大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・335『ハードシューズ』

2022-08-12 13:31:28 | ノベル

・335

『ハードシューズ』さくら         

 

 

 その昔、おばちゃんが子どもの頃に『キャンディキャンディ』というアニメが大人気やった。

 

『ポニーの家』という孤児院にキャンディーという、ブロンドでツィンテールの女の子がおった。

 活発で元気なキャンディーは、孤児院の近くにある丘が大好き。遊びに疲れた時や、悲しいことがあった時は、この丘に上がって風に吹かれている。

 ある日、丘に上がっていると、どこからともなくバグパイプの音色が聞こえてきて、キョロキョロ探していると、木の陰から現れたのが『丘の上の王子さま』やねんて。

 その時、少しだけ話せたことが、キャンディーの支えになって、いつか再開することが夢になっていく。

 苦しいとき、悲しいときは、この『丘の上の王子さま』を思い出して、苦労しながらも明るく元気に波乱万丈の人生を生き抜いていくキャンディー。

 そんなキャンディーは、当時の女の子のハートを鷲づかみにした、少女アニメの金字塔……なんやそうです。

 

 昨日の朝食の時、執事のアーネストさんがソフィー姉妹といっしょに、朝食のBGMと練習を兼ねてバグパイプを演奏してくれてた。それが、たまたま繋いだスカイプで聞こえたもんやから、テイ兄ちゃんを押しのけておばちゃんが聴きいったという次第。

「え、わたしが丘の上の王子さまなのですか!?」

 その話を頼子さんから聞いたアーネストさんは目を丸くして驚いた!

「『丘の上の王子さま』というのはね……」

 さらなる説明をしようとしたら、アーネストさんは、頬を染めて、こう続けた。

「わたくしは、とてもとてもアルバートおじさんなどでは……(n*´ω`*n)」

「「「え、アルバートおじさん?」」」

 え、うちらは『丘の上の王子さま』の話をしてるんで、アルバートなんちゅうもんは……

 ところが、話が進むと分かったんです。

 アーネストさんも、子どもの頃に妹たちといっしょに英語吹替版の『キャンディキャンディ』を見てはったんですわ!

『キャンディキャンディ』は『ベルばら』と並んで世界的なアニメやったんですねえ。

 波乱万丈の最終回に、丘の上の王子さまはアルバートさんやいうことが分かるんやけど、あたしは『キャンディキャンディ』知らんし、ネタバレになってもあかんので書きません。

 せやけど、地球の裏側同士で、同じ時代に同じアニメ観てて、ウン十年後に感動を共有できるのはスゴイと思いません!?

「おかげで、練習がきつくなったんだけど」

 ゴルゴ13に娘がおったら、こんなんやろいうくらいの仏頂面でソフィーにグチられた(^o^;)。

「如来寺のおばさんが独身だったら、ドラマが始まったかもね……」

 むりやりパソコンの前に座らせられたアーネストさんは、もう真っ赤っか!

 アーネストさんは、若いころから執事の仕事一本の人で、チャンスが無かったのか、いまだに独身。

「おばちゃんが独身やったら……」

 アーネストさんが二分そこそこで出て行ったあと、画面のおばちゃんを冷やかしてみる。

「オバサンをからかうもんじゃありません」

「せやかて、おばちゃんきれいやんか!」

 これは本心。

 子どもの頃から心の中でお母さんと比較してたんやけど、二割り増しくらいでおばちゃんの方がきれい。

「アハハ、じゃ、これからお洗濯だから」

 明るくスカイプを切るおばちゃん。

 

 ジィィィィィ

 

「なによ、さくら」

 思わず、詩(ことは)ちゃんの顔を見てしまう。

「おばちゃんて、詩ちゃん似やねんね」

「それって、逆だよ(^_^;)」

 留美ちゃんが注釈。

 けど、うちの頭の中では、整合性がとれてるんです。どっちも同じDNA、モテることに違いは無い。

「あ、でもね、うちの兄貴もお母さんのお腹から生まれたんだよ」

「あ、せやった!!」

 テイ兄ちゃんと同じ遺伝子もおばちゃんは持ってるわけで、あのおばちゃんにも変態の資質が!?

