大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・357『百武真鈴 改訂版を書く・2』

2022-10-30 10:24:53 | ノベル

・357

百武真鈴 改訂版を書く・2さくら    

 

 

サクラ・ウメ大戦

2『おつかれさまあ』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 

リポーター: おつかれさまあ。

ゆき: なんだ、そんなところから撮ってたんですか?

リポーター: いい絵がとれたわよ。

さくら: すみません、本当は、二人とも千鳥(前に進みながらザコを打ち倒すこと)の末に、取り巻きをバックに太刀打ちってことになっていたんですけど……みんな、サッサと死んじゃって。

ゆき: やっぱ――テキトーにチャンバラって――ト書きが雑過ぎなんかなあ。

さくら: だって、殺陣の用語って、そんなに知らないし。

ゆき: まあ、自分でやるのと、人にフリ付けんのは別だしな。

 

 二人が言い訳を言ってるうちに、カメラが舞台に上がってきて、双方の切られた者たちもカメラ目線で生き返ったり、袖から出てきたりする。

 

リポーター: 大丈夫、クライマックスのとこはローアングルのバストアップで撮ったから、大丈夫よ。

咲江: ローアングルって、下から撮ること?

ルミ: パンツ写っちゃうんじゃない。

ゆき: 大丈夫スパッツ穿いてっから。

リポーター: 大丈夫よ、バストアップで撮ってから。

百江: さくらってペチャパイだからね。

純子: 下から撮ったら胸も大きく写るんじゃね?

 みんな、カメラを意識してワチャワチャやってる。

ゆき: ちょ!

さくら: うっさいよ、あんたたち!

リポーター: ほんとはもっとカメラ使って交互にカットバックでいきたかったんだけどね。編集で、なんとかするわ。

みんな: えーー! あたしたちはぁ?

ゆき: ちょっ、ギューギュー寄ってくるんじゃないわよ!

さくら: 今ごろになって、出てくるんだもんなあ!

ねね: だって、あたしたちも写りたいしィ。

やや: そうだよ二人だけ目立っちゃって。

リポーター: 今、カメラ回ってないよ、ね、沢田さん。

カメラ: はい、バッテリーもったいないですから。

春奈: ええ!? じゃ、どうしてカメラ構えてんのよ。

リポーター: いつシャッターチャンスがきても撮れるように構えてるのよ、プロの常識。

春奈: ええ、せっかくファンデやり直したのに。

千恵: あたしずっとカメラ目線でいたんだよ。

百江: 放送局のケチ!

音声: 音声は生きてるんだけど……

百江: え! 音声さん美人よ! ね、ねえ!

純子: ねえ、マイクの棒持つ手なんかスラッとしちゃって。

咲江: ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ……

ルミ: 今頃発声練習してどうすんのよ。

ゆき: あんたたちねえ! あ、入ってんだ。

音声: いま切った。

さくら: ほんとに、あんたたち、さくらも満足にできないのね。

春奈: だって、あなたたち桜女子と違うしィ

さくら: その他多勢、モブ、NPCって意味だよ!

一同: だって……!

やや: ねえ……

ねね: わけわかんないうちに連れてこられて百均の刀渡されて。

千恵: こっちも似たようなものよ、

ゆき: ちゃんと説明したろ。

さくら: 聞いてないんだろ。

百江: やっぱマニュアルとかさ……

リポーター: これはね、老人ホームに取材に行ったらね。お婆ちゃんたち、旧制女学校のころ、白梅と、八重桜の二校で果し合いしたって、なつかしい話になってね。それで急きょ後輩のあなた達に頼んで、模擬果しあいをしてもらったってわけよ。

ルミ: そういや、ゆきが老人ホームがどうとかって……

春奈: ああ、食堂でラーメンすすってた時。

純子: そう言や、さくらも、昼休みに、おにぎりかぶりつきながらゆってた。

さくら: 飯時でなきゃ、みんあ集まらないだろうが!

ゆき: 先生達の気持ちがわかるよ……

咲江: だって……

リポーター: わかった。見せ場だけ、もっかい撮ろう!

 

「と、まあ、中盤はこんな感じなんだけど、ノリと成り行きで、どんどん変わるからね!」

 ノドチンコまで見えそうな笑顔で中盤の盛り上がりを一人で演じて見せた真鈴さん!

 遮音カーテンで半分に区切った視聴覚教室には参加希望のクラスやら個人やらが集まって、中盤まで改定された台本を聞きに来てる。

 台本は、そのつどネットに上げられてるんやけど『視聴覚室で書きながら制作の話もしてるよ(^▽^)/』と書かれてるんで、自然発生的に集まった。

 なんせ、人気の高校生声優が、ノリノリで一人芝居(本人は「読んでるだけ」と頭を掻いてる)をやってくれるんで、制作発表から二日しかたってないのに、雰囲気はマックス!

