大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・326『空中給油』

2022-08-03 15:16:36 | ノベル

・326

『空中給油』さくら   

 

 

 三年前はユーラシア大陸を横断する航路やった。

 

 それも、自家用とはいえジェット機やったんで13時間ちょっとでエディンバラに着けた。

 せやけど、今度はユーラシア大陸の横断がでけへんらしいんです(;'∀')。

 ロシアと中国の上空が飛ばれへんて、メグさんが説明してくれる。

「ヤマセンブルグはNATOに加盟しているので、ロシアの上空は飛びません。中国は、この二三日の動向次第では危険になるので通過は避けます。でも、その分、あちこち寄って行けますから楽しんでくださいね」

 にっこり微笑むメグさん。うちらも、旅は始まったばっかりなんで「「「「ハーイ(^▽^)/」」」」と元気にお返事する。

「まずは、コクピットの様子を見てみましょう」

 メグさんがリモコンを押すと、正面のディスプレーにジョン・スミスとソフィーの後姿。画面の両脇には別画面が映っていて、斜め正面からのふたりの姿。

 二人とも操縦かんを握ってるんで、どっちが操縦してんのかよう分からへん。

「すごい、ソフィー先輩が操縦してるよ!」

 メグリンが感動。お父さんが自衛隊やさかい、どっちが操縦してるとかは一目瞭然やねんやろなあ。

「なにをやらしても、上達が早いのよ。まあ、レシプロの操縦なんてお茶の子さいさいなんでしょうね」

 ちょっと不満げな頼子さん。

「そう言えば、日本語マスターするのも早かったですよね。三年前は翻訳機使って、一生懸命エディンバラの街を案内してくれて……」

「そうよね、あのころのソフィーって留美ちゃんに似てたわよね」

 頼子さんがウィンクする。

「え、そうですか(;'∀')」

「うん、せやせや、言葉喋るのがいちいち重大事件みたいな、一生懸命なとことか!」

「そ、そんなことないよ! さくらったら!」

「そんなだったんですか?」

「えと、どうでもええけど、頭の上から言わんとってくれる(^_^;)」

「あ、ごめん」

 180超のメグリンは座ってても大きい。

「うちなんか、考える前に喋ってしまうさかいに、あとで『しまったぁ!』て思うこと多いしね」

「「「うん」」」

「ちょ、そんなとこで声揃えんといてくれますぅ」

 アハハハハ

「でもね、子どもの頃は、わたしの方がお喋りだったんですよ」

「え、そうなんですか詩(ことは)さん!?」

「うん、ほら『外郎売』ってあるでしょ」

「ういろううり?」

 メグリンは分からへんみたい。

「歌舞伎の演目でね、めちゃくちゃ長い口上なのよ」

「いや、最初はね『寿限無(じゅげむ)』やったんよ」

「あ、それは知ってる、日本で一番長い名前!」

「「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃり、すいぎょうまつの……」」

 うちと詩ちゃんで寿限無のデュエット。

「「「すごいすごい!」」

 ちょっと盛り上がる。

「お盆で、うちに来た時ドヤ顔で自慢するのよ、チビさくらが」

「へえ」

「紙に書いたら、調子がいいんで、わたしも半日で憶えてしまって。面白がったお祖父ちゃんが『じゃあ、外郎売をやってみろ』って」

「そうそう、お盆が過ぎるころには詩ちゃん憶えてしもて」

「でも、わたしがいっしょに住むようになったときは、断然お喋りはさくらですけど」

「さくらは中学に入ってタガが外れたのよね」

「あ、それは、お寺に住むようになったからやと思う!」

「「「なんで?」」」

「それまでは、お母さんと2Kのアパートやったし、あんまり喋ったら……」

「だよね、あっという間に部屋の空気吸いつくしちゃう。お寺だったら広いから、少々喋っても吸いつくせない!」

「あ、もう、あたしはバケモンとちゃいます!」

「「「アハハハ」」」

 

 うちらがキャビンでアホな話してる間も、ソフィーは黙々と飛行機を操縦。

 さすがのうちらも喋りつかれたころに、ソフィーがキャビンにやってきた。

 

「あら、やっと休憩?」

「これから空中給油するんです。これは大佐でなければやれません」

「あ、その間は休めるんや!」

 うちは、ソフィーと喋れるんが、ちょっと嬉しい。

「横で、サポートしなくちゃならない。10分だけ仮眠」

 そう言うと、キャビンの一番後ろまで行ってアイマスクして寝るソフィー。

「やっぱり、きついんだろうね……」

 薄く口を開いて、速攻で寝てしまうソフィー。考えたら、ソフィーが人前で寝てるとこ見るのは初めてや。

 みんな、自然に静かになる。

「そこまで静かにしなくても大丈夫ですよ」

 メグさんが解してくれる。

「空中給油の予定は無かったんです。給油予定の台湾をとばすことになって、それを空中給油で済ませるんです」

 そう言えば、ペロシさんが台湾に来るとか言うてた。中国とアメリカがドンパチの寸前やとか。

「どこの国に空中給油してもらうんですか?」

 メグリンは、そっちに興味があるみたい。

「見れば分かりますけど、内緒です。これは、大佐の個人的なコネでやるそうですから」

 空中給油をさせてもらえる個人的なコネて……ジョン・スミスもすごいねんわ(^_^;)

