大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・158『自分の部屋にもミカン』

2022-10-09 14:55:57 | ライトノベルセレクト

やく物語

158『自分の部屋にもミカン 

 

 

 あれぇ?

 

 部屋に戻ると、机の上にミカンが載っている。

 学校のある日だったら、瞬間――あれ?――と思っても、すぐ意識の外にやって学校に行く。

 いちいち気にしたり考えていたら学校に遅刻しちゃうからね。

 でも、今日は休日だから、椅子に座って腕組みをする。

 腕組みをして、机の横棒に脚を乗せ、椅子の後ろ脚に重心を掛けてギーコギーコさせながら考える。

 夕べのと足して、二回目の不審ミカン。怪しいミカン。

 フィギュアたちは、みんな神保城。残った交換手さんも、あっちの逓信大臣を兼ねているので、今は黒電話もただの黒電話。

 だから、自分で考えるしかない。

 

 このミカンは、あやかし系?

 

 いや、食卓のミカンもそうだったけど、普通のミカンだった。

 おいしかったけどね。

 これも、見かけは普通のミカン。

 ギーコギーコ ギーコギーコ ギーコギーコ

 椅子を漕ぐなんて、しばらくぶり。

 これは、お父さんのクセだった。

 机に向かって考え事をするとき、考えがまとまらなかったりすると、やっていた。

 子ども心にもかっこいいと思って真似をした。

 学校でやったら「男みたい」とからかわれた。

 からかわれたけど平気だった。あのころ、お父さんは、ちゃんとお父さんだったからね。

 平気だと、みんな言わなくなるし、わたしも自然にやらなくなった。

 いっしゅん、小学生の頃のことを思い出し、それでもギーコギーコ……ギーコギーコ……

 

 ころん

 

 突然、ミカンが転がって、慌ててミカンを掴まえる。

「ヤバイところだった……(^_^;)」

 ちょっと下卑た言い方で安心してみる。

 たとえミカンでも、床に落ちてはかわいそうだ。

 ミカンとか果物は、衝撃を受けたところから腐っていくからね。食卓で食べたところだから、今は食べるつもりも無いしね。ミカンは完熟しているようで、たった一個なのに、柑橘系の香りが部屋に満ちている。

 ギーコギーコ ギーコギーコ ギーコギーコ

 あれ?

 椅子を漕ぐのを止めたのに揺れている。

 その理不尽に部屋を見渡した。

 

―― え、自分の部屋じゃない!? ――

 

 四方ぜんぶ木の壁、座っているところだけ二畳分の畳が布かれ、畳は床に打ち付けられた木の枠で固定されている。

 カンテラみたいなのが二つ揺れていて、その灯りだけが湿気った空気に滲んでいる。

 ミカンの香りも濃厚になってきて、目の前の木の壁だと思ったのは積まれた木箱の山で、木箱の中身は全部ミカンだと分かる。

 ギギギギ ギギギギ ギーー ギギギギ ギーー

 部屋とミカン箱が同時に軋んで、思いついた。

 これは、ひょっとしてミカンを積んだ船の中に居るんじゃないの!?

 

 ガチャン!

 

 積み荷の向こうで音がしたかと思うと、とたんに、霧吹きをかけられたみたいにミストというか水しぶき!

 ドップーーン ジャッパーーン

 船を打つ波音も聞こえる。

 ガチャン!

 扉が閉まる音がして、積み荷の向こうからびしょ濡れの女の子が現れた!

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・89『増田さんの忌引き』

2022-10-09 06:27:15 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

89『増田さんの忌引きオメガ 





 昨日の祝賀会で食べ過ぎてしまった。

 ほら、小菊の突破新人賞受賞祝賀会。

 うちのご近所は、なにか祝い事があると自然に寄り集まる。

 下町の義理堅さとか人情とか言っているけど、要は祝い事にかこつけて一杯やりたいというのが本音。

 でも、そういうの、俺は嫌いじゃない。

 高校生になっても、ご近所の人たちと気楽に付き合えるというのは珍しいことで、いいことだと思う。

 要は、俺も好きなんだ。

 子どもたちや呑めない人のために、酒のさかなも美味しいものが多いしな。祖父ちゃんが作るだけじゃなくて、ご近所さんも、なんだかだと持ってくるしな。ひとが美味しいものを食って、幸せそうになってるっていうのは、いいもんだ。まして、昔から付き合いのあるご近所さまならなおさらだ。

 で、食べ過ぎて、トイレに籠っている。

 でまあ、いつもより時間をかけて用を足し、すっきりした腹を摩りながらトイレを出る。

「ムッ……消臭スプレーしときなさいよね!」

 トイレを出たところで小菊が鼻をつまんで立っている。

「ドアの真ん前に立ってるお前が悪い……なんだ、順番待ってたんじゃないのか?」

 小菊はトイレには入らず、鼻をつまんだまま、俺の後を付いてくる。

「プハーー! 窒息するとこだった」

「おまえ、ずっと息停めてたのかよ!」

「聞きたいことがあんのよ」

「なんだよ?」

「お葬式で休んだら欠席扱いにはならないんだよね?」

「え、葬式ができたのか?」

 

 葬式は増田さんだった。

 

 伯父さんが亡くなったので休まなければならないんだが欠席になることを気にして電話をしてきたようだ。

 伯父さんなら三日間の忌引きが認められ、その間は欠席にはならない。そう教えてやると、小菊はすぐにスマホで連絡をした。

「喜んでた、高校三年間皆勤を目指してるんだって!」

 聞かれもしないのに教えてくれる小菊。

 ここんとこ、増田さんは俺たちと一緒に居ることが多く、入学以来の友だちである小菊は少し寂しかったようだ。

 突破文庫新人賞を獲っても、やっぱ、根は十五歳の女子高生だ。そう思うと、俺もホッとする。

 そうだ!

 ホッとしたところで思い立った。

「……というわけで、サブカル研でやるゲームを考えたいんだ」

 増田さんのいない部活で俺は提案した。

 増田さんはエロゲの耐性がほとんどゼロで、こないだはモニターの画面を見て気絶してしまった。

 シグマの機転で錯覚だったということになったが、あれ以来、部活でエロゲができなくなった。

「賛成です、この際、コンシューマー化されたゲームをやってみるのも勉強になると思います!」

 シグマが真っ先に賛成した。

「じゃ、サブカル研の親睦を兼ねてアキバに出向くか♪」

 ノリスケが腰を浮かせる。

「でも、やるんだったら増田さんが参加できる日を設定しなくっちゃね。ノリスケ、増田さんに聞いてみてよ」

 風信子が行動の指針を示す。

 たった五人の部活だけど、なんかいい感じになって来たと思う。

 さっそくノリスケがメールを打った……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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