大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・294『ポチョムキン村・3・司祭館』

2022-10-25 10:20:12 | 小説

魔法少女マヂカ・294

『ポチョムキン村・3・司祭館語り手:マヂカ 

 

 

 日中だというのに花火はきれいな虹色に輝き、星屑のようにピカピカ光りながら落ちて消えていく。

 

 視線を戻すと、エリザの肩に手を添えるようにして立っている女先生が目に入った。

「ようこそポチョムキン村へ、日曜学校を預かっているミーシャです。丘の上に虹が立ったのでエリザを見に行かせたんですが、やっぱり迷い人さんがいらしていたんですね」

「え、虹が立ったんですか?」

「はい、きれいな虹だったので、こちらに手繰り寄せて、いまご覧になった花火にしてみました」

「ええ?」

「もしかしたらと思いましたけど、やっぱり魔法少女さんだったんですね」

「そうだよ、先生。こっちがヤポンスキーのマヂカさん。お隣りがキタイスキーの孫悟嬢さん」

「マヂカです」

「孫悟嬢、よろしく」

「こちらこそ、ほかの子どもたちがやってくるのは午後からですから、どうぞ、こちらで休んでください」

 ミーシャの先導で村の中に……静かな村だと思っていたけど、ゲートをくぐると、家畜の気配と共に村人たちのさんざめきや、洗い物をしたり掃除をしたり窓を開けて空気を入れ替えたり、クシャミをしたりの生活音が聞こえ、最初の角を曲がると、実際に村人たちの姿が見え始めた。

 ミーシャは、すれ違う者たちだけではなく、垣根越しに背中が見えるお年寄りにも声を掛け、あるいは視界の外から掛けられた声に半身を向けて手を振って、お天気の話や、家畜や家族の様子などを一言二言交わしていく。

 村人たちが、直接わたしや孫悟嬢に話しかけることはなかったけど、関心を示した者には「お客さん」「今月初めての迷い人さん」とか軽く示してくれる。わたしたちも、軽く会釈。この軽さは、村というよりは都会的な感じがする。

「というか、本編が始まる前の映画か芝居のプロローグという感じだな」

「シ、聞こえるぞ」

 悟嬢をたしなめたところで日曜学校の教会に着いた。

「神父さま、司祭館をお借りしま~す」

 聖堂のドア越しにミーシャが声を掛けると、中から「ついでに、掃除も頼むよ~」と声がして「もう、神父様は無精なんだから」とエリザが肩をすくめる。

 

「うわあ~」

 

 司祭は勉強家なのだろう、あちこちに本が積まれたり、あるいは付箋が貼ったままや開きっぱなしの本があったり、食器や、着替えなどが散らかっている。

「もう、三日前に片づけたところなのに!」

 エリザが口を尖らせる。

「仕方ないわよ。お掃除する条件で日曜学校やらせてもらってるんだもん。よし、五分でやっつけるから、エリザ、お庭で待っていただいて」

「了解! じゃ、こっちへどうぞ」

「手伝おうか?」

「魔法なら、一瞬で片付くよ」

 悟嬢が耳から如意棒を取り出そうとすると、ミーシャが笑顔で手をバツ印にする。

「嬉しいけど、教会の中で、魔法はNGです」

「そうか」

「じゃ、お言葉に甘えて」

 

 向かい合わせのベンチに腰掛けると、エリザは友だち同士で悪だくみをするように身を乗り出した。

 

「……ひょっとして、分かっているかもしれないけど、わたしはポチョムキンの娘なんです」

「え!?」

 悟嬢は驚いたようだが、わたしは――ああ、やっぱりな――と思った。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・5『54分30秒のリハーサル・3』

2022-10-25 06:23:08 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

5『54分30秒のリハーサル・3』 

 

 

「開始!」

 山埼先輩の号令が飛ぶ。

 フェリペの計時係りの子と山埼先輩が同時にストップウォッチを押すと、上手の壁のパネルから運び、続いて八百屋飾りのヌリカベを運ぶ。パネルはサンパチと言って、三尺(約九十センチ)八尺(約二百四十センチ)の一枚物。これを、なんと女の子でも一人で運んじゃう! 重心のところを肩に持ってくれば意外にいける。

