大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・130『件の露頭でシゲさんと再会』

2022-10-26 16:39:48 | 小説4

・130

『件の露頭でシゲさんと再会』心子内親王  

 

 

 火星には二十幾つの国があって、その全てが地球の国々にルーツがある。

 元をただせば、地球の国々の植民地や入植地だったところが発展して国になったからだと中学部で習った。

 扶桑は日本 マス漢は漢明(中国) 連合国はアメリカ という感じ。

 高等部では――国連(第三次国連)の精神で火星政府を作っていれば無駄な戦争などしなくて済んだ!――と、世界史の先生が息巻いていた。

 先生の言う通り、火星では二度の大戦争が起こり、直近のマース戦争では大勢の犠牲者が出た。

 わたしの立場から先生に反論するわけにはいかなかったけど、違うと思う。

 地球でも二十年前の満州戦争を始め、紛争や戦争が絶えない。けして火星の見本になれるようなものじゃないと思う。

 先生たちだって、組合が三つもあって、去年は内ゲバで若い先生たちに負傷者まで出ている。

 バカなマスコミが、たまたま東京駅で出くわしたシゲさん(森ノ宮茂仁親王)にインタビューした。

『若いころに左翼闘争に走らない人は情熱が足りないでしょ』

 皇族らしからぬ答えを引き出して、マスコミはシゲさんを、進歩的皇族だと賞賛した。シゲさんは――ピュアな情熱があるからこそ殴り合いにもなるんでしょう――と笑顔で感想を締めくくった。

 なんて答えをするんだ! 正直ビックリしたわ。

 でもね、伯母さんはニヤニヤして、こう教えてくれた。

『それは、チャーチルの言葉をもじってるのよ。チャーチルのその言葉には後半があってね「大人になって左翼から抜けられない奴は知恵が足りない」って続くのよ』

 いやはや、一筋縄ではいかない人なんだと感心したわ。

 

「この岩の向こうが現場のようでござる」

 ナビをインストールしたサンパチさんの案内で、いよいよ現場は目前。

「御城下では分からなかったけど、扶桑の国も、この辺りまで来ると荒涼としているわね」

 火星では、雑草でさえ人が面倒をみてやらなければ生えることが無い。

 府道を外れて二キロあまり、人工的な草原もまばらになって、この先は人類未踏の頃の火星と変わりがないらしい。

 

 あれ?

 

 岩を周ってすぐに件の露頭は見えてきたんだけど、ハンベのナビが示すそこには先客が跪いていた。

 ささやかだけど、お花を捧げて、お線香の煙が立っている。

「先客のようでござるな」

「ちょっと待っていましょうか」

 声が届く距離じゃないんだけど、その人は、ちょうどのタイミングで立ち上がった。

 

 え……シゲさん!?

 

 たったいま、思い出していたシゲさん本人がリアルに居るのでビックリしてしまった!

「あ……いやあ! キミは、ココちゃんではないですか!」

 シゲさんも、わたしに気が付いて、ドスドスト走ってきた。

「ビックリした! シゲさん、火星にいたんですね!?」

「そっちこそ、西之島に住み着いたって、それで、沖縄に用事で行って事故に遭ったとか、僕は信じていなかったけど」

「シゲさんこそ、伯母さんが心配してましたよ」

「え、陛下が……」

 やっぱり、伯母さんのことになると、この人は真顔になる。

「また、なにか悪だくみしてるんじゃないかって」

「あ、あはは、御即位の前は、陛下にも悪戯しましたからねえ(^_^;) あれこれ落ち着いたらお知らせするつもりではいたんです。こちらの美少女は?」

「西之島で同じラボに居たサンパチさんです」

「これはこれは(#⊙ꇴ⊙#)」

「シゲさん、目つきがあぶない(^_^;)」

「西之島の住人サンパチでござる」

「え(?△?)」

 見た目とのギャップにビックリするシゲさん。

「汎用作業機械でござる。人でもロボットでもござらぬのでご承知おきを」

「はあ、こちらこそ、ココちゃんの親類の茂仁です」

 サンパチさんはロボットのように並列化されていないので、島外の人はネットで繋がっていないハンベを見るような、自分の敷地からは外に出ない車を見るような奇妙な感じがするらしい。

「シゲさんも、お参りに来たんですか?」

「うん、あれを発見したのは僕なんでね、毎月発見した日にはお線香をあげにくるんだ」

「発見者はシゲさんだったんですか!?」

「まあね、公式には旅行者が発見したことになっている。僕が火星に居ることは内緒だからね」

「わたしと一緒ね」

「まあ、今のところは深く考えないことにしている」

「ですね」

「それよりも、ココちゃん、さっきの速報は見た?」

「あ、そう言えば、ハンベが速報のアラーム……」

 自分のハンベを見る前にシゲさんが、すごいことを言った。

「日本と漢明国が戦争になっちゃったね……」

「え!?」

 起動したハンベは、西之島を巡って日漢の紛争が起こったことを知らせていた……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

   

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宇宙戦艦三笠1[黎明の時・1]

2022-10-26 08:03:03 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

1[黎明の時・1]   

 

 

 

 ほんとだってば!

 例年になく早い木枯らしをも吹き飛ばす勢いで天音が叫んだ。窓ガラスのガタピシは天音の叫びで一瞬のフォルテシモになった。

「だれも天音がウソ言ってるなんて……」

 あとの言葉を続ける気力がなかった。天音は、オレがいい加減に聞いているとしか思わないだろう。

「だったら、ちゃんと聞けって!」

 予想通りの反応だ。

 オレとしては樟葉にふってほしかったんだけど、こういう時は樟葉は得だ。投げ出してボンヤリしていると、樟葉は一見クソまじめに見える。樟葉とは保育所の頃からいっしょだからよくわかる。きれいな足を揃えて腕組みした姿は、ひどく冷静に考えているように見える。だから天音は正直にボンヤリしているオレに突っかかってくる。

「だからさぁ、黒猫と白猫が路地から出てきたと思ったら茶色の猫が出てきて、トドメに三毛猫が出てきたって言うんだろ?」

「ちがう! 白猫が先で黒猫は後!」

「ああ、わりー、逆だったっけ。でもさ、そんなのブンケン(横須賀文化研究部)の研究成果として……発表できる?」

「ツカミだツカミ。あとは適当に、この秋に新装開店したお店の開店ご挨拶とかクーポンとかコピペして貼っときゃ分かんないだろ!」

「ああ、もう、そんな段階じゃないんだよ。明日、ここ軽音に明け渡さなきゃなんないんだからさ」

「最後に、ドバってかましてみようぜ。ネットなんて、一晩でヒットするかもしれないんだからさ!」

「宝くじ買うより確率低い……」

「もういい、あたし一人でやる!」

 天音は、一人パソコンに向かってエンターキーを押した。
 カチャカチャカチャカチャ……
 
 で、数十秒後。

「……な、なんで、ブンケンのホームページ出てこんのだ!?」

「閉鎖したんだ。パソコンも初期化しちゃったし。それより、そろそろ時間。ロッカーの資料運ぶ。手伝って」

 樟葉が立ち上がった。手にはスマホ。どうやら兄貴あたりに車を頼んでいたようだ。

 バーン!!

 ヒッ!

 必要以上の力でロッカーを閉める。樟葉も、それなりに頭にはきているようだ。

 ロッカーには、20年分のブンケンのアナログ資料がある。油壷マリンパーク、城ケ崎灯台、城ケ島、海軍カレー名店、ヴェルニー公園、三笠公園……そしてブンケンの発足時代の横須賀ドブ板通りの資料。

 もともとは、前世期の終わりに出た横須賀を舞台にしたRPGにハマった先輩たちが、今で言う聖地巡礼みたいにして始まったのがブンケン。

 だから、初期の資料はハンパじゃない。ゲームが流行っていたころはテレビ局が取材に来たこともあったらしい。このアナログな資料は、きちんと整理すれば、オタクの間ではかなり貴重なお宝もあるとか。それで、これだけは一括して樟葉が保管して、みんなの気力が戻ったら処分して、パーッと一騒ぎしようということになっている。

 だが、ここまで落ち込んじゃ、そんな気力が卒業までに湧くかどうか。


「じゃ、家のガレージに置いとくから、いつでも見に来いよ」

 樟葉の兄貴が、そう言って車を出した。


「……トシ最後まで来なかったな」

「トシなら三本向こうの電柱の陰」

 天音とそろって首を向けると、トシ(昭利)が白い息を盛大に吐きながら、自転車で駆け去った。トシはブンケンの部員だけど、ずっと引きこもりで学校そのものに来ていない。

「学校の傍まで来たんだから、トシくんにしちゃ進歩じゃないかな……ま、ここで解散しよう。わたし部室の鍵返してくるから、先に帰って。このさい連れションみたく列組むのはよそうね。はい、元気に一本締め……いくよ!」

 パン!

 締めだけはきまったけど、たった三人じゃ意気上がらないことおびただしい。ま、今さら意気挙げてどーするってこともある。

 天音は、サッサと駅に向かった。樟葉は――ここで解散――と背中で念を押してカギを返しにいく。オレは木枯らしの空を一瞥してからチンタラ歩きだす。足早に校内に戻った樟葉の気配は消えて、天音の姿はすでに視界の中には無い。

 せめて胸張って歩きたかったけど、朝の暖かさに油断してマフラーを忘れた。
 背中が丸いのは、気の早い木枯らしのせいで、落ち込んでるわけじゃない。
 そう思ってみても、背中を丸めていると、ひどく湿気って落ち込んだ気分になってくる。


 やがて、美奈穂が三匹の猫を見たというドブ板の横丁まで来た。


 すると、黒い猫が道を横切り、続いて白い猫、そして茶色の猫……でもって、次に三毛猫が横断している。

 ニャー

 猫語で挨拶してみる。

『元気出してニャ』

「お、おう」

 え、喋…………った? 猫が?

 ミャー

 今度は猫語で返して、尻尾を一回だけ振って行ってしまった。

 猫が喋るわけねえし……錯覚、錯覚。

 そう思いなおして前を向こうとしたら、路地に入ったばかりの猫たちが戻ってきて、両足で直立したかと思うと、ビシッと敬礼を決め、思わず答礼すると、ニヤッと笑って行ってしまった。

 え?

 ひょっとしたら、このとき、もう、それは始まっていたのかも知れない……。


☆ 主な登場人物

 修一      横須賀国際高校二年
 樟葉      横須賀国際高校二年
 天音      横須賀国際高校二年

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・6『抹茶入りワラビ餅』

2022-10-26 05:59:08 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

6『抹茶入りワラビ餅』 

 

 

 わが乃木坂学院高校演劇部は、先代の山阪先生のころから顧問の創作脚本を演ることが恒例になっていた。「静かな演劇」と「叫びの演劇」の差はあったけど、根本のところでは同じように感じる。

 どこって、上手く言えないけど……集団として迫力があるところとか、青春ってか、等身大の高校生の姿を描くとこ(毎年、審査員が、そう誉めているらしい)、なんとなく造反有理なとこ(この四文字熟語は、入学してからマリ先生に教えてもらった)……そして、毎年地区発表会(予選)で優勝し、中央発表会(本選)でも五割を超える確率で優勝。この十年で全国大会に三度も出場して、内二回は最優秀。

 つまり日本一(*´ω`*)!

 この作品のアイデアは、夏休みも押し詰まったころ、創作に行き詰まって湘南の海沿い、愛車のナナハンのバイクをかっ飛ばし、江ノ電を「鎌倉高校前」の手前で三十キロオーバーで追い越したとき、急に「抹茶入りワラビ餅」が食べたくなった先生。そう言えば江ノ電の電車って、抹茶を振りかけたワラビ餅に似ていなくもない。

 で、そのまんま鎌倉に突入したマリ先生は、甘いもの屋さんに直行。

 で、出てきた「抹茶入りワラビ餅」を見て、ハっと思いついたわけ。

 なにを思いついたかというと、お皿の上に乗っかった「抹茶入りワラビ餅」が、わたしたちコロスに見えた。

 で、コロス…コロス……そうだ「コロス」の反意語は「イカス」だ!

 で、あとは、そのヒラメキを与えてくれた「抹茶入りワラビ餅」を無慈悲にもパクつきながら、携帯で必要な情報を検索。その日の内にアラアラのプロット(あらすじ)がまとめられ、今日のリハーサルに至っているというわけなのよ。

 この話を聞いたとき、部員一同は「アハハ」と笑いながら、今さらながら、マリ先生を天才と思った。集団の迫力、等身大の高校生、反体制というセオリーが見事に一つになっている!

 ただ、家でこの話をしたとき、クタバリぞこないのおじいちゃん(わたしじゃなくて、おばあちゃんが正面切って、お母さんは陰でこそこそ言っている)が、こう言った。

「イカスってのは、もともと軍隊の隠語(業界用語)なんだぜ……」 

 ま、昭和ヒトケタのおじいちゃんのチェックはシカトして、本題に……。

 場当たりをきっかり二十分で終えたあと、今度は十七分きっかりでバラシを終えて、中ホリ裏の道具置き場に道具を収めた。

「五十四分三十秒です」

 山埼先輩が報告。

「じゃ、残りの五分三十秒は次の学校さんが使ってくださいな。オホホホ……」

 余裕のマリ先生。

 しかし、中ホリ裏の道具置き場は半分がとこ、わたしたち乃木坂の道具で埋まっていた。

 それが、いささか他の学校のヒンシュクをかっていたことなど、その時は気づきもしなかった。

 立て込みやバラシも他校の実行委員の手を借りることはなかった。それが誇りでもあったし、ほかの学校や、実行委員の人たちにも喜ばれていると思っていた。

 そう、あの事件がおこるまでは……というか「あの事故」は終わったわけではなかったのよ。

 


☆ 主な登場人物

仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

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