大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 85『二つの救援隊』

2022-08-24 11:07:29 | ノベル2

ら 信長転生記

85『二つの救援隊』信長 

 

 

 乙女とは、市が通う転生学園の生徒会長の坂本乙女(坂本龍馬の姉)、武蔵は俺が通う転生学院の剣術少女で宮本武蔵の転生体であることは承知していると思うんだが、念のため。

 我が学院の生徒は、再度現世への転生を願っている者で、性別が逆転している。

 市の学園は、そのままで転生を期する者たちが通う学校で、生前の性別で姿かたちに変化はない。

 その二人が、中国娘のコスに身を固め、逃避行でボロボロになった我々の前に現れた。

 乙女は、格ゲー第一人気の女性キャラ春麗のような青のチャイナ格闘服。武蔵は、レイファンのように可憐だが、相変わらずの三白眼。

 

「間に合ったああああ!」

「キャーーー!」

 

 そう叫びながら駆けてくると、眼前でジャンプして馬上の市に抱き付く乙女。

 小柄な市は、乙女に抱きすくめられ、危うく馬の尻から落ちそうになるが、乙女が後ろに回した手で器用に手綱をさばいて馬と人間二人の合体オブジェのようになっている。

「茶姫、紹介しておく(前述の二人のプロフを説明する)」

「そうか……よい仲間ではないか、危険を冒して、二人を救いに来たのだな」

「それもあるが、茶姫殿、あなたも連れて戻ってこいというのが扶桑国、転生学院・学園両生徒会の総意なのですよ」

「まことか……というより、どうして、今のわたしの状況が分かったのだ?」

「市が送ってくれた紙飛行機のメモと、信玄と謙信の状況分析ですよ」

「ああ……転生の南境を示威行軍した時の……すごい洞察力だな」

 茶姫も二人の偵察には気づいていたようだ。なにをやらせても、抜かりの無い女将軍だ。曹操への観察以外だがな。

「最後、二つの砦は狼煙が立ち上がる前に潰しておいた。皆虎まで行けば国境を抜けられるぞ」

 三白眼の目を剃刀のように細めて武蔵が言う。

「うん、それは有り難いが、わたし一人三国志を出るわけにはいかない。残してきた部下たちもいるし、なにより、今度の行軍で、三国鼎立による平和を宣伝しているからな。それを知った民を裏切るわけにはいかない」

「しかし、曹操を相手にして勝ち目はないわよ」

「ありがとう、シイ……いや、市。蜀の諸葛孔明の天下三分の計も確認できた、孔明と共闘を組めば、まだ道はある」

 これは、俺と市を逃がしてやろうという茶姫のハッタリだ。たった今、首を刎ねろと言ったところだ。それに、曹操が茶姫を除こうとしている。孔明も天下三分の計は早々に引っ込めるだろう。

「だから、ここは、二人で扶桑に……」

 そこまで言いかけた時、武蔵の佩剣が空を切った。

 ビシュ!

「なに奴!?」

「ま、待ってください!」

 辛くも避けて草むらから出てきたのは、検品長と備忘録だ。

「二人とも無事だったのか!?」

「はい、茶姫さま」

「あのあと、備忘録が……」

「指揮を執ってくれたのか?」

「一言だけです」

「備忘録は『散れ!』とだけ叫びました。それだけで、みんな理解しました。三国志の各地に散って機を窺えということを」

「いずれ、茶姫さまが旗をお揚げになる時の為に雌伏いたします。それまでは、どうぞ、扶桑の国にお隠れなさいませ」

「検品長、備忘録……」

 

 その必要はないよーー

 

 武蔵の一閃でも届かないほどの遠くから声がかかった。

「孫権!」

「そこの目つきの怖い人、怪しい者じゃないからねぇ(^_^;)、カメラしか持ってないしぃ」

「呉の王弟の孫権殿だ、そう、睨むな、武蔵」

「睨んでなんかおらん」

「さっきはごめん、チャーねえさん。呉の王弟としてはまずいからね、あの場にいるのは。家来たちが引っ張っていくのに抵抗もできないしね。でも、チャーねえさんを放っておくようなことはしないよ。しばらくは呉に居てよ。子どもの頃の隠れ家がいっぱいあるし。孫策兄さんも本心ではチャーねえさんを認めてるし。でなきゃ、弟が、こんなに自由にしてるの放っておかないし」

