大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・286『八丈島沖空中戦・2』

2022-08-22 14:06:45 | 小説

魔法少女マヂカ・286

『八丈島沖空中戦・2語り手:マヂカ 

 

 

 ズビビーーーーーン!!

 ウワアアアアアアア!?

 

 第二斉射を発した瞬間、脱水モードの洗濯機のように北斗は前後を軸とした左回りに高速回転し始めた!

「スタビライザーが効いてないぞぉ!」

 コマンダーシートにしがみ付きながら安倍隊長が怒鳴る。北斗には発射後のトルクを打ち消すスタビライザーが付いているのだが、それが効いていない様子だ。

「オートになっているんじゃないのか!?」

「火力と姿勢制御が同期してない!」

 ズビビーーーーーン!

「トリガーを戻せ! ファイアのままだ、エネルギーを使い果たしてしまう!」

「ダメだ、手を離したら飛ばされてしまう。二回クリックのオフができない! 先にスピンを停めてくれ!」

 ブリンダの言うことももっともだ、手を離したら、そのとたんに振り飛ばされて二度とグリップを握れない。

 ブリンダとサムもコンソールの枠やトリガーグリップにしがみ付いて、なんとか耐えているのだ。

 わたし(マヂカ)は、いつでも飛び出せるように前部ハッチの窪みに収まっていたので、振り回されてはいるが比較的に手足の自由は利く。

『手動でスタビライザーの調整をしてみてくれんか』

 モニター画面の来栖司令が申し訳なさそうな顔で指示を飛ばす。

「Gがかかって、とても……」

 言いながらも、安倍隊長はコンソールのダイヤルに手を伸ばす。

 シュィーーーーーン

 制動音をさせながら北斗は回転の速度を緩め、これで停まると思った……

「トリガーを戻せ!」

「おう!」

 ウィーーーーーーン

 今度は逆回転し始めた。

「まずい、トリガーが戻らなくなったぞ!」

 ズビビーーーーーン!!!

 今まで以上の勢いで北斗は右舷に指向したままの搭載兵器を発射し続ける。

 わたしは、回転軸の真芯にいるので体の自由が利く。

 ハッチに足を掛け、狙いを定めてジャンプすれば後方にある緊急制動装置のスイッチが押せる。

 ただし、緊急制動を掛けてしまえば、復帰に時間がかかって、その間に定遠・鎮遠の二艦に逃げられる。あるいは袋叩きにされるだろう。

 この瞬間にも、攻撃されて八丈島沖の藻屑になるかもしれないのだ。

『緊急制動を掛けると同時に機体を離れろ!』

 司令も同意見のようだ……が、大塚台公園の司令所から言うほど簡単なことではない。

『早くしろ! 燃料を使い果たしたら、自然に停まるのを待つしかないぞ!』

 分かってる、タイミングを計ってるんですよ、司令……

 むかし、鞍馬の山で牛若丸に剣術を教えてやった時のことを思い出した。

―― いいか、剣術の要諦は避けることだ。相手の打ち込み、切り込みを避ければ、隙が見えてくる。見えた隙に打ち込めば、一合で倒せなくとも、繰り返すことで倒すことができるんだ。これをタイミングと言うんだ ――

 言いつけを守って、牛若丸は五条の橋で弁慶に勝利した。

 その時の牛若丸の緊張感が理解できた。

 

 今だ!

 

 弁慶の憎ったらしい顔が浮かんで、ここだと閃いた。

 セイ!

 ハッチの裏側を蹴って跳躍!

 パシ!

 過たず、制動ボタンを押す、押せた! 弁慶の脛に一撃を食らわせて勝負を付けた牛若丸のドヤ顔も、今は理解できるぞ。

 ガックン!!

 すごい衝撃があって、北斗は緊急停止した。

 

 コンコン コンコン

 

 北斗の車体を叩く音で覚醒した。

 他のクルーも無事なようだが、まだ意識は戻っていないようだ。

 予備電源が使えるのを確認して、モニターを点ける。

『みんな無事か?』

 孫悟嬢の心配げな顔が写った。

「ああ、緊急制動を掛けて、なんとかね……定遠と鎮遠は?」

『北斗の右舷側に占位していたんで、まともに喰らって擱座したよ。お蔭で、命拾いした。どうだ、自力で出られるか?』

「ああ……なんとかね、みんな気絶してるから、起こして外に出るよ」

 起こすまでもなく、振り返ると、二人の話声で意識の戻った三人は、こちらに向かって親指を立てていた。

 

「怪我の功名、こっちの勝ちでいいのか?」

 

 大破して空中で擱座している二艦を見てブリンダが振り返る。

「擱座する直前に船霊が抜けた形跡がある。油断はできないよ」

「うちの北斗もロートルだけど、定遠・鎮遠もたいがいだったんだ」

「フフ、隊長だって」

「あたしは、そこまでロートルじゃない!」

 ジト目のサムに安倍隊長の目が三角になる。

「どうします、隊長、定遠・鎮遠の撃破はできたけど、ここにポチョムキンが来たらお手上げですよ」

 担任でもあるので、少し穏やかに聞いてみる。

「そうね、とりあえず北斗は後退させるしかないでしょ。サム、自力走行は可能なのかしら?」

「微速ならなんとか、羽田沖に着くころには、テディ―部隊に牽引してもらわないと空蝉橋の格納ハッチは潜れそうにない。あそこでグズグズしていたら位相変換も間に合わなくなる」

