大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・351『三年ぶりの如来寄席』

2022-10-11 18:10:16 | ノベル

・351

三年ぶりの如来寄席さくら    

 

 

 なんで今日が晴れなん!?

 朝の青空を見上げて歯ぎしりするあたしです!

 

 昨日は三年ぶりの如来寺寄席やったんです!

 朝から雨の中を桂米国さんは、お弟子さんを連れて、うちの本堂に来てくれはりました。

「いやあ、三年ぶりの阿弥陀さんの神々しいこと!」

 そない感激すると、鈴(りん)を鳴らして手を合わせはります。

 米国さんは、いちおうプロテスタントで浄土真宗やありません。

 せやけど、お寺の本堂でやるんやさかい、ちゃんとご挨拶はするわけです。

「ナマンダブナマンダブ……」

 ちゃんと念仏も唱えはります。

「異教徒なのに、なぜお念仏を?」

 米国さんより早く頼子さんといっしょに来てるソフィーが聞きます。

「お念仏は『南無阿弥陀仏』でしょ、南無は『もしもし』いう呼びかけやし、阿弥陀仏は仏さんの名前。つまり『もしもし仏さん』という意味。これから本堂を使わしてもらいますいうご挨拶。なにごとも挨拶で始まって挨拶で終わるっちゅうわけです」

「でも、それならお念仏でなくとも……」

「うん、ソフィーさんも、そうやと思うねんけど、日本人に挨拶するときは日本語でっしゃろ?」

「はい、礼儀です」

「二人とも英語で会話できるけど、いま、日本語で話してまっしゃろ?」

「あ……はい。そういうことなんですね」

 ソフィーの日本文化理解が、また一歩進みました。

 

 組み立て式の高座を作って、メクリを整え、テルテル坊主ぶら下げて、あとは雨が止むのを待ちました。

 

 けど、雨は止みません。

「10月10日は晴れの特異日やねんけどなあ……」

 と、テイ兄ちゃんは、本堂の縁側から空を睨みます。

 雨を怨むのは、檀家さんのことなんです。

 檀家さん、主に婦人部。婦人部いうのは、平均年齢70歳ちょっとくらい。

「いや、70歳もっとや」

 テイ兄ちゃんが言いなおします。

 そうなんです、年寄りが多いので雨の日はお寺にくるのんが大変なんです。

 神経痛やらリウマチには厳しいし、人によっては電動車いすやったりして、健康でも来るのんが大変なんです。

 それから、学校の方は動員が効きすぎました(^_^;)。

 散策部はもちろんのこと、生徒会からも会長の田中真央と執行部全員。田中会長は人気声優百武真鈴でもあるので、そのファンが学校の内外から聞きつけて30人ほど。

 他にも、担任のペコちゃん、体育の長瀬先生(意外な落語ファンやそうです)やら、うちらのクラスメートも3人ほど。

 それから、正式に王女さまになったので、頼子さんファンもボチボチと。

 総勢100人ほどの入りで、お寺の檀家さんは、そのうちの10人ほど。

「みんな、檀家のお婆ちゃんたちを前にこさせてあげて!」

 会長の田中真央さんが仕切って、お婆ちゃんたちを最前列に。

「いやあ、なんか同じ苗字で、孫みたいやなあ」

 と田中のお婆ちゃんが喜ぶ。

「よねちゃん、孫やないやろ、ひ孫やで!」

 と、加藤のお婆ちゃんがチャチャ入れしはります。

 うひゃひゃひゃひゃ(^Д^)

 テンション高く笑うけど、あした大丈夫やろかと心配しました。

 

 前回同様、うちと頼子さんは着物着てお茶子です。

 会場整理とめくり、お囃子が録音やいうのは、ちょっと残念やけど、これは経費の関係。

 

 出し物は『所帯念仏』『はてなの茶碗』『千両蜜柑』『地獄八景亡者の戯れ(前半)』の三本。

 それぞれ面白かったんやけど、紹介してると、めっちゃ長うなるんで、別の機会にね。

 

 落語会そのものは大盛況。せやけど、檀家さんの数が少なかったんで、如来寺の催し物というよりは、完全なイベントになってしもた。

「まあ、ええで、にぎやかなんが一番や」

 テイ兄ちゃんは明るく返してくれる。

 田中のお婆ちゃんは、張り切り過ぎて、帰ってから寝込んではるそうです。

「檀家さんのこと、いちばんに考えてくれて、ありがとうなあ」

 お祖父ちゃんが喜んでくれた。

 喜んでくれるのはええけど、頭撫でるのんは、堪忍してほしい(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・093『玉代と松陰を語る』

2022-10-11 15:51:29 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

093『玉代と松陰を語る』   

 

 

 お~れが居たんじゃお嫁にゃいけぬ 分かっちゃいるんだ妹よ~♪

 今日もぉ~涙の 今日も~涙の 日が落ちる 日が~落ち~る♪

 

『あなた、同じフレーズばっかり』

『え、あ、ほんとだ(^_^;)』

『『アハハハ』』

 

「「フフフフフ(* ´艸`)」」

「二人ともほんなこて楽しそうやなあ(^^)」

「ほんとだね」

 孫と姪(設定だけど)としても、階下のリビングで祖父母が楽しそうにしていると嬉しい。

 ついつい、テスト勉強の手も停まってしまう。

「しかし、なんでお祖父ちゃん『男はつらいよ』ばっかり歌ってるんだろうね?」

「え、ひょっとして自覚なかとか?」

「え、わたし!?」

「そうじゃ、ひるで、昨日から何度も寅次郎って呟いとっ」

「あ……ああ……」

 世田谷城址公園で出会って、ちょっと気になっている。

 

 吉田寅次郎……吉田松陰。

 

 わたしにとっては隣のテリトリーになる、吉田神社の御祭神だ。

 わたしは、迷える霊や妖には、名前を付けて本来の場所に戻してやるんだけども、松陰は違う。

 迷える霊にゆっくり時間をかけて思い出させているんだ。

 思い出すまでは、自分の松陰神社に通わせて、いろいろ教えているらしい。

 松本という男と、三遊亭円突という落語家の警防団に出会ったが、二人とも充実した目をしていた。

 気になったわたしは、何度も――吉田寅次郎――と呟いていたらしい。

「でも、なんでそれが『男はつらいよ』になるんだ?」

「だって、主役ん寅さんな車寅次郎じゃらせんか」

「え……あ、トラさんも下の名前は寅次郎だったか!?」

「そうじゃ、お祖おやっどんは、寅さんの映画好いちょっでね、ネトフリでよう観ちょっじゃ」

「松陰の方の寅次郎は、鹿児島でも有名とか人気だったりするの?」

「ああ、吉之助どんたちは好いちょったみて。明治維新ん元になった人物じゃっで」

「そうか、でも、安政の大獄で処刑されるんだよね」

「うん、黒船がやってきたとき、アメリカに密航しようとして失敗したんじゃ」

「あの時、ペリーは日本と条約結ぶことが第一で、密航者をかくまって連れていってくれるはずないんだけどね。日本史で習ったよ。松陰ほどの学者なら分からないはずはないんだけど」

「そうやなあ、喋るったぁ片言んオランダ語で、言葉も通じん」

「なんだか、その辺が、抜けてるようで……戦略的な観点からみると……」

「みると?」

「その……一種のバカに見える」

「あはは、そうじゃ、あん時ん松陰はバカやった。小船をおっとって黒船に漕ぎよせっとどん、途中で露ベソが壊れて櫂が使えんくなっせぇ、ふんどしで応急修理してん。松陰は黒船に上がったときはフルチンやった!」

「プ、ほんとか( ´艸`)!?」

「ああ、こんエピソードは西郷どんたち、かごんまん者はわっぜ好いちょっ」

「間抜けにしか思えないんだけど(^_^;)」

「ひっではブァルキリアん姫騎士じゃっでね、物事を戦略的、戦術的にしか見ちょらんとじゃ。人間には、そげん可愛らしさも大事じゃち思う」

「そうか……で、その『ひっで』というのは何よ?」

「ああ、ごめんなせ。薩摩弁でひるでは発音しにくうて『ひっで』になってしまうんじゃ」

「ん……なんかひっでぇ」

「「アハハハハハ」」

 結局のところ、ふたりで馬鹿笑いしておしまいになりそうになって、下からお祖母ちゃんの呼ぶ声がした。

『ひるでぇ、お友だちがいらっしゃったわよぉ!』

 

 え、ともだち?

 

 わたしはブァルキリアの姫騎士、百戦錬磨の戦乙女、我が家に近づく者は子ネコ一匹でも事前に察知できる。

 気が付かなかったのは、その『ともだち』が、相当の怪しの者か、玉代とのバカ話に興じすぎていたか……「はーい」と返事して下りる階段の窓から見える向かいの窓、ねね子が興味津々の顔でこっちを見ていた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・91『ワイキキビーチだ!』

2022-10-11 07:12:06 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

91『ワイキキビーチだ!小松 




 同じ27度でも、こんなに違うんだ。

 ビーチまでの道を歩きながら思う。

 道と言っても芝生の緩い坂を、ほんの数十秒なんだけどね。

 ホノルルのワイキキビーチは、とても爽やか。

 ホテルのドアを出て直ぐにワイキキビーチ。

「ドアツードア!」

「ビーチにドアは無いわよ( ´∀` )」

「スープの冷めない距離!」

「結婚願望?」

「ちが~う。じゃあ、ドアツービーチ!」

「うわあ、気持ちいい~♪」

 チロルさんもなかさんとビーチの近さでじゃれてるうちに、波は足を洗った。

 昨日は、同じ27度のアキバを歩いていた。

 駅から@ホームの往復だけなんだけども、五分足らずの道行で汗みずくになった。

 それが、このワイキキビーチでは水着の上から厚めのTシャツを着ていても、お肌はサラサラだ。

 やっぱ湿度が違うんだろうか。

 ビーチはカラッとしているけど、わたしの心は、少し湿度が高い。

 水着は着たものの、Tシャツを脱ぐことにためらいがある。

 右のわき腹には、まだ初々しい傷跡があるんだ。

 ほら、連休の狭間、秋葉原駅でもなかさんがストーカーに襲われ、助けに入ったら刺されてしまった、あの傷。

 水着にならないのが順当なんだろうけど、それじゃもなかさんが気にするだろう。

 ワンピースにすれば、傷跡も隠れるし、ビーチにまで来ながら水に浸からないという不細工なことをしなくても済む。

「やっぱ、ワイキキビーチならビキニだよね!」

「うん、オソロにしよう!」

 そう誓い合ったのは、ミリーさんに招待されてハワイに訪れた先月のことだ。で、一応はオソロのビキニは持ってきたんだけどね、いざビキニを着たら抵抗ありまくり。

 パインさん

 躊躇していると、わたしを源氏名で呼ぶ声がした。

「あ、マッジさん」

 ミリーさんから、わたしたちの世話を頼まれているマッジ・ヘプバーンさんだ。

 ほら、ミリーさんの家でパーティーをやったとき、人数が13人になることを避けるために呼ばれた人。

 パーティーじゃ目立たない人で、今回お世話していただくことになって、到着した時に流ちょうな日本語で挨拶されたのでビックリした。

「パインさん、気にしてらっしゃるんじゃないですか?」

 そう言って、マッジさんは自分のわき腹をさすった。

「え、あ、えと……」

 ビックリした。なんでマッジさんが知っているんだ!?

「レンタルならワンピースのがあります」

「でも……」

「ジュースがこぼれて着替えるというアクシデントはどうでしょう?」

「あ……」

 うまいことを考えるもんだと思った。で、ビーチ突撃の寸前にレンタルの水着