大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・27『嵐も吹けば風も吹く』

2022-10-07 14:41:56 | エッセー

 エッセーラノベ    

27『嵐も吹けば風も吹く』

 

 

 鼻歌を口ずさむってことありますか?

 

 週に五度くらいは散歩に出ます。たいてい自転車で、10~20キロ、時間にして1~2時間。時には30キロを3時間くらいかけて走ります。

 春や秋、お天気がいいと、つい鼻歌が口を突いて出てきます。

 レパートリーに脈絡はありません。フォークソング、アニソン、オールディーズ、ポップス、どうかすると、インターナショナルの次に轟沈を口ずさんでいることもあります。

 人生のあちこちで聞いたり憶えたりした歌が、脈絡があったり無かったり、浮かんでは口から出てきます。

 

 十八番というか、よく出てくる歌があります。数えたことはありませんが、十八曲以上あることは確かです(笑)

 そんな十八番の中に『ここに幸あり』があります。

 

 嵐も吹けば~風も吹く 女の道よ何故険し~ キミを頼り~に~ わたしは~生きる~♪

 

 ジェンダーフリーの方々からはNGで、張り倒されかねない歌詞なのですが、春や秋の晴れ渡った空の下を走っていると、似つかわしい歌です。わたしの中では『青い山脈』と双璧の人生の応援歌であります。

 鼻歌というのは、歌っている本人は気持ちのいいものです。ですが出くわした人には、いささかはた迷惑なものですから、人が多いところ、踏切や横断歩道では中断します。

 たまたま周囲に人影のない公園横の横断歩道で、歌いきりが悪いので「ここに幸あ~り、あ~おいそ~ら~♪」と歌いきってしまったことがあります。

「いやあ、テレビ結婚式やねえ(^0^)」

 わたしより5~6歳は年上と思われるオバアサンが斜め後ろから声を掛けてこられました。

 不意打ちでもありましたので、アハハと不得要領に愛想笑いするしかありませんでした。

 

 横断歩道を渡って思い出しました。たぶん花王石鹸かなにかがスポンサーであったと思うのですが、テレビで結婚式の中継をやる番組がありました。

 幼稚園か小学校の低学年のころですから、昭和の三十年代でしょう。

 徳川無声さんの司会だったと思います。

 毎週見ていたわけではありませんが、なんだかドキドキして神妙に見ていた記憶があります。

 たいてい横で、お袋が内職の針仕事をやっています。

 共に大正十四年生まれの親父とお袋は、終戦間もない時に所帯を持ちましたので結婚式をあげていません。

 子ども心に、ちょっとまずいかなあ……と思いながらも、その緊張感と晴れがましさが刺激的で、チャンネルを変えられませんでした。

 調べると、最初の頃は有名人の結婚式などをやっていたらしいのですが、わたしの記憶では一般募集で当選した三組ほどのカップルが同時に式を挙げておられたような記憶があります。

 中には、すでに結婚していて、わけあって式を挙げられなかったご夫婦なども出ておられたような記憶があります。

 戦争で瀕死の重傷を負った同士で結ばれたカップルがおられました。

 徳川無声さんが、しみじみとお二人の越し方を述べられるのですが、参列している親族知人の方々もことごとくが戦争体験者であります。あちこちから忍び泣きや嗚咽が聞こえてきます。

 シンとしていると思ったら、お袋が裁縫の手を停め、メガネを外して割烹着の裾で目を押えていました。

 子ども心に、このつぎは別のチャンネルにしようと思いました。

 もう少し書こうとおもったのですが、栞の「ただいま~」が聞こえてきましたので、またいずれかの機会に。

 

 

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魔法少女マヂカ・292『ポチョムキン村・1』

2022-10-07 11:09:03 | 小説

魔法少女マヂカ・292

『ポチョムキン村・1語り手:マヂカ 

 

 

 地面に激突したのではないようだ。

 

