大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・27『三人で歩いた先の海』

2022-10-10 12:38:33 | 小説6

高校部     

27『三人で歩いた先の海』

 

 

 立ち話もなんなので、三人で歩く。先輩は自転車を押しながらろってと並び、僕は、その後に続く。

 貫川の堤防道に出た。

「ええと……ええとですね……」

 話があると、お土産のクラプフェンまで持ってきたろってだけど、話すとなると、なかなか考えがまとまらない感じで、「ええと」と「ええとですね」を繰り返している。

 放課後の堤防は、うち以外にも小中の生徒や、他校生もチラホラ歩いている。

 同じ方向やら逆方向やら、そいつらの視線が痛い。

 アニメからそのまま出てきたんじゃないかって感じの美少女二人といっしょの男は、それだけで社会悪という感じ。

 ガン見する奴こそ居ないけど、痛い視線は、向こう岸の堤防道や、とぎれとぎれに並行している二車線の県道からも感じる。

「ふふ、この雰囲気も楽しいが、このままでは鋲が悶死してしまいそうだ。まとまらなくていいから、話してやれ」

「は、はい……」

「「…………」」

「ヤコブ軍曹が、わたしに託したのは娘さんのロッテのことだけじゃないような気がするんです」

「だけじゃないとしたら、何なんだ?」

「それが分からないんです」

「百年もたってるんですよ……それでも意識が残っている……ちょっと不思議」

「そうだな……」

「託されたのはロッテのこと以外にもあって、それが大事な気がするんです」

「他にもあるというのか?」

「はい……自分で言うのもなんですが、わたしはとても可愛い人形でした」

「むむ(#`_´#)」

「なんで、そこで対抗意識持つんですか!」

「いや、すまん」

「要の人たちも、とても捕虜のドイツ人に優しくて……」

「要は、そういう街だ」

「ロシアの捕虜になったドイツ兵はひどい扱いを受けているって、噂なんかも伝わってきたんです」

「ロシアは革命の真っ最中だったからな」

「捕虜の人たちは思ったんです。要の街のような平和が続いたらいいと……できあがったわたしを見る目には、そういう気持ちが籠っていました」

「そうだな……」

 先輩も、その時代に作られたから感じるところがあるんだろう……僕は、聞き役に徹しようと思った。

「捕虜は何百人も居て、いろんな思いがあったような気がするんです。ヤコブ軍曹は中流の都会人でしたけど、貴族の者も貧しいお百姓出身の兵隊もいましたから……それこそ、国に残した家族を思う者や、ドイツの行方を思う者、世界中の平和を願う者……そういう思いが……あ、海だ」

「おお、知らぬ間に歩いてしまったな」

 

 僕たちは、要港を臨む河口まで歩いてしまった。

 

「ドラヘ岩に登ろう!」

 言うと、先輩は自転車を放り出して駆けていく。ろっても後に続いてドラヘ岩に走っていく。僕は砂に脚をとられながらも自転車を担いで防潮堤の傍に立てかける。

「あ、外れてる……」

 乱暴に放り出されて、自転車はチェーンが外れていた。

 チェーンを直し、油と汚れでギトギトになった手を渚の海水で洗ってからドラヘ岩に向かった。

 

「……そうか、この要の海のような願いだったのだな」

「は、はい。うまく言えないですけど、こんな感じです」

 

 僕がモタモタしているうちに、二人は岩場から海を眺め、なんだか共通理解に至ったようだ。

 先輩は、腕を組んで右足を一段高い岩に掛け、なんだか海に漕ぎだす女海賊の頭目のようだった。

 僕は、女海賊の雑用係の手下か……まあ、いいけど。

 三人で、しばらく海を眺めて帰った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・90『アキバの青空』

2022-10-10 06:43:15 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

90『アキバの青空』オメガ 




 アキバの青空は格別だ。

 ビルやJRの高架に囲まれ、中央通などを除いて道幅が狭くて、アキバの空はどこも四角く切り取られ、学校のグラウンドから見上げる空の半分も見えない。

 そんな空でも、しっかり五月晴れになっていると、シャレじゃないけど晴々して深呼吸なんかやってみたくなる。

「創立記念日だからですよ!」

 そうなんだ、シグマの言う通り、今日は学校の創立記念日なんだ。

 増田さんは、伯父さんの葬儀が終わって昨日帰って来た。

 本来なら――サブカル研の親睦会を兼ねて、アキバにゲームを探しにいく!――というアイデアは一週遅れるはずだったんだが、運よく創立記念日の月曜日。俺たちは連れ立ってアキバにやって来たのだ。

