大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・336『早起きグッジョブ』

2022-08-13 11:22:48 | ノベル

・336

『早起きグッジョブ』詩(ことは)    

 

 

 予備知識が無かったら軽く見ていたと思う。

 

 エディンバラのミリタリータトゥーと言うのは、まあ、ライブですよ。

 スコットランドの中心であるエディンバラ城の大手前広場に臨時の観客席を作って、八月の二週間あまり、夕方から夜にかけて大手前広場でくり広げられるライブイベント。

 元々は、第二次大戦の後、戦勝国とはいえ疲弊した国民のために、スコットランドとイングランドの連隊が軍楽隊や儀仗兵を動員して実施したイベント。雰囲気としては、オリンピックの閉会式の雰囲気に似ているかな。

 軍隊の主催だから、軍楽隊のパレードや演奏が主体。スコッチウィスキーのラベルみたいな、熊の毛皮の帽子にタータンチェックのキルト(女子高生のスカートみたいな)を身に着けた兵隊さんたちが、ノシノシとパレードしながら演奏するのは壮観です。

 駅前広場は、サッカーコートぐらいしかないので、突き当りまで行ったらパレードごと回れ右して所定の位置に着く。

 すると、次のグループというか部隊がパレードして来て、同じように所定の位置に着く。

 何曲か演奏すると、次の出し物の部隊やグループがやってきてパフォーマンスを繰り広げる。

 出場するのは、イギリスだけじゃなくて、世界中から40か国以上の軍楽隊やグループがやって来る。何年かに一度は日本の自衛隊も参加して、評判をとっている。

 中高と六年間吹奏楽をやっていたので、さくらたちよりは深くのめり込んでしまう。

 軍楽隊というのは、ブラスバンドだから、思わず自分のパートであったサックスを探してしまう。

 探すんだけど、バグパイプに目と耳を持っていかれるのは、やっぱり伝統の力なのかも。

 お母さんが言っていた『丘の上の王子さま』がバグパイプじゃなくて、サックス吹いていたら、キャンディーの人生は違ったものになっていたかもしれない。

 半年前、大和川の河川敷で久々にサックスを吹いてみた。

 あれが、サックスでなくってバグパイプだったら、キャンディーみたいな子が現れて、ちょっと面白くなったかも。

 いや、居るよ。

 さくらですよ。

 キャンディーみたいなブロンドじゃないし、グリーンの瞳でもないけど、そばかすはある。

 なによりも、あの明るさと好奇心は、アドバンテージだと思う。「さくらって、キャンディーみたいね」と言ってやったら、どんな顔をするだろう? イチビリさんだから、キャンディーのコスプレとかしてハローウィンの心斎橋なんかに行ってしまうかもしれない。

 

 この三日のレッスンで、初歩的なスコティッシュダンスはこなせるようになった。

 ブキッチョなわたしが踊れるようになったのは、さくらたちのノリが良かったこともあるけど、インストラクターのアンソニー先生の教え方が上手いから。さくらは、イケメンだということにアクセントを置いてるけどね。

 このエディンバラとヤマセンブルグの旅行は有意義だ。って、まだ半分なんだけどね。

 さくらたちと一緒に居ると、毎日がサプライズ。

 頼子さんなんて、身分的には王女様同然なんだけど、毎日、なにかしらの楽しみを見つけて生きていくのはさくらたちと同じ。旅行の前半で三回も「ゲゲゲ!」と叫んでいたしね。日本に帰ったら『ゲゲゲの王女さま』って小説を書いてなろう系サイトに投稿してみようかしら。

 

「あら、コトハ、もう起きてらっしゃたの?」

「あ、陛下!?」

 

