大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・123『アルルカンの秘密・1』

2022-08-30 14:31:41 | 小説4

・123

『アルルカンの秘密・1』心子内親王  

 

 

 巨大な戦艦でござるなあ……!

 

 客室の3D艦内案内図を眺めて、サンパチさんがため息をつく。

 見かけは小柄な女子高生という感じで、それが侍言葉、それでいて、小学生のようにポカンと口を開けて感心しているチグハグさ。西之島からの付き合いだけど、やっぱりおかしい。

 ウフフ

「おかしゅうござるか?」

「いいえ、サンパチさんには癒されますよ」

「アハハ、照れるでござる」

「しかし、ほんとうに大きいですね」

「全長1200メートル、火星航路の豪華客船よりも大きゅうござる」

「こんな大きな、それも軍艦でしょ。速度も大事でしょうし、動力はどうしているのかしら?」

「拙者も気になってツナカン殿に聞いたでござる」

「なんて、おっしゃってたの?」

「最新のパルス機関を搭載しているので、ノープロブレムだそうでござる」

「新造艦なのかなあ?」

 思わず呟くと、3Dインタフェイスに三頭身のアルルカンさんが現れた。

―― ヒンメルはピカピカの新造艦だよ! ――

「まあ、かわいい(^▽^)」

―― ナビゲーターのあるるかんだよ、分からないことがあったら聞いてね(^▽^)/ ――

「艦の動力はなんなのでござるか?」

―― パルスエンジンだよ ――

「え、ふつうのパルスエンジン?」

―― 原理はね、でも、燃料がパルスギだから、燃料効率が桁違いなのさ ――

「パルスギって、西之島の?」

―― エヘヘ、それは秘密だよ ――

 パルスギは、ちょっと前に西之島で発見されて、やっと商業ベースに乗ってきたばかりの燃料だよ。

 さっそく漢明国が目を付けてきて、理不尽な介入をしてきて、わたしが避難させられる原因にもなったんだ。

 そのパルスギが燃料に使われている。すごくビックリ!

「むむ、やはりアルルカン殿は油断がならないでござる」

―― そりゃあ、女海賊だしね。でも、普通の火星航路船と同じ三日で火星に着くから安心してね ――

「主砲の口径はいくらでござる?」

―― 45口径146サンチ砲だよ ――

「146サンチ砲!? そ、それだけ大きいと発射速度は遅いでござるな?」

―― う~んと……二発かな? ――

「二発? ちょっと……いや、かなり遅すぎではござるまいか?」

―― うん、毎秒二発じゃ並みのパルス砲並みだからね ――

「え、毎分ではござらぬのか!?」

―― アハハ、毎分二発じゃ三百年前の戦艦だよ。理論的には毎秒十発までは上げられるんだけどね、ハードの方が追いつかないんだよ ――

「ムムム、聞きしに勝る性能でござるなあ……」

「あ、船の真ん中辺でオレンジ色が灯り出したけど?」

「ああ、ヒンメル温泉だよ~。日に一回成分変更して、世界中の温泉を再現してるんだよ。長い艦内生活には潤いが必要だからね。ちなみに、今日は箱根温泉、入ってみる?」

「え、入れるの?」

―― ココちゃんはゲストだからね、遠慮しなくていいよ。入るんだったら、担当さん呼ぶけど ――

「え、そう……お願いしようかなあ」

―― 了解。サンパチさんは艦に興味ありそうだから、艦内見学してもいいよ ――

「しかし、殿下の傍を離れるわけには……」

「大丈夫だよ、お風呂入るだけだから」

―― うん、そうしなよ。サンパチさんには艦内案内図送るし ――

「お……おお、送られてきたでござる! これは、ワクワクするでござる!」

―― じゃ、そういうことで! ――

 

 トントン

 

 あるるかんさんが笑顔で消えると同時にドアがノックされる。

『案内係のアルミカンです、お風呂場までご案内いたします』

「「早!!」」

 そうして、サンパチさんは艦内見学に、わたしはヒンメル温泉に向かった。

 

 アルミカンさんからお風呂セットをもらって浴室に入ると、湯煙の向こうに先客のシルエット。

「ごいっしょさせてください」

「おお、これはこれは(^▽^)」

「え、アルルカンさん?」

「周回軌道を離れて航路についたので、一番風呂を頂いています。さあ、こっちへ、源泉かけ流しはこっちですよ」

「あ、じゃあ、失礼します」

 いっしょに並んで、アルルカンさんの視線をたどると、大窓の向こうに月と地球。それがゆっくりと、じっと見ていなければ分からないくらいのスピードで離れていく。

「もっとスピードは出るんですが、旅の始まりは、このくらいがいいと思いましてね……」

「そうですね……」

 考えたら暢気すぎる。

 仮にも、わたしは拉致されたんだ。それが、拉致した張本人のアルルカンさんと、のんびり湯船に浸かって、ゆっくりと遠のく地球を眺めている。

 諸事のんびり屋のわたしだけども、このノンビリは、多分にアルルカンさんの持ち味からも来ているんだと思う。

 不思議と気持ちは穏やかなんだけど、わたし以上にのどやかなアルルカンさんをいたぶってみたい気持ちになってきた。

 そうですよ、地球を眺めているアルルカンさんのまつ毛は、児玉元帥のそれを偲ばせるくらいに長くてきれい。あのまつ毛に、湯気の水玉を憩わせたら、なんだか物語が始まりそうな気がして、ちょっと意地悪を言ってみたくなった。