 倒れ伏してはいるが、ちゃんと意識はある。おそるおそる指先を動かしてみる……ちゃんと動いている。

 指先が動かせるということは、その根元の手足も無事なのだろう……うん、痛みも無く動かせる。

 体の他のところにも異常はないようだ。

 体の下にはケットのようなものが布いてある。兵隊の毛布に似ているが、カシミアのように肌触りが良くて心地いい。

 そのケットの下は芝生だろうか、その下の地面も作付け前の畑のように感触が優しい。

 寝返りを打つと、柔らかな青空を一群れの雲がゆるゆると流れていく。

 あ…………小さな黄色い蝶々が二つ戯れながら視界を横切っていく。

 蝶々を追った先に立っている後姿…………孫悟嬢。

 

「ああ、やっと目が覚めたか」

 

 振り返った旧友は、遠足のお弁当のあとのようにリラックスしているが、どこか困惑の表情だ。

「ちょっと、面倒なところに来てしまった」

「どこなのだ、ここは?」

「起きて見れば分かる」

 よっこいしょ。

「もうやられてるな『よっこいしょ』なんて、戦闘中の魔法少女が口にする掛け声じゃないぞ」

「あ……そうだな、さっきまでの緊張感がまるで…………この穏やかさは…………」

 そこは、ささやかな丘の上。丘は緑に覆われていて、わたしが目覚めた頂上は若草色の芝生、その上に敷かれているのは上質なケット、まるで、貴族のピクニックだ。

 丘の裾には小川が流れていて、耳を澄ますと小鳥のさえずりとせせらぎの音が懐かしい。

 小川の橋からは、緑の麦畑の中を遠景の村へと小道が続いて、ネギ坊主のような教会の尖塔が穏やかに風景を引き締めている。

 まるで、印象派の画家がウクライナを旅行して描いた油絵の中に居るようだ。

 

 あ

 

「分かったようだね」

「ポチョムキン村だな」

「ああ、ちょっと厄介だ」

 厄介と言いながらも悟嬢には緊張感も切迫感も無い。たぶんわたしにもない。

 

 ポチョムキン村とは、見掛け倒しの平和や安定を装ったハリボテのまがい物という意味なんだ。

 ポチョムキンと言えば、ロシア革命の先駆け。水兵たちが反乱を起こした戦艦ポチョムキン。

 しかし、その名前の主は、18世紀、エカテリーナ二世の覚えも目出度い帝政ロシアの主席海軍大将であり、大貴族だ。

 エカテリーナ二世の秘密の夫と呼ばれたのがポチョムキン公爵。

 軍事にも政治にも大した才能も業績も無いポチョムキンであったが、エカテリーナ二世への献身は凄まじかった。

 エカテリーナ二世がウクライナの村々を視察に行くときは、沿道沿いの村々をきれいに清掃させ、清掃で間に合わないところはハリボテのセットでそれらしく見せた。領民たちにもこざっぱりした成りをさせて、彼女の治世がうまくいっているように見せかけて満足させた。

 以来、ロシアでは政治的粉飾、取り繕いのことを『ポチョムキン村』と呼ぶようになったのだ。

 

「そう、ただのハリボテならぶち壊してしまえばいいだけなんだけどね……」

 丘の上、古手の魔法少女はそろって腕を組んでしまう。

 ポチョムキン村の面倒なところは、99%の嘘の中に1%の真実、あるいは真情が籠っているところなのだ。

 それは、けしてむげにぶち壊していいものではないのだ。

 ぶち壊しただけでは、この煉獄のようなポチョムキン村から脱出することはできない。

 代々のロシア担当魔法少女の言い伝えなのだ……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・87『パックをペチャンコにする』

