大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・337『本番』

2022-08-14 15:04:40 | ノベル

・337

『本番』さくら    

 

 

 いよいよ本番。

 

 エディンバラに来てからは、スコティッシュダンスの練習がメインで、まだろくに観光とかはできてない。

 レッスンの休憩時間に三十分ほどメインストリートであるロイヤルマイル(エディンバラ城に続くメインストリート)をぶらつく程度。

 それでも、ミリタリータトゥーの本番が終わったら、あっちに行こう、こっちを見ようと計画。それだけでも、けっこうおもしろい。よう言うやんか「旅行は計画を立てている時がいちばん楽しい!」て。

 その旅行案内が、パンフでもなく、VRでもなく、リアルに目の前にあって、毎日「あーでもない、こーでもない」とお喋りできるのは贅沢なことやと思います。

 昨日は、特別にアンソニーさんがお昼をご馳走してくれはった。

 実はね、一昨日の昼休みに知ったんやけど、ハリーポッターが書かれたエレファントハウスいうカフェが、去年の暮れに火事で焼けたのを知ったんです。

 ええ、うっそぉぉぉぉ!!

 女の子が驚くと、たいていこの叫び声になります。

 みんなでムンクの『叫び』みたいな顔になってしまう。

 アンソニーさんが連れて行ってくれたのは、昔の貴族さんのお屋敷を改造したレストランやねんけど、それ書いてたら肝心の事が書かれへんので、今は置いておきます。

 

 そう、今日の主題はミリタリータトゥーなんですわ!

 

 今年は、観客として観てるんやなくて、自分自身が出場者やおまへんか!

 出番はラストの一つ前。

 地元のスコティッシュダンスの一団に混じってお城の大手門から出て大手前広場に並ぶ。

 みなさんと一緒にワンコーラス分踊るんですわ。まあ、盆踊りのノリですね。

 一曲終わって全員で決めポーズになって、アナウンスが入る。

『ご来場のみなさん。本日は、日本の高校生グループがいっしょに参加してくれています! 日本は大阪の聖真理愛学院高校のみなさんです!』

 もう、これだけで「「「ウワア!」」の歓声ですわ(^_^;)。

 すると、地元のみなさんが、わたしらを残して輪にならはります。

 自動的に、真ん中に残ったうちら六人(さくら、コトハ、留美、メグリン、ソフィー)は、晒し者みたいにスポットライトをあてられて、もっかいワンコーラス。

 ほんまやったら、河内音頭の一発もかましてみたい気になるんですが、グッと堪えて真面目にやります。

 実は、言われてたんは、ここまでで、あとの展開は分かりません。

 このままやったら24時間耐久スコティッシュダンス! まさかね(;'∀')!?

 すると、わたしらの後ろで、ハードシューズのステップの音!

『みなさん、我がスコットランドの友邦であるヤマセンブルグ女王陛下のソロステップであります』

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 なんや、ものすごいことになってきました!

 踊りながら目の端でチラ見する……え、これが、あの女王陛下!?

 伝統のタータンチェックのキルトで軽やかに踊らはる姿は、いつもよりニ十歳は若く見えます!

 陛下の脇には、同じキルトの衣装でバグパイプを吹いてるジョン・スミスとメグさん。

 うちらは、所定の位置で、言われた通りステップを踏んで踊りまくる。

 すぐに、陛下が、うちらの前に出てきはって、うちらは自動的にバックダンサー。

 正直、バックダンサーの方が気ぃ楽(^_^;)

 それにしても、メッチャハツラツの女王陛下。スピンして、うちらの方を向くときは、一瞬のウィンク。

 いやはや――やったったー!――いう感じのドヤ顔クィーンですわ!

 

 で……これだけやないんです。

 

 大手門から、陛下と同じコスのネエチャンが現れて、小走りで陛下の横に立ってステップを踏み始めた。

『みなさん、ヤマセンブルグのプリンセス、ヨリコ・スミス・メアリー・アントナーペ・エディンバラ・エリーネ・ビクトリア・ストラストフォードエイボン・マンチェスター・ヤマセン殿下の登場です!』

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 もう、何回目か分からん歓声が起こる!

 それで、ワンコーラス終わると、女王陛下は優雅に退場されて、頼子さんのソロになる。

 いつの間にか、ソフィーが抜けて、ソニーといっしょに頼子さんの横でバグパイプを吹いてる。

 うちらは、ひたすら三十秒でワンクールのステップを踏むだけやけど、頼子さんのそれは、千変万化!

