大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・339『ヤマセンブルグへ』

2022-08-16 09:43:28 | ノベル

・339

『ヤマセンブルグへ』留美  

 

 

 大砲というのは撃った後もすごい。

 

 ワンオクロックガンは、一時の時報を撃ったあとも、砲口からモワ~っと煙を吐いて、一仕事終えた後の一服の煙みたいなんだけど、電柱の太さほどの筒先から漂い出てくる煙は、ちょっとした狼煙という感じ。

「あれは、時報のための空砲で、弱装薬だら、実包の半分もないよ」

 メグリンは、さすがに幹部自衛官の娘さん、動じません。

 

 その実包の発射直後を思わせるような顔で、ソフィーが戻ってきた!

 

「ソフィー!」

 声を上げて抱き付いたのは、さくら。

 わたしとさくら、それに頼子さんは分かっている。

 三年前の、ソフィーの壮絶な戦いを知っているから。

 

「Run away! dont look back!」

 ソフィーは、杖を持った右手を闇に向け、一瞬横顔を見せて叫んだ!

 ワオオーーーーーーーン ワオオーーーーーーーン

 地下からのうめき声は、もう、すぐ下の階層まで上って来ていて、いまにもわたしたちを呑み込んで地獄の底に引きずり込んでしまいそう!

「殿下!」

 ジョンスミスが懐に抱え込むようにして、地上への階段を駆け上がる。

「ソフィア!!」

 渾身の叫び声で、気遣う頼子さんを押し上げるようにして、わたしとさくらも地上に急ぐ!

 ガチャピーーーーーン!

 地下一階まで上がると、待機してたマスターはドアを閉める!

「ソフィアがあああああ!」

「閉めておかないとお祓いができない!」

 ジョン・スミスが目を吊り上げる。

 その直後、扉の下では、まるで台風と火山の噴火が一度に来たような音がして、頑丈な樫のドアを取付金具ごとガタガタと震わせていた。

 頼子さんとジョンスミスは、早口で神の御名を讃えながら幾度も十字を切って、さくらはナマンダブを、わたしは「お母さんお母さん」を繰り返す。

 一瞬、音と振動が緩んだ隙に、ドアを蹴破るようにしてソフィーが、やっと上がってきて、それから、何分か何十分か、地上の六人でドアを押して、そしてやっと凌いだ(053:『エディンバラ・9』)

 

 三年前のソフィーと自分たちの姿が蘇った。

 

 そうだ、ソフィーは三年前の勝負に決着をつけてきたんだ。

 ソフィーは、ヤマセンブルグの諜報部員で頼子さんのガードで、いつのまにか少尉の軍服がよく似合う軍人さんになっていたんだ。そして王室付き魔法使いの末裔でもあって、そういうことであるための義務を、たったいま果たしてきたんだ。

 でも、でも、わたしたち散策部のメンバーでもあり、学校の先輩でもあり、ううん、姉妹同然の仲間だから、さくらは瞬間で飛びついて涙でグチャグチャになってるんだ。

「殿下、これで、後顧の憂い無くヤマセンブルグに向かえます」

「ご苦労でした、ソフィア少尉」

 この三秒間だけ公式のやり取りをして、ちょっと遅いランチを食べに行った。

 

 そして、今朝は二機の飛行機に分乗してヤマセンブルグに向かっている。

 

「どうせやったら、みんな、おんなじ飛行機に乗ったらよかったのにぃ」

 ちょっとむくれ顔のさくら。

「複数のVIPを移動させるときは、複数の機体を用意するのが警護の常識だよ」

 メグリンが指を立てる。

「わたしとお祖母ちゃんが、いっぺんにお陀仏になるわけにはいかないからね」

「そんな、縁起でもないことを(^_^;)」

「リスクマネジメントの常識」

「ああ、ソフィーはすっかりガードモードになってしもてるしぃ」

「でも、正式な王女になるって大変なのね、わたしが大学出るのは二年後だけど、頼子さんに比べたら、まだまだノホホンとしてるもんね」

「せやせや、まだまだ先の話やのに外堀埋めるのん早すぎやよ、頼子さん!」

「賢い鳥はね、風に合わせて羽ばたくんだぞ」

「ソフィー、今日は操縦せえへんのん?」

「ジョンスミスが女王陛下の方に行っちゃって、こっちはメグさんの操縦なんだけど、メグさんは教官のライセンス持ってないから」

「あ、そうなんや」

「エディンバラじゃ、あんまり遊べなくてごめんね」

「ううん、あちこちは行かへんかったけど、中身は濃かったし」

 うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)と揃って頷く。

『着陸態勢に入ります、シートベルトをお願いします。ちょっと気流に乱れがあるようなんで、下噛まないようにしてください』

 メグさんのアナウンス。

 エディンバラからヤマセンブルグは拍子抜けがするくらいに早い。

 まあ、今回の旅は日本から三日もかかっちゃったから、余計に短く感じる。

 

 ガクンガクン

 

 武者震いをするような音をさせながら、飛行機は着陸態勢に入って行った……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・36『そういう31日だから』

2022-08-16 05:48:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

36そういう31日だから 



 イテ!

 不用意に顔を洗ったら痛みが走った。

 オデコの右側が赤く腫れている。

 あ~やっぱなあ。

 小菊が投げた貯金箱がまともにぶつかった跡なんだ。

 夕べのことだ……。

 風呂からあがって部屋に戻ろうとすると、珍しく小菊の部屋のドアが開いていた。ドアは隣り同士なので、自然に部屋の中が見えてしまう。
 
 

 思わず声が出てしまった。

 姿見の前で小菊がクルクル回っている。風呂上がりのパジャマじゃなくておニューの制服姿でな。

 で、姿見の中の小菊と目が合ってしまった。

「キャー! このド変態!!」

 で、貯金箱が飛んできて目から火が出た。

 新学期になれば、毎朝毎日人目に晒す制服姿も入学前ではダメらしい。

 でもな、不用意にドアを開きっぱにしとくほうが悪くねーか?

 ほんで、見られたからって「ド変態!!」はねえだろう、それも悲鳴の前奏付きでさ。
 
 小菊の悲鳴に松ネエが部屋から出てきた。階段の所には、途中まで上がって来た親父の首が覗いている。

「そりゃあさ、不安と期待の入り混じったイレギュラーなとこを見られたからだわよ」

 松ネエは二秒ほどで解説すると貯金箱を拾ってドアをノックした。

 階段に目をやると、サッと目線を外して親父の首が消える。会社じゃ有能な中間管理職らしいんだけども、もうちょっと家でも……って思うんだけど口にはしない。

 

「ね、オデコ冷やした方がよくない?」

 

 明くる朝、廊下で出会った松ねえは「おはよう」も言わずに顔を寄せてくる。

 冷やしといたほうが良かったかなあ……洗面の前で後悔。

 みっともないので、今日は家に居ることにする。

 桜もほころぶ四月になろうってのになんてこった……そう思ってリビングに行くと、テレビの表示は3月31日だ。

――そうか、3月ってのは大の月だったんだ――

 4月ってのは新年度でもって本格的な春の始まりでもある。だから4月1日ってのはウソみたいに晴れがましい。だからエイプリルフールってか?

 ま、そういう31日だからボンヤリ過ごすことにする。

 ボンヤリと朝のワイドショー、ここんとこ毎日の森供学園問題をやっている。

 俺みたいなのでも、いいかげんに飽きてきた。

 カドイケ夫人のメールが公開されて民民党の藤本さんも名前が挙がったのに、ニュースやワイドショーはどこもスルーしている。

 はんぱな興味なんだけど、あちこちチャンネルを変えてみる。

 変えているうちに、あちこちで桜のニュース。

 明治神宮の桜がアップになったかと思うと、宝塚の合格発表のニュース。

 何十倍もの難関を突破した女の子たちは、みんなキラキラしている。男だけど、このキラキラさは羨ましく思うぞ。

――宝塚おめでとう!――

 なんか、とってもリアルな声が廊下でした。

 すると、ドアが開いて、松ネエが同年配の女の子を招じ入れるところだ。

「あ、こちら従弟の雄一君。ゆう君、こちら高窓紗耶香、あたしの友だち、宝塚に受かって、わざわざ報告に来てくれたのよ!」

「え、あ、あ、おめでとうございます! どうぞお掛けになってください、いまお茶入れますんで」

「どうぞお構いなく」

 高窓さんは、さっきのニュースみたく髪をヒッツメのお団子にして、よく通る宝塚ボイスで挨拶してくれる。

 お茶を出しながら、こっちまで晴れがましい気持ちになる。

 そのうちお袋や祖父ちゃんまで出てきて、リビングはワイドショーのスタジオのような活気になる。

「ようし、こうなったらお祝いだ!」

 祖父ちゃんの発案で寿司富に行くことになる。

「あ、そんな、小松に報告に来ただけですから(^_^;)」

 高窓さんは恐縮する。

「いやいや、商店会の相互扶助、お互いの店を使うことにしてるんですよ。相互扶助ても、なんか目的が立たないとね」

 祖父ちゃんは気配りの人だ。

「あんたもどう?」

 お袋が水を向けてくるが、オデコのタンコブを示して辞退する。

 みんなと入れ違いに小菊が帰って来た。

 昨日の今日なので、お互い目も合わさない。階段を上がる音が途中で止まった。

「あ、あのさ」

 思いかけず小菊の呼びかけが降ってくる。

「なんだ」

 顔も上げないで背中で返事する。

「夕べ、その……ごめんね……

 尻尾の方は消えそうな声で、それだけ言うと駆け足で部屋に消えて行った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任


 

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