「おお、キミは頼子さんの妹分の……そうか、キミはリアルさくらだったんだ! 後ろのノッポさんは!?」

「こ、古閑巡里です」

「よし、そのコンビ面白い! B班、主役決定!」

「「え、ええ!?」」

 パチパチパチパチ!

 ノリと勢いというものは恐ろしいもので、A班、B班の他のキャストも次々に決まっていく。

「これだけ増えると、衣装とか道具とかも大変だと思うんですけど……」

 キャストは絶対イヤという留美ちゃんが的確な質問をする。

「おお、いい質問だねぇ!」

「えと、そっちに目途があるようなら、そっちのスタッフで……」

「よし、キミを……一年B組の榊原留美さん、キミを舞台監督に任命しよう!」

「か、監督だなんて(;'∀')」

「じゃあ、衣装・道具係りだ!」

「あ、でも、アテはあるんですか?」

「もちろんだとも、キミたち、昨日はなんの日だったか分かっちょるかねぇ?」

 あ……!?

 みんなが息を呑んだ。

「そうだよ、夕べ、世界中がハローウィンのバカ騒ぎをやっとったんだよ! コスプレの衣装や道具は、一夜明ければゴミ同然!」

 というか、もうゴミとして回収されてるんちゃうん?

「心配ご無用!」

 パチン

 真鈴さんが指を鳴らすと、ファンファーレと共に後ろの遮音カーテンがスルスルと開いて、トラック一杯分ほどのハローウィングッズが現れた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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宇宙戦艦三笠4[旅立ちの時・2]

2022-10-30 07:57:08 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

4[旅立ちの時・2]   

 

 

「みんなCIC(戦闘指揮所)に集まって!」

 神さまが命じると、オレたちはまるであらかじめ知っていたかのように三笠の中央部にあるCICに走り、それぞれの席に着いた。

「シールドA展開! 砲術長、航海長、現状報告!」

 オレは、当たり前のように天音と樟葉に命じた。なんで、オレ、こんなに偉そうなんだ!?

「右舷3時方向0・04パーセクに敵艦多数。フェザー砲飽和攻撃の感あり! 弾着まで5秒」

「機関長、ミニワープで敵の真ん中に出る。同時に艦載砲すべてでフェーザー攻撃」

「てーっ!」

「ミニワープ!」

 機関長のトシが、今まで聞いたことのない冷静かつしっかりした声で応えた。

 ズゥイン

 掃除機を弱で起動したような音がしたかと思うと、モニターの星々が前方に集中し、後方モニターの星々は消えて真っ暗になった。

 シュイン

 ワープカウンターが05を示すと、掃除機が停止するような音がして、モニターに星空が戻ってゴマ粒のような敵艦隊が映し出された!

「全フェーザー砲射撃オート!」

「てーー!」

 シュビビビビビビ

 俺が命じ砲術長の天音が応えて、弾幕シューティングゲームのような射撃音が続く。

「捻りこみ最大戦速で敵旗艦に並走、一斉射後9時方向0・01パーセクにミニワープ」

 シュビビビビビビ……ズィン

 射撃音の後に掃除機の誤作動のようなミニワープの音が続く。

 ウッ(;'∀')

 瞬間のミニワープが終わると敵直衛艦のどてっ腹が迫って、思わず唸ってしまう。

 シュビビビビビビ

 ワープの寸前から撃ちっぱなしのフェーザー射撃の束が直衛艦の腹を舐めていき、捻り込み運動が完了する寸前に大爆発!

 その爆発エネルギーをも推進力の足しにして0・2秒間敵旗艦と並走。こちらのシールドで、敵艦のシールドを中和、主砲と左舷の全副砲で0距離射撃。敵が爆沈する寸前にミニワープ。9時方向でステルスシールドに切り替えた。