「フーーー、あんなに安いとは思いませんでした!」

 ラジ館・ソフマップ・アニメートと回ったところで、増田さんはため息をついた。

「そうよね、10円なんてのもあるんだもんね」

 コンシューマー化されたゲームを買うのが目的だったが、天下のアキバだ、いろんなものが目につく。

 シグマや風信子が増田さんの気をひいている間に、俺とノリスケは格安エロゲを仕入れることを忘れなかった。

 むろん、第一目的のコンシューマー化されたゲームも仕入れた。

 懐かしの『ツーハート』や『この青空に』を最初に買った。あらかじめネットで検索してあったので発見は早い。

 でも「お、こんなのもある!」的な発見の連続だ。

「ラノベって、たいがいゲームになってるんですね!」

 あまりアキバに足を運ばない増田さんは、すごく新鮮なようで500円前後で買えるレトロゲームに目を輝かせている。

「大げさかと思ったけど、リュックにして正解だったわね」

 何十本も買ったわけではないけど、エロゲというのはパッケージがデカい。初版限定品なんかだとオマケが一杯ついていて特大の弁当箱かと思うくらいの大きさだ。むろんコンシューマー化されたゲームにも、そういうのがあって、終戦直後の買い出しかというくらいのリュックでないと間に合わない。

「リュックが満杯にならないうちに飯にしよう!」

「それなら@ホームだ!」

「え、あの有名なメイド喫茶ですか!?」

 アキバに行くと言ったら、松ネエがウェルカムチケットをくれたのだ。ドリンクサービス、ランチ10%引きだ。

 増田さんが喜んでくれたのが嬉しい。

「「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様(^^♪」」」」」」」」

 メイドさんたちが一斉の御挨拶で向かえてくれる。

「フワ~、こ、これがリアルメイドさんなんですね~(♡o♡)!!」

 増田さんは胸の前で手を組み、瞳を♡にしアニメのように感激した。

「ハハハ、ほんとうに嬉しそうだね」

「はい、地球屋でバロンを見つけた時みたいです!」

 えと、『耳をすませば』のイベントなんだろうけど、きっちり観ていない俺には分からない。

「ハハ、空に飛んでいってしまいそうだな」

 ノリスケは増田さんの頭を撫で、シグマも風信子もニコニコ。

 やがて、ランチが終わって、サービスのドリンクが運ばれてきたときに、ショータイムになった。

「「「ラッキー!」」」

 混み具合によっては割愛すると聞いていたので、俺とノリスケとシグマはガッツポーズ。

「みなさん可愛いですねえ~~~~」

「真ん中の三人、チロルさん、もなかさん、パインさんて言って、お店のベスト3なんだわよ」

「迫力ね~」

「めったに揃わないんだぜ」

 揃った理由は知っている。あの三人のメイドさんは明日からハワイの@ホームに行くんだ。

 この海外展開のきっかけを作ったのはシグマなんだけど、自慢する様子が無い。増田さんと二人頬を染めてニコニコしている。本人も気にしているΣ口だけど、嬉しいときのΣ口だ。近ごろは違いがはっきり分かるようになってきた。俺が慣れてきたのか、本人の表情が豊かになってきたのか。

「ゆうくん、顔が赤いぞお」

 風信子が不意を突く。油断のならない幼なじみだ。

 こ、こら、俺とシグマの顔を交互に見るな(#°д°#)!

「メイドさんのコスプレもいいですね!」

 @ホームを出ると、増田さんはすっかりメイドファンになってしまった。

「じゃ、これからジャンク通りに行くぞ!」

 ノリスケを先頭に中央通を横断した。

 中央通りと交わる蔵前橋通りからAKIBAカルチャーズZONEまで伸びる裏道、通称「ジャンク通り」と呼ばれるアキバ中のアキバだ。

 パソコンパーツに限らず、いろんなジャンク品が並んでいる。

 子どものオモチャ箱とオッサンの道具箱をいっぺんにぶちまけたような、オタクの通りだ。

「あれ、増田さん?」

 CAFÉ EURAでアイスクリームの列に並んだところで、増田さんが遅れていることに気づいた。

「あ、あそこ」

 増田さんは、一つ向こうの十字路でしきりに写真を撮っている。

「増田さ~ん、順番周って来るよ~!」

 シグマが叫ぶと、照れたような笑顔になって戻って来た。

「すみませ~ん、こういうディープなところって好きなんです。お祖父ちゃんも好きなんで写真送ってあげました!」

 目をカマボコ形にしてペロッと舌を出す増田さん。

 こんな表情もするんだと、横を見るとノリスケも嬉しそうに目を細めている。

 期せずして、エロゲヒロインの決めポーズ『テヘペロ』になってるんだが、あえて指摘はしない(^_^;)。

「それで、お祖父ちゃんから、いい情報を仕入れたんです!」

「え、なになに!?」

 アイスを手に手に、増田さんの案内で、さらにディープなアキバに足を伸ばす俺たちだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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