せやさかい・357
サクラ・ウメ大戦
2『おつかれさまあ』
作・大橋むつお 脚色・百武真鈴
時 ある日ある時
所 桜梅公園
人物
(やさぐれ白梅隊) (はみだし八重桜隊)
ゆき(園城寺ゆき) さくら(長船さくら) (ITVスタッフ)
咲江 百江 リポーター
ルミ 純子 カメラ
春奈 ねね 音声
千恵 やや
その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/
リポーター: おつかれさまあ。
ゆき: なんだ、そんなところから撮ってたんですか?
リポーター: いい絵がとれたわよ。
さくら: すみません、本当は、二人とも千鳥(前に進みながらザコを打ち倒すこと)の末に、取り巻きをバックに太刀打ちってことになっていたんですけど……みんな、サッサと死んじゃって。
ゆき: やっぱ――テキトーにチャンバラって――ト書きが雑過ぎなんかなあ。
さくら: だって、殺陣の用語って、そんなに知らないし。
ゆき: まあ、自分でやるのと、人にフリ付けんのは別だしな。
二人が言い訳を言ってるうちに、カメラが舞台に上がってきて、双方の切られた者たちもカメラ目線で生き返ったり、袖から出てきたりする。
リポーター: 大丈夫、クライマックスのとこはローアングルのバストアップで撮ったから、大丈夫よ。
咲江: ローアングルって、下から撮ること?
ルミ: パンツ写っちゃうんじゃない。
ゆき: 大丈夫スパッツ穿いてっから。
リポーター: 大丈夫よ、バストアップで撮ってから。
百江: さくらってペチャパイだからね。
純子: 下から撮ったら胸も大きく写るんじゃね?
みんな、カメラを意識してワチャワチャやってる。
ゆき: ちょ!
さくら: うっさいよ、あんたたち!
リポーター: ほんとはもっとカメラ使って交互にカットバックでいきたかったんだけどね。編集で、なんとかするわ。
みんな: えーー! あたしたちはぁ?
ゆき: ちょっ、ギューギュー寄ってくるんじゃないわよ!
さくら: 今ごろになって、出てくるんだもんなあ!
ねね: だって、あたしたちも写りたいしィ。
やや: そうだよ二人だけ目立っちゃって。
リポーター: 今、カメラ回ってないよ、ね、沢田さん。
カメラ: はい、バッテリーもったいないですから。
春奈: ええ!? じゃ、どうしてカメラ構えてんのよ。
リポーター: いつシャッターチャンスがきても撮れるように構えてるのよ、プロの常識。
春奈: ええ、せっかくファンデやり直したのに。
千恵: あたしずっとカメラ目線でいたんだよ。
百江: 放送局のケチ!
音声: 音声は生きてるんだけど……
百江: え! 音声さん美人よ! ね、ねえ!
純子: ねえ、マイクの棒持つ手なんかスラッとしちゃって。
咲江: ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ……
ルミ: 今頃発声練習してどうすんのよ。
ゆき: あんたたちねえ! あ、入ってんだ。
音声: いま切った。
さくら: ほんとに、あんたたち、さくらも満足にできないのね。
春奈: だって、あなたたち桜女子と違うしィ
さくら: その他多勢、モブ、NPCって意味だよ!
一同: だって……!
やや: ねえ……
ねね: わけわかんないうちに連れてこられて百均の刀渡されて。
千恵: こっちも似たようなものよ、
ゆき: ちゃんと説明したろ。
さくら: 聞いてないんだろ。
百江: やっぱマニュアルとかさ……
リポーター: これはね、老人ホームに取材に行ったらね。お婆ちゃんたち、旧制女学校のころ、白梅と、八重桜の二校で果し合いしたって、なつかしい話になってね。それで急きょ後輩のあなた達に頼んで、模擬果しあいをしてもらったってわけよ。
ルミ: そういや、ゆきが老人ホームがどうとかって……
春奈: ああ、食堂でラーメンすすってた時。
純子: そう言や、さくらも、昼休みに、おにぎりかぶりつきながらゆってた。
さくら: 飯時でなきゃ、みんあ集まらないだろうが!
ゆき: 先生達の気持ちがわかるよ……
咲江: だって……
リポーター: わかった。見せ場だけ、もっかい撮ろう!
「と、まあ、中盤はこんな感じなんだけど、ノリと成り行きで、どんどん変わるからね!」
ノドチンコまで見えそうな笑顔で中盤の盛り上がりを一人で演じて見せた真鈴さん!
遮音カーテンで半分に区切った視聴覚教室には参加希望のクラスやら個人やらが集まって、中盤まで改定された台本を聞きに来てる。
台本は、そのつどネットに上げられてるんやけど『視聴覚室で書きながら制作の話もしてるよ(^▽^)/』と書かれてるんで、自然発生的に集まった。
なんせ、人気の高校生声優が、ノリノリで一人芝居(本人は「読んでるだけ」と頭を掻いてる)をやってくれるんで、制作発表から二日しかたってないのに、雰囲気はマックス!
「おお、キミは頼子さんの妹分の……そうか、キミはリアルさくらだったんだ! 後ろのノッポさんは!?」
「こ、古閑巡里です」
「よし、そのコンビ面白い! B班、主役決定!」
「「え、ええ!?」」
パチパチパチパチ!
ノリと勢いというものは恐ろしいもので、A班、B班の他のキャストも次々に決まっていく。
「これだけ増えると、衣装とか道具とかも大変だと思うんですけど……」
キャストは絶対イヤという留美ちゃんが的確な質問をする。
「おお、いい質問だねぇ!」
「えと、そっちに目途があるようなら、そっちのスタッフで……」
「よし、キミを……一年B組の榊原留美さん、キミを舞台監督に任命しよう!」
「か、監督だなんて(;'∀')」
「じゃあ、衣装・道具係りだ!」
「あ、でも、アテはあるんですか?」
「もちろんだとも、キミたち、昨日はなんの日だったか分かっちょるかねぇ?」
あ……!?
みんなが息を呑んだ。
「そうだよ、夕べ、世界中がハローウィンのバカ騒ぎをやっとったんだよ! コスプレの衣装や道具は、一夜明ければゴミ同然!」
というか、もうゴミとして回収されてるんちゃうん?
「心配ご無用!」
パチン
真鈴さんが指を鳴らすと、ファンファーレと共に後ろの遮音カーテンがスルスルと開いて、トラック一杯分ほどのハローウィングッズが現れた!
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか さくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首