大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・330『名探偵団ポワラ!』

2022-08-07 14:39:16 | ノベル

・330

『名探偵団ポワラ!』詩(ことは)   

 

 

 突然の悲鳴に慌ててコンパートメントに戻る!

 

 ガチャ!

 先頭のさくらが開けたコンパートメントに異変は無かった。というか、誰も居ない。

「こっちか!?」

 ガチャ!

 もう一つのコンパートメントを開けるけど、そこにも人影はない。

「ちょっと、みんな居てるよね!?」

 眉を逆立てて、さくらが振り返る。

 みんな、目玉だけ動かして互いの安否を確認する。

 さくら……留美ちゃん……古閑さん(メグリン)……ソフィー……頼子さん……そしてわたし(詩)

「ひょっとして……密航者?」

 留美ちゃんが唇を噛む。

 オリエント急行は国際列車だ。EUが存在する21世紀の今日、EU圏内の往来は自由だ。

 でも、不法難民や、世界中を敵に回して戦争やってる国の人間は大っぴらには移動できない。あるいは、マフィアとか、某国と某国のスパイ同士の抗争とか!?

「死体無き殺人事件!?」「異世界からの逃亡者!?」「攻殻機動隊!?」「被害者は転送された!?」

 さすがは元文芸部、怯えながらも妄想逞しい。

 すると、ソフィーがコンパートメントの中に入って、ぐるりと見渡して、静かに言った。

「犯人は、この中に居る」

「「「「「ええ!?」」」」」

「せ、せやかて、死体無いし、人の気配もせえへんし」

「こっちよ」

 進行方向の壁を探るソフィー。

「これだ」

 ソフィーが軽く抑えると、かそけき音をさせて、人一人が通れるほどに壁の一部が開いた。

「これは、XOタイプと云って、隣のコンパートメントと繋がっている。一見ただの壁だけど行き来ができるんだ。お忍びとか、立場上必要な者が利用した」

「せやけど、隣はカギ締まってるしぃ」

 そう、わたしたちが使ってる二つを除いて施錠されている。

「内側からは開く。アガサクリスティーもこれを利用した……」

 そう言うと、ソフィーはそっと秘密のコンパートメントに入って行った。

 

 ドギュン!ドギュン!

 

 銃声が二発したかと思うと、ズサッっと人が倒れるくぐもった音がした!

 ヒャ!!!

 みんなの息を呑む音。人間、ほんとうの恐怖に襲われた時は叫び声も出ないものなんだ!

「ちょっと、見てくる!」

 頼子さんが隠しドアの前に出た。

「いえ、わたしが行きます!」

 古閑さんが、前に出て、体を斜めにして入って行く。

 

 …………………………

 

「誰も居ません」

 体を斜めにして戻ってきた古閑さんが、緊張した顔で報告する。

 数秒の沈黙があって、ソフィーが静かに口を開いた。

「リッチは、どうして最後尾にいるのかなあ……」

 リッチとは学校での頼子さんの愛称『ヨリッチー』を縮めたものだ。縮めた分親しみが深い。

「え?」

「最後にお手洗いに行ったのはさくらだよ。悲鳴があがったときは、わたしとお手洗いの間に居たから、最後尾はさくらになってなきゃおかしいよ」

「あ、そう言えば、悲鳴が上がった時、食堂車に……」

 そう、食堂車に頼子さんの姿は無かったような気がする。

 ……みんなの視線が頼子さんに集まる。

 

 フフフ……フハハハハハ!……ギャハハハ(థꈊథ)!!

 

 狂ったように笑うと、頼子さんは首元に手をやって「メリメリメリ」とシリコンのマスクをとった!

「ク、何もの!?」

 ソフィーが見構え、みんな後ずさり……そして、現れた顔は……!?

 

 やっぱり頼子さん!