「そうね、こないだも緊急発進で実態をさらしてるし……」

「アナログ誘導ならオペレートに三人はいるぞ」

 ブリンダも眉を寄せている。

「……一人でも残せるんなら、わたしが残ります」

「マヂカ」

「わたしなら大丈夫です、あいつらと長い付き合いだから駆け引きは分かってます。たとえ引き分けでも、アドバンテージとって終わりにしたいですから」

「孫悟嬢もついてる」

 悟空の孫娘も胸を叩く。

「決着つけるところまではやりません。今夜は大塚台の基地で対策を練りましょう、その材料集めのためにもね」

「そう……じゃ、くれぐれも無理はしないで。行くわよ」

「「イエス、マム」」

 

 グギギギィ……

 これでも特務の高機動車かというような無様な音をさせて、北斗は空域を離れて行った。

 

「大連以来だからお茶でもしたいけど、どうも、その余裕も無いみたいね」

「ピッタリのタイミングだね」

 孫悟嬢の視線を追うと、擱座した二戦艦の斜め後ろから船霊が浮かび出はじめている。

「おや……」

 八割がた明らかになった姿は、予想した中国風ではなかった……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・42『4月6日は始業式』

2022-08-22 06:27:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

42『4月6日は始業式オメガ 




――笑顔は苦手です( ノД`)シクシク…――

 ハワイからのメールだ。

――シグマちゃんも元気してま~す!(^0^)!――

 松ネエからもメールをもらっていたので、ちょっと戸惑う。

 でも、両方とも本当なんだと納得する。

 松ネエは人を見る目が暖かい。だから、シグマが頑張っているところに重心を置いている。メールを読んだ俺が「ハワイでも頑張ってんだな!」と、明るく肯定的に接するだろうことまで見越している。

 シグマも深刻に悩んでいるわけじゃない。深刻に家に籠っているのならハワイくんだりまで三泊四日で行こうとはしないだろう。

 でも、こういう緩い悩みでも積み重なれば山になることもある。

 それに――先輩は笑顔が上手くていいですね――という気持ちが底にある。

 ω口の笑顔にも悩みはあるんだぜ……。

 

「真剣に話してるんだから笑わないでよ!」

 ヨッチャンが眉を逆立てた。今朝のヨッチャンは気が立っている。
 
 噂によると、ヨッチャンは担任を下りると叫んだんだそうだ。

 三年の担任は進路がかかっているから責任の重さを感じたイラ立ちがあるんだろう。

 先生が気を揉まなくったって、たいていの生徒は自分で折り合いを付けた進路に進んでいく。そう前のめりになることもないと思うんだけど、これがヨッチャンの性分だ。

 だから、始業式が終わってのクラス開き、ヨッチャンはホームルームの半分以上を使って演説した。

 黒板には『四当五落!』とか『成功の女神には前髪しかない!』なんてスローガンだか脅迫だか分からんものが書いてある。

 秋には決まってしまう、決めてしまわなきゃいけない進路だから、もう時間ないのよ! あんたたち分かってるぅ!?

 そういうことを言ってるんだけど、俺を含め三年A組の生徒は聞くふりをしているだけ。

 でも妨害はしないし、きちんと教壇のヨッチャンを見ている。

 気の回らない先生だけど、やっぱ担任の先生なんだという敬意は払っている。でも、聞くふりになってしまって、頭ではスマホのメールがループしていたんだ。

 そいで、俺的には、ちょっと寂しく思い出していたんだけど、その顔がヨッチャンには笑っているように見える。

「よう、三年もよろしくな!」

 ホームルームが終わると、ノリスケに肩を叩かれた。これでノリスケとは三年連続のクラスメートだ。

――麺類だけだけど、今日から食堂は開いてます――

 きょう唯一有益だったヨッチャンの情報で学食に向かう。

「オバチャンは、やっぱ学食の服装があってるよな」

 牛丼屋にパートに行っていた南さんが八面六臂でオーダーをこなしている。たくましいなあ~。

「「ども」」
「アハハハ」

 これだけで南さんとは通じてしまう。で、南さんが視線を移した。

「あ……」

 視線の先、入り口の近くの席にスぺ蕎麦をすすっているシグマが居た。帰ってくるのは今日の午後だと思っていたのでビックリした。

「なんだ、もう帰ってたのかぁ?」

 スぺ蕎麦をトレーに乗っけてシグマの前に向かう。

「始業式はパスかと思ったぜ」

「朝いなかったしな」

「遅刻でさっき来たとこ……」

 箸を止めて上げた顔、なぜか目には光るものがあった。

「お、おい」

「やっぱ、ハワイの笑顔は疲れますぅ(´;Σ;`)ウッ…!」

 あいかわらずのΣ顔だけど、とびきりの泣き笑いだというのが分かる。

 なんだかシグマが戦友のように思える始業式の昼下がりだった。
 


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

 

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