大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・26『クラプフェン』

2022-10-03 16:56:51 | 小説6

高校部     

26『クラプフェン』

 

 

 部活体だけの生活になって、先輩の嗜好が変わった。

 

 放課後の部活になるまでは、なんとか誤魔化せるくらいには女生徒らしさを取り戻したんだけど、部活中の先輩はクラプフェンというドイツの揚げパンを好んで食べるようになったんだ。

 レーズン入りの揚げパンで、正直おいしい。お祖父ちゃんに食べさせると「イマジネーションが湧く気がするな」と三つ食べた後、数日悩んでいた画像処理の仕事を一気にやり遂げた。要は、糖分が創作に関わる脳細胞を活性化させるんだけど、糖尿病の数値が上がってるとお医者さんに言われてお仕舞になった。

 

「それで、イマジネーションは湧きました?」

 

 クラプフェンの五つ目に手を伸ばした先輩に聞いてみる。

「うん、湧いてはくるんだが、カタチを成さない。このまま飛んでは、無駄に走り回っておしまいになりそうだ」

 魔法陣の縁に立って腕組みすること四十分。今日も飛ばずに部活が終わりそうだ。

 まあ、飛んだら飛んだで無茶ばかりやるんで、僕としてはこのままでいいんだけどね。

 先輩は、部室のアーカイブの中からランダムに過去の問題を取り上げるのではなく、要の街の根幹にかかわる問題に手を付けなければならないと思っている。

 先日のメンテナンスと、部活体一本になったことが影響しているみたいだ。

「……あれ?」

 机の上に伸ばした手が空を掴んで驚く先輩。

「クラプフェンが無いぞ」

「そりゃ、食べたら無くなります」

「まだ、三つしか食べてないぞ」

「いいえ、四つです」

「そうなのか?」

「そうです」

「うう、もうちょっとで見えてきそうなのに……このままでは、先に食べた三つが無駄になる」

「いえ、だから四つです」

「鋲、おまえ……」

「僕は、最初の一個しか食べてませんから!」

「す、すまん。仕方がない……」

「今日は終わりにしますか?」

「いや、プッペに行くぞ」

「え、いまから買いに行くんですか!?」

「行くぞ!」

「ちょ、先輩!」

 こういうところは、いたって子供なので、言っても聞かない。

 そのまま旧校舎を出て本館の昇降口を目指す。

 下足ロッカーは学年で島が違う。

 一年の島で履き替えて、二年の島を超えて三年の島……柱の陰に人影……サッと隠れたら愛嬌もあるんだけど、そいつは親し気に胸のところまで手を挙げて小さく振りやがる。

 ほら、こないだのカミングアウトだ。

 あの一件で、先輩の事をいっそう尊敬して、ここのところ、部活の終わる時間に待っている。

 階段の踊り場だったり、正門の桜の木の横だったり、自転車置き場だったり。

 先輩は相手にしないし、それ以上寄って来る気配も無いので、先輩も気にしないし、放ってある。

 

 自転車を繰り出して、正門から飛び出したところで気が付いた。

 

「先輩、今日はプッペ定休日です」

 キーーーー!

「え、そうなのか!?」

「はい、月曜日は普通のパン屋とお同じように休みです」

「そうだったかっ!」

 浅野内匠頭の切腹に間に合わなかった大石内蔵助という感じでうな垂れる先輩。

「えと……普通の揚げパンでよければ買ってきますけど」

「ダメだあ、プッペのクラプフェンでなきゃ、ダメなんだあ!」

 ハンドルを叩くものだから、ベルがチンチン鳴って、ちょっと恥ずかしい。

 どうしようかと思っていると、先輩の頭越し、道の向こうからやってくるブロンド少女が目についた。

「ろって!?」

 目が合うと、ろってはプッペの紙袋を抱えたまま走ってきた。

「クラプフェン持ってきましたよぉ!」

「ろってぇ!」

「食べきっちゃうんじゃないかって、とっておきました!」

「ああ、ろって、おまえは天使だ!」

 ハンドル越しに手を伸ばす先輩。

 それを、ヒョイと躱して、ろっては指を立てた。

「……の前に、思いついたことがあるので、それを聞いてください!」

「なんだ、それは。なんでも聞くぞ!」

「じつは……」

 ろっては、とても大事な話ですという感じで話し出した……

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・83『気絶した増田さん!』

2022-10-03 06:16:04 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

83『気絶した増田さん!シグマ 






「「ヤバいよ!」」

 先輩二人は叫んだけど、わたしは声も出なかった。

 増田さんは気絶してしまった(^_^;)。

―― あ、みんな居たの?…… ――

 続いて風信子先輩がやってきて声を上げた。

 え!?

 風信子先輩は一発で状況を理解した。

「ごめん、ダブルブッキングだ! それよりも、増田さん、増田さん!」

 先輩は気絶している増田さんの肩をゆすった。

「その前に、モニターなんとかしなくちゃ!」

 オメガ先輩はパソコンのキーボードに手を伸ばした。

「待て!」

「だって、こんなHシーンが三つも並んでちゃ!」

「俺に考えがある」

 ノリスケ先輩がオメガ先輩を押しとどめ、キーボドをカチャカチャいじる。

「……よし、この場面で良いだろう、そっちも無難な場面に切り替えとけよ」

「そうか、増田さんの錯覚ってことにするんだな」

「分かりました」

 わたしもHシーンを似たような構図のCGに切り替えた。主人公が女の子と出合い頭にぶつかって、倒れた女の子の上に主人公が被さるシーン。もちろん服を着ていて、普通のアニメにもよく出てくるパターン。

「ほんとごめんなさいね、てっきり今日は茶道部の部活だと思い込んで」

 風信子先輩の思い込みは無理もない。茶道部が先輩一人になってからは、茶道部の活動日でも、あたしたちはお邪魔している。

 もちろん、エロゲをやる時は風信子先輩の許可を得る。だから茶道部の活動日にあたしたちが居ても不思議じゃないし、あたしたちが居てもエロゲをやっているとは思わない。

 ウ ウ~~~~ン

 増田さんの意識が戻って来た。

「大丈夫、増田さん?」

 空気を読んで、年下のあたしが声を掛ける。

「あ……え? あ……わたし?」

「ごめんね、薄暗い部屋でしょ、モニターの光で、フラッシュ効果になっちゃったんだよね」

 ほら、小さな子供がテレビ画面のフラッシュなんかで気分悪くなったり気絶したりするアレ。

「わたしがダブルブッキングしちゃって、びっくりしたわよね、ほんとごめんなさいね」

「あ、そのモニターに……あ、出会い頭にぶつかったところなんだ」

「そだよ、男の子が乗っかっちゃってるから一瞬ドキってするかもね(^_^;)」

「こっちのモニターは、ちょうどキラキラしていたしさ」

「あ…………そ、そうなんだ、あたしってばビックリしすぎ、ああ、恥ずかしいです!」

「ドンマイドンマイ、俺たちは、こうやって作法室間借りして、パソコンゲームとかの研究やってんだよ」

「ですよね、それをわたしは……」

 増田さんを落ち込ませてはいけないので話題を替えた。

「あのう、夏コミに参加するって話なんですけど……」

 あたしは、ペンタブを出してきて失敗した話をした。

「あ、そういう参加の仕方じゃなくって」

 風信子先輩が身を乗り出す。

「コスプレで参加できないかと思ったの」

「「「「ええ、コスプレ!?」」」」

 一人分声が多い。

 なんと、増田さんが、ビビッと目を輝かせて『星に願いを』って感じで手を胸の前に組んだのだった!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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