「もう、バカなこと言ってないで、レッスンの車出ちゃうわよ!」

 

 スコティッシュダンスの練習も三日目です。

 

 ダンスの先生はアンソニーいう若いニイチャンやねんけど、教えるのがメチャ上手い。

 頼子さんは、小さいころに習ったことがあるらしく。アンソニー先生から指導されることは無くって、先生の助手みたいな立場に立って、主に、うちと留美ちゃんを教えてくれる。

 つまり、二人の先生で四人の生徒を教えるから、効率がよくって、昨日の終り頃にはサマになってきた。

 そのアンソニー先生が、頼子さんに一足の靴を渡した。

 それも、跪いて王女様に渡すみたいに……って、もともと王女様(正式やないけど)やねんけど。

「今日からは、これで練習してください、殿下」

 語尾にも殿下を付けた!

 むろん英語やねんけど、うちらも聴き慣れた「Your Highness」が付いてたからね。

「ゲゲゲ!」

 頼子さんは、ここへきて三度目のゲゲゲのヨリコ!

 それは、うちらが履いてる「ソフト」言われるダンスシューズと違って、カッチリした革靴になってる。

 グイっとかえした靴底には、つま先の方に硬くて分厚い皮底が付いてる。その名もハードシューズ!

「やっぱり、いよいよなのね……」

「はい、いよいよです、Your Highness!」

 アンソニー先生の目は、舞踏会にシンデレラを誘う王子さまみたいやった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・084『女将さんと駆ける!』

2022-08-12 08:04:38 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

084『女将さんと駆ける!』   

 

 

 
 上州名物 かかあ天下に空っ風

 
 古い格言の通り白絹屋の女将さんの行動は俊敏だった。

 バシ! バシッ! ビシバシ! バシビシ!

 赤城下ろしの空っ風は砂埃どころか、地道の砂礫をも石ツブテのように巻き上げ銃砲弾のように人馬を叩くが、自分の身と馬の首が一体となるくらいに低くし、馬の目や耳に当りそうな砂礫を大刀で弾き飛ばしていく。

 パシ! パシッ! ピシパシ! パシピシ!

 わたしも負けじとオリハルコンを振う。

 砂礫を払う音がわたしの方がするどく響く。

 日本刀とソードの違いか流儀の違いか、あるいは気性の違いか分からぬが、歴戦の戦友と共に吶喊しているように小気味いい。この人とならばヴァルキリアの戦いも面白いかもしれないと思った。

 このままでは赤城山に呑み込まれるのではないかというところまで近づいた。

「こっちに身を寄せて!」

 お女将さんと二騎で岩陰に身を寄せる。

 岩の形がいいのか、空っ風がそよ風ほどに勢いが弱まる。

「風除けの岩でござんす。こういう時の為に、風を凌げるところを設けてあるんでござんすよ。ここで様子を見て亭主の隙を窺いやす」

「クロノ……ご亭主はどこに?」

「目の前でござんすよ」

「目の前……?」

 ゴーグルを確かめて前方を窺うと、夕日を背に受けた赤城山が夕陽の紅に縁どられ黒々と聳えて立って迫って来る。

「まさに山が迫ってくるような……さすがは赤城山ですね」

「ような……ではなく、迫って来るんでござんすよ」

「え……?」

「赤城山に憑りついているんですよ、亭主と手下が」

「山に憑りつく?」

「クロノスは元々は巨神族でござんす。神々との戦いで力を失ってからは並の大きさに戻って人交わりしておりますがね、赤城山とは相性がいいんでござんしょうねえ、山と合体して手が付けられなくなります。もっとも、あれは奥の手でござんしてね、時間を過ぎてしまえば二度と人の姿には戻れなくなってしまいます」

「哀れな……しかし、ご亭主は山と合体して何をしようと?」

「息子たちを喰らいに行くんですよ」

「え……決着はついているのではないのですか?」

 クロノスは、自分と妻のレアの間に生まれた子供が自分にとって代わると思って、生まれた子供を次々に食い殺していったが、レアの奇計と神々の力で封印されたはず。

「性根は直っておりません、あの男はゼウスとポセイドンが憎いんでござんすよ。この時空変異に事寄せて、息子二人を亡き者にしようと……ひるでさんを巻き込んだのも、このため……回り込んで正体が見えればダイダラボッチの姿もござんす」

「そうか、ダイダラボッチも……で、どのように対応するのですか?」

「これでござんすよ」

 女将さんは背中に背負った風呂敷包みを示した。

「これは?」

「握り飯でござんす!」

 女将さんの目がへの字になった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・32『松ネエと二人の日曜日』

2022-08-12 06:45:02 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

32松ネエと二人の日曜日』 




 シャワーで済まそうと思っていた。

 だって午後の一時だ、お湯はとっくに抜かれているはず。俺一人の為に浴槽を満たすのは気が引ける。俺んちは大昔の置屋の名残で風呂もでかい、ガス代と水道代を考えてしまうんだ。

 お?