「敵艦123隻中40隻を撃沈23隻撃破」
「残存艦にフェーザー攻撃。初元位置にミニワープ」
「敵残存艦32隻、ワープしつつ逃走しあり……」

「「「「勝った」」」」

「チュートリアルクリア、全員合格よ」

 神さまが静かに微笑んだ。

「どうして、俺たちに、こんなことができるわけ……?」

「これからの航海に必要なアビリティーはダウンロードしてある。インストールが完璧なことも、今のチュートリアルで確認できたわ」

 飛躍した現実に付いていけず長い沈黙になった。

「……どうして、わたしたちなんだ?」

 数分の沈黙を破って天音が口を開いた。

「東郷君の霊波動が、わたしに合うの」

「え、俺が!?」

「それと、あなたたちの喪失感。潜在的な一体感……そういうものが総合的に適合した……で、納得してくれる?」

「……で、できるか! わたしたち、学校やら自分の生活があるんだぞ!」

「ワープ移動がほとんどになるから、遅くとも明日の朝には戻れるわ。上手くいきすぎたら、それよりも前に戻るかも、光速以上で移動すると時間は逆行するから」

「あの……それって、ボクが引きこもる前に戻れる可能性もあるってことですか?」

「そこまでは……でも、この旅で秋山くん(トシの苗字)の引きこもりは完治すると思うわ」

「そ、そうなんだ」

「で、あなたのことは、なんて呼んだらいいのかしら?」

 樟葉が取り持つように続ける。

「アマテラスオオミカミさんじゃ言いにくいかな(^_^;)」

「アマさん……じゃ変?」

「っていうか、あたしが呼ばれてるみたいだぞ」

「「ああ」」

 トシが入部したての頃天音を、そう呼んでたな。声に元気がないもんだからアマネのネが発音しきれなかったんだ。

「ん~と、みかさんでいいわ」

「「「みかさん?」」」

「三笠の船霊だから『三笠さん』でしょ。『みかささん』じゃ舌噛みそうだし『みかさん』。うん、これでいこう。じゃ、今夜は休んで。明日から本格的なミッションに入るから。じゃ、よろしく!」

 みかさんは、エフェクトも無く消えてしまった。オレたちは目的も目的地も敵のなんたるかも知らずじまい、地球の寒冷化と言われても、いま一つピンとこないまま始まってしまった……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 みかさん(神さま)   戦艦三笠の船霊

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宇宙戦艦三笠3[旅立ちの時・1]

2022-10-30 06:42:21 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

3[旅立ちの時・1]   

 

 

「あ、ごめん! そのままの姿で連れてきちゃった!」

 パチン

 お下げの神さまが、そう言って指を鳴らすと、オレたち四人は紺色の軍服姿に変わった。

「わ!」「え!」「お!」「う!」

 四人四様の声をあげて驚いた。

 オレの網膜には天音の白い裸が強烈に焼き付いたので、数秒ダブって見えちまった。で、記憶に間違いがなければ、四人の軍服は戦艦三笠を観に行った時に展示してあった帝国海軍のそれだ。襟元の階級章は天音と樟葉が中佐、トシが少佐。自分のは……見えないので良く分からない。

 周りを見渡すと、立派な応接室のようだけど、部屋全体が三角形で、ところどころの窓が小さくて丸い……記憶に間違いがなければ、これは三笠公園の戦艦三笠の司令長官室にそっくりだ。

「そう、戦艦三笠の司令長官室ですのよ」

 お下げの神さまが、口をωにして言った。

「な……なんで、こんなところに?」

 質問しようとしたら、樟葉に先を越されてしまった。

「言ったでしょ。戦艦三笠に乗ってくださいって」

「いや」「だから」「なんで」

「「「「戦艦三笠に?」」」」


「地球を救ってもらうためです」

「「「「地球を救う( ゜д゜ )!?」」」」


「地球は、氷河期を迎えようとしています。温暖化しているというのは国際的な利権がらみの大嘘です。これを見て……」

 神さまが指差すと、スクリーンが現れ、そこに南極大陸の白い姿が現れた。

「これは去年の冬の姿だけど、観測史上最大の氷面積になっています。で、これが北極。氷は完全に回復しています。そして、世界各国の近年の冬の様子……エジプトで雪が降っています」

「でも……これって、温暖化の前の特異現象……」

「そんなこと、まともに信じているのは、日本と某国営放送ぐらいのもの。二酸化炭素の排出権が利権化していることや、水資源の取り合いのための目くらましにすぎないわ。世界の人々が寒冷化に気づきはじめている、やっとね……そして、寒冷化は人々の予測を超えて進み始めているのです。あと100年もたたずに地球は氷河期に突入して、人類は滅亡する。恐竜が絶滅したように、ごく短時間でね」

「それで、なんで戦艦三笠なの?」

「地球を救うのは、日本の戦艦に決まっています」

「それって、ヤマトの専売特許じゃないの?」

「だって……現物で残っている戦艦は、この三笠だけですから」

 ホワン

 そう言うと、神さまは四人に分身した。

 おそらくこの分身が、ブンケンのメンバーをそれぞれ連れてきたんだろう。

「船には、それぞれ船霊(ふなだま)がいるの」

「戦艦大和には大和神社(おおやまとじんじゃ)の大国魂神(おおくにたまのかみ)」

「戦艦長門には厳島神社」

「戦艦山城には賀茂神社」

「などの、神社の神さまが分祀されていたわ」

「でも、船が沈む前に、船霊は、その船を離れてしまうの」

「で、唯一、わたしだけが三笠に留まっているわけ」

「じゃ、あなたは……」

 ホワン

 樟葉の言葉で、分身していた神さまが一つになった。

 一つになっても、相変わらずお下げのセーラー服。

「一応、天照大神(あまてらすおおみかみ)。でも、大そうに思ってくれなくていいのよ(^_^;)」

「それにしても、アマテラスさんがセーラー服の女子高生じゃなあ」

 と、オレが言うと、トシが初めて口をきいた。

「分かるよ! 日本人の大方が、その程度にしか思ってないから、こんなお姿なんでしょ?」

「あ、それはね、それはみんなに親しみ持ってもらいたいからかな……アハハハ」

 なんだか無理して笑っているような気がした。案外トシの一言は図星なのかもしれない。

「で、なんであたしたちなんですか?」

「それは、まあ、チュートリアルやりながら……」

 ドッカーン!!

