大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・28『ダウンジング』

2022-10-19 16:13:38 | 小説6

高校部     

28『ダウンジング』

 

 

 放課後の部活動、部室のドアを開けると先輩が唸っている。

 うーーーん

「お腹でも痛いんですか?」

 先輩は、浅く腰かけた姿勢で、お腹を抱えて前かがみになっているので、ほんとうにそう思った。

「魔法陣だ」

「え?」

 言われて床を見ると、いつもの魔法陣が頼りない。

 輝きが弱くなって、心なし揺れているように見えて、消えかけのロウソクのようなのだ。

「ちょっと、不安定なんですか?」

「ああ、このまま飛び込んだら、狙ったところに行けなくなる。あるいは、帰ってこれなくなる」

「なんで不安定になったんですか?」

「ひょっとしたらなんだが、魔法陣に更新期が来ているのかもしれない」

「魔法陣に更新期があるんですか」

 そう言いながらも、僕はお茶とお菓子の用意にかかる。

 お茶をしながらという部活のスタイルに慣らされてしまっている。

「はい、どうぞ」

 いつものようにテーブルに、お茶とお茶うけを置く。

 お茶は、いつものダージリン、お茶うけはろってが持ってきてくれたクラプフェンだ。

「ああ、すまん……」

 先輩は、魔法陣を睨んだまま、まずクラプフェンに手を伸ばす。

 ハム……

 まるでアニメのキャラが食べるような感じでかぶりつく先輩。

 ザワザワ

「「あ!?」」

 先輩がクラプフェンに齧りつくタイミングで、魔法陣が揺らめくというか騒めく。

「先輩!」

 ムシャムシャムシャ

 ザワザワザワ

 先輩の咀嚼に合わせて、魔法陣は騒めきをシンクロさせる。

 ゴックン

 先輩が呑み込むと、それに合わせて魔法陣は震えて、呑み込み終わると、微妙にボケている。

「クラプフェンが影響しているんだ」

「悪い影響ですか?」

「いや、わたしのステータスが上がって、この魔法陣に合わなくなってきたんだ。そういう力がクラプフェンにあるんだろう」

「ろっての力ですか?」

「たぶんな……あいつも作られた時期は一緒だ。わたしに似た力があるんだろう……新しい魔法陣を探そう」

「探す?」

「あったかな……」

 先輩は立ち上がると、書架の一角にある道具箱を漁り始めた。

 ガチャガチャガチャ

「あった!」

 それは、Lの形をした二本の金属の棒だ。

「ひょっとして、ダウンジングですか?」

「ああ、ほとんど七十年ぶり……うまく使えるといいんだが」

 先輩はL字棒を両手に一つづつ持って構えると、L字棒の指し示す方角に歩き出す。

 L字棒は、瞬間はピクンと警察犬のように方角を示すのだけれど、直ぐに駄犬に戻ったようにグニャグニャといい加減になってしまう。

「どうも、わたし一人では力不足のようだ……鋲、お前も持て」

「僕ですか?」

「他に鋲はおらん」

「はい」

 先輩から一本受け取って、横に並ぶ。

 ピピ

「来ました、先輩!」

「おお」

「「…………」」

 先輩一人の時よりも数秒長くL字棒は、方角、どうやら、部室のドアの方角を指し示すのだけど、三秒もしないうちにデタラメになってしまう。

「……二人が離れすぎていて、感度が持続できないんだな」

「そうなんですか?」

「たぶん、電池を繋げるのと同じなんだ」

「電池ですか?」

「ああ、違う極同士を繋げないと、電池は力を発揮しない。小学生の時に懐中電灯を作る実験とかしただろ」

「はい、接点金具をちゃんとしないと点かないんですよね……って、手を繋ぐんですか!?」

「一番手軽な接点だ……ほら、しっかり指し始めたぞ!」

「は、はい」

 確かにL字棒は一定の方角を指して揺るがなくなった。ちょっと恥ずかしいけど、まあ、これくらいなら。

 手を繋いでL字棒の示すままに進んでいくと、廊下に出て、つぎには旧校舎の外にまで出てしまった。

「先輩、なんか、みんな見てますよ(^_^;)」

「任務のためだ辛抱しろ」

「に、任務ですか……」

 任務と言われては仕方がない、ドキドキしながら進んでいくと、とうとう昇降口の前まで来てしまって、L字棒は、そこで力を失ってしまう。

「ここ……なんですかね?」

 下校のためや、部活に向かう生徒たちがジロジロ、中には面白そうだと立ち止まって見る者まで出てきた。

「いや、L字棒が力を失ったんだ。これでは、まだ接点が弱いんだろう」

「弱いって、じゃあ……」

「こうしよう!」

 先輩はいったん手を離すと、ガバっと僕の肩に手を掛けて、正面から抱き合うように密着した!

