大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・17『総務二課の秘密・1』

2022-08-28 13:30:30 | 小説3

くノ一その一今のうち

17『総務二課の秘密・1』 

 

 

 銀行とかスマホの店に行ったらいるじゃない、コケシに手だけ付けたようななまっちろいロボット。

 胸のとこにモニターが付いていて、お客用のインタフェイスも兼ねてるやつ。

 そういうロボットが侍言葉で迫ってきた。

「どうぞ、お掛けになって、暫時お待ち下され」

「はい、ありがとうございます」

 ロボット相手だけど、きちんと受け答えしておく。ロボットはもちろん、部屋のあちこちにカメラやセンサーとかがあって、油断がならない。

 下げた頭の下にロボットの一本足、そのつま先にカメラ。スカートを押える手に力が入る。

 

 ロボットが引っ込んで、目だけで観察。

 

 観察と言っても、キョロキョロはしない。

 ソファーの背後は座る前に確認済み、ドアの周囲はソファーに腰を下ろす瞬間に、パーテーションの向こうは六人分の事務机とロッカー、窓に背を向けて管理職(たぶん部長)のデスク。壁の半分はロッカーやキャビネット。天井には冷暖房用のダクトの吹き出し口。観葉植物が二鉢。

 はっきりそれと分かるカメラは、おそらくダミー、実用はデスクライトのフレキシブルパイプやダクトのスノコの中。今どきの事務所には、ややそぐわない印象派の肖像画。その少女の視線がおかしい、瞳にカメラ……ダミーだ、本物は額縁に隠してある。ロッカーの前にはパンチカーペット、おそらく感圧のセンサーが仕込んである。

 数秒の内に気が付いたんだけど、ガン見はしていない。

 視界の端に捉えただけで見当はつくんだ。

「やあ、お待たせしてしまって申し訳ない!」

 え?

 元気な声で入ってきたのは、百地の社長室に来ていた狸じじいだ。

 多少驚いたけども、気取られないように立ち上がって頭を下げる。

「百地事務所の風魔そのさんだね、徳川物産社長の徳川です」

「は、はい、よろしくお願いします」

「総務二課は社長の直属なんだ。よろしくね」

「こちらこそ……紹介状と履歴書です。御検分ください」

「はい、おおよそは百地社長から伺っているよ……ほう、両方とも手書き、それも達筆だ……預かります」

「どうぞ……」

 秘書っぽいオネエサンがお茶を置いてくれる。

「ありがとうございます」

 ん、気配が事務服のオネエサンといっしょだ。

「秘書の桔梗君です、一課の樟葉君とは姉妹なんでね」

「あ、失礼しました」

「うちは『徳川物産』なんて大層な社名なんで、ちょっと驚いたでしょ」

「いえ、お名前の通り、立派な会社だと思いました」

「戦前からある会社だからね、設立は大正三年です」

「1914年ですね」

「ほう、直ぐに西暦換算ができるんだ」

「たまたまです、第一次大戦が始まった年ですから」

 英数は苦手だけど、社会は、ちょっとだけ得意。

「そうだね、うちも大戦景気をあてこんで設立した貿易会社です。本業を支えるためにね」

 本業?

 ちょっと意外。丸の内にビルを構えて物産会社を名乗っているんだから、堂々の貿易会社だよ。貿易が本業でなきゃ何が本業?

「徳川の二代将軍を知っているかなあ?」

「えと……徳川秀忠だと思います」

「そう、実直な人でね、側室を持たなかった」

「聞いたことあります、奥さんが側室を持つことを許さなかったんですね」

「うん、でも一回だけ浮気したことがあってね、それも男の子が生まれたんで、保科(ほしな)という大名の養子にしてしまうんだ」

「それは知ってます、保科正之ですよね、会津藩の殿さまになるんですよね」

「よく知ってるね、その通りでね、秀忠はお江が死んだあと、やっとお目通りを許して松平の姓を与えてやるんだ」

「…………」

「その子孫の殿様が、幕末に成り手の無かった京都守護職を引き受けて、新選組のスポンサーになって、そのために幕府が瓦解した後は薩長にいじめられちまった」

「白虎隊の悲劇とか……」

「そう、お取りつぶしは免れたけど、米の取れない下北半島に転封されて、ずいぶん苦労したんだ」

「下北半島って、恐山のあるところですよね?」

「そうだよ。でも、それが本題じゃないんだ」

「?」

「実はね、秀忠には、もう一人隠し子がいたんだ」

「え?」

「御庭番の娘とできてしまってね」

「おにわばん……御庭番……ああ、将軍直属の忍者ですね」

「この娘との間にも男の子が生まれてね。これは、さすがに言い出しかねて、歴史には残っていない」

 そこまで言うと、社長は、じっとわたしの顔を見る。

「見目麗しい……とは、女性を褒める言葉だけどね、まさに眉目秀麗な男子で、頭も良くて学問にも秀でていた。母親からは優れた身体能力を受け継ぎ、恐らくは、徳川三百年の歴史で随一であったであろうと言われている……」

 じっと目を見つめられて、次の言葉が出てこない。

「え、えと……」

「ここから先を聞いてしまったら後戻りはできなくなる」

「は、はい」

「実はね、その隠し子の子孫が……この、わたしなんだよ」

「え、え……はい……」

 

 いろんな意味で反応に困ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・48『(#^.^#)こんな顔して笑う風信子先輩』

2022-08-28 06:53:04 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

48『(#^.^#)こんな顔して笑う風信子先輩シグマ 




 ね、茶道部に入らない?