「アルルカンさんは、義体ですか?」

「ふふ、分かりますか?」

 こっちを向いたアルルカンさんの顔には、わたし以上に意地悪な微笑みが浮かんでいたわ。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン)
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・50『よくできた過年度生』

2022-08-30 06:54:28 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

50『よくできた過年度生小菊 





 めったに「兄ちゃん」とは呼ばない。「腐れ童貞」とか「あんた」で済ましている。

 だって、あいつは本当に腐っているんだからね!

 あたしと同じDNAだからルックスが悪いわけじゃないんだ、根性が腑抜けなわけよ。

 人と争うことが嫌いってか、根性無しだから、人とぶつかりそうになったらフニフニ笑ってごまかす、かと言って、孤高の独立独歩なんて出来ないから上っ面だけ人や世間に迎合している。なにごとも普通がいいとか言って努力ってことをしない。

 ヘタレ中のヘタレなんよ。

 長年のフニフニが染み付いてしまって、口がωの形になってやんの。

 だから、人からは雄一とかゆう君とかは呼ばれないで「オメガ」だもんね。

 そんなあいつは、女の子とも、きちんと向き合えないから童貞なんだ。

 高校生で童貞ってのは不思議じゃないんだけど、あいつは改善の見込みがないから、一生童貞で終わること確定!

 江戸時代から続いてる妻鹿家も、あいつの後は続かなくなって絶えてしまうわね。

 伝統とか格式とかは興味ないんだけど、男として、人間としてヘタレてるのはサイテーだと思うわけよ。

 あいつは、頼まれたら断らない。断る勇気がないんだ。

 だから、緊急の事態でもあったから、つい命じてしまった。

 

「ちょ、あんた担いで!」
 

 昨日の話よ。

 食堂で増田さんが、熱々のラーメンを三杯もかぶってしまって大やけど。

 すぐに保健室に運ばなきゃならないんだけど、ああいう大勢人がいる状況では――だれかがやるだろう――という群集心理で、人は率先しては動こうとはしない。だから緊急避難的にあいつに命じたわけよ。

「妻鹿さんて、ほんとにステキですね!」

 水をかけまくるという初期対応が適切だったので、火傷の痕が残ることも無く、無事に増田さんは一泊二日で退院した。

「ほんとにオメガさんにはお世話になりました。わたしって見かけよりも重いから運ぶの大変だったと思うんですよね、それに運ぶだけじゃなくって『大丈夫! たくさん水で冷やしたから大丈夫!』って、ずっと励ましてくれて。ほんとに素敵な上級生です! で、その上級生にテキパキ指示を出す妻鹿さんは、もっと素敵です。お二人の息の合い方羨ましかったです、お姫様抱っこだったから、スカートとかが危うかったんですよね。オメガさんが『小菊!』って声を掛けると、すかさず妻鹿さんが上着で隠してくれたでしょ、すごいと思ったんです。だって苗字じゃなくて名前ですよ、妻鹿さんのことを下の名前で呼ぶなんて……それで、妻鹿さんも『うん!』と言って、ずっと上着でスカートを押えてくれて……あの呼吸の合い方……あれは……その……彼と彼女の関係だったんですね!

 目をキラキラさせて、増田さんはため息をつく。

「ちょ、あの、それはね(;'∀')」
「入学式の日から、たびたび二人の様子を見せてもらいました。お二人は理想的な高校生カップルです( #´艸`#)!」

 この思い込みに一言言おうとすると先生たちがやってきたので中断せざるを得なかった。

 増田さんの勢いは止まらずに、先生たちにも感動を与えてしまった。

 先生なんだからさ、誤解は正してほしかったんだけどね。

「個人情報は言えないからな……」

 あたしとあいつが兄妹だということは伝えてくれない。

「でも、留年生じゃないことは言っておいたぞ」

 田中先生ね……不器用すぎ!

 入学二週目の今日、あたしは、よくできた過年度生ということになってしまった!

 過年度生ってのは、前年度に別の高校を中退して、新たに受験した新入生のこと。で、これって、留年生であるよりも人の想像力を刺激してしまうのよね!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート
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