「ちょ、先輩(#'∀'#)」

「ほら、力が戻ったぞ!」

 確かに、二人のL字棒は再びピクンと力を取り戻した。

 そして、みんなの注目も何倍も熱くなった!

 放課後の昇降口前で、近ごろ噂の立ってきたアーカイ部の二人がソーシャルダンスみたいにくっ付いているんだから、注目もされる。

 注目の中には、クラスメートの中井さんやカミングアウトも混じっていて、他の生徒よりも感情のこもった目で睨んでいる。

「ちょ、先輩、ヤバイですって!」

「辛抱しろ、これには、要市の、日本の将来がかかっているかも知れんのだぞ!」

「恥ずかしい(#>o<#)」

「動くな! 棒が揺れる!」

「はひ!」

「よし、こっちだ!」

 先輩は、僕をがっちりホールドして、新たにL字棒が指示した方角に進んでいくのであった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・99『ほどではないが』

2022-10-19 06:08:40 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

99『ほどではないがオメガ  





 やっぱり一年生は子どもだ。

 マッジさんが弁当を届けに来て以来、小菊は大人気だ。

 昨日は学校帰り、暇な生徒たちに追いかけられていた。

 小菊はパート帰りのお袋と出くわし、助けを求めたら、今度は「キャー、小菊と雄一を生んだ奇跡の母よ!」と、お袋が追いかけられるハメになった。

「あーおもしろかった!」

 お袋は、娘と一緒にご町内の裏や表を逃げ回り、四十数年ぶりの鬼ごっこに息を弾ませて帰って来た。
 
 俺は遠巻きに視線は感じるが、パパラッチ化した生徒に追いかけ回されることは、ほとんどなかった。

「三年生が落ち着いているというよりも、お前には、もう一つ華がないんだろうなあ」

 いつもの学食で、スペメン(全部載せラーメン)を啜りながらノリスケが言う。

 増田さんは(小菊ほどではないが)集まる視線に怯えて別の席で食ってる。

「華なんかいらねーよ、俺は普通がいいんだ」

「確かに小菊ちゃんは、押し出しのある可愛さで、クラスじゃ担任の先生も頼りにするしっかり者、その上売り出し中のラノベ作家だ」

「なんか、その言い回しは、俺には取り柄が無いと言っているように聞こえるんだけど」

「だって、普通がいいんだろ?」

「そうだけど、おまえの言い回しは微妙に違う」

「アハハ、それは俺の友情だ!」

「食いながら笑うな! ほら、チャーシューのカケラが飛ぶじゃねーか!」

「あ、すまんすまん」

 ノリスケは身を乗り出したと思うと、俺のほっぺたに飛んだチャ-シューのカケラを舐めとった。

 キャーーー!

 隣のテーブルの陰に隠れていたパパラッチ女子が悲鳴を上げて逃げていく。

「これで、オメガを追いかけてくる奴はいなくなった」

 いいんだけども、ちょっと寂しくないこともない。離れた席で俯いてしまった増田さんも可哀そうだ。

 学食を出ると、校舎の二階から木田さんが手を振っているのに気付いた。

 目が合うとポケットに覗いたスマホを指さした。

 なるほど、人目を避けスマホでコミニケーションを計りたいらしい。

―― 相談したいことがあるので生徒会室まで来てもらえませんか? ――

―― 了解 ――

 ノリスケと別れて生徒会室を目指した。

 生徒会室には木田さんが一人いるきりだった。

 

「代議員会やってるから、昼休みは誰も居ないの。外で声かけたら、ちょっと目立つでしょ」

 やっぱり、木田さんが引いてしまうほどには注目を集めているようだ。

 で、気づいた。木田さん、ちょっとやつれてないか?

 いつもの木田さんらしくなく、横っちょの毛が跳ねてアホ毛っぽくなっている。制服の着こなしも、どこか微妙。ブラウスの打ち合わせが右に寄ったりしている。

「寝癖直すヒマなくって……」

 表情を読まれたのか、木田さんはササッと手櫛をかける。櫛とかも持ってない様子だ。

「あの……妻鹿君ちにメイドさんいるわよね?」

「え……?」

 ちょっと身構えてしまう俺だった……。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • マッジ・ヘプバーン      ミリーさんの知り合いの娘 天性のメイド資質
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
  •            

 

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