大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・20『名湯傀儡温泉』

2022-08-10 16:04:22 | 小説6

高校部     

20『名湯傀儡温泉』 

 

 

 それから二日かけて、ドイツ人捕虜ゆかりの地を見て回った。

 

 傀儡温泉は、要の北にある古い温泉だ。

 行基菩薩というから、奈良の大仏ができたころだろう。

 行基の弟子という僧侶が谷川の水が暖かいのに気が付いて発見したと言われている。

 不思議な温泉で、本人が湯治に来なくても、本人の名を書きつけた人形(ひとがた)や、本人が大事にした人形を温泉に浸からせてやるだけで効能がある。

 いつの時代からか、板を切り出した人形(ひとがた)よりも、より、本人に似せた人形の方が効き目があると言われ、家人や従者に人形を持たせて湯治をさせるようになった。

 そこから、傀儡温泉という名前が付けられた。

 

「いやあ、なかなか大したものだなあ」

 頭に手拭いを載せた伝統的入浴姿で悦に入る螺子先輩。

 幼稚園のプールほどの露天風呂の縁には人形たちが、胸や肩まで浸かって並んでいる。半分くらいは、そのままお湯に浸かってるんだけど、もう半分は湯船の外だ。おそらく耐水性のない人形なんだろうけど、湯煙を通して見ると距離感が狂って、人が湯治をしているようにも、妖精たちが温泉を楽しんでいるようにも見える。

「市松人形、仏蘭西人形、リカちゃんにバービー、今風のドールまで……古い奴は温泉の成分が絡みついて、わけの分からなくなったものまであるぞ」

「あまり古くなったものは、お寺に頼んで供養してもらってるようですね」

「だろうな、見ようによっては人形を虐待してるみたいだからな」

「そんな風に思います?」

「ああ、わたしだって人形だ。温泉で薄汚れて朽ち果てていくのは、ちょっと哀れを感じる。できたら、もう少し早く供養してやって欲しいものだ」

「でも、古い人形が並んでいる方が効能があるように見えるんでしょうねえ」

「そういうものなのか……」

 哀れを催したのか、背後の人形を見ようと身を捩る先輩。

「あ、タオルが……」

 緩んだタオルがハラリと解れてしまう。

「もういいだろう、ちゃんと下に水着も着ていることだし」

「それが水着と言えるなら……」

 先輩の水着は全ての面積を合わせても、ハンカチ一枚分あるかどうかというシロモノなのだ(-_-;)

「だいたい、どうして一緒に入らなきゃならないんですか」

「だって、部活だぞ。だって、この露天風呂は混浴じゃないか、一緒に入らない方がおかしいだろ」

「中には、混浴でないのもあったんですけど!」

「固いことを言うな、だいたい、この温泉ができたころは全て露天の混浴だったんだぞ」

 そう言いながら、タオルを巻きなおすところは、少し進歩したのかもしれない。

「もったいないな……」

「な、なにがですか!? そ、そんな潤んだ目で見ないでください!」

「残念だとは思わないか……」

「お、思いません!」

「そんなつれないことを言うな、わたしの胸の内も少しは聞いてくれ!」

「いや、あの……ですから」

「いいじゃないか、こないだは、裸のお尻にラウゲン液をその手で塗ってくれたではないか」

「いや、塗りましたけど、背中ですから! メンテのためだし、そんなつもりじゃないですから!」

「まあいい、とりあえず、隣にいっていいか?」

「い、いいですけど、く、くっつかないでくださいよ」

「すまん、人形というのは人恋しいものなのでなあ……」

 あ……それはそうだ……人形は、人に見られ、触られ、可愛がられ、その反対給付に愛情が与えられるものなのだ。

「せっかく、傀儡温泉に浸かっても、わたしには治してやる人間が居ないんだ」

「でも、先輩は、時空を超えて要の街とか、多くの人とか助けてるじゃないですか」

「それはな…………いや、止そう。わたしとしたことが、ちょっと甘えすぎたな」

 ジャブジャブ

 勢いよく立ち上がると、容のいいお尻を振りながら脱衣場に戻って行った。

 

「これだ!」

 