「そうか……ならば、少しの間ケンボウの相手でもしていようか」

「ケンボウってのは勘弁してよぉ、もう中学生なんだし」

「そうか、じゃ、やっぱりチュウボウだな」

「う……まあ、いいや。ねえ、そこのめっぽう腕の立ちそうな子」

「儂のことか?」

「その顔だと、手配書が回ってなくても怪しまれるよ。殺気も出し過ぎだし」

「生まれつきだ」

「これ上げるから、使ってごらんよ」

 懐からなにか取り出す孫権、キャンディーの個包装に似ている。

「なんじゃ、これは?」

「コスプレに使うカラコン。瞳が大きくなるんだよ。兄の孫策の機嫌が悪いときは、これを付けていくんだよ。それで、口をこんな風に(ω)しとくと、人に怪しまれないし、めったに怒られることもないよ」

「こ、こんなものを……」

「チュウボウ、わたしと会う時も、これをしていたのか?」

「そんなわけないでしょ、チャーねえさんは、数少ない素顔で会える人なんだから」

「そ、そうか」

「ねえ、武蔵、付けて見せて!」

 がぜん乙女が興味を持って武蔵に襲い掛かる。

「な、なにをする!? よせ、よさんか!!」

 剣術は超一流だが、乙女生徒会長の無邪気さと足技に免疫のない武蔵は苦も無く押さえ込まれてカラコンを装着される。

「も、もう無茶をする奴だ!」

 カラコンを入れられ、涙目になって睨む武蔵は反則だ。

 

「「「「「か、かわいい( #´艸`#)!」」」」」

 

 その場の全員が萌えてしまったぞ!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・44『小菊のクレーム』

2022-08-24 06:41:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

44『小菊のクレーム』オメガ 

 



 入学式も済ませてない新入生の振る舞いとしてありえねえだろ!?

 先生が説明している真っ最中だと言うのに教室を飛び出してきやがった。

「入学式に、あんな席はあり得ないわよ!」

 どうやら、式場での自分の席が気に入らないらしい。

「学校は集団生活だ、多少のことは辛抱! さっさと教室に戻れ!」

「だって、あれじゃ留年生だと思われちゃうよ!」

「な、なんだよ」

「ん!」

 小菊は一枚のプリントを突き出しやがった。なんか逮捕令状を突き付ける女刑事みたいにな。

 担任はよくできた先生のようで、式場での着席場所をプリントで配ってくれていたのだ。

 入学式は中央通路を挟んで上手側が女子、下手側が男子になっている。

 各クラスは男子20人女子22人……なんだけど、小菊の三組だけが女子23人。

 席は横方向に22個しかなくて、女子ドンケツの小菊はあぶれてしまう。

 で、あぶれた小菊は下手側の男子の一番端っこに飛ばされている。

 男子は全クラス20人なので、小菊の男子列だけが21人になり、それも女子の小菊が入るのでひどく目立ってしまう。

「ほらね」

「でも、なんで留年生なんだよ」

「いるって噂なのよ、女子でね」

 一瞬大丈夫だと思った。ダブった生徒は式には出してもらえないのだ。二年生以上になると、このことは知っている。だが新入生は知らないだろう。ひとりポツンと男子の横に座っていたらワケ有と思われても仕方がない。

 ためらいはあったけど、妹は一年三組の教室に戻った。

 小菊は先に席に戻し、廊下から他の生徒には見えないようにして担任の先生を呼んだ。

 俺に顔を向けたので分かった、担任は田中という目立たないオジサン先生だ。

「なにか、緊急連絡?」
「ま、そんなとこです」

 俺はかいつまんで、小菊の席の問題点を指摘した。

「うーーん、君の言うのももっともだね」

 堂本やヨッチャンと違って聞く耳は持っておいでのようだ。

「僭越な申し出ですみません」

 相手がちゃんと対応してくれると、こっちも丁寧な返答をする。

「ちょっと相談してみるよ」

 そう言うと田中先生は「二分間だけ待っていなさい」と教室の新入生に告げ、隣の四組の担任と相談し始めた。

 きっかり二分で済ませると「善処したよ」と言って戻って来た。

 結果、三組の女子は式場の椅子の間隔を詰め、小菊の席を増設することになった。

 だが、物言いがついてしまった。

「一列だけ間隔を詰めると列が乱れてみっともない」

 言い出したのは堂本だ。

 けっきょく式の開始を五分遅らせるという結果だけ残して、元のまま実施されることになってしまった。

 席には不満の残る小菊だったけど、俺や田中先生の気配りには納得している様子だ。

 やっぱ、高校生になって少しは成長したかと思う兄ちゃんであった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
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