大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・331『美しき青きドナウ』

2022-08-08 10:17:42 | ノベル

・331

『美しき青きドナウ』詩(ことは)   

 

 

 探偵ごっことかで疲れて寝てしもた。

 

 目が覚めると……ウィーン!

 ウィーン言うたら『美しき青きドナウ』やったっけ?

『美しき青きドナウ』ちゅうとウィンナソーセージが浮かんでくる。

 なんでやろ?

 せや、ウィンナワルツの代表作やいうて、音楽の時間に習ったんや。

 ウィンナ言うたら、お弁当のおかずの定番ですやんか。

 起き抜けの車窓には旅行案内のプロモ動画みたいにきれいなウィーンの街。

 トルコはエキゾチックで、タイはパゴダと緑のコントラストがすてきやった……ウィーンは、なんか、異世界系アニメが始まりそうな、赤と青の鬼娘のメイドがお買い物してそうな。タイとは違うねんけど、建物と緑の調和が美しい。

 あ、ええ匂い!?

 それこそ、ウィンナソーセージが焼ける匂いがしてきた。

「おはよう、みんな起きてるわよ!」

「早く顔洗って、食堂車いくよ!」

 留美ちゃんと詩ちゃんが、一言ずつ言って消えていく。

 コンパートメントのドアが開きッパになってて、その後も、頼子さんとメグリンが「いつまで寝とんねん」的なことを言って通り過ぎていく。

「ちょ、待って!」

 立つと、出すもん出したくなって、お手洗いに直行して、手櫛で髪を整えただけで食堂車に向かう。

 

「なにこれ!?」

 

 テーブルに載ってるのは、ちゃんとした朝食。

 スクランブルエッグにウィンナソーセージまで付いてるやおまへんか!

「食器は使ってもいいんで、戦闘糧食を温めて、それらしく盛り付けてみただけよ」

「ソフィー、すごいよ!」

「わたしも手伝ったんだからね」

 頼子さんがドヤ顔。

「一時間ちょっとで駅に着いて、そこから車で空港。もう飛行機は着いてるから、そのままエディンバラに飛ぶわよ。慌てなくてもいいけど、ゆっくりガールズトークしてるほどの時間も無いからね」

「イエス、マム!」

「私服でいる間は、そう言うのかんべんしてくれる」

 せや、飛行機に乗ったら、ソフィーは新米少尉に戻って任務やねんわ。

「でも、ウィーン素通りというのも寂しいわね」

「ウィーンの空気は吸えます。空気を知っていれば、いくらでも世界は広がりますよ」

 詩ちゃんを励ますメグリン、この前向きなとこは、お父さんに付いて引っ越しばっかりしてきた強さやろね。

 メグリンに感心したとこで、ソーセージにかぶりつく。

 パキ

 小気味のええ音がして、口の中にジューシーなソーセージのお汁が広がる。

 戦闘糧食グッジョブ!

「ねえ、やっぱり美味しいもんは、後にとっといたん?」

「ううん、昨日といっしょだよ」

「せやけど、ぜんぜんちやうし!」

「う~ん、湯せんじゃなくて、フライパンで火を入れたことと、やっぱり器が違うからよ」

「うん、そうかもしれへんけど、それを思いついて実行したソフィーは、やっぱり偉いと思うよ」

「そ、そんな、褒めたってなにも出ないわよ(#'▽'#)」

「ウフフ(*´艸`*)」

 ソフィーが照れてる。ソフィーにとっても、このオリエント急行は、ええ息抜きやってんやろね。

 ジョン・スミスの企みかなあ、あのオッサンもダテに大佐の階級章を付けてるわけやないみたい。

「あ」

 頼子さんが小さく声を上げる。

「今日は、8月8日だよ」

「え?」

「「「あ」」」

「え?」はあたし「「「あ」」」は他の三人。

「原爆忌だったんだ」

 頼子さんが、静かに目をつぶって手を組む。うちらも、それに倣って三十秒の黙とう。

 去年は、詩ちゃん留美ちゃんと散歩してて、たまたま通りすがりの家から原爆忌のライブが流れてきて、思わず手を合わせた。

 頼子さんも、留美ちゃんも、こういうことが自然にできる人やねんわ。

 いや、メグリンもソフィーも。

 明日は、長崎の原爆忌。忘れんようにしよ。

 

 黙とうの後は、お茶飲みながら、みんなでワチャワチャとお喋り。

 気ぃついたら、みんなのスマホにメグさんからの一斉送信の――そろそろですよ――のメール。

 ちょっと慌ててるソフィーが可愛かったぁ!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・080『ダイダラボッチ・1』

2022-08-08 07:56:22 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

080『ダイダラボッチ・1』   

 

 