「よし!」

 10分きっかりで起きると、すっかり疲れのとれた顔でコクピットに戻るソフィー。

 ソフィーが戻ったコクピットを見ると、窓の向こうに四つもエンジン付けた大きな飛行機のお尻が迫ってる。

「「「「ウワア……」」」」

 お尻から羽付きのホースがスルスルと伸びてきて、こっちからもでっかい槍みたいなんがスルスルと伸びて、お互いを探り合う。

 ちょっと失敗したら、ホースがプロペラに絡みついて大惨事!?

「さくら、ちょっとヤバイこと想像したでしょ」

 頼子さんに怒られる。

 なんと、ジョン・スミスは一発でドッキングさせて、そのまま二分ほど。

 ホースをパージさせると、給油機は翼を振って行ってしもた。

 翼には、日本ではない国のマークが付いてたけど、ナイショです。

 

 そのまま飛行機はインドシナ半島の方角へ飛んでいく。

 八時間かけて着陸したのは、タイのスワンナプーム国際空港。

 初日は、駐タイ・ヤマセンブルグ大使館で泊ることになりました。

 大使館では、面白いものをもらったんやけど、それは、また明日にね。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・075『利根4号機・4』

2022-08-03 07:55:51 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

075『利根4号機・4』 

 

 

 
 空母らしきものとはなんだ!?

 
 赤城の艦橋では南雲長官以下幕僚たちが利根四号機の報告を分析しかねていた。

「空母でなければ攻撃隊を出す意味が無いぞ」

「やはりミッドウェーへの攻撃を優先すべきだ」

「こんな海域に敵艦隊が存在するわけがない」

 幕僚たちは、利根四号機の報告に疑念を持ち、その情報に基づいた出撃命令を出しかねているのだ。

 利根四号機が報告していた海域は予定索敵線から150海里(270キロ)も離れており、その位置に敵艦隊が居ないことは、それまでの索敵でも確認済みだし、日本艦隊を攻撃する位置としても不適当である。その上『空母らしきもの』というあいまいな表現に敵艦隊攻撃の命令を出しかねているのだ。

 この時代の空母機動部隊の運用には、まるで知識も技術もないわたしだが、用兵者の勘で、この状態は危ないと思った。

 程度の差はあるが『判断に誤りがあったらどうしよう』という、官僚のような怖れが幕僚たちの瞳には窺える。

 ヴァルキリアの騎士としての勘は『見敵必殺』、躊躇せず攻撃を掛けることだ。

「もっと確かな情報が欲しい……」

 南雲長官は決断の鈍さを利根四号機の報告の曖昧さのせいにしている。

 わたしが指揮官なら、すぐに攻撃隊を発進させる。

 どっちつかずののまま爆弾や魚雷を抱いた作戦機を飛行甲板に並べたままにしているのは愚の骨頂だ。

 一発の爆弾、いや、たった一発の機銃弾の命中で、たった一機の作戦機が燃えただけで空母は爆弾や燃料に引火、誘爆して沈没するだろう。

 南雲長官の肩を叩いてみるが、わたしの手は長官の体をすり抜けてしまう。

 この時空では、体を実体化できないのだ。出来ることと言えば、利根のカタパルトを直したり、航海士の鉛筆を転がしてやるとか、ささいな物理的影響力だ。

 わたしは、赤城の狭い艦橋の中をウロウロする。ウイングに出ると飛行甲板、前方100メートルあまりを残してビッシリと戦闘機、艦爆、艦攻がひしめいて、搭乗員も整備兵も固唾をのんで艦橋を見つめている。みな、攻撃命令が出るのを待っているのだ。

 焦りも驕りの表情も無い、ヴァルハラでわたしの指揮を待つ兵たちと同じ顔をしている。時代や装備は違っても、良き兵が醸し出す敢闘精神は同じと見える。

 幕僚たちの逡巡だけが疎ましい。

 ふと、チャートデスクに目が行く。

 利根の航海士と違って、自分の仕事に自信があるのだろう、迷いなく書き込まれたチャートには書き直しなど一つもなく、そのまま航海科の教材になりそうなほどに整然としている。張り付いているのは中佐の階級章を付けた航海参謀だ。戦時でなければ兵学校の航海科の教官が務まりそうなベテランだ。

 きれいに整っているのはいいことなのだが、なにかがひっかかる。

 あれ?