「パネル一番入りまーす!」と声をかける。

「はい!」舞台上のみんなが応える。

 不測の事故を防ぐための常識。

 次にヌリカベ。さすがに四人で運ぶ。そうやって上手から順に運んで、がち袋(道具係が腰に付けたナグリというトンカチなんかが入った袋)を付けた夏鈴たちが、背中にNOGIZAKA.D.Cとプリントした揃いの黒いTシャツを着て、動きまわっていく。

「一番、二番連結しまーす!」

 夏鈴が叫ぶ。バディーの宮里先輩と潤香先輩が続いてシャコ万という万力でヌリカベを繋いでいく。キャストだって仕込みとバラシは一緒だ。

 壁のパネルはヌリカベにくっつけるものと、ヌリカベの上に乗せるものがある。乗せるものは、ヌリカベの傾斜プラス一度の六度の傾斜のついた人形立を釘で固定する。そして劇中移動させるのでシズ(重し)をかけていく。

 その間、照明チーフの中田先輩は調光室でプリセットの確認。インカムでサブの里沙に指示して、サス(上からのライト)やエスエス(横からのライト)の微調整。

 その合間を縫って、音響の加藤先輩が効果音のボリュ-ムチェック。

 客席の真ん中でマリ先生が全体をチェック、舞台監督の山埼先輩が、それを受けて各チーフに指示。

 わたしは、決まったところから明かりと道具の場所決めを確認してバミっていく(出場校ごとにバミリテープの色が決まっている。ちなみに乃木坂は黄色と決まっていて、地区では貴崎色などと言われている。パネルの後ろに陰板(開幕の時はパネルに隠れている役者……って、わたしたちコロスってその他大勢だけどね)用の蓄光テープを貼り、剥がれないようにパックテープ(セロテープの親分みたいの)を重ね貼りして完成!

「あがりました。十七分二十秒!」

 山埼先輩がストップウォッチを押した。

「うーん、二十秒オーバー……まあまあだね。ヤマちゃん、二十分場当たり」

 マリ先生の指示。

「はい、じゃ幕開きからやります。ナカちゃん、カトちゃん、よろしく。役者陰板。幕は開くココロ(開けたつもり)十二、十一、十……五、四、三、二、一、ドン(緞帳のこと)決まり!」

 山埼先輩のキューで、去年と同じように、あちこちからコロスが現れる。今年は「レジスト」ではなく「イカス! イカス!」と叫びながら現れる。

 この「イカス」には意味がある。

 勝呂(すぐろ)先輩演ずる高校生が進路に悩む。主人公の高校生が、キャンプに行って、土砂降りの大雨に遭う。キャンプ場を始め付近の集落は危機に陥る。それを救ったのが陸上自衛隊の人たち。中には、たまたま演習にきていた陸上自衛隊工科学校の生徒たちも混じっていた。彼らは、中学を卒業して、すぐにこの道に入った者たちばかりだ。主人公は彼らにイケテル姿を見る。すなわち「イカス」なのよ。彼は、卒業後自衛隊に入ろうと考える。

 しかし主人公に好意を寄せる潤香先輩演ずるところの彼女の兄は新聞記者で「自衛隊は国家の暴力装置である」と意見する。

 最初、兄に反発し彼を応援していた彼女も、海外派遣されていた自衛隊員に犠牲者が出たというニュースに接して反対に回る。人生を活かすにはもっとべつの道があるはずだ……と。ここで、もう一つの「イカス」の意味が生きてくる。そして、ドラマの中盤で彼女が不治の病に冒されていることが分かり、彼は彼女を生かすために苦悩する。

 ここで第三の「イカス」が生きてくる。すごいよね!

 そして、このドラマは、この夏休みにコンクール用の脚本に考えあぐねたマリ先生の創作劇なんだよ!

 

☆ 主な登場人物

仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする