大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・157『食後のおミカン』

2022-10-02 14:23:55 | ライトノベルセレクト

やく物語

157『食後のおミカン』 

 

 

 夕食の後は、たいてい果物が出てくる。

 

 リンゴだったりブドウだったり梨だったり。

 出すのはお婆ちゃん。

 お母さんと暮らしていたころは、毎食後に果物が出てくることは無かった。

 忙しいのと邪魔くさがりと、あまり果物が好きじゃなかったから。

「うん? 好きだよ果物。でも、生で食べるよりは、手間暇かけてお酒にした方は好きかなあ」

 なんて、横着を言っていた。

「それじゃ、栄養が偏っちゃうわよ」

 娘の横着を知ったお婆ちゃんは、それから毎夕食後に果物を欠かさなくなった。

 親が、そんなだから、わたしも、毎夕食後、どうかすると毎食後果物が出てくるのには閉口した時期もあったんだけどね。習慣とは恐ろしいもので果物を口に入れなきゃ夕飯が済んだ気がしなくなってきた。

 でもね、近ごろ、ときどき忘れることがある。

 果物は、最初から食卓に並んでいるんじゃなくて、頃合いを見て、お婆ちゃんが台所に行って準備をするんだ。

 皮を剥いたり器の盛ったりね。

 それが、話が盛り上がったり、面白いテレビがあったりすると忘れてしまう。

 お母さんは、もともと果物好きじゃないし、お爺ちゃんはどっちでもいい人だし。果物が出なくっても文句も言わないし注意もしない。お母さんなんかは――しめしめ――と思っている。

 わたしも「果物ないの?」とかは言わない。夕飯が済んだ気がしないんだけど、お母さんに楯突くみたいでね……夕飯の席にお母さんが居ない時に忘れたことは無い。今んとこ。

 たぶんね、お母さんが家に居たころは食後に果物を出すという習慣は無かったからなんだと思う。

 

 そんな、お母さんが夕食に間に合わなかった時のこと、蓬莱山から戻ってきていくらもたたない日。

 

 お婆ちゃんは果物を忘れてしまった。

 テレビでお笑い系のグルメ番組をやっていて、美味しそうなのとおもしろいので、アハハと笑っているうちに忘れてしまったんだと思う。

 ピンポーン

 ドアホンが鳴って、お隣さんが回覧板を持ってきてくださった。

「あ、わたし出る」

「そう、じゃお願い」

 無駄に広い家なんで、こういうことはかって出る。

 

 回覧板を受け取ってダイニングに戻ると、お婆ちゃんはキッチン、お爺ちゃんは読みかけの夕刊置いたまま、たぶんおトイレ。

 で、テーブルの真ん中にはおミカンを盛ったザルが置いてある。

―― ああ、思い出したんだ ――

 見たからには仕方がない。大人しく座って、おミカンをいただく。

 あら、美味しい!

 シーズンには間があるので、たぶん酸っぱいと覚悟していたから、ビックリした。

 お正月とかに出てくるような、甘くてジューシーなミカンだった。

 

「夕べのおミカン、美味しかった!」

 

 朝食のテーブルで、お婆ちゃんの偉業を褒めたたえる。

「え?」

「お婆ちゃんがデザートに出してくれた」

「あ、夕べは忘れてた!」

「え?」

 こういう行き違いは、深く追求しない方がいい。家庭の平和のためにも、あやかしとかに付け入られないためにも。

 その日、学校から帰ると、お婆ちゃんの古い友だちからおミカンの頂き物。

 夕食後に頂くと、とても美味しかった。

 でも、夕べ食べたミカンほどではなかったよ。

「やくもは予知能力があるのかもね」

 お婆ちゃんが言って、お爺ちゃんが笑って、遅く帰ってきたお母さんは酔っぱらっててそれどころじゃなかった。

 そして、みかんの話は、これでは終わらなかったんだよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・82『ダブルブッキング』

2022-10-02 06:34:12 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

82『ダブルブッキングオメガ 




 心理学部に入れそうな体験をしたぞ、それも一日に二つも!

 羞恥心というのは、状況に寄って大きく変わる。これが一つ目。

 たとえ新品であっても生パンを人に見られるのは恥ずかしい、程度の差はあるけど男女ともにそうだろう。

 たとえ二年前に買ったものでも水着ならへっちゃら、これも程度の差はあるけども。

「腐れ童貞!」と妹に言われてもへっちゃらだが、「オメガ君童貞?」と女の子に聞かれたらアタフタしてしまうだろう。

 サブカル研は、エロゲをやるのが部活なので、部活中は際どいことでもヘッチャラだ。

「前から疑問だったんですけど、男の人ってこんなに出るんですか?」

 画面を指さしながらシグマが質問した。

 画面は、主人公の想いが成就して、ヒロインと初めての真っ最中。モザイクを掛けられたソレからはおびただしいナニがほとばしっている。

「デフォルメだよ、個人差はあるけど3CCから6CCくらいって言われてるなあ……」

 ノリスケがゲームの誤字脱字をチェックしながら答える。

「修正パッチ出てるのに、こんなにあるのかよ」

 ノリスケのメモには二十を超える言葉が書かれている。

「多少のミスは愛嬌ってか、キャラの個性にも思えて微笑ましいんだけど、こうも多くちゃ興ざめになるよなあ……」

「そうだな、ここのCGは劇場アニメ並なのに、こんなところで作画ミスされると凹むよな……シグマ、なにやってんの?」

 シグマはペットボトルのお茶をティースプーンに移してチビチビやっている。

「量を実感しようと思って、ティースプーン一杯が、だいたい3CCなんです……」

 こういうこだわり方は邪道だとは思うんだけど、エロゲの楽しみ方は人それぞれというのが正しいあり方なので、感想は言っても批判はしない。

「最初から潮吹くなんて、このあとの描写とかどうするつもりなんだろうね」

「わーー派手に吹いてる、これも不思議なんですよね、ほんとに潮なんて吹くものなんでしょうか?」

「男に聞くか~」

「潮吹きのメカニズムとか成分とかはよく分かってないらしいけど、昔のお女郎さんなんかはテクニックでやれたらしいぞ」

 うちは江戸時代からの置屋だったので、酔っぱらった祖父ちゃんから断片的には話を聞いている。

「いちど、それぞれが感動したHシーンの比較とかしてみませんか、あたし、名場面をUSBに残してるんです」

「すごいなあ、シグマは」

「探求心は大事だぞ」

 シグマのUSBをパソコンに繋いで品評会になった。

「やっぱ、八方備男は絵師として一押しだな」

「ポニーさんの技巧も捨てがたい」

「ネコしゃんのエロカワイさが好きです」

 モニター三台に次々と名場面を映して盛り上がる。

 人間の記憶はカテゴリーごとに別々になっていて、別々な記憶を統合するのはむつかしい。これが二つ目。

 風信子は茶道部の部長であり、サブカル研のメンバーでもある。

 もっとも、サブカル研は俺たちに作法室を使わせてくれるための方便で、風信子自身がサブカルの活動に参加することはなかった。

 だから、茶道部とサブカル研のことは、風信子の中では別のカテゴリーの中に入っていて、別々ゆえに、うっかり二つのスケジュールをダブルブッキングしてしまったのだ。

―― すみません、失礼しまーす ――

 声と同時に作法室の襖が開かれ、俺たち三人はサブカルモードと日常モードの切り替えも出来ずにパニックになった。

 え(꒪ཫ꒪; )ヤバイ!?

 襖を開けて入って来たのは、小菊のクラスメートであり、ノリスケの彼女である増田さんだった。

 俺は瞬時に理解した。

 茶道部に入ったばかりの増田さんは茶道部の部活と思ってやってきたのだ。

 風信子が二つの部活の活動日を間違って教えたのだ。

 で、そんなことは増田さんには関係ない。

 増田さんの目は、目の前の三つのモニターに釘付けになった。で……

 キャーーー!

 

 ……………オワッテシマッタヾ(๑╹ヮ╹๑)ノ”。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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