大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・334『バグパイプと丘の上の王子さま』

2022-08-11 11:33:55 | ノベル

・334

『バグパイプと丘の上の王子さま』さくら   

 

 

 朝食の食卓に着くと同時にバグパイプが鳴り出した。

 

 みんなも「あれえ?」いう顔で、座りかけた腰を上げて窓の方を向く。

「ああ、アーネストさんだわ」

 頼子さんは、一瞬で確認すると――こっちこっち――と目でサイン。

「練習かねて、朝食の間やってくれてるんだわ。彼も、どうやらかり出されるみたいね」

 アーネストさんは、このお屋敷の執事。サッチャー……イザベラさんは女王陛下に付いてるメイド長やけど、アーネストさんはお屋敷に付いてる執事さん。

 イザベラさんは女王陛下に付いて、夏の間だけここに居てるけど。アーネストさんは、陛下の移動に関係なくお屋敷に居て、維持管理と運営を任されてる。

「バグパイプの演奏付きって、素敵で贅沢ねぇ」

 詩(ことは)ちゃんの目ぇがへの字になる。

「あはは、うちの朝は、どないかしたらお経のBGやもんね」

 留美ちゃんが、いっしょにウフフと笑う。留美ちゃんも、すっかり如来寺の子ぉです。

「両方ともいいですよ、お経もバグパイプもライブですからね……」

 多くは語らへんけど、メグリンは一人でご飯食べてるときが多いんちゃうやろか。

 うちも、小6までは母子家庭で、半分くらいは一人飯やったから、雰囲気で分かる。

「さあ、さっさと食べちゃおうか、今日も予定がいっぱいだよ!」

「「「「はい!」」」」

 

 昨日は、ジョギングの後、シャワーしてから、ジョン・スミスの運転でエディンバラの街に。

 せやけど、前みたいに観光やないんです。

 ミリタリータトゥーのための衣装合わせ。

 さすがにオーダーメイドやないねんけど、試着した上で部分的な補正が入る。

 詩ちゃんはウエスト、メグリンは胸のタック、頼子さんは肩のとこ、うちはスカート丈を補正……そうですよ、うちのんは、3センチも丈を詰めました!

 留美ちゃん一人だけは、補正無しのピッタリ。ま、こういうこともある。

 それが終わって、昼からはスコティッシュダンスの練習。

 練習の前と後に、ちょっとだけ時間があって、ロイヤルマイル(エディンバラ城に続くメインストリート)を、ちょっとだけ散歩。

 今日も似たようなスケジュールやねんやろね。

 

 朝ごはんが済んで、部屋に戻る。

 

 今年は、頼子さんの希望で、みんな揃って大部屋に寝泊まりしてます。

「あれ、バグパイプ、まだ続いてる」

「というか、増えてない?」

 雁首揃えて窓の下を見る。

 なんと、ソフィーとソニーの姉妹もやってるやおまへんか!

「お祖母ちゃん、どこまで広げるつもりなんだろぅ」

 呆れたり、素敵に思ったりしてると、頼子さんのパソコンが着信のシグナル。

「あ、テイ兄ちゃんからだよ。スカイプやっていいかって」

 よくない!

 言おうと思ったら、すでに頼子さんは、スタートのボタンをクリックしてた。

 クソ坊主の話は割愛やねんけど、途中でおばちゃんが割り込んできた。

『ねえ、バグパイプが聞こえてるわよね!』

 おばちゃんらしからぬハイテンションで、画面に現れる。

「おばさま、バグパイプがお好きなんですか?」

 プリンセススマイルで頼子さん。

『うん、そうよ、頼子ちゃん! バグパイプって言ったら《丘の上の王子さま》なんだからね!』

「「「「「丘の上の王子さまぁ?」」」」」

 みんな、ぜんぜん分かってへんねんけど、おばちゃんの喜びようは、こっちまで嬉しくなってくる。

 別にマイクを付けてカメラを持ってバルコニーまで出て、ちょうどソフィア姉妹に見本を見せてるアーネストさんを激写する。

 あとで「丘の上の王子さまなんだって!」と、頼子さんが伝えてあげると、少年のように頬を染めるアーネストさんが、とっても可愛かったです(^▽^)/

 

 で、『丘の上の王子さま』ってなんやろ?