 

「どうだ、ビックリしたか(*`ㅅ´*)!?」

 

 アハハハハハハ……と笑うしかないわたしたち。

「だって、せっかくのオリエント急行だよ、オリエント急行ってば『オリエント急行殺人事件』でしょーがぁ」

「で、ソフィーもグルなん(^_^;)?」

「それは、永遠の謎……」

「でも、あの銃声はどうしたんですか?」

「スマホに効果音のアプリ入れてるのさ」

「な、なるほど」

「けっきょく、うちがお手洗い行ってるうちに、頼子さんがコンパートメントに行って悲鳴を上げて、そのすぐあとに秘密のドアで隣に行って、あたしらを引っかけたっちゅうわけですね!?」

「ハハハ、まあ、そんなとこさ」

「わたしの推理は当たったんだね。みんな、今日からは、わたしのことを『アガサクラ・クリスティー』と呼びたまえ!」

「ええ、さくら一人だけが?」

「ほんなら、えと……名探偵ポワラ!」

「なに、それ?」

「ポワロの複数形やんかぁ! 名探偵団ポワラ!」

 

 こうして、名探偵団ポワラを乗せたオリエント急行はバルカン半島を横断していくのであった。

 

 バルカン半島……進行方向の右側にはルーマニア、吸血鬼ドラキュラの故郷、コマネチの出身国。チャウシェスク大統領のルーマニア社会主義共和国は今は共和国すら取れてルーマニア。西側の大半を版図にしていたチトー大統領のユーゴスラビアは今は無く、マケドニア、スロベニア、ボスニア、ヘルツェゴビナ、クロアチア……だったけ、分裂を重ねた。

 はしゃいだ後、さすがに疲れが出て、みんなお昼寝。

 わたしは、ぼんやりと車窓からの眺め……見ていると、大学で習った地理や歴史のあれこれが湧き上がって、かえって眼が冴える。

 そうなんだ、二年もすれば卒業。

 マスターやドクターを目指すほどのめり込んでいるわけじゃない。でも、勉強したいとは思っている。

 留学はコロナのおかげで流れてしまったけど、頼子さんとの縁でヨーロッパを斜め上に縦断していると、ぼんやり景色を見ているだけで、湧き出してくる知識の断片。

 そうだ、ルーマニアって、正しく発音するとロマニア、その昔はローマ人の国であり、幾多の民族の歴史が積み重なっている。その一つ一つを理解……なんてできっこないんだけど、ボンヤリと民俗とか人々の暮らし……ボンヤリのボンヤリなんだけど、昔話とかフォークロア、そういうものに浸っていられたら……許されるなら、ね、もう十年は学生……さすがに、ハンガリーに入るトンネルが見えたころには目蓋が重くなってくる。

 眠りに落ちる寸前、ヨダレを垂らしたさくらの顔が見えて、その顔が――そんなんどうでもええやんか――と言っているような気がした。

 ちょっと、さくらのコンパートメントは隣だよ……zzzzz

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・079『ひるでの行水・2』

2022-08-07 08:07:06 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

079『ひるでの行水・2』   

 

 

 
 ポーーーーーーーーー!

 
 汽笛を轟かせて新橋行きの列車がやってきた。

 線路の土手から、この庭は丸見えだ。

 当然、その庭で行水しているわたしの姿も丸見えで、なんとも恥ずかしい(#'皿'#)!

 せめて背中を向けるとか前を隠すぐらいはしたいのだが、クロノスのクソ親父の為に体の自由が効かない。

 列車に対して少し半身になった姿勢のまま手桶でお湯をかけている。

 狭い盥の中なのでシャボン(横浜に近いところなので、ぬか袋ではなく石鹸が使われる)を含んだ手ぬぐいを使うにも姿勢を変えねばならず、意図せずに艶めかしい姿勢になってしまう。

 列車は前の方から三等、二等、一等の順に連なっている。

 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

 列車が庭の真横を通過し始めた!

