大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・325『旅の始まり』

2022-08-02 11:27:47 | ノベル

・325

『旅の始まり』さくら   

 

 

 もう三年もたってしもたんが嘘みたい。

 

 関空の国際線ロビーは、三年前と変わりはない。というか、鈍感なあたしは少々の変化には気ぃつかへんのかもしれへん。

「あちこち、コロナの注意書きがあるねぇ……」

 留美ちゃんは目をグリグリ回して違いに気ぃついてる。

「そうね、もう、マスクとか消毒とかが当たり前になっちゃったものね……」

 詩ちゃんは、ウェストポーチの中身をチェックしながらの感想。

「みなさん、ドリンク類は飲み干しておきましょう!」

 そう宣言すると、飲み残しのスポーツドリンクをグビグビ飲むメグリン。

「そうだね、液体は機内に持ち込めないもんね」

 みんなより、首一つ高いせえもあって、いまのメグリンを動画にしたらスポーツドリンクのCMに使えそう。

「飲み終えたら、ここに入れて、まとめてほりに行って来る(^▽^)」

 ニコニコ笑顔でレジ袋を広げてるのはテイ兄ちゃん。うちらを関空まで送ってくれたんやけど、目当ては頼子さん。

 このエロ坊主は頼子さんが中三やったころからのファンで、頼子さんが居てるとデレデレ。

「来週に入ったら盆のお参りで来られへんとこやった(^▽^)。まさかヤマセンブルグまで付いていくわけにもいかへんし、ほんま、今朝の出発でよかったなあ(^#▽#^)」

「嬉しいのは分かるけど、坊主のナリでにやけんといてくれる」

 テイ兄ちゃんのにやけっぷりは、そのうち本山か仏教会からクレームがくるにちがいない。

「おはよう、みんな!」

「「「「キャ」」」」

 いきなり声を掛けられたんで、四人ともビックリ。

 エロ坊主に呆れてると、不意に後ろから頼子さん。

「揃ってるわね、行こうか!」

 添乗のオネエサンのテンションの笑顔。この笑顔を見られへんのは、ちょっと可哀そうと、人ごみの向こうに行ったテイ兄ちゃんに目を向ける。

「ちょっとだけ待ってやってくれる、兄がゴミ捨てに行ってるから」

 にくていは言うても、やっぱり兄妹。詩ちゃんは優しい。

「頼子さーーーん!」

 アホが妹の優しさを踏みにじるような大声上げて走ってきよる。詩ちゃんも「いまのん取り消し!」いうような顔で睨んでる。

《わあ、テイ兄ちゃん!》

 マスクの下からやけど、頼子さんは、きちんと喜んで声を上げてくれます。

 ほんまに、ようできた先輩です。

「写真撮りましょ!」

 クス坊主でも、搭乗まで時間がないことを承知して、結論を言う。

「いいですよ(^▽^)」

 シャッターを押す瞬間だけ息を止めてマスクをとる。

 そうやって、ツーショットと全員の写真を撮って、いよいよ出国ゲートへ向かう。

「えと、ソフィー先輩は?」

 ゲートの手前でメグリンが立ち止まる。

「もう乗ってるわ」

 え、なんで?

 思いながらも流れにのって出国ゲート。

 一般のゲートと違って、VIPのゲート。

 そう、三年前と同じくヤマセンブルグの専用機で行くんです。

 頼子さんはヤマセンブルグの王位継承者。先月は奈良で不幸な事件もあったし、今度は大事をとった旅行になるんやそうです。飛行機も航路も三年前とはちゃうんやそうです。

「いってらっしゃーーい!」

 テイ兄ちゃんのアホ丸出しの見送りにも、これが最後とお愛想の手を振り返してやる。

 カルロス・ゴーンの一件で、三年前よりもきついセキュリティーやったけど、スイスイとプライベート機専用の駐機場へ。

 四機ほど並んでる中に、一つだけプロペラの付いてる飛行機……え、あれに乗るのん?