 上げる足は90度どころか、もう頭の高さまで上がってるし、後ろに跳ねた足は、自分のお尻を蹴るんちゃうかいうぐらいやし、クルクル回る時は、お正月のコマみたいやし!

 そして、バグパイプは再びジョンスミスとメグさんに引き継がれ、ソフィー姉妹は頼子さんの横で、負けへんくらいのステップを踏んでる。なんや、新しい主従のお披露目みたい。

 

 え……これって、あきらかに、ヤマセンブルグ王室の代替わりを暗示してる。

 すると、それまで周りで輪になってた地元の皆さんが入ってきて、ドガチャガの群舞になってしもた。

 いよいよ、エディンバラもクライマックスの予感。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・086『駅前散歩・1』

2022-08-14 09:33:26 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

086『駅前散歩・1』   

 

 

 バサ

 

 足元で音がして、なんだろうと目をやると、羽ばたき損ねた鳥のような格好で文庫本が落ちている。

 そうか、文庫を読んでいるうちに寝てしまったんだ。

 文庫を拾おうとすると、窓の外に車の音。

 停車音よりも、ドアの開け閉めの音で宅配便だと見当がつく。

 うちに来た宅配なら出なくちゃならない。祖母は出かけているし、祖父は玉代にマッサージしてもらっている最中だろう。

 窓から覗くと、宅配はお向かいのようだ。

 おばちゃんか、娘として居ついているねね子が出てくるかと思ったら。

 

 え、啓介?

 

 啓介は、絶賛引きこもり中だ。宅配の受け取りなんかに出てくるかぁ……いや、荷物は、啓介自身がMamazonかどこかに注文した、自分の荷物だ。

 プライム会員になったとか自慢していたから、たぶん、夕べの内にポチったのが届いたんだろう。

 うちの草むしりをしに来た時に冷やかしてやったことがある。

「夜にポチるのは止めとけ、朝になったら、たいてい後悔するぞ」

 おばちゃんが、グチっていたからだ――ちっとも外に出ないで、変なものばかりネットで買って――

 意見半分で冷やかしてやろうと思いついた。

 セイ

 啓介の部屋にジャンプ。

 一応カギはかかっているが、歴戦の戦乙女の手にかかれば無いも同然だ。

 着地した一秒後に啓介が引き戸を開ける。

「ゲ、また勝手に入って来やがって!」

「何を買った……」

 聞くまでもなく、半分開いた段ボール箱からは、フィギュアのパッケージが覗いている。

「う、うっせえ!」

 質問にも答えずに、バリバリ開けたパッケージからは1/12スケールの多関節フィギュアが出てきた。

「いいのか、そんな乱暴に開けて」

「中古だからいいんだ」

「ああ……」

 ちょっと哀れをもよおした。

 ほとんど引きこもりの啓介はたいしたお金を持っていない。

 お情けで、おばさんからもらう小遣いの他は、ごく稀にいくバイトの収入だけだ。

 見ると、不評で一期ワンクールだけの不発に終わったアニメのヒロインだ。

 できは悪くはないんだが、見込んだほどには人気が出なかったので、放映の後半では値崩れしたプライズ品だ。

 見渡すと、部屋の本箱や棚の隙間に、その手のフィギュアが徒列している。

 まあ、ほどよく構ってやるのが、幼なじみ(という設定)の仁義だろうと、しばらく組み立てるのを見ていてやる。

 

 ガラ

 

 遠慮なく入ってきたのは、妹という設定で住み着いている猫又のねね子だ。

「おう、ひるで来てたのか。啓介、また下らねえもの買ったにゃあ」

 今度は返事もしない啓介。

「ねね子、ちょっと駅前まで行くんだけど、付いてこないか?」

「いくいく、行くニャ!」

 啓介も……と思わないでもなかったが、まあ、無理はしない。

 

 お!?

 

 ちょっと意外だ。

 きっと姿をくらましているだろうと思っていたクロノスの時計店が見えてきたのだ。

「ヘヘ、どんな顔してるのかニャ?」

「おい、よせ」

 制止も聞かずに飛び出すねね子。

「あれえ?」

 店の前で、ねね子が首をかしげている。

「あ……」

 ねね子に追いついて驚いた。

 筋向いのみそな銀行のところまで来ると、時計店が消えてしまうのだ。

「……ちょっと外れると見えるニャ!」

「そうなのか?」

 ねね子にならって移動すると見えてくる。で、店の前まで来ると、消えてしまって、両隣の店舗がくっ付いて、元からクロノスの店など無かったように見えるのだ。

「そうか……そっとしておこう」

「いいのかニャ?」

「いくぞ」

「お、おおニャ」

 