 浴室に入ってびっくり、予想に反して浴槽にはお湯が満ち満ちているではないか。いつもの「温泉の素」が入っていないので、ひたすらただのお湯なんだけどな。

 ま、朝湯どころかの昼湯には、こういうのが清々しいかなと納得。
 
 ひょっとしたら、このまま湯船の中で寝てしまうんじゃないかと思ったけど、頭は冴え冴えとしている。

 14時間かけてあいこルートとはまりルートをコンプリートした。

 あいこが、あんなに奔放だとは思わなかった。はまりが、こんなに尽くす奴だとは予想もしなかった。それに、なんだ……えと……あのいたし方が、あんなにバリエーションが豊富だなんて、興奮を通り越して感動してしまった。

 湯船に浸かっていると、その感動が風呂の湿度と熱気のせいか興奮に還元されて、我ながら慌てふためく。

――ゆうくん、昼ご飯作るんだけど、いっしょする?――

 脱衣場の外から松ネエの声。

「お、お、おぉ~~~」

 虚を突かれて、なんともみっともない返事になる。

 茶の間に行くと、ちゃぶ台の上に冷凍ものではないチャンポンが湯気を立てているので「おーー!」と素直に感動。

「今日は、あたしたち二人だけなのよ」

 スープとレンゲを置きながら松ネエ。

「え、どうして?」

「伯父さんは日曜出勤、伯母さんとお祖父ちゃんはお祭りの打ち合わせ。あ、お祖父ちゃんたらおっかしいのよ、朝からお風呂沸かして斎戒沐浴してんのよ」

「サイカイモクヨウ?」

 チャンポンに半分以上の神経を持っていかれてる俺はスカタンを聞いている。

「斎戒沐浴よ、お風呂で身を清めて身に付けるものを全部新品に着替えるの」

「あ、ああ」

 祭りの当日にやっているのは知っていたが、それがサイカイモクヨクという深海魚みたいな名称だとは知らなかった。それにチャンポンがすこぶる美味しい。馴染みの豚バラやカマボコがこんな味だとは御見それしていた。

「それで、あたしも朝風呂いただこうかと思ってたら、ゆうくんが起きてくる気配でしょ。それならと順番替えてお昼ご飯を先に作っちゃった」

 大人びてきたと圧倒されっぱなしの松ネエだと思っていたが、チャンポンをモクモク食べる様子は昔のままだ。俺は大口開けてズルズル。チャンポンだろうがスペメン(学食の裏メニュー)だろうが麺類の食い方はズルズルだ。

 松ネエは、一定の長さのチャンポンを箸で挟んで小刻みに口に入れる。その時に、小さくハムハムって音っていうか声がする。ほら、アニメでキャラが飯食う時に「ハム」とか「ハムハム」とか、リアルじゃ絶対しない音立てるだろ。汁が飛び散るのが嫌だからだとか言ってたけど、独特の可愛さがあって、直で言ったことはないけど、可愛くって好きだ。

「うん?」

「あ……小菊は、まだ寝てんの?」

「朝一番でお出かけ、この春休みは遊びまくるんでしょ」

「え、てことは、俺たち二人だけ?」

「やだ、さっきから言ってるじゃないの」

「あ、あ、そうだっけ」

 見ると、松ネエの横には風呂の用意が置いてある。昼飯のあとに入るつもりなんだろう。

「ゆうくん、徹夜でエロゲやってんでしょ?」

 グフッ!

 口からイカの足が飛び出してしまった。

「驚くことないでしょ、@ホームで、あんなに大きな声で喋ってんだもん『小説執筆中』なんて張り紙しても丸わかりよ」

「え、あ、それは……」

「分かってるわよ、シグマちゃんが引っ張てんの。ゆうくんて、なかなか踏み外さないから、いいんじゃない、エロゲもシグマちゃんも」

「いや、あー、エヘン、オホン」

「ま、家族にはなかなかね……あたしは応援するよ。ゆうくんは少し弾けるくらいじゃないとね。ごちそうさま、じゃ、お風呂いただくわね」

「食器は洗っとくから」

「ありがと、じゃ」

 風呂の用意を持って立ち上がる松ネエ。

「あ」
「え?」

 抱えた風呂の用意からボーダーのパンツが落ちた。夕べのはまりのと同じなのでドキリとする。

 そんな俺をケラケラ笑いながら一つ年上の従姉は、悠然と落とし物を拾って風呂場に向かうのだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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