 風呂から上がって「卓球でもしましょうか」と水を向けたんだけど「調べものがある」と言って、温泉の片隅にある資料室へ僕を連れて行った。

 あまり整理されていない資料の中に、数枚の古い人形(ひとがた)の板切れがあった。

 百年以上たっている人形(ひとがた)の文字は、ほとんど読むことができない。

「わたしの目は赤外線も感知するんだ。フェルメールの天使を発見した赤外線カメラよりも優秀なんだぞぉ……」

「なんて書いてあるんですか?」

「アーデル……ギュンター……ロッテ……ディーター……カサンドラ……エリーゼ……子どもの名前、大人の名前、親であったり、祖父母であったり、友人であったり……捕虜たちの身内や知り合いだ……ふふ、中には残してきた犬の名前まである」

「……犬は、飼い主が居ないと寂しくて死んでしまうものも居るって言いますね」

「そうなのか?」

「え、あ……」

「そうなのかも知れんなあ……」

「あ、でも、忠犬ハチ公みたいなのも居ますから(^_^;)」

「ああ、渋谷の……死ぬまで渋谷の駅で主人を待っていたんだったなあ」

「ええ、そうですよ!」

「でも、それって、毎日絶望していたということではないのか、終電を過ぎても主人は返ってこないんだから」

「あ……」

「誰か、犬にも分かる言葉で話してやるやつはいなかったのか?」

「それは……」

「ハハハ、真顔になるな。冗談だ」

 先輩なら、犬語で説明して、それからスリスリしまくって、引き取った上でいっしょに暮しただろうと思った。

 

 なにかを掴んだようだけど、これだと思う本命のものには出会えていないようだ。

 それくらいは分かるようになってきた。

 でも、それが何なのか、まだ先輩は話してはくれない。

 Nツアーは、もう少しかかりそうだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

 

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せやさかい・333『スッスッ ハッハー』

2022-08-10 11:17:27 | ノベル

・333

『スッスッ ハッハー』さくら   

 

 

 スッスッ ハッハー スッスッ ハッハー

 

 体育の長瀬先生に習った呼吸法で、朝からランニング。

 ほら、例のおそろのジャージ着てね。昨日、女王陛下とサッチャー、いやイザベラのおばはんが着てたのと同じやつ。

 ジャージ言うても組み合わせは自由。

 長袖長パン、半そでにハーフパンツ、ショートパンツ、タンクトップと揃てるんです。

―― 体調に合わせてお召しになればけっこうでございます。一式だと、かなりかさばりますが、帰国される時には別便で、領事館、あるいはそれぞれのご自宅に送らせていただきます ――

 そう説明してくれたんは、ソフィーを一回り小型にしたようなメイドさん。

「ソニー!?」

 頼子さんが目を剥いて驚いた。

「ご無沙汰いたしております、殿下。ご滞在中、姉のソフィアに成り代わりお世話させていただきます」

「ソフィーは?」

「はい、エディンバラには居りますが、軍務もございますので、行き届かない分を、わたしが務めさせていただきます」

 せや、ソフィーはヤマセンブルグ軍の少尉さんでもあったんや。

「みんな、紹介しておくわ」

「いえ、自己申告いたしますわ。ソニア・ヒギンズと申します。殿下がお呼びになったようにソニーと呼んでくださいませ。ソフィアの妹ではございますが、国籍はイギリスでございます。英国王室のメイドではありますが、相互研修制度に基づき、ヤマセンブルグ王室で研修させていただいております。このあと、スィティングルームで午後のティータイムでございます。特にドレスコードはございませんが、陛下のご体調に合わせてエアコンは低めに設定しておりますので、お気をつけくださいませ。それでは、30分後にお迎えにあがります。なにかご不自由なことがございましたら、内線の007で呼び出してくださいませ。失礼いたしました」

 優雅に頭を下げると、ソフィーの妹は静かに退出していった。

「顔は似てるけど、ぜんぜん感じちゃうねえ」

「日本語だってペラペラだし」

 留美ちゃんと二人で感心する。ソフィーは今でこそネイティブ日本人みたいに喋るけど、三年前は会話には翻訳機使ってたし、語尾に「です」を付けるクセが直るのは日本に来てからやった。

