魔法少女マヂカ・293
『不思議の国のアリス』にこんなシーンがあった。
お姉さんの歴史の話がつまらなくて、木の根方で、ついウトウトするアリス。
すると、草原からピョコっと顔を出した兎が懐中時計を出して「しまった、遅刻する!」とピョンピョン跳ねて行ってしまう。そこから不思議の国の物語が始まってしまう。
別の異世界でアリスに振り回された(078『M資金・12 アリス』~)ことがあるので瞬間身構えてしまう。
しかし、そいつは兎ではなく、どっちかというと兎では無くてアリスに近い。
アリスのような少女なのだが、金髪ではなくて銀髪、瞳も淡い銀鼠色。そして「どっちかっていうと」と断わりが入るのは頭にウサ耳が付いているからだ。
「なんだ、こいつは?」
悟嬢が眉をひそめていぶかるが、そいつは恐れる風もなく、フワフワしながらこちらを見ている。
「あなたたち、迷い人さんね?」
言われて、悟嬢と顔を見かわす。
ポチョムキンとの戦いで結界の割れ目に呑み込まれて、ここに来てしまったのだ。
してやられた、あるいは嵌められたという意識はあるが、アリス的迷い人というのとは違う。自分の意思で来たわけじゃないからね。
「そういう顔をしている人を『迷い人』って言うの、わたしに付いて来て」
そう言うとウサ耳は、クルっと前を向いて、ズンズン歩き出した。
「わたし、エリザベータ。微妙に長いからエリザでもベータでもいいわよ。あなたたち魔法少女でしょ?」
「分かるのか?」
「ええ、迷い人で無事にたどり着いたのなら、ただものじゃないわ。男なら魔法使い、女なら魔女か魔法少女。見た感じボルシェビキでもないし邪悪でもないから魔法少女。で、お名前は?」
「マジカ、こっちは孫悟嬢」
「孫悟嬢!?」
「知っているのか、わたしのこと?」
「ええ、孫悟空の話は有名でしょ。日曜学校の子たちも好きで、ジュニア版の『西遊記』は人気よ。本当は、ちゃんと大人版の『西遊記』を読みたいんだけど、ミーシャが、あ、ミーシャっていうのは日曜学校の先生でね、ミーシャが『子どもには難しいですから』って読ませてくれないの。本当は、難しいんじゃなくて、子どもには読ませられない内容だからくらいは分かってる。いわゆるZ指定ってやつよ。わたしは、もう子どもじゃないんだから、読んだって問題ないと思うんだけどね、まあ、ミーシャの言うことは90%は正しいことだからね。まあ、がまんしてるのですよ」
「「フフフフ」」
「失礼ね、わたしは、もう十六歳なのよ! 男子だったら士官学校だって入れるわ、予科だけど。で、孫悟嬢ということは、悟空の奥さん?」
「孫だ」
「フフ、そうよね。キタイスキー(中国人)は夫婦別姓だから、夫婦で苗字が同じわけないもんね」
「フフ、物知りだな、エリザ」
「ありがとう、悟嬢! エリザでもベータでもいいって言ったけど、ほんとはエリザって呼ばれる方が好き。だって、ベータって、英語で言えばBのことでしょ、なんだかB級のエリザって感じ。だからエリザ」
「こっちの方は知ってるのかい?」
悟嬢がわたしを指さす。
「うん、もう千年くらいやってるヤポンスキーの魔法少女。通り名は渡辺真智香。渡辺って言うのは武士階級の名族の苗字よね。清和源氏の流れをくむ河内源氏」
「驚いたなあ、だが、渡辺は清和源氏ではない、嵯峨源氏だけどな」
「サガ源氏? ウウ、ミーシャの10%の間違いか。でも、酒呑童子をやっつけた源頼光の四天王には違いないでしょ?」
「酒呑童子や源頼光まで知っているのか!?」
「へへ、日曜学校の知識だけどね。わたしのウサ耳は伊達じゃないのよ」
「「なるほどな」」
悟嬢と声が揃ってしまった。
パパパパパーーーン!!
な、なんだ!?
村の入り口まで来ると、盛大に花火があがった!
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
- サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
- ソーリャ ロシアの魔法少女
- 孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査
- ファントム 時空を超えたお尋ね者