大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・356『百武真鈴 改訂版を書く・1』

2022-10-29 09:00:29 | ノベル

・356

百武真鈴 改訂版を書く・1さくら    

 

 

 大した人よねぇ!

 

 朝の昇降口で出会った頼子さんは、うちらの「お早うございます」に応えもせんと、下足のローファーを左手に、右手にはスマホを持ったまま感嘆の声を上げた。

「え、なにがですか?」

 留美ちゃんが穏やかに聞き返すと、頼子さんの守護霊みたいに立ってるソフィーが――モモタケマリン――と口の形だけで教えてくれた。

 それで、一瞬自分のスマホを出しそうになったんやけど、ソフィーの斜め横に立って頼子さんのスマホを覗き込む。

 ほんまは、校内でスマホはご禁制。一年のうちらは、とっさに遠慮する気持ちが先に立つ。昨日、職員室前でスマホを開いたのは、真鈴さんの勢いがあったから。

 まあ、こういう慎みと要領の良さが同居してるのは、うち(真理愛学院)の生徒のええとこです。

 

 それで、スマホに出てたのは『サクラ・ウメ大戦 聖真理愛学院版』というタイトル!

 

「真鈴、学校の現状に合わせて手を入れてるのよ。昨日の今日だよ!」

「いや、まだ13時間しか経ってない」

 ソフィーが冷静に付け加える。

 

 昇降口では目立つので、教室に行ってから窓のカーテンでガードして、メグリンも加えた三人でスマホを開いた。

 

※ サクラ・ウメ大戦の改訂版です。取り組み状況に合わせて改定していきます。

 注……授業中には読まないでね(^_^;)

 


サクラ・ウメ大戦

1『やさぐれ白梅隊、はみだし八重桜隊』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 荒野の決闘を思わせるような曲が流れるうちに幕があがる。そろいのセーラー服に、それぞれ寸をつめたり、スカートの丈をかえたり、リボンの結び方が違ったり、それぞれ制服でありながら個性を主張するいでたちの十数名の集団が、スケバンのゆきを中心に、ドスをきかせながら(本物のワルになりきれない可愛さを残すこと)客席奥を睨んでいる。睨んだその先には(客席後方)違う制服の集団が似たような人数、いでたちで、舞台上の集団を睨んでいる。こちらのスケバンはさくらという。双方手に、百均のビニールの刀、ビニールのバット、水鉄砲など、いかにもチープな得物(武器)を構えている。

 前者を白梅学園女子中等部やさぐれ白梅隊と言い、後者を八重桜女学院中等部はみだし八重桜隊と言い、戦前の女学校時代からの宿敵同志である。この年、とある理由から何十年ぶりに、両校の中ほどに位置する桜梅ケ原と昔は言った、桜梅公園の東西にわかれ、果し合いの寸前である。

 
ゆき: おう、八重桜女学院中等部の諸君! 本日は白梅学園中等部の我々が、高等部のお姉様連になりかわり、宿怨のうらみを果たしにこの桜梅ケ原、現桜梅公園に打ちそろった。すぐる大正三年の創立以来の雌雄をここに決する覚悟、かく言うあたしは白梅学園中等部三年一組、出席番号四番、やさぐれ白梅隊隊長園城寺ゆき! 尋常に勝負しろい! それとも、このゆき姉さんの啖呵に恐れ入ってしっぽを巻いて逃げ出してもいいんだぜ……

さくら: なにぬかしゃあがる。昔の夏休みみてえに長げえ御託並べやがって、こちとら気が短えんだ。おめえたちみてえに高えところに登らなきゃあ、威勢の出ねえ弱虫は一人もいねえ! 負ける前にこれだけは覚えておきな。あたいたちは八重桜女学院中等部、はみ出し八重桜隊! そしてこのあたいが総長の長船さくらだ! 逃げたい奴は、今のうちだ、こちとら気が短え、三つ読む間にそこを降りなきゃ、引き摺り下ろして、三つにたたんでやらあ!……ひとおっつ……ふたあっつ……みっつ……ほう……いい根性だ。女郎ども、百年のカタキだ! たたんじまえ! 

 この掛け声をきっかけに、大昔のチャンバラのBGМ、客席で黄色い声をあげながら、双方二十秒ばかり戦う。数組が舞台で戦っていたが、それも三十秒も立つ間に、ゆきとさくらだけになってしまう。二人つばぜり合いをしながら……

ゆき: ちょ、ちょっと、あたしたちだけになっちまってるよ。

さくら: え、ええ!?

ゆき: どうする?

さくら: だってカメラまわってんだろ、どっかで!?

ゆき: 声が大きい、マイクに入っちゃうよ。

さくら: だって……

ゆき: 一応、決めたとおりに……

さくら: 相打ちってことで……

ゆき: 山形三回(上段の構えで三回打ち合うこと)

さくら: ぐるっとまわって、場所入れ替わって天地(上段と下段の打ち合い)三回、さっと離れて、あたしが胴を。

ゆき: 胴抜きはあたし、さくらは面打ち!

さくら: 声が大きい!

ゆき: あんたに言われたかないわよ。

さくら: じゃ、いくよ!