 書き込まれた数値と包囲が利根のチャートと微妙に違う。

 ……これは!?

 利根の航海士が迷っては消していた数値と開きが大きい、大きすぎる。

 

彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・23『なにかもめてますよ』

2022-08-03 05:49:47 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

23なにかもめてますよ 




 宝くじを見つめる小菊の顔が歪んできた……やっぱヤバかった?

 歪んだ顔は引きつって、ついに小菊は爆発した!

 アハハハハハハ(≧〇≦)!

 一億円の当選に気が触れたか!?

「あーーーおっかしい! これってさ、一字違いのハズレ券なんですけど」

「え…(゚o゚;;いや、そんなことはない」

 当選番号はネットで検索して何十篇も確認した。俺には珍しく確信がある、断じて一字違いなどではない!

「お父さんがため息ついてオキッパしてたのに細工したんだもん」

「いや、だって……」

 松ネエとシグマも覗き込んできた。松ネエはスマホで検索して当選番号を画面に出した。

「だって……E組 の……127448……間違いないわよ!」

「やだ、これはね、F組 127448なのよ。Fの下に一本引いてあるの。お父さん、一瞬心臓が停まるんじゃないかってぐらいにビックリしてた(^_^;)」

「「「ん……???」」」

 葉書の大きさにも満たない宝くじに俺と松ネエとシグマの雁首が揃う。

「あーーーーーーーーFの下の線、微妙に色が違う!」

「そういうこと」
 
 あ⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵⤵(∩´﹏`∩)

 三人のため息を、満足そうに睥睨する小菊。

 そうなんだ、こういう時の小菊は鼻を膨らませてドヤ顔になる。

 そのドヤ顔が息を吸い込んだ状態で固まってしまった。

「……どう……した?」

「……ま、まさか!?」

 小菊はダッシュして合格発表の掲示板に駆け戻った。

「あ、小菊ちゃん、なにかもめてますよ」

 シグマが指差したところを見ると、小菊が堂本ともめている。

「だめだよ、触っちゃ!」

「だって、48の8って、3の左半分書き足したのかもしれないでしょ! だって43が無いもん!」

 人だかりがし始めているので、俺は慌てて駆け寄った。

「落ち着け小菊! おまえの前は47、後が49、48以外には入りようがないだろが!」

「でも43は!?」

「それは落ちた子の受験番号だからよ」

 松ネエがしごく足り前な答えを言う。

「そ、そっか、やっぱホントに合格したんだ……」

 四大現役合格者の説明に、やっと小菊は納得した。

「あれ、おまえの妹か?」

 機嫌よく校門を出て行く後姿の小菊を顎でしゃくりながら堂本が聞く。

 

「え、あ、ま、一応」

「フン」

 鼻息一発かまして堂本は校舎に消えた。

「じゃ、あたしバイトに行くわ」

 松ネエも校門に向かい、駅方向の道へ急ぐ。

 松ネエが居なければ、堂本の鼻息だけでは済まなかっただろう。

「なかなか可愛いところがあるんですね小菊ちゃん」

 この騒動をひとり楽しんだシグマが締めくくる。

 

「えと、なんで合格発表の日に登校してんの?」

 一年のシグマが合格発表に来る理由は無いはずだ。

「はい、新入生の勧誘です!」

 Σに口を尖らせながら胸を張るシグマ。

「え?」

 シグマって部活やってたのか?

「えと、作ったんです『サブカルチャー研究部』! ま、同好会だから、今のとこは研究会ですけど」

「そうなんだ、部員は?」

「あたし一人、だからこその勧誘なんです」

 なるほど、そう言えば合格発表の日の午後の説明会から部活の勧誘とかやってたっけ。

「先輩のお蔭なんですよ。先輩もエロ……いやパソコンゲームに興味あるでしょ、この学校であたし一人だけかとしょぼくれてたんですけどね。それに、先輩んちで勉強会とかやらせてもらって、ちょっぴり人を相手にすることに慣れたんです!」

 うん、それはいいことだ。

 だけど、俺はエロゲファンでは断じてない。ないけどシグマには言えないよな、こんなにキラキラしてんのに。

 俺は「がんばれよ!」のエールを送って学校を後にした。

 で、一晩たった今朝、小菊に質問された。

 

「ね、あの宝くじ学校の茶封筒に入れといたはずなんだけど、どうして持ってたの?」

 言葉に詰まる俺だった。

 

 あ、それから、バイトから帰ってきた松ねえが言ってたんだけど。F組 127448は組違賞で、賞金5万円。

 だけど、FをEに書き換えちまってるから無効……親父のビックリは、きっとそれなんだけど、娘に甘い親父は言えなかったんだ。

 あ、これって内緒な。

  

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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