2022-10-07 06:32:56 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

87『パックをペチャンコにする小菊 





 昼休みが長くなったような気がする。

 学食でランチを食べたあと、グラウンドを見下ろすベンチに腰掛けて、パックジュースをチビチビやるのが日課。

 どうかすると飲み切らないうちにチャイムが鳴っていた。

 それが、パックジュースを飲み切っても時間が余る。

 ジュルジュルルーーーーーーペコン

 飲み切ったパックジュースのストローをしつこく吸って、パックをペチャンコにする。

 お母さんは行儀が悪いというけど、子どものころからの癖でやめられない。

 

 癪だけど、腐れ童貞と同じ癖。

 

 ペチャンコにしたところでベンチ一つ向こうのゴミ箱に投げる。

 ストライクになると嬉しい。三回に一回は失敗し、立ち上がって拾い、ゴミ箱に捨てに行かなきゃならない。

 パックジュースは飲み切っておかないと、わずかに残ったジュースがペシっと飛んで制服やら顔に掛かったりする。

 でも、ペチャンコになるまで吸っとけばジュースの逆襲に遭うことはない。

「でも、かかってしまいますー(´;︵;`)」

 増田さんは、いつも失敗していた。失敗しても増田さんは、あたしの真似をした。

 ああ、そうだ。増田さんがいないから早く済んじゃうんだ。

 増田さんは、こともあろうにサブカル研に入ったらしい。

 腐れ童貞がシグマたちといっしょに作った同好会。サブカルチャーとか言いながらエロゲをやっていることはチラホラ噂にもなっている。

 ま、増田さんが自立して部活をやることはメデタイことなんだけど、あの増田さんが……という気持ちは拭えない。

 余った時間、あたしはこうしてグラウンドに居る生徒たちを見ている。

 観察と言うと大げさなんだけど、人を見ているのが好きだ。

 観光名所とか大自然の美しさにはそれほど興味は無い、景色がいいのにこしたことはないんだけど、人間が見えてこなければ値打ちは半分。

 グラウンドを見下ろす、この場所は屋上の次に眺めがいい。

 人を見るんだったら、渡り廊下からの中庭もいいんだけど、ちょっと閉鎖的な感じと、背後を人がゾロゾロ歩くのがね、ちょっとね。

 ヒューーーーー

 と音はしなかったけど、あたしの頭の上をペチャンコパックが飛んで、ベンチ一つ向こうのゴミ箱にストライクした。

 あたし以外に、あたしよりも遠くから飛ばす人がいるのでビックリした。

 アハハ、ビックリした?

 明るい声に首をひねると、ビバ先輩が涼宮ハルヒみたくスーパーマンポーズで立っている。

「和田先輩!?」

 わざと本名の方でビックリしておく。

「素直じゃないなあ、驚いた瞬間は瑠璃波美美波璃瑠だったはずだよ」

「一応敬意を払ったつもりです」

「そっか、ま、いいや」

 そう言うと、ビバ先輩は、あたしの横にどっかと座った。

「え、えと……」

「はい、これにサインしてくれる?」

 先輩は、あたしの顔の前に雑誌を差し出した。

 目の焦点を合わせてロゴを確認すると、トッパ6月号だ。

「本日発売のホヤホヤ、四時間目に抜け出して買ってきたばかり」

 そうなんだ、今日は突破新人賞のあたしの作品が6月号に掲載される日なんだ!

 でも、ビバ先輩は、わけは分からないけど、すでに『くたばれ腐れ童貞!』は読んでいる。

 それをわざわざ学校を抜け出してまで買ってきた。

 なんかある感じはしたけど、きちんと本を差し出されては、サインしないわけにはいかない。

「ども、ありがとうございます」

 サラサラとサインする。

「お~~書き慣れたサインだね~」

「アハハ、必死で練習しましたから(*´∀`*)」

 可愛いリアクションをしておく。

「よし、これで、わたしたちはライバルとして新しい局面に突入するのだよ、ひとひとまずまず」

 先輩は可愛くスキップしながら行ってしまった。

 あいかわらず目は笑っていなかった……。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
  •  

 

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