 ウワアアア!

 三笠のどこかに弾が当たったような衝撃がした!


☆ 主な登場人物

 修一      横須賀国際高校二年
 樟葉      横須賀国際高校二年
 天音      横須賀国際高校二年
 トシ      横須賀国際高校一年
 神さま     戦艦三笠の船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・9『もの動かす時は声かける!』

2022-10-30 06:35:36 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

9『もの動かす時は声かける!』  

 

 

 結局(日付、時間、芝居のタイトル、フェリペの場所)だけをメールでヤツに打った。


 ドーン! と、晴れ渡った秋空に花火は上がらなかったけど、城中地区の予選が始まった。


 全てが順調だった、その時までは……。


 私たちの乃木坂学院は抽選で出番は二日目の大ラスになっていた。

 部長の峯岸先輩は、初日から全ての芝居を観ている。峯岸先輩は三年生がみんな引退した中、ただ一人、現場に残ってくれている。特別推薦で進学が確定していたからでもあるけど、次期部長に決まっている舞台監督の山埼先輩に、部長としての有りようを示すためだと、わたしは思っている。

 前日の朝、乃木坂の講堂で最後のリハをやった。午後は実行委員の仕事として割り当てられている舞台係(搬入、搬出、仕込み、バラシの手伝い)と受付をやった。

 潤香先輩は、カワユク受付……と、思いきや、がち袋を腰に、ペットボトルを太ももにガムテープで留め(バラシのときに出る釘や、木っ端なんか、要するに舞台上に残った危ない小物を拾うため)長い髪をヒッツメにして働いていた。

 初日最後のK高校のバラシの最中、K高校のスタッフが声をかけないで、三六(サブロク)の平台を片づけようとして、二人で担架のように担いでいた。落ちた木っ端を拾っていた先輩がちょうど立ち上がり、その平台の横面に頭をしたたかに打ちつけた。

 ゴッツン!

「アイテー! だめでしょ、もの動かす時は声かける!」

「すみません」

 先輩は、インカムを外して、痛む頭をなでてみた。

「でかいタンコブができちゃった……気をつけてよね!」

 他校の生徒でも、エラーには手厳しい。K高校のスタッフは、二人揃って頭を下げ、そのあと上目づかいにこう聞いた。

「すみません……あのう、乃木坂の芹沢……潤香さんですか?」

「え、ええ、そうだけど……」

「ウ、ウワー! ホンモノだ(๑✧∀✧๑)!」

 ポニーテールが叫んだ。

「わたしたち、去年の『レジスト』観て感動したんです(๑✧∀✧๑)!」

 カチューシャも叫んだ。

「あ、それは、ドモ……」

 潤香先輩は戸惑った。

 K高の二人のテンションは高く、ミニ握手会になった。で、写真を撮って、番号の交換までやった……ところで、マリ先生の声が飛んできた。

「そこ! なに遊んでんの!?」


 そのときは、それで済んだ……。


 二日目は、本番二時間前に楽屋に充てられた教室に集合することになっていた。

 たいていの部員は朝からやってきて、他の学校の芝居を「客席を少しでもにぎやかに(実際、力のない学校は、自分の部員数ほども観客動員ができない)するため」ということで睥睨(へいげい=偉そうに見下す)するように観劇していた。
 さすがに峯岸先輩は、冷静に化学実験を見るように、時々ペンライトで、ノートにメモをとっていた。昼の部が始まる前にはみんな会場や楽屋に集まっていた。

「潤香が、まだ来てません」

 山埼先輩がマリ先生にそっと耳打ちした。

「潤香が……?」

「サリゲにメールしてみます」

 山埼先輩の応えに、先生は軽くうなずいた。

 昼一番の芝居が終わると、部員全員、楽屋に招集された。予定よりも二時間も早い。

 楽屋に行くと、マリ先生が腕組みをして背中を向け、窓から見える四角い空を見上げている。峯岸先輩と、山埼先輩が付き従うように立っている。

「先生、なにが……」

「全員が揃ってから……」

 山埼先輩がつぶやいた。

 え……なに、この気持ち悪い緊張感は?

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

 

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