 グ グヌヌヌ………

 わたしは羞恥の為に真っ赤になっていく……

 ん?

 満員の三等車両からは奇異の視線を感じない。

 三等に乗っているのは、ほとんど庶民と言っていい階級の者たちで、横浜には商売や仕事で出かけた者たち。中には一度陸蒸気と呼ばれた汽車に一度は乗ってみたくて三度の食事を二度に減らして乗っている書生まで含まれている。

 それが、行水をしているわたしには一瞥もくれないのだ。

 意外……というか、ちょっと傷つくぞ。

 見えていないわけではない。

 彼らの視界を探ってみれば、ほんの三十メートルほどの近さでわたしが見えている。

 だが、見つめている者が居ないのだ。

 まるで路傍に八分咲きの桜の木を見る程度、日本中のどこにでもある桜の花が目に留まったぐらいのことでしかない。

 一等からは期待通り……いや、恐れていた通りの痛い視線を感じる。

 オー、フルヌード! セクシー! ビューティフル! ワンダフル! トレビアン! ウンダバー!

 歓声が起こり、数十もの好奇や好色な視線が突き刺さって来る。

 く、くそ(#゜Д゜)!

 
 列車が通り過ぎても、相反する二つの反応に当惑したり腹が立ったり。

「ご苦労」

 そう言うと、クロノスはキセルをしまってわたしに向き合った。

「え、終わりか?」

「ああ、もう服を着てもいいよ」

「え? あ、あ……」

 自分の体が自由になったのに気付いて、慌てて身づくろいする。

「いったい、なんだったんだ、今のは?」

「今の列車にはモースが乗っていた」

「モース?」

「ああ、アメリカの動物学者だ。帝国大学の御雇教授に招聘されて、横浜から東京に向かう途中なのさ」

「そのモースがどうしたんだ?」

「横浜から東京に出る汽車の車窓から、いい女が行水しているのを見て仰天するんだ」

「ク……そのお雇い外国人の目を楽しませるために、こんなことをさせたのか!?」

「そうだ」

「なんというおもてなしだ! 小池都知事が怒るぞ!」

「おまえのヌードをガン見して、モースは気づくんだ。ヌード姿に気づいてガン見したり騒いでいるのは外国人ばかり。自分の案内人を含めて日本人は、おまえの行水を見て見ぬふりをするんだ。女が裸体を晒しているのに騒ぐのは日本人の美意識に反することでな。その日本人の美徳に感心したことをモースは記録に残すんだ」

「そ、そうだったのか……だが、それなら、わざわざ時空を超えてわたしが裸を晒すことでもなかったのではないか?」

「モースが感動するほどのヌードでなければならなかったんだよ」

「え……?」

「並の女では務まらんのでな」

 え……あ……ちょ、ちょっと反応に困るぞ。

「モースは自己嫌悪に陥ってな。恥ずかしくて、そのあと、ずっと案内人の顔も見られずに外ばかりを見ている。そして……」

 !!!( ゜Д゜)!!!

 その時、モースの興奮した想念が伝わってきた。

「また行水でも発見したのか?」

「よしよし計画通り……発見したのは大森貝塚だ」

「大森貝塚……日本史で習ったぞ」

「そうだ、日本に石器文化があったことが初めて確認されたんだ。これは、モースが自己嫌悪に陥っていなければ発見されないところだったんだ」

「そ、そうだったのか」

「どうだ、納得したか?」

「ああ、完全ではないがな」

「よしよし、では、次に行こうか」

「次があるのか?」

「言っただろう、これは、ほんの入門編だ。次が本命で、この大森貝塚から始まるんだ……」

「次……?」

 聞き返す間もなく、周囲の景色が歪み始め、再びカオスの中に放り出されていく……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・27『連休明けの松ネエとシグマ』