 優しい言葉の響きに、ついホロっとしてしまったけど、風信子先輩はとんでもないことを言っている。


 仮にも、あたしたちは新入部員の勧誘をやっているサブカル研究会の二年生と三年生なんだ。

 今日は一人も部員を獲得できなかったけど、一応独立した同好会なんだよ。

 そのあたしたちに勧誘を掛けてくるなんて、ちょっと心に隙間風。

「それって、坊主(釣りの用語で収穫無しの意味)の俺たちに、お茶でもって意味なんだよな?」

「それならコンビニでお茶菓子とか買ってくるぞ」

 オメガ、ノリスケ両先輩は風信子先輩とは幼なじみなので、言葉の裏を解釈している。

「ううん、文字通り勧誘してんの。でも、とりあえずお茶会でもいいわよね、ちょっと風が冷たくなってきたし」

 ノリスケ先輩はコンビニに、あたしたちは茶道部の部室になっている作法教室に向かった。

 

「いいなーいいなー、大きな和室が二つもあるじゃないですかー」

「待っててね、いま、お茶入れるから。オメガは、ちょっと手伝って」

「ああ、いいよ」

 本格的なお点前が始まるのかと思ったら、続きの板の間から、オメガ先輩が電気こたつを運んできた。

「真ん中だとコードが足りないから、床の間寄りにね」

「分かった」

「こたつのお布団とかあるんですか?」

 作法教室は純和風だけど、鉄筋校舎の一階なので、けっこう寒い。

「押し入れ開けたら座布団なんかと一緒に入ってる」

 こたつの用意をし終ると、風信子先輩がお茶道具一式を持って現れた。

「それ、普通の……」

「そうよ、キチンとしたお点前は、正式な部活の日か行事の時にしかやらないわ」

 出てきたのは、茶筒と電気ポットと急須と湯呑だよ。

 お湯が沸いたころにノリスケ先輩が、コンビニ袋をぶら下げて戻って来た。

 こたつの四辺に収まってお茶会が始まった。

「他の部員は来ないのか?」

「部活の日じゃないし、全員集まっても三人しかいないしね」

「さ、三人なんですか!?」

「そんなに少ないのか、茶道部って?」

「過疎のネトゲみたいだよなあ」

「卒業した三年生がいたころは七人だったんだけどね」

 そう言いながらコポコポとお茶を注ぐ風信子先輩。さすが茶道部で、あたしの湯呑には茶柱が立った。

「あ、あれ、みなさんの湯呑にも茶柱が……」

「へへ、一応茶道部の部長だからね」

 ホーっと、サブカル研の三人は感心する。

「茶道部もサブカルも頭文字は『さ』でしょ?」

「あ、そういえばそうだな」

「だから、気楽に『さ』道部っていうのはどうかしら?」

 風信子先輩が奇妙なことを言い出した。

「「「『さ』道部?」」」

「うちの正式な部活は、月に一度お茶の先生に来てもらって稽古するときだけなのよ、それ以外は好きな時に集まってお茶会やってるのが茶道部なの」

「へー、そうだったんだ」

「なんか、いつでも地味~にやってらっしゃるって感じだったんだけど」

「こんなきちんとした作法室使ってるもんね。でもね、部員が三人に減っちゃって寂しいのよ。お茶会やっても、部員が一人ってときもあるのよ」

「あーー、この和室で一人というのは寂しいですよね」

 あたしは『君といた季節』ってエロゲで、ヒロインが一人旅館に泊まるシーンを思い出していた。あれは、チョー寂しかった。ま、その効果で、彼との再会フラグが際立ってくるんだけどね」

「でさ、『さ』道部ってくくりでやってこーよ。むろんわたしも参加させてもらうからさ」

「え、それって、先輩もサブカル研やってもらえるってことなんですか?」

「まあね、ま、持ちつ持たれつということかなあ」

 そういうと、先輩は、いそいそと立ち上がり、隣の部屋にある水屋ダンスみたいなのを開けた。

 すると、ズイーンと音がして、パソコンが三台せり出してきたではないか!

「ま、お茶会しながらこんなこともやってるの。話題は豊富でなきゃね。奥には、もう二台ノートパソコンもあるわよ」

 (#^.^#)こんな顔して笑う風信子先輩はただものではないと感じたよぉ……。


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート

 

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