 
 山が泣いているのかと思った。

 オーーン オーーン オーーン オーーン

 着いたとたんに空気も地面も震えているのだ。ブルブルと頭の先まで振動して、真っ直ぐ立っていられないほどだ。

「ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……:;(∩´﹏`∩);:」

 振動のあまり言葉が出ない。

「ちょっと浮かせてやろう」

 クロノスが指を振ると、五センチばかり足が浮いて、地面からの振動は受けなくなった。

「すまない、体がバラバラになるかと思った……地震と台風がいっしょに来たみたいだなあ(^_^;)」

「ダイダラボッチが泣いているんだ……ほら、おまえの後ろ」

「ダイダラボッチ……?」

 振り返っても、すぐには分からない。振り向いた目の前は茶褐色の崖が聳えているだけなのだ。

 今度やってきたのは、亜熱帯かと思うほど暖かくて、ちょっとしたジャングルかと思うほどに緑がひろがって、少し向こうの青い海に続いている。

「一万年前のつくば市のあたりだ、海進期の縄文時代で、海岸線が近くなっている」

「それで、ダイダラボッチというのは?」

「ダイダラボッチよ、いい加減に泣き止んで、こっちを向け」

 クロノスは、崖の上の方に呼びかけるが、崖は相変わらずオーーン オーーン と振動しているばかりだ。

「仕方がない、ちょっとついてこい」

 オイデオイデするクロノスに続いてフワフワ飛び上がって崖の向こう側の山の頂に場所を替える。

 
 な、なんだ、こいつは!?

 
 目の前には崖のこっち側。そのこっち側にとてつもなく大きな鬼の首がある。

 いや……首の下は木や草が生い茂り、振動が首と同期している……って、こいつの体なのか!?

「そうだ、これ全体がダイダラボッチなのだ。図体はデカイが気のいい奴だ。で、気も優しいから、穏やかに話してやってくれ」

「話って……こんな化け物に何を話せばいいんだ?」

「とりあえず、泣き止ませることだな。いつまでも宙に浮いているわけにもいかんからな」

「なんでわたしが……分かった、話せばいいんだな」

「くれぐれも、優しくな」

「ああ、って、どこへ行くんだクロノス!?」

「ちょっと疲れたんでな、ちょっと息をつかせてくれ……」

「お、おい!」

 取りつく島もなくクロノスは消えてしまった。

「仕方のないジジイだ……お、おい、ダイダラボッチ、泣き止んで質問に答えろ」

「ウオ?」

 やっと、こちらの存在に気が付いて顔を上げる……意外に可愛い目をしている。

「とりあえず、泣くのをやめろ。お前が泣くと地震と台風が一度に来たようになるんだ!」

「こ、こわい……ウッウッ……」

 怯えたかと思うと、またしゃくりあげそうになる。

「わ、分かった分かった、優しく言うから、な」

「ウッ……やさしくしてくれる?」

「あ、ああ(n*´ω`*n)、おねえちゃんは、これでもお姫さまだからな、だからね(^▽^)/」

「お姫さまあ?」

 シャキーン!

「そうだ! 主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将、堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 我が名はブリュンヒルデなるぞ!」

 思わず、いつもの名乗りをしてしまった。

 ウ、ウワーーーーーーン(゚´Д`゚)! 

 ズシン! ドシン! ズシン! ドシン!

 ダイダラボッチは巨大地震のような地響きを立てて群馬県方向に逃げて行ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・28『二年ぶりに部屋の鍵を掛ける』

2022-08-08 06:57:19 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

28『二年ぶりに部屋の鍵を掛ける』 



 なんとなく分かっていた。

 シグマの延び延びになっている相談はサブカル研究会のことだ。


 で、その相談が延び延びになっているのは、ハワイからやってきたお祖母ちゃんの相手をしていたこともあるんだろうが、俺に相談しても満足な答えが出てこないと予想しているからだ。

 なんせ、俺はまだ『君の名を』をクリアーしていない。それも分かっているから切り出さないんだ。一見不愛想なΣ顔だけど、あれでなかなか気配りの奴なんだ。

 春休みに入ってしまうと学校で会うこともなくなる。休み中に、わざわざ連絡して人と会うのはハードルが高いだろう。学校なら、昼休みの学食に居れば100パー会えるしな。とにかくやっつけないと……。

 

 カチャリ

 

 二年ぶりに部屋の鍵を掛ける。

 二年前もやったな、正確には鍵を掛けさせられたんだけどな。

 高校受験が終わった直後に風邪をひいてひっくり返ちまった。

 38度の熱がやっと7度台に下がった日に、小菊が友だちを呼んで女子会をやることになった。

「あんたが熱出す前から決まってたことなんだからね」

 そう言って小菊は俺が部屋から出てくるのを許さなかった。

「トイレ以外は出ねえよ!」

 きっぱり言ったけど聞くもんじゃねえ。

「無駄に部屋の多い家だから間違って入っちゃうことってあるでしょ」
「だったら『兄貴の部屋につき入るべからず』とか札掛けときゃいいじゃん」
「そんな恥ずかしいもの掛けられるか! どんな家かと思われるわよ。だいいち、そんなもん掛けたら、あんたが居ること丸わかりじゃん。それに、入るなって言われたら、人間は逆に興味もっちゃうもんでしょ『小菊の兄貴って?』とか『どんな兄貴?』とか! いい、ぜったい姿見せないでよね。見せたら殺す!」

 そもそも部屋にこもるということが不自然だ。二年前は風邪って、いちおうの納得はしたけどな。

 いまの俺はピンピンしてる。

 俺は人の気配が好きな人間で、みんなと一緒のリビングに居ることが多い。

 松ネエが来てからは店で過ごすことも多くなったしな。

 それが数日の間、部屋に鍵まで掛けてエロゲに没頭しようというんだ、それ相当の理由がいる……。

「えと、俺……今日から小説とか書くから」

 そういう触れ込みで、俺の巣ごもりが始まった。

 始まってしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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