2022-08-07 06:48:41 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

27連休明けの松ネエとシグマ』 




 ボックス席で松ネエがオイデオイデをしている。

 宿題を2/3やってダレてきたので誘いに乗る。

 座ったままカウンター席のハイチェアを回すと二歩でボックス席に着く。

「あ、そーーだ」

 呼んでおきながら、松ネエは席を立って店を出て行く。

 店というのは、かつてうちがやっていたパブの店舗部分。

 内装はそのままなので第二リビングとして家族のだんらんやご近所との社交場に使っている。

 松ネエが勉強したり書類を書くのに使い始めたので、俺も倣って気の乗らない宿題やら読書(っても、ラノベとかマンガ)のスペースとして使い始めた。

 子どものころの秘密基地の感覚なのかもしれない。

 大学生って大変なのな。

 テーブルの上には書きかけの書類が散らばっている。

 従姉だけども個人情報、マジマジと見るわけにはいかないけど、その種類と枚数で大変だと思う。

 奨学金申込書的なのが目に入る。

 松ネエんちは両親揃って学校の先生。一人娘の学費くらい楽勝なのに奨学金の申し込みというのは松ネエの心意気なんだと思う。

「ブスだ……」

 書類の写真を見て不用意な言葉が口をつく。

「だれがブスだってぇ」

 いつのまにか戻って来た松ネエが怖い顔をする。

「いや、写真の写りがさ、現物はイケてんのに」
「ま、そのフォローに免じて許してやる。食え」

 松ネエが出したのは箱入りのフライドチキンだ。

「お、いっただきー」

 さっそくかぶりつく。

 鳥は苦手なんだけど、フライドチキンは別だ。この調理法を編み出した白スーツに眼鏡のアメリカのオジサンはエライと思うぞ!

「買ってきたんじゃないんだよ、これ」
「え?」

 確かに見慣れたパッケージではない。

「こんど@ホームで出すかもしれない試作品」

 なるほど、俺は試作品のモルモットか。

 でも、こういうモルモットなら大歓迎だ、感想を言わなければならないんだろうと、真剣に味わう。

「……カレー味……なんだろうけど、インドとはちがう南国的ってかオーガニックな風味?」

 オーガニックがなにかよく分かってなかったけど、イメージ通りの感想。

「いい勘してるわよ雄ちゃん」
「あ、そ?」
「ハワイのカイウラニスパイスってのを使ってんの」
「@ホームがハワイアンになるの?」

 俺はビキニみたいなフラダンスのコスを着た松ネエを想像してしまった。

「なんでフラダンスがビキニなのよ!?」

 松ネエはスルドイ。

「いや、なんでハワイアンってことで」
「それがね、シグマちゃんとお祖母さんがね……」

 松ネエが示したスマホには@ホームのメイドさんたちに囲まれた金髪バアチャンとシグマが写っていた」

「二日続いてお越しになってね、メイド喫茶のメニューにこれがいいって、キッチンで試作品を作ってレシピを教えてくださったの。初日は店長が気に入って、二日目にはオーナーが信者になっちゃった」
「宗教団体かよ」
「@ホームのハワイ店を出すことになっちゃった」

 で、俺とノリスケは藤棚の下でシグマの顔を見つめている。

「シグマってクォーターだったのか……」

 言いようによっては角の立つ感想だけど、今日のノリスケは哲学じみているので、なにか高尚なことを言ったように聞こえる。

「もー連休は、全部お祖母ちゃんに持ってかれて大変だったんですから」

 そう言えば元気のないシグマではある。

「でも、すごいお祖母さんだよな。皇居の写真で『なんで!?』って感じて日本に来るのもぶっ飛んでるけど、たった二日でハワイにメイド喫茶作るの決めちゃうんだもんなあ」
「あたし、今日は帰って寝ます」

 多くを語らずにシグマは席を立った。

 ほんとは他の話があったんだろうけど、祖母ちゃん疲れのせいかノリスケがいるためか、その話題に触れることは無かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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