大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・22『一日署長と猿飛佐助』

2022-10-06 11:24:50 | 小説3

くノ一その一今のうち

22『一日署長と猿飛佐助』 

 

 

 戸締り用心火の用心、安全運転を心がけ、特殊詐欺に気を付けましょう(^▽^)/

 

 可愛く笑顔を振りまきながら手を振って、お年寄りが居ればこちらから握手して標語の入ったポケティッシュを渡し、子どもが目に留まれば目の高さにかがんでキャンペーンの風船を渡す。

 わたしの後ろには交通安全と特殊詐欺予防啓発の横断幕を持った婦警さん、いや女性警官さん。リスとパンダの着ぐるみが手を振って、地元自治会や商店会の役員さんたち、本物の署長さんと地域安全課のお巡りさんが続く。

 むろん、わたしは一日署長のタスキをかけて、助手兼ガードのお巡りさんが付いてくれて、行く先々で愛嬌を振りまく。

 大きな声では言えないけど、今日は代役としてではなく、鈴木まあや本人として○○警察の一日署長を務めている。

 まあ、はっきりと声を出さなきゃ、事務所の社長だって区別がつかないくらいにソックリなんだ。

 本物は放送局で『吠えよ剣』のリハーサルの真っ最中。

 夕方にはリハーサルを終えた本人と入れ替わって、帳尻を合わせるように段取りが組まれている。

―― ほんとにごめんね ――

 時々視線が合って、ダブルブッキングの張本人が手を合わせたり頭を掻いたり。

 来年、大学受験の弟が居て、がんばらなきゃいけなくて( ノД`)という泣き言を信じてるわけじゃないけど、まあ、マネージャーも大変なんだと了解したふりをしている。

 まあやは、驚いたことに豊臣秀頼の子孫で、徳川物産の社長は二代将軍秀忠以来、残された豊臣家の血筋を保護してやるのが務め。その任務は下請けの百地芸能に、実際の業務は孫請けと言っていい風間その、つまり、わたしが引き受けている。

 まあ、そういう公的な事情は別にして、まあやとは、そういう事情が分かる以前からの付き合い。

 いまは、ほとんど姉妹みたいな感じだから、仕事とか役割とかを度外視してやってるわけ。

「商店街を抜けたら本町通りを通って、いったん署に戻って休憩です」

「午後は北町の商店街を中心に回ります」

 横断幕の女警さんが小声で教えてくれる。もう、三十メートルほどで、南町商店街のアーケードを抜ける。

「はい、承知しました」

 笑顔で返事して、お婆さんにポケティッシュ、女の子に風船を渡したところでアーケードを抜けた。

 正直ホッとする。

 代役としては自信があるけど、ここは街の中、万一バレてしまったらと、内心では少し心配だった。

 

 ブオオオオオオオオオ!!

 

 すごい爆音がして、その場の人たちが音のする通りの向こうに目を向ける。

 暴走者だ!

 危ない! 避けて! ピリピリピリ!

 お巡りさんたちの叫び声やホイッスルが鳴り響く!

「まあやさん!」「こっち!」

 女警さんたちが、横断幕を捨てて、わたしを避難させようと手を差し伸べる!

 しかし、それ以前に、風船を渡した女の子が立ちすくんでいるのが目に入る!

「 ! 」

 忍者の行動は無言だ。

 横っ飛びに女の子を抱くと、そのまま歩道まで跳躍!

 ほんとうは、自販機を踏み台にしてお店の屋根まで飛んで完全を期したかったけどブレーキがかかった。

 まあやが屋根まで飛んだら、さすがに不自然だもんね。

 グオオオ ガッシャン!

 自動車は、30キロ制限の標識をなぎ倒し、女の子を庇うわたしの背中を掠め、コンビニの店先に突っ込んだ!

 とっさに見えた運転席にはお爺さん、ブレーキとアクセルの踏み間違い!

 コンビニの入り口付近を壊しただけで停車したのは、とっさに踏み間違いに気付いたからかもしれない。

「大丈夫ですか、まあやさん!」

 すかさず女警さんが飛んできてくれる。

「だ、大丈夫です。それよりも……」

 女の子は、わたしの胸の中でキョトンとして、コンビニの惨状に気付くと、やっと火のついたように泣き始めた。

 

 さすがは『吠えよ剣』のヒロイン!

 

 午後になってニュースで知ったリアルまあやは、すっ飛んできて入れ替わって、わたしの無事を知ると、マスコミのインタビューをこなした。

「ちょっと大変だけど、あとはよろしくね」

「うん、危ない目に遭わせて、ごめん」

 簡単に言葉を交わすと、来庁者を装って警察を出る。

 

 !!?

 

 暴走車の倍ほどの危険を感じて横に跳び、マンションの二階外廊下に着地……すると、後方に気配。再びジャンプして、隣のビルの屋上に。

 スタ

 同時に着地された!