 早く目が覚めてしまって、朝焼けの庭に出たら、なんと女王陛下に出くわしてしまった。「おはようございます」も言い忘れるくらい、ビックリして気を付けしてしまった。

「早起きがクセになるには50年ほど早いわよ」

「あはは、つい、ついですよ。お寺で行事がある時とかは早く起きて手伝うこともありますから」

「そうだったわね、あなたはお寺の娘さんだったわね」

「は、はい、不信心者ですが」

「ふふ、謙遜なんでしょうけど、それぐらいがいいわ。若い時に深すぎる信仰心を持っちゃうと、ジャンヌダルクになっちゃう」

「そうですね、火あぶりにはされたくないですから」

「フフ、あなたたち、上達が早いって、アンソニーに聞いたわよ」

「は、はい、アンソニー先生の教え方がいいんです」

「そうね、それに、みんなで楽しくやろうという積極性だと思うわ。アンソニーも『教えていて楽しい』って言ってましたよ」

「あのう?」

「なにかしら?」

「陛下は、いっしょにレッスンとかなさらないんですか?」

 ジョギングはいっしょなんだけど、この三日、レッスンではお会いしていないので聞いてしまった。

「国家元首だから、みっともないところは……ね、恥ずかしいでしょ」

「あはは」

「大丈夫、完成品は、ちゃんとお目にかけますからね」

「あの……ヤマセンブルグの女王様が、どうして、スコットランドのフェスティバルに出られるんですか?」

「ヤマセンブルグの王族がイギリス国籍も持っていることは知っているわよね?」

「はい、頼子さんから聞きました」

「ヤマセンブルグは、その建国に当って、ずいぶんイギリスに助けられましたし、イギリスの戦争にも関わってきました。このスコットランドにもね。その縁でというか都合でイングランドやスコットランドの人間として扱われたこともあるのです。出自はスコットランドの辺境伯でしたしね。まあ、独立の気概を表すために、国王一人は、即位と同時にヤマセンブルグの国籍一本になるんですけどね」

「そうだったんですか。あ、でも、ミリタリータトゥーに参加されるって凄いことだと思います。ミリタリータトゥー自体、とってもいい行事だと思いますし」

「そうね、戦後すぐに始まったイベントだけど、国民から支持されて、良く続いています」

「元々は、軍隊が国民を慰め励ますために始まったイベントなんですね」

「そう、国民も軍隊もよくやっています」

「はい、日本では考えられない行事ですね」

「それは違うわ」

「え?」

「日本では、エンペラーがなさいました」

「は?」

「エンペラーは、戦後二十年あまりかけて全国を周られて……日本語では『巡幸』ですね、直接国民を励まし慰められました。あの真似は、他国の王族では、ちょっと無理でしょうね」

「……そうなんですか」

 ちょっと盲点だった。

「そうですよコトハ、古来、敗戦に耐えられた王室は天皇家だけです。これは、GHQが占領政策のために残しただけでは説明が尽きません。日本人は、もっと誇りに思っていいことです」

「はい」

 我ながら、神妙な「はい」が出てしまった。

「あ、バグパイプ」

 控え目にバグパイプが鳴り出したかと思うと、庭の端っこで、アーネストさんのバグパイプに合わせてスコティッシュダンスの練習をしているソフィア姉妹が目に入った。

「あの二人も踊るんですか?」

 レッスンにも付いてこないし、てっきりバグパイプ要員だと思っていた。

「はい、あの二人には両方やってもらいます」

 大変だ……とは思ったけど、庭のお花畑の向こうで踊っている姉妹は、朝露の妖精のように見えた。

 

 それから、こんなにスムーズな会話ができたのは、陛下自身日本語がおできになるだけではなく、女王陛下の後ろで適宜通訳してくれたマーガレット少佐(ほら、あのメグさん)が居たからです。

 通訳しながらも、気配すら感じさせない。いやはや、ヤマセンブルグの諜報部はグッジョブです。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・085『握りたてのお握り』

2022-08-13 08:23:17 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

085『握りたてのお握り』   

 

 


 女将さんが風呂敷包みを開くと、握り飯は数も大きさも数百、数千倍になって、まるで目の前に白い山ができたみたいになった!

 しかし、数と大きさが増したばかりではない。

 炊きあがったご飯の握りたてという感じで、蒸気爆発寸前の火山のように湯気を立ち上らせ、あたりの風景を蒸気に滲ませている。

「す、すごい迫力……」

「赤城山にメタモルフォーゼしちまってますからね、並みの量じゃ追いつきません……クロノスのやつ、出会った頃は偏屈な巨神でしたがね、もともとは親の愛とか家族の温もりとかに飢えた、ブキッチョな男だったんでござんすよ。それが身に合わない時間の管理とか任されちまって、上っ面は偉そうなこと言ってますけど、どうしていいか分からなくっちまって、ヒルデさんに尻もちこんだんでござんすよ」

「時空の歪を直してほしいって、駅前の時計屋さんで頼まれちゃって……まだいくつもこなしていないんですけどね」

「ヒルデさん真面目だから、付き合ってくださったんですね……いくつおやりになったんですか?」

「まだ二つです。ミッドウェーの利根4号機とモースの大森貝塚……利根4号機は修正しても結論は変わらなくって」

「あれは、一筋縄ではいかない歪でござんす。クロノス自身、何度やってもできてないんでござんすよ」

 ゴゴゴゴゴゴ

「すごい地響き……」

「姿隠して音隠さず。忍び寄って来ても地面が震えっちまう……ちょっと下がった方がよござんす」

 ズザザザザザザザァーーーー!!

 巨大なサンドペーパーで地面を擦るような音がしたかと思うと、目の前のお握りの山の湯気が、さらにムレムレと立ち込め、目を開けているのも辛くなってくる。

 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ…………!!

 白い闇の中で乱暴な咀嚼音が響き、こちらの脳みそまで攪拌されるような気持ちの悪さで、思わず目をつむってしまう。

 ザズズズズズズズゥーーーー!!

 さっきとは逆廻しのような音が響いて、唐突に静けさが戻って、白い闇が開けてくる。

「食べるだけ食べたら、行っちまいましたね……ほんとうに、しょうのない亭主でござんす」

 いやはや、大男はトール元帥とその仲間で慣れていたはずなんだけど、今度ばかりはビックリした。

「これで、当分、ヒルデさんの前には現れないと思います……どうぞ、これを」

 女将さんは、懐から小さな竹の皮の包みを取り出した。

「ちょいとばかりくたびれっちまいました。お新香しか付いてませんけど、ひと休みってことにしましょう」

「はい、いただきます」

 女将さんがクルリと指を回すと、峠の茶屋のようなのが現れて、緋毛氈敷いた縁台には盆に載せた湯呑が二つ。

 コンビニのそれよりも一回り小さな握りをゆっくりといただく。

「それは、わたしが預かっておきましょう」
「それ?」
「ゼウスとポセイドンが預けた……」
「ああ……エーゲ海の真珠」
「亭主は安心して寝ると、口を開けるクセがあるんです。夫婦仲が悪くなってからは、めったに口を開けて寝たりはしませんけどね。もう一度、亭主と向き合ってみますよ……いえ、夫婦仲がもどらなくっても、文句を言おうと口を開けたところを狙って飲ませてやります。なあに、ゼウスやポセイドンを亭主から護って育てたことを思うと、どうってことはありませんよ。だから、ご安心なすって……」
「しかし」

 一度は失敗したが、仮にもブァルハラの姫騎士たるブリュンヒルデが引き受けたのだ。

「はい、確かに預かりました」

 開いた女将さんの手には、エーゲ海の真珠が載っている。

「申し訳ない、わたしの心が弱いのだろうか」

「いいえ、あの亭主と一緒になり、ゼウスやポセイドンを育てた事実の重さですよ。あなたも、いずれ神の子を宿し、育てるようになれば、お分かりになります」

「わたしが?」

 戦いと、父オーディンとの相克に明け暮れ、今は、この異世界で五里霧中の身には及びもつかないことだ。このブリュンヒルデに、そんな日がやってくるというのか?

 それに応えることはなく、古き女神は、暖かい慈愛の微笑みを残して消えて行った。
 

 周囲の風景も輪郭と色彩を失っていき、豪徳寺の自分の家に変わっていった。

 リビングでは、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがテレビの天気予報を見ながら食後のお茶を楽しんでいる。

 あとで街の様子を見に行こう。

 たぶん、街も元に戻っているだろうしね……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・33『ちょっと凄いのよ』

2022-08-13 07:07:41 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

33ちょっと凄いのよ』 



 凄い凄いを連発している。

 連発しているのは祖父ちゃんだ。

 平仮名の「すごい」でも片仮名の「スゴイ」でもなく漢字の「凄い」だ。

 マンガの吹き出しじゃないから、祖父ちゃんの口から漢字が飛び出してくるわけじゃないんだけど、感じとしては漢字(親父ギャグみたいだ)なんだ。

 なにが凄いかというと、昨日の大相撲春場所千秋楽結びの一番だ!

 前日の怪我で休場するんじゃないかと思われていた横綱は、左肩から胸にかけての痛々しいテーピングの姿で大関を小手投げで打ち破った。

 例のサイカイモクヨクして、祭りの打ち合わせに神社に行った祖父ちゃんは陽が傾いても帰ってこねえ。

「三時には終わったんだけどねぇ」

 先に帰って来たお袋は晩飯のダンドリがつかないので「様子を見てきて」と俺に命じた。

 スマホで連絡すればいいんだけど、祭りの打合せは神聖なものなんで電源を切ってるんだ。

 

 家から三分、神社の緑が見えてくる。本殿や拝殿は古寂びてるのに、鳥居は少し新しくて、その周りの玉垣(石でできたフェンス)はもっと新しい。

 本殿と拝殿は江戸時代、鳥居は昭和、玉垣は平成の造作だから、バラバラなのな。

 玉垣には寄進した企業や個人の名前が彫ってある。鳥居から数えて五つ目だから、多額寄進者。そこに『妻鹿屋十二代目』とある。つまり、うちのことな。当時は、まだパブをやってたんで、置き屋のころの屋号で彫ってある。

 鳥居の寄進者は境内に入ったとこの石碑に彫ってある。そこには置き屋だった十代目の屋号があるんだけど、江戸時代の拝殿改築の時のは見たことが無い。当時はお触書みたいな板に書いただけだったので残ってないんだとか。

 とにかく、神社も我が家もクソが付くほど古くからあるってことさ。

「ちょっと大勝負になってんのよ!」

 社務所で声を掛けると、神社の娘で幼なじみの風信子(ふじこ)が巫女装束に似合わないテンションで「いらっしゃい」も言わずに叫びやがった!

「大勝負!?」

 祖父ちゃんたちが喧嘩でもおっぱじめたんじゃないかと、素っとん狂な声が出てしまった。

「オメガもいっしょに観て行きなよ!」

 神社の豊楽殿に行くと、三十人ばかりの役員さんたちが100インチのテレビにかじりついていた。
 相撲なんて久しく見ない俺だけども、土俵で睨みあっている横綱と大関には圧倒された。

 でも、あの怪我じゃ勝てないなあ。

 圧倒されながらも俺の常識は、そう予測した。

 その満身創痍の横綱が、見事に勝ってしまった!

 三十畳の豊楽殿は沸きかえった。WBCの準決勝戦よりもボルテージが高い。
 あっという間に豊楽殿は宴会仕様になって、ポンポンとビールの栓が抜かれる。

「妻鹿屋の若!」「ゆうちゃん!」

 俺にも声が掛かって(さすがに街の年寄りたちはオメガとは呼ばない)ビールを注がれてしまう。

「あ、どもども」

 こんなときに「未成年ですから」というのはヤボだ。
 でも酔いつぶれるわけにはいかないのでグラス二杯で勘弁してもらう。
 風信子は心得ていて、年寄りの相手をしながらも俺をエスケープさせてくれる。

「お祭りもね、この春は、ちょっと凄いのよ。明日の昼過ぎは見ものだよ!」

 逃がしてくれながらも、風信子は俺をけし掛けてくる。

 この街の子どもたちは、楽しそうなことがあると、みんなでけし掛けあうんだ。
 一人で楽しいことは二人で、二人で楽しいことは三人、三人はみんなでってな具合で広げていく。
 年寄りたちが騒いでいるのも、このけし掛けあいが根っこにあるんだろう。

 で、一夜明けた今日。

 俺はシグマとノリスケを呼んで、再び神社に来ている。
 俺もけし掛けたわけだ。

 せっかくだから、サブカルチャー研究会の発足と弥栄(いやさか)を神さまに祈るってイベントにしてやったんだ。

「あたし、この神社は知らなかった!」

 二礼二拍手一礼を終えると、神社のなにかに感応したのか、シグマは興奮の面持ちだ。

 手水舎(てみずや)の向こうが車の出入り口になっていて、一台のトラックが停まっている。

 そろいの法被を着た氏子さんたちが、荷台のロープを外し終わって、ブルーシートを剥がしにかかっている。
 風信子が言っていた「ちょっと凄い」はこれなんじゃないかと、ここに来た時から目を付けてんだけどな。

「あ、神主さんが出てきた」

 小父さんが風信子を従え、手には大きな幣(ぬさ=ハタキの親分みたいなの)を構えて現れた。

 バサバサ

 オオ!!

 シートを剥がされ、その姿を顕わにしたものに、三人揃って感嘆の声を上げることになったのだ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任


 

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