子(ちかこ)の姿もやめて、いつもの黒のゴスロリに戻って佇んでいた。

「チカコ……」

「あ、やくも……交換手さんも来てたんだ」

「今日のわたしは携帯無線機ですけど」

「差し出がましいとは思ったんだけど、チカコは、わたしたちの仲間だからね」

「うん、ありがとう。勝手に出てきてしまったのに、ごめんね二人とも」

「いいよいいよ(^_^;)」

 気の利いた言葉も浮かばないので、両手をパーにしてハタハタと振る。

「あんなにみかん畑のイメージがハッキリしていたから、ぜったい、ここに居ると思ったんだけどね……家茂さん」

「うん、だよね」

「やっぱり、わたしって、親子(ちかこ)の左手首だから、なにか足りないのかなあ、どこか届かないのかなあ……」

「そ、そんなことは無いと思うよ」

「わたしも、そう思いますよ、チカコさん」

「そうなのかなあ……もう自信なくなってきたよ」

「わたしなんか、真岡で果ててしまって、電話線か電話機の中でしか存在できませんけど、こうやって、お二人とお話ができていますもの」

「わたし、一度も家茂さんに寄り添ってあげられなかったから……ずっとほったらかしにしていたから……」

「チカコ……」

 不器用なわたしは名前を呼んでやることしかできない。

 なんか、もどかしい。

「あ、お電話です!」

「え?」

「大阪の俊徳丸さまです、いま、お繋ぎ……」

 そこまで言うと、交換手さんは急に影が薄くなって消えてしまった。

「交換手さん!」

「あ、電池切れじゃない?」

 

 わたしは急いで、ふもとのみかん農家さんまで走って戻った。

 とちゅう、二回も転んでしまった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・45『ソファーの呟き』

2022-08-25 07:05:50 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

45『ソファーの呟きオメガ 





 他のにした方がよかったかなあ……

 日曜の朝、リビングに下りるとソファーが呟いたぞ!?
 
 うちのソファーは年代物で、たぶん、うちが置屋だったころからある代物だ。

 なんでも見番て、ここいらの置屋やら料理屋の総合事務所兼稽古場的なもんが隣接してて、その見番のだったとか。

 猫足の革張りで、妖怪じみた存在感がある。春めいた陽気に、とうとう化け物の本性を現したかと怖気を振るった。

 は~~~~~あ

 ついたため息は女の声をしている。俺は身構直して手近な得物を手に取った!

 グワーーーー!

 一声叫ぶと、ギシっとソファーは身震い。俺は得物をドラゴンに出くわした勇者みたいに構え直した!

 すると、ソファーに首が生えた!

 学校は他にもあったのにねえ……ん? なんでファブリーズなんか構えてんの?

「あ……小菊」

 ソファーが背中を向けていたので、小じんまりと横になっていた妹に気が付かなかったのだ。

「あ、夕べ焼肉だったじゃん、ちょっとな(^_^;)」

 プシュー プシュー 俺はCMのようにファブリーズを噴霧する。

「焼肉は一昨日だったんですけどー」

「あ、あ、そうだったな(^_^;)」

 バツが悪いので、そそくさとリビングを後にする。

 チ!

 背後で盛大な舌打ち。入学式の可愛らしさは微塵もない。

 でも……あいつ――学校はほかにもあったのに――って言ってたよな。

 やっぱ、入学式のこと気にしてんのかなあ……。

 式場での小菊は目立ちまくっていた。

 そりゃそうだ、男子列の端っこに一人座らされ、前にも後にも座っている者がいないので目立つったらありゃしない。

 そこへもってきて、隣の男子が気に入らないのか、小菊は座席一つ空けて座り直すもんだから、いっそうワケアリな目立ち方をしてしまった。

「あら、あの子……」「なんだか……」「ねえ……」「……見ない方がいいわよ」

 そんな声が保護者席から聞こえ出した。

 これは、やっぱ兄として、妹の心の声、いや、叫びに答えてやらなきゃ!

 よし!

 階段の二段目に掛けた足を戻してリビングに取って返した。

 

「やっぱ、学校でなんか言われたんだろ! 兄ちゃんが聞いてやっから、ドーンとこい!」

「は?」

「おまえ学校が辛いんだろ? やっぱ、なんか言われたんだろ?」

「え、なにトチ狂ってんのよ!」

「他の学校にしたら~とかため息ついてたじゃねーか!」

「あ~~~あれ?」

「心の叫びなんだろ、そのあとグワーーーーって吠えてたじゃねーか!」

「ああ……定期券持ってさ、電車通学とかよかったなーって。クラスのみんな電車通学なんだよね、徒歩通学ってあたしくらいのもんだしーーー」

 

 プシュー
 

 俺は二の句を継げず、ファブリーズ一吹きして部屋に戻ったのだった。

 でも、これって後を引くんだよなあ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

 

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