大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 91『まずはクルミ売り』

2022-10-23 10:36:22 | ノベル2

ら 信長転生記

91『まずはクルミ売り』織部 

 

 

 皆虎の街は予想以上に賑わっていた。

 

 庶民や商人というのは肌感覚で生きている。

 貴族や大名、宗教者や思想家、政治家などと看板の付いた奴は、身にまとった衣からしか感じることができない。感じようとしない。

 曹茶姫や信長の働きで、数十年ぶりに城門が開かれると、商人どもは三国志と扶桑の、あれこれの違いに気が付いた。

 扶桑の人間が欲しがっているもの、三国志に余っているもの。そして、扶桑の側からも、それを感じて商いを始めた。

 最初は城門の外で、次には、諸設備の整った皆虎の城内で取引が行われるようになった。寂びれ果てた辺境の旧軍都でしかなかった皆虎は、一躍新興商業都市に変貌し始めたところだ。

「道幅が半分になっている……」

 城門を潜り、中央通に入ると、後ろからリュドミラが呟く。

 旅の供としては横を歩いてもらったほうが穏やかなんだけど、わたしをガードするためのポジションだから仕方がない。わたしも、背中に目鼻がついた感覚で話す。

「まだ辻売りの露店の域を出ないが、もうバザールの賑わいだね。雑然並んでいるようだけど、露店の構えや規模に弁えと慎みがある」

「うん、いい軍政が布かれた占領地のようだ」

「とくに監視の兵隊がいる様子はないけど……」

 あとは言葉を濁した。

 雰囲気が、岐阜や安土に似ている。信長が楽市楽座を布いた街も、こんな具合だった。

 いいことなんだけど、口に出して言うのは癪だし。

「前後二回、信長が来たらしいけど、その影響かなあ?」

「来たといっても、曹茶姫の近衛騎兵だ、そこまでの力は無い。この皆虎がもともと持っていた秩序感覚よ」

「ん……なんかムキになってない?」

「なってない。街の賑わいに、ちょっと興奮してるだけ!」

「そうなのか?」

「さ、クルミ売りの場所取りをやるわよ」

「え、ダンゴにはしないの?」

「新参者だよ、最初は遠慮しないと……あの茶碗売りに聞いてみよう」

 

「おう、らっしゃい。高級品は無いけど、常使いの手ごろなの揃えてるよ(^▽^)」

 路地端の露店の親父に声を掛ける。

「ちょっとクルミを売りたいんで、器が欲しいの、陶器の茶碗とザルが欲しい」

「ああ、それなら、これと……これかな。上代は三百文だけど、天気もいいしオネエチャンたちもベッピンだし、二百と八十文にまけとくよ」

「う~ん、もう一声。茶碗は仕舞いものでしょ、同じ大きさのは、これ一つっきりみたいだし」

「かなわねえな、よく見てるよネエチャン。じゃ、二百と五十文だ」

「ありがと、じゃあ、そっちのお椀もいただくわ。同じの二つね」

「まいど。初商いだったら、大通りはダメだよ。見ての通り一杯だからね、まずは路地際、ここを入った二つ目が空いてるから、ボチボチやってごらん」

「ありがとう、助かったわ。はい、お代」

「それと、一応は坪の世話役に挨拶しときな。ほら、筋向いの代書屋がそうだから」

「うん、分かった。ほんとうにありがとう」

 

「あれ、代書屋には行かないの?」

 

「手ぶらじゃ行けない、まずは……あった」

 酒の露店を探し、ちょっとだけいい酒を五合徳利二つ買って代書屋を目指す。

「ひょっとして、お土産? 話付けるなら現ナマ要るんじゃないの?」

「え、そうなの?」

「ソ連の占領地だったら、そうしてた」

「ま、ここなら大丈夫でしょ」

 信長の楽市では賄賂めいたもののやり取りは無かった。

 同様のものなら、ここでも同じだろう。

「これは痛み入る。路地なら、空いていれば自由に使いなさい」

 代書屋は、元々は皆虎に駐屯していた軍人のようで、あいさつ代わりの徳利を渡すと機嫌よく認めてくれた。

 

「おじさん、上手くいったわ。これ、ほんのお礼」

 残りの徳利を茶碗屋に渡して、まずは笑顔。

「やあ、すまない。かえって気を遣わせちまったなあ」

「ううん、よろしく。ほれ、あんたも」

「え、あ……ども」

 リュドミラにも頭を下げさせ、とりあえず、間口五尺のクルミ売りから始まった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・3『第一章 54分30秒のリハーサル・1』

2022-10-23 07:06:13 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

3『第一章 54分30秒のリハーサル・1』 

 

 紺碧の空の下、乃木坂を二台の四トントラックがゆるゆると下っていく。

「絶品の秋晴れ。今年も優勝まちがいなし……」

 貴崎マリ先生は花嫁道具を運ぶ花嫁の母のように助手席で呟いた。

「……今年で五年連続かあ」

 馴染みの運ちゃんが相方のように付け加えた。

「全勝優勝よ」

 ダッシュボードに片足をのっけたところは、アニメに出てくる空賊の女親分である。

「ヒュー、すげー!」

 運ちゃんは口笛をならして、貴崎先生お気に入りのポップスのボリュ-ムを上げた。

「あ、でも、六年前コケませんでした?」

「ん……!?」

 先生の眉間にシワが寄る。

「いや、オレの思い違いかも……」

「あれは、わたしが乃木坂に来る前。前任の山阪先生の最後。さすがの山阪先生も疲れが出たんでしょうね。わたしが来てからは全勝優勝」

「先生は、たしか乃木坂の卒業生なんすよね?」

「そーよ。山阪先生の許で『静かな演劇』ミッチリやらされたわよ。あのころはあれで良かったと思ってたけど、やっぱ演劇って字の中にもあるけど劇的でビビットな非日常を表現できなきゃねえ! だいたいね……」

 それからの運ちゃんは、目的地のフェリペ学院に着くまでマリ先生の演説を聴くはめになってしまった。運ちゃんは、マリ先生の片足で隠れたダッシュボードの缶コーヒーを飲むこともできなかった……。


 フェリペ学院は、わが乃木坂学院高校よりも歴史の古いミッションスクール。

 創立は百ウン十年前だそうだけど、そこは伝統私学。第二次ベビーブームのころから、少子化を見込んで大改革。

 中高一貫教育、国際科や情報科を新設。さらに目玉学科として演劇科を前世紀末に、某私学演劇科の先生を引き抜き、ミュージカルコースの卒業生の中には、有名ミュージカル劇団に入って活躍する人や、朝の連ドラのレギュラーをとっている人もいる。

 当然設備も充実していて、大、中、小、と三つも劇場を持っている。私たち城中地区の予選は、この中ホールを使わせてもらっている。 キャパは四百ほどだけど、舞台が広い!

 間口は七間(十二・六メートル)で、並の高校の講堂並だけど、ヨーロッパの劇場のようにプロセニアムアーチ(舞台の額縁)の高さが間口ほどもあり、袖と奥行きも同じだけある。中ホリ(ホリゾント幕。スクリーンの大きいやつ。これが奥と、真ん中に二つもある!)を降ろして、後ろ半分は道具置き場にしてます。

 なんせ、わが乃木坂学院高校は道具が多くて大きい。

 四トントラック二台分もあるのだ。

 先代の山阪先生のころから使い回しの大道具が、そこらへんの劇団顔負けってくらいあって、入部した日に見せられたのが、その倉庫。平台やら箱馬(床やら、土手を作るときに使います)壁のパネルに、各種ドアのユニット。奥にいくと、妖怪ヌリカベの団体さんがいた!

「わー……!」

 と、その迫力にタマゲタ!

 このヌリカベの団体さんは、舞台全体を客席の方に向かって傾斜させるために使う床ってか、舞台そのものをプレハブのパーツのようにしたもの。これを使うと、舞台全体に遠近感が出る。業界用語で「八百屋飾り」というらしい。その迫力は、とにかく「わーーー( ゚Д゚)!」であります。わたしたちは、それを「ヌリカベ何号」というふうに呼んでます。

 マリ先生は、こう言う。

「フェリペが、舞台全部使わせてくれたら、こんなもの使わなくってすむのに!」

 今回は「ヌリカベ九号」まで持っていく。それだけで四トン一台はいっぱい。

 他の学校は、こう言う。

「乃木坂がこんなの持ってこなきゃ、舞台全部使えんのに!」

 どっちが正しいのか、そのときはまだ分からなかった。

 


☆ 主な登場人物

仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

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