 シャトルバスが近づくと、前のドアから、男女の軍人さんが下りてきて敬礼してる。

「お馴染みさんだから、気楽にね……」

 頼子さんに続いてバスを降りる。

「操縦士は、三年前と同じジョン・スミス」

「ジョン・スミス大佐であります、殿下」

「昇進おめでとう、今度は長旅だけど、よろしく」

「こちらこそ、諸事情で旧式機ですが、ゆったり過ごしていただけるように心がけております」

「ありがとう……」

 次の女性将校に視線がいって、ぶったまげた!

「副操縦士を務めます。ソフィア少尉であります!」

「「「「えええ!?」」」」

 

 ビックリした!

 

 ビシッと敬礼した軍服姿は、目深に被った制帽で分からへんかったけど、うちらのお仲間のソフィーやおまへんか!

「この飛行は、ソフィー少尉の副操縦士の試験も兼ねております。よろしく願います」

「よ、よろしく(#-_-#)」

 頬こそ赤くしてるけど、軍服に身を包んだ姿は攻〇機動隊の少佐みたいや!

 七段のタラップを上がると、もう一人の軍服さん。 

「機内のお世話をさせていただきます……」

「あ、メグさん!?」

 三年前は副操縦士をやっていたマーガレットさんだ。

 シートに着いてから頼子さんに聞くと、メグさんは予備役から復帰したそうで、軍用のプロペラ飛行機(中は前のと同じくらいきれい)やし、世界は、うちらが思てるよりはシビアなんかもしれへん。

 それは置いといて、三年ぶりの大旅行が始まった!

 ブイーーーーーーン

 プロペラの双発機は、夏真っ盛りの大阪湾の空に舞い上がった……

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・074『利根4号機・3』

2022-08-02 06:48:58 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

074『利根4号機・3』 

 

 

 この時代のカタパルトは火薬を使う。

 火薬の爆発で瞬発力を得て蹴飛ばすように観測機を射出する仕組みだ。宿命的にカタパルトは射出のたびに大きな衝撃を受け、後年空母に使われる蒸気カタパルトよりも故障が多く、各国海軍は故障を含めて軍事機密にしている。

 シリンダーロッドの軸受けが疲労によってひずみが出ている。

 軸受けそのものを交換すると時間がかかり過ぎるので、リペアの白魔法でひずみを直してやる。

 蛮族との戦いにおいても剣や槍の歪みを魔法で直す。それと同じなので、ほとんど瞬間で直ってしまう。

 熟練の整備班長がハンマーでロッドを叩くのに合わせたやったから、整備班長の職人芸で回復したことになった。

「カタパルト回復!」

 ただちに報告があげられ、利根四号機は五分の遅れだけで、索敵任務につくことができた。

 
 そして三十分後、利根四号機は――敵らしきもの一〇隻見ゆ。ミッドウェーよりの方位一〇度二四〇浬、針路一五〇度、速力二十ノット、〇三五八――を打電してきた。

 
 直した甲斐があった。

 これで日本艦隊はむざむざと空母四隻を撃沈されて敗北することは無くなる。ミッドウェーの攻略もつつがなく済んで、日米戦の結果は変わって来るだろう。ひょっとしたら、広島長崎への原爆投下も阻止できるかもしれない。

 利根の艦橋でも、四号機の敵艦隊発見の殊勲に湧きかえっていた。

「四号機の報告で、わしの腰痛も治ったぞ!」

 艦長が目をへの字にし、副長はガスマスクの収納を指示した。

「艦長、赤城から攻撃隊発進の信号旗があがりません」

「なんだと」

 見張り員の報告に、艦橋の総員が赤城の艦橋に双眼鏡を向けた。

 わたしも主神オーディンの軍を預かる漆黒の姫騎士、見敵必殺が部隊指揮の要諦であることを知っている。

 旗艦赤城の動き、いや、動きを決定する判断の遅れは異常だ。

 先ほど鉛筆を折ってしまった航海士が、海図を見ながら何度も計算尺をいじっている。

 落ち着け。

 先任の大尉が目で諭し、航海士は他の要員といっしょに赤城を注視することにした。

 念のため海図を覗き込むと、何度もチェックの赤鉛筆が入ってはいるが、海図に記入された情報には間違いが無かった。多少あがり症なのだろうけど、航海士はきちんと任務をこなしている。

 ひょっとして……?