 ハッ!

 給水タンクの陰にまわると、気配が忍び語りで話しかけてきた。

―― さすがに風魔のくノ一だな、いい身のこなしだ ――

―― だれだ、おまえは? ――

―― 十五代目猿飛佐助だ ――

 猿飛佐助? 

―― 佐助の血脈は絶えているはずだ、聞いたことが無いぞ ――

―― まぬけ、豊臣の血筋が生きていることも知らなかっただろうが ――

―― おまえ、豊臣家に付いているのか? ――

―― ああ、俺は本流の木下の方だがな ――

―― なんの用だ? ――

―― 木下こそが豊臣の嫡流、鈴木は目障りだ。木下の邪魔をするな。同じ忍び、一度だけは忠告しておいてやる ――

―― 待て ――

―― なんだ? ――

―― 昼間の事故、おまえが仕組んだのか? ――

―― ああ、ジジイ一人に暗示をかけてな。おかげで、おまえの技量が掴めた ――

―― あやうく大惨事になるところだったぞ ――

―― ちゃんと最後にはブレーキを踏むように暗示をかけた。人死にはおろか怪我人も出なかっただろ ――

―― おまえはクソだ ――

―― じゃあ、おまえはゴミだ ――

―― おまえは…… ――

 

 言葉を継ごうと思ったら気配が消えた。

 

 家に帰ってお祖母ちゃんに話したら、嬉しそうに笑われてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・86『増田さんのお母さん』

2022-10-06 06:39:14 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

86『増田さんのお母さんオメガ 





 忘れ物を心理学的に説明すると、こうなるんだそうだ。

 忘れ物をした場所に、もう一度行ってみたいという気持ちの現れ……だそうだ。

 そう教えてくださったのは増田さんのお母さん。

 今日、一年生は球技大会で学年全部でスポーツ公園に出かけていて学校に居ない。

 なので、増田さんの母さんは、直接俺に電話をしてこられた。

「よかったわ、直接お会いできて」

 忘れ物のスマホを差し出しながらお母さん。

 ちなみに、俺はスマホを二つ持っている。正月に機種変したんだけど、前のスマホもメモ帳代わりに持っている。

 あまり使わないままバッグに入れてるんだけど、コスプレ衣装に着替える時に落としたようだ。

「汐がコスプレ衣装を着たのは初めてだったんですよ」

 エアコンの設定を変えながらお母さん。

 お邪魔した時にはキンキンに冷えていたが、汗が引いたタイミングで温度を下げられた。行き届いたお母さんだ。

「でも、とっても似合ってました。なんというのか、俺たちはいかにもコスプレでしたけど、増田さんはいかにも月島雫でした」

「親バカかもしれませんけど、あの子の才能だと思うんです」

「そうですね、あ、いや親バカじゃなくて増田さんの才能ですよ」

「見てください、あの子の衣装です」

 差し出されたのは、増田さんが着ていた雫のコスプレ衣装だ。

「……すごい」

 手に取って初めて分かった。

 俺たちが着ていたコスプレ衣装とはグレードが違う。セーラーの襟もしっかりしているし、打ち合わせの裏には『月島雫』と刺繍ネームまで入っている。

「一回解いて補整してから縫い直しているんです。それだけじゃなくて、雫は中学三年の設定なので……ほら」

「おーーーー!」

 お母さんが示したのは袖口だった。袖口は内側が軽く擦り切れている。

「軽石で擦って時間経過を出しているんです」

「すごいですね!」

「先月、食堂で火傷しましたでしょ」

「あ、はい」

 トレーを持った男子生徒とぶつかって、熱々のラーメンを三杯もかぶってしまい、小菊に命ぜられるまま保健室まで運んだのは俺だった。

「あの火傷、痕が残るって言われてたんです」

「え、そうだったんですか!」

 連休の御神楽大神神社(69回『御籠りの五日間・3・御神渡り』)のことを思い出した。

 風呂に裸のシグマと増田さんが入って来た。一瞬のことだったけど二人の姿は焼き付いている。

 あの時、増田さんの胸には火傷の痕なんかは無かった。

「雫もわたしも火傷なんか似合わない……そう念じて、あくる日には消えてましたから」

「え、根性で治したんですか!?」

「ハハ、たまたまでしょうけど、汐には、なにか人並み外れたものがあるみたいな。それが高校に入ってからはっきり現れてきたみたいな、あはは、親ばかでしょ(^_^;)」

「いえいえ……お母さんのおっしゃる通り、なにか持っている子だと思いますよ」

「まだまだ自分の力だけでは前に進めない子だけど、よろしくお願いします」

「あ、はい」

「忘れ物をするのは、そこに、もう一度は戻って来たい気持ちの現れって云いますから」

 お母さんは高校生の俺に深々と頭を下げるのだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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