 

 チャンバラのBGM、急速にフェードアップ、クライマックスを暗示する。テキスト通り山形と天地を打ち合った後、気合とともに相打ちとなり、二人とも、あらかじめ仕込んでおいた血の紙ふぶきを派手に撒きあげて、見栄をきる。大向こう(客席後方)から「よっ、ゆきちゃん!」「ゆっきー、かっくいい!」「ゆっきちゃーん!」「さくらや!」「千両桜!」などと掛け声がかかる。上手寄りの客席からカメラとリポーターが上がってくる。

 

「すごい、めっちゃテンポええやんか!」

「ねえ、このさくらって、あて書きかなあ!?」

 メグリンが尊敬のまなざしで見てくれる。

「でやろ!?」

「原作がさくらになってるよ」

 留美ちゃんが冷静に言う。

 ちょっと残念。まあ、うちはガラやないけどね。

 

 スクロールした最後の一行でビックリした!

 

A班・配役

 ゆき(園城寺ゆき)…………夕陽丘 頼子  さくら(長船さくら)…………百武真鈴

B班・配役  未定

 

 適材適所と早い者勝ちを旨としてプロディユーサーが独断と偏見で決めます。

 文句とやる気のある者は生徒会室まで!

 

「す、すごい!」

「『恋するマネキン』のゴールデンコンビだよ!」

「すごすぎる!」

 

 ちょっと、そこの三人!

 

 気ぃついたら朝のSHR、教壇でペコちゃんが怖い顔してた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・8『コスモスの花ことば』

2022-10-29 06:12:48 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

8『コスモスの花ことば』  

 

 

 その時も二人の顔は至近距離にあった。

 

 観覧車の、わたしたちのゴンドラがテッペンにきたときだった……。

「……オレ達、恋人にならないか!?」

「え……あ……ええ!?」

 この突然には予感があったんだけど、イザとなったら言葉が出ない。

「オレは青山学園、まどかは乃木坂だろ、別れ別れになっちまうしさ……」

「う、うん……」

「だから、この際はっきりと……」

 わたしは「恋人」という言葉で、文化祭のときの、あの感覚がクチビルに蘇ってきてとまどった。

 わたしは、せいぜい「卒業しても、いっしょにいよう。つき合っていこう」ぐらいの言葉しか予感していなかった。

 うつむいて、言葉を探しているうちにゴンドラは地上に着いた。これが他の、もっと大きい大観覧車だったら、わたしも、それなりのリアクションとれたんだけどね……。

 

 観覧車を降りると、なんだかみんなが二人のことを見ているような気がした。

 

 順番待ちをしていたクソガキが「あ、アベック! アベック!」なんて言うもんだから、わたしは大急ぎで、気の利いたつもりで、こう言ってしまった。

「キミの名前と同じくらいでいようよ」

 彼は、わたしから「キミ」などという二人称で呼ばれたことないもんだから、コワバッて聞き返してきた。

「キ、キミの名前って……」

「自分の名前忘れたの?」

「え、ええ……?」

「大久保忠友クン」

 あらためて言っとく、ヤツの名前は大久保忠友。

 ここで、ピンときた人はかなりの歴史大好きさんです。

 そう、ヤツは大久保彦左衛門(天下のご意見番で、江戸っ子ならたいてい、一心太助とセットで知っている)の子孫。彦左衛門の名前は正確には「忠教(ただたか)」で、代々の大久保家では、男の子の名前に「忠」の字がつく。そいでヤツは「忠友(ただとも)」ってわけよ。

 偉い人の子孫に織田信成って元フィギュアースケートの選手がいるのは知ってる?

 信成さんはオチャメな人で、ご先祖の織田信長さんが「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」って言ったのをうけて、「鳴かぬなら、それでいいじゃんホトトギス」と言ったとか。ヤツには、そんなウィットがないもんだから「え、ええ……」になっちゃうわけよ。だから、わたしも言わずもがなの解説しちゃったわけ。

「大久保クンは忠友でしょ、タダトモ!」

 これ、なんか携帯のコマーシャルにあったなあと、そのとき頭に……ヤツの頭にも浮かんだみたい。

「それって、テレビのCMでやってたよな……」

「うん」

「ただの友達か、おれたちって……」

「……うん」

「そうか……」

 わたしたちは、意味もなく黙って園内を歩いた。

――そんなシビアな反応しないでよ。わたしはヤツの背中をにらんだ。

「あ、コスモス……」

 植え込みに、遅咲きのコスモスが一輪。

 わたしは機転を利かして、そのコスモスを手折った(われながら、ミヤビヤカだと思ったのだ)

「これ……」

「植え込みの花とっちゃダメだろ」
 
 ……ばか!

「いいじゃん、一つぐらい」

「で、なんだよ。この花?」

「コスモス。家帰って、ネットとかで調べなよ!」

 この唐変木!

 わたしは一輪のコスモスを不器用に持てあましているヤツを置いて、さっさとゲートをくぐり、一人で都電に乗って家に帰った。


 コスモスの花言葉はね「乙女の愛情」なんだぞ……。

 


☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

 

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