 
 わたしは、旗艦赤城の艦橋にテレポした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・22『今日は合格発表』

2022-08-02 06:24:14 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

22『今日は合格発表』 

 


 これに落ちると定時制の二次募集しかない。

 小菊が背水の陣と言っていい後期選抜を受けたのには理由があるが、振り返っても仕方がない。

 とりあえずは、今日の合格発表だ。

 都立神楽坂高校は偏差値54の中堅校だ、中学の内申が7もあれば、入試当日の試験でよっぽどのドジを踏まなきゃ合格する。

 でも、愚妹の小菊は、そのドジをやってしまったらしい。

 最後のテストで受験番号を書くのを忘れたというのだ。書いていなければ零点だ。

 宝くじのことしか考えていなかったこともあるけど、かけてやる言葉が無かった。

 


「あり得ないと思うわよ」

 

 小菊が角を曲がるのを確認して松ネエが言う。

 一人で合格発表に行く小菊の後を付けているんだ。松ネエも心配して付いて来てくれている。

「試験中も机間巡視やってるし、答案を回収したあとも、その場で受験番号のチェックはやってるわよ」

「でもなあ……」

 学校の先生たちの顔が思い浮かぶ、正直たよりない。

「入試ってのはね、監督を含め、どの作業もかならず二人以上でやるの。作業行程ずつにハンコ押すしね、まずミスは起こらないわ。たまに採点や集計の時にミスがあるけど、それもその分五回も六回も目を替えてチェックしてるから大丈夫よ」

「そうなんだ、松ネエくわしいね」

「ハハ、うちのお父さん高校の先生だもん」

 そうだった、松ネエのお父さんは影の薄い人なんで忘れていた。

 時計塔と花水木の間にトラロープが張ってある。
 

 そこを超えると、合格発表のパネルが貼り出されるピロティーだからだ。

 時間が来るまでピロティーには入れない。

 小菊は最前列で待っている。リスが両手で胡桃を持つように受験票をかかえ、何度も見ては声に出さないで受験番号を確認している。

 そうやっていなければ、自分の受験番号が消えて無くなってしまうとでもいうような感じだ。

 何度も何度もやるので、口の形から受験番号が48番であることが知れる。

 合格発表の二分前には、トラロープのところに、わが担任のヨッチャンと堂本が立った。

「間もなく発表ですが、けして駆けださないでください」

「合格者の方は、午後一時半から合格者説明会がありますので、保護者の方といっしょに体育館の方にお越しください」

 二人で役割分担しながら事前の説明と注意をしている。

 やがて、合格発表を告げるチャイムが鳴って、トラロープがスルスルと巻き取られた。

 百人ほどの受験者と付き添いの保護者が、事前の注意にもかかわらず駆けだした。

 渡り廊下に貼り出された合格発表掲示板の白布がハラリと取り払われ、合格者の受験番号が明らかになった。

 ウワーとかオオーとかのどよめきが起こる。

 中に、数名の子と保護者が立ちすくむ……二割近く出る不合格者だ。

「やったー!」

 遠くからだけど、菊乃の48番があることが分かる。思わず松ネエとガッツポーズ。

 だが、小菊の姿が無い。

 首をめぐらすと、トラロープが張ってあったところに一人立ちすくんでいる妹。

 駆け寄って合格したのを教えてやりたかったが、後を着けてきたのは秘密だ。朝食の時も「絶対付いてこないでよね!」と眉を逆立てていた。俺たちも、そっと見守るだけにするつもりだった。

 しかし、ここまでビビッているとはイラつくやつだ。

 すると、人ごみの中からシグマが飛び出してきて小菊に合格を告げた。

「合格よ! 合格したのよ!」

「え、え、ほんと!?」

「ほら、こっちこっち!」

 シグマは小菊の手を引っ張って確かめさせた。

「ウワーーーー#$!¥&%$#!!!!!!」

 久方の小菊の歓声。いや、こんなに喜んでいる妹を見るのは初めてだ。

 で、今だと思った。

「おめでとう小菊! 宝くじも一等賞だぞおおおおおおおお!!!!!」

 小菊の目の前に、一等一億円当選の宝くじを広げてみせた。

「え……?」

 妹の目が点になった。


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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