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・083『白絹屋の女将』

2022-08-11 06:33:10 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

083『白絹屋の女将』   

 

 

 
 気が付くと床の間を背に座っている。

 
 十二畳の座敷で、前には脚付きの茶托、湯呑からは仄かに湯気が立っていて、ここに座って間がない感じがした。

 カタカタ カタカタ…………

 体の芯には、まだ人力車の振動が残っている……いや、振動は開け放たれた障子の向こう、廊下のさらに奥の方から伝わって来る。

 なんの振動だろう?

 縁側の向こうは武骨だが落ち着きのある庭になっていて、塀の向こうに見える山塊と重なって景色を豊かにしている。

 ああ、これが借景と言うやつか。

 少しは日本文化が分かってきたかな……しかし、景色のいい山だ。

 桜島のような猛々しい益荒男ぶりではないし、富士のような超絶した神聖を感じるわけでもないが、小兵な男たちが腕組みして惜しくらまんじゅうをしている群像のように見えて、頼もしくも懐かしいユーモアを感じさせる……そう言えば『赤城の山も今宵が限り……』の名台詞を思い出す。国定忠治は、このあたりだったな。

 お待たせいたしまして申し訳ございません。

 赤城山に見惚れているうちに、岩を置いたように座りの良い和服の女性が三つ指を付いている。

「はあ……」

 間の抜けた吐息のような声しか出せない。

 庭と赤城山に気をとられ、女性が座敷に入ってきたことさえ気が付いていなかった。

 顔を上げた女性は、着物の上からでもかっちりとした肉おき(ししおき)のよさを感じさせる。日本女性ではあるのだろうが、我々の北欧神話やギリシアローマ神話に出てきそうな風格である。

「前橋の絹問屋『白絹屋』の身代を預かっております玲愛(れあ)と申します、武笠のお嬢様にお越しいただきましたのは、お願いしたい事がありまして。不躾なお呼びたてをいたしまして、まことに申し訳ございません」

「はい、わたしは、いつの間にここに座っていたのでしょうか?」

「はい、申し訳ございません。あまり時間がございませんでしたので、ちょいと端折らせていただきました。さようでございますね……わたしの本性はレアでございます。クロノスの女房と申し上げればはようございますね」

「あ…………!?」

 思い出した。

「そうなんです、亭主のクロノスとはいろいろございまして、オーディン様にもいろいろとご心配をおかけした曰く付きの夫婦でございました……」

 欧州の神話世界では、ちょっとタブーになっている話で、幼いころから『関わってはいけない』と父に戒められていた話で、長く意識の底に沈めていた記憶だ。

「亭主とは長い間別れて暮らしておりましたが、つい先だって前橋に戻ってまいりまして。ひるでさんには店に戻るとか言っていたかもしれませんがね……根は気の小さな男でございますから……」

 玲愛の女将さんは、ちょっと言いよどんで視線が落ちる。

 すると、ドタドタと廊下を走って来る足音がして、わたしを俥屋に預けた手代風が縁側で畏まった。

「女将さん、旦那様が赤城山に向かわれました!」

「なんだって!? 時計は隠しておいたんじゃないのかい!?」

「はい、それは、そうなんでございますが腹時計ひとつだけ、ぬかっておりました、申し訳ございません!」

「そうか、腹時計を……申し訳ありません、ちょいと中座させていただきます」

「女将さん、わたしもついて行きます。何かの役には立つと思いますから……」

「いや……そうですか、それでは、お言葉に甘えます、こちらの方へ」

 女将さんに先導されて廊下を進む。

 先ほどのカタカタの音が明瞭になって来る、店先の三和土(たたき)に下りると、隣接する作業場が目に入る。音は、絹糸を繰る機械の音だと知れる。

 作業場と反対の方角に進むと庭の一角に出て、そこには手代風と俥屋さんが馬を引いて待っていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・31『俺は口走ってしまった』

2022-08-11 06:10:26 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

31俺は口走ってしまった』 



 アキバと言うと牛丼とメイド喫茶の@ホームだ。

「なんで牛丼なんですか?」

 吊革の付属品みたいに揺れながらシグマが聞く。

「南のオバサンだよ」

「南のオバサン?」

「アハハ、そ、南のオバサン」

 一度しか会ったことが無いシグマは「?」で、馴染みのノリスケは「アハハ」だ。

 電気街口から出て駅前広場に。

 公立高校は今日が終業式なので高校生の姿が目立つ。たいていのやつは中央通りのアキバメジャーや東側のヨドバシカメラに向かい、二クラス分くらいの高校生は広場でたむろしている。

 俺たちは、それに逆らって北へ。総武本線のガードを潜ってすぐの牛丼屋に向かう。

 アキバ慣れしているシグマだけど、こちら側は初めてのようで少し緊張しているように見える。

 こういう時に好奇心むき出しになる子もいいんだけど、程よく緊張しているシグマもいいと思う。

 不愛想なΣ口がニュートラルよりも尖がっている。愚妹小菊もたいがい尖がった口をしているが全然違う。

 小菊のは蔑みと不満の現れなんだけど、シグマは16歳の少女らしいナーバスさの表れだ。

「あ、学食のオバサンだ!」

 カウンターにお茶を運んできた南さんに気づいて、シグマは小さく叫んだ。

 緊張がほぐれて、目は親しみの色なっている。

 ナーバスだけど反射がいい。Σ口も心なし弛んでシグマらしい愛嬌になっている。

「あら、いつかの彼女じゃない」

 南さんは記憶がいい。

「学食のスペメン美味しかったです!」

「アハハ、アキバでも見かけたわよ。自衛隊の音楽隊が来た日、妻鹿君といっしょだったわね」

「あ、あれはたまたま」

「たまたまを十回早口で言ってみて」

「たまたなたまたまたまたまたまたま……またまたまた」

「ほら、またまただ」

「え、あ、いや(;'∀')」

 うろたえたシグマにニコニコしながら南さんはオーダーをとっていった。

「なんで、学食のおばさんが?」

「短縮授業の間は食堂閉まってるだろ」

「その間にフードコーディネーターとしての勘が鈍らないように働いてるんだ」

「そ、そうなんだ」

「アハハ、働いてないとすぐに太っちゃうんでね、はい、牛丼並三つ! 男子は汁だくね」

 並にしたのはワケがある。

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」」」」

 そ、俺たちは牛丼の後@ホームに向かったのだ。

 むろんアキバのメジャーなところに興味も用事もあるんだけど、今日は@ホームだ。

「お嬢様、先日はどうもありがとうございました」

 店長がテーブルまでやってきて挨拶する。

「こ、こちらこそ!」

 シグマがシャッチョコバって俺が笑って、ノリスケの頭は(???)でいっぱいになる。

「……と、こういうわけだ!」

 新メニューのフライドチキンを頬張りながらノリスケに種明かしをしてやる。

「すごいじゃん、シグマもお祖母ちゃんも! ね、写真とかあったら見せてよ!」

「え、あ、はい……これです」

 頬を染めたまま、シグマはスマホを取り出した。

「お! おお! インスタ栄え! いかしたお祖母ちゃんじゃん!」

 ノリスケは、こいいうところが人物で、ことさらお祖母ちゃんが外人であることやシグマがクォーターであることにアクセントを置かない。

「思い立ったらすぐの人で……」

 藤棚の下では触れなかったお祖母ちゃんの武勇伝をとつとつとシグマは語った。

 お祖母ちゃんの話に笑い転げ、新メニューのフライドチキンを味わううちにシグマも解れてきた。

「だぁから、エロゲは芸術なんですってば!」

 もう三十回ほどもエロゲを連発しているシグマ。

 店内のメイドさんもお客もチラチラ注目したりクスクス笑ったりしている。ちょっと藪蛇になってきた。

「きららルートぐらいで感動してちゃダメですよ! 先輩はいい人だからみすずルートにたどり着かないんですよ! みすずルートはね、他の女の子に情けを掛けちゃダメなんです! きららが情死しようがあいこが輪姦されようが、はまりが時空の狭間に消えようがゆうきが触手地獄に堕ちようが、ひたすら、ひったすら、みすずに構うんです! むろん裏技を使わない限りみすずルートにはたどり着けませんけどね、だからこそのみすずルートなんです!『君の名を』はエロゲ界の神曲なんです、全ての処女のインフェルノを甘受しなければ真のベアトリーチェには出会えないんですよヽ(#`Д´#)ノ!」

 こういうのを地雷を踏んだとかストッパーが外れたとかいうんだろう、ノリスケは笑い死に寸前だし、おれは真っ赤になって俯いてしまった。

「わあった! だから、俺がサブカル研に入ってやっから!」

 俺は口走ってしまった(;゚Д゚)。



☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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