「ソニーは魔法が使えないからね。その分、学習能力と身体能力は姉以上。そっか、国籍変えたんだ……」

「ソフィー先輩。魔法使いだったんですか!?」

「うん、ハリポタみたいなことはできないけど、いろいろと少しはね……」

 うちは憶えてる。エディンバラのパブの地下で悪魔と戦ったソフィーを。勝ったとは言い難いけど、ボロボロになりながらも、頼子さんとうちらを守ってくれたしね。

「ソフィーは、いっしょには行動しないの?」

 すっかりお仲間意識の詩(ことは)ちゃんが質問。

「どうだろ、そっちの方は、わたしにも分からなくって。でも、ソフィーも本心じゃ、いっしょに遊びたがってるから、顔は出すと思うわよ」

 

 そのあと、ソニーの予告通り、女王陛下とティータイム。

 

「エディンバラにもウクライナから避難してきた人がいらっしゃっるの、中には日本へ行くことを希望する人も居て、そういう人たちの相手をするのには、ソフィーはうってつけですからね。ヤマセンブルグもNATOの一員、軍事的に協力できることはあまり無いけど、出来ることはお手伝いしなくてはなりません」

 日本におったら対岸の火事やけど、ヨーロッパは切実みたいや。

「で、お祖母ちゃん、あのジャージ姿なんだけど……」

「あ、そうそう。今年はミリタリータトゥーに参加します」

「「「「「ええ!?」」」」」

「ほら、ミリタリータトゥーの最後にAuld Lang Syneをやるでしょ、あれに参加するの」

 Auld Lang Syneは『蛍の光』の原曲で、スコットランドに古くから伝わるお別れの歌。

 お別れだけと違って、催し物やらパーティーの最後にみんなで歌う曲。三年前のミリタリータトゥー観に行って、最後にめちゃくちゃ感動した。隣のイギリスのおっちゃんおばちゃんらと肩組んで……ああ、思い出しただけで思い出ポロポロやし!

「参加って、最後には、みんな立ち上がって歌うでしょ?」

「違うわよ、コートで歌いながら踊るのよ、スコティッシュダンスを(^▽^)」

「ゲゲゲ!!」

 出た! ゲゲゲのヨリコ!!

「スコティッシュダンス?」

 メグリン一人冷静……というか、分かってません。

「百聞は一見に如かずよね、ソニー、お願いね」

「はい、陛下」

 ソニーがリモコンを押すと、150インチはありそうなモニターにミリタリータトゥーのAuld Lang Syneが映し出される。

 大方は、ブラスバンドやねんけど、ヨサコイみたいに民族衣装のキルトを身に着けた一団が、バグパイプの演奏に合わせて踊らはります。

 両手上げたり方手にしたり、足は休みなくピョンピョンさせて、エルフとか精霊さんが踊ってるみたいで、見てる分には楽しい。

「そう、今年は、これで参加します!」

 

 そういうことで、まずは基礎体力。

 おそろのジャージで、ホリウッドの森の中を、みんなで走っております。

 

 スッスッ ハッハー スッスッ ハッハー

 くたびれてくると、ヒッ ヒッ ハー ヒッ ヒッ ハー

「それはラマーズ法だよ(^_^;)」

 詩ちゃんに注意される。

 ラマーズ法て、なに?

 森を出るころには、いつのまにかソフィーも加わって、ソニーといっしょに走って、ええ汗をかいてるエディンバラの朝です。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
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漆黒のブリュンヒルデQ・082『利根川沿いを進む』

2022-08-10 06:21:56 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

082『利根川沿いを進む』   

 

 

 
 人やモノが存在するのは、煎じ詰めれば人が『それが存在する』と認識しているからだろう。

 認識されないのは存在しないことと同じだ。

 わたしが令和の日本に飛ばされたのも、きっとそう言うことなんだろう。

 主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 
 我が名はブリュンヒルデなるぞ!