 クロノスの爺さん、偉そうにしていても、そうそう行き場所もないんだ。

 まあ、あとは白絹屋の女将さんとうまくやってもらおう。

「こうやって気にかけてやるヒルデは、可愛いと思うニャ(^_^;)」

「よ、よせ、ついでだ。ことのついでに見に来ただけだ」

「ニャ? ほかに行くとこあったニャ?」

「行くぞ」

「ニャ!」

 

 あてがあるわけじゃない、豪徳寺の街を、ただ散歩する。

 

 しばらく、豪徳寺の生活道路を呑気に散歩する。

 もうちょっとで公園というところで、気配を感じた。

 夕立が迫っているのに似ている。空気が湿っているのにもかかわらず、さっと気温が下がってきたのだ。

「ヒゲがピリピリするニャ……」

 いつの間にか、鼻の横からヒゲを出している。

「面倒は避けたい、帰るぞ」

「ニャ」

 揃って回れ右をしようとしたら、視界の端をチマチマと走る者が見えた。

 

 タタタタタタタタ タタタタタタタタ タタタタタタタタ

 

 幾百のフィギュアたち、啓介が買ったのと同じ1/12サイズのフィギュアたちが、前に後ろに、はたまた横から横へと走り回っていたのだった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・34『本番が見てみたい……』

2022-08-14 06:31:50 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

34本番が見てみたい……』 



 開いた口が塞がらなかった。

 そして目のやり場に困った。
 シグマは、こういうものには慣れているはずなのに、真っ赤になっている。

 お祓いの神事が終わったそれは圧倒的な存在感だ。


 三メートルほどのそれは、荷台の長さには収まらず、先端の部分が運転席の屋根に掛けられて隆々と首をもたげている。

 稲わらで出来たそれは、根元から3/4ほどは神社の名前が黒々と書かれた白布で覆われて、いかにも祭りのモニュメントって感じだけど、そのフォルムがケシカラン、実にケシカラン!

 神社の鳥居の前には交番があって、もちろんお巡りさんも居るんだけど、そのお巡りさんも鳥居前まで出てきて感心したように眺めている。

 だめだろー! これって完全に法律に触れるぞ!

「えと、えと、あれってあんな形してるものなんですか?」

 オズオズとシグマが聞く。

「エロゲやってて、その……知らんのか?」
「し、知りません!」

「そりゃそうだ、ゲームでは大抵モザイクかボカシだもんな」

 ノリスケが平板な声で言う。こいつが本気で感動したときにはこうなる。

「車から降ろしますよ」

 そろいの法被を着た役員さんたちが荷台に上がってソロリソロリと持ち上げた。

 大きさの割には軽くできているらしく、年寄りばかりの役員さんたちは「セイヤッサ、セイヤッサ」と元気な掛け声で、地上の役員さんたちにリレーしていく。

「あれ、オメガんちのじいちゃんじゃん」

 リレーのお終いに控えているのは、うちの祖父ちゃんだ。

 祖父ちゃんはパブのマスターをやっていたぐらいで、どっちかっていうとハイカラな年寄りなんだけど、法被でねじり鉢巻きの姿は和風で、どこか若やいでる。

 やがて、その祖父ちゃんのところまで周ってくると、六人の役員さんがシッカと担いだ。
 そいで、巫女姿の風信子(ふじこ)が静々と、その先端に紅白の紐の付いたしめ縄を掛ける。
 介添えの役員さんが居るとは言え、それは戦艦大和の主砲ほどの直径がある。

「あ、なんか恥ずかしい(#'∀'#)……」

 言葉を、そこで止めたのは、シグマも普通の女子高生だということだろう。
 
 エロゲ慣れしたシグマでさえこうなのに、巫女の風信子はどうだ!

 エイっとばかりにしめ縄を回した時にバランスを崩し、なんと、その先端部分に顔を押し付けてしまったではないか。

「あ、電機屋のオヤジ!」

 介添えをやっていた電機屋のオヤジが横から風信子を支えた。

 支えたのはいいが、その左手は風信子の胸を掴んでいるじゃねえか!

 ク、羨ましい! じゃなくて、反則だろーが!

 何事も無かったように居住まいを正すと、風信子はしめ縄を付け終った。

 役員さんたちに担がれたソレは、境内を一周して拝殿の中に収まろうとしている。

「あれの先っぽって、ガラガラの鈴に似てますね……」

 シグマは静かに感動して、俺とノリスケは、もう突っ立てるだけだ。

 帰り道、シグマは感動の熱が残った声で、こう言った。

「本番が見てみたい……」

 本番て、祭りのことか……それとも……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする