くノ一その一今のうち
今日は一時間目から自習だ。
自習は、たいてい自習監督の先生が自習課題を配って「あとで取りに来るから、やっておけよ」と言って出ていく。
一時間目の自習なので、SHRを済ませた担任が、そのまま自習課題を配っていった。
あれ?
取り掛かろうと思ったら、すでに自習課題には答えが書いてある。それも、わたしの字で。
―― やってるふりをしておけ ――
忍び語りの声が飛び込んできた。声は服部課長代理だ。
『どこにいるんですか?』
―― 自分で探してみろ ――
二秒で教室内のクラスメートたちを透視……教室には居ない。
胸元の魔石が仄かに熱を持つ……とたんに意識が倍ほどに冴えてきて、窓の外、校庭のメタセコイアの根方で日向ぼっこしている猫が目に入る。
―― ほう、気づいたか。さすがは『その一』だな ――
『なんの用ですか、学校にまで押しかけてきて』
―― おまえ、佐助に会ったな ――
『あ、今日報告するつもりだったんです』
昨日の今日だ、業務報告なら、バイトに行ってやればいいと思ってた。
―― 会社では人の目がある ――
課長代理だって会社の人間だろうに……いや、ヤバイ話?
―― 俺の気まぐれだ ――
『……ですか』
だめだ、想念が読まれてる。聞くことに専念しよう。
―― 社長は『同じ豊臣のガード、構うな』と言うだろう ――
『だめなんですか?』
―― 豊臣の裔は鈴木の家一つがあればいい。木下は不要だ。あちらは鈴木こそ不要だと思っているがな ――
『はい、シカトします』
あんな奴、こっちから願い下げ。
―― 言っておく。佐助とは慣れ合うな。いずれ命のやり取りをすることになる ――
『無視すればいいんじゃないんですか?』
―― 今はな、将来的には殺す。木下の当主ともどもな ――
『じゃ、今から始末すればいいんじゃないですか』
売り言葉に買い言葉。
―― 笑わすな、お前が敵う相手じゃない ――
ちょっと腹立つ。
―― その子は笑っていただろ ――
『お祖母ちゃんを呼び捨てにしないでください』
―― その子は下忍、俺は上忍だ ――
『そうですか』
―― 手に負えない時、あいつは笑うんだ ――
『でも、佐助の方から仕掛けてきたら?』
―― まあや様をお守りすることだけに集中しろ ――
『それだけですか?』
―― 必要があれば連絡する ――
『とりあえずは?』
佐助の様子からして、近々なにか起こりそうな気がしているから聞き返す。
―― 近々な……フフフ ――
『なにがおかしいんですか!?』
―― ハハハ……俺だって笑うんだぞ ――
「課長代理!」
ヤバイ、声が出てしまった(;'∀')。
さいわいクラスメートには気付かれなかった。
胸に手を当てると、魔石がさらに熱を持っていた。
メタセコイアに気を戻すと、すでに猫の姿は無かった。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍)
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者