  大層な名乗りをあげても、わたしがブリュンヒルデと認められるのは、つまり、そう言うことなんだ。

 この令和の時代は、ゲームやラノベ、アニメのお蔭で北欧神話の神々は日本でも知られるようになった。

 スマホで神々を検索すると、ことごとく萌えキャラの姿に還元されて、ご本家の北欧の人々はブッタマゲているという。

 検索した我が真名の下にはモンストやバーサーカーやシグルド、アトリ、ポニョという属性が付いているが、そのことごとくがブリュンヒルデなのだ。

 それが、ダイダラボッチはモースが大森貝塚を発見して以来、存在感が薄い。

 クロノスも同様で、息子のゼウスとポセイドンの方が名が高く、豪徳寺あたりで時計店を営んでいるしかないのだろう。

 それを思えば不憫を感じないわけでもない。

 利根川に沿って歩み進んで左岸に渡る橋に差し掛かる。
 橋の向こうで商家の手代のようなナリをした小男が慇懃に頭を下げているのに気が付いた。

「武笠のお嬢様でいらっしゃいますね」

 こちらの名前で呼ばれたので、ちょっと面食らう。

「あ、はい」

「主人の命によりお待ち申しておりました。まずは、あの俥にお乗りくださいまし」

 手代の指し示す方角を見ると一両の人力車がうずくもっている。

「じゃ、俥屋さん、あとは頼みましたよ」

「へい」

 主人とは誰の事かと聞こうとしたが、手代と俥屋のやり取りに気を削がれ、そのまま俥上の人になってしまった。

 慇懃に頭を下げる手代の姿が小さくなっていき、俥は林の向こうに見えてきた街を目指していると見当がついた。

「俥屋さん、あの街は?」

「へい、前橋の街でございます」

「前橋?」

 前橋と言えば群馬県の首邑だ。それにしては時代劇めいて、瓦屋根が目立ってはいないか?

「そうだ、お飲み物を用意いたしておりました……これをどうぞ」

 俥屋は、俥の脇からグラスに入った葡萄酒のようなものを出してきた。

「これは?」

「旅の疲れが取れます、グッとやってください」

「あ、ありがとう…………あら、おいしい」

「そうでございましょ、ミキ〇ルーンでございますから」

「そう言えば、俥屋さん、中井貴一に似てる」

「いいえ、似てません」

「だって……」

 あとの言葉を継ごうと思ったら、急速に眠くなってきてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・30『三人揃ってアキバを目指す!』

2022-08-10 05:59:53 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

30三人揃ってアキバを目指す!』 




 いつもながら終業式はワクワクする、特に三学期の終業式は格別だ。

 学年の終わりで、二度とこの教室で授業を受けることもないし、クラスメートと顔を合わせることもない。

 なんといっても宿題が無いからな。一学期の始業式まで完全無欠のVACATIONだ。

 一言で言えば、高校生にとって最大最高の開放の日と言っていいな。

 解放されると餌場に向かうのは、俺もノリスケもサルと変わりがない。

「終業式って、学食は休みだったんだよな……」
「去年もやっちまったよな……」

 ノリスケと二人そろってバツが悪い。

 学食は、午前中の半日授業になった日から休みだ。
 昨日まではちゃんと覚えていて、家に帰ってから食べるか、帰り道のマックなどで済ましていた。

「おーし、アキバにでもくり出すか!」
「同感!……だけど、ちょっと懐が寂しい」

 ノリスケの眉がヘタレる。サラリーマンの息子には24日というのは厳しい日だ。

「まかしとけ! 今日は俺のおごりだ!」

 俺は祖父ちゃんから諭吉を一枚もらっていた。なんでかというと、アレだよあれ。

『君の名を』をやるので「小説執筆中入るべからず」って張り紙をドアに貼っただろ。

 で、それを額面通りに受け取った祖父ちゃんが感動してくれたんだ。

「なあに、すぐに書けなくってもかまわないだ。遊びに使ったっていい、文学ってのは無駄の回り道から始まるんだからな」

 学生時代に太宰治とかの無頼派に憧れたとかいう祖父ちゃんは孫に対しても前のめりな期待感がある。

「ほんじゃ、いっちょうくり出すか!」
「おう!」

 意気軒昂に振り返ると、財布を握りながら肩で息をしているシグマが立っていた。

 

「休みなんですかぁ……食堂(-_-;)」

 

 かくして、終業式の開放感と学食への思い入れを同じくする三人はアキバを目指した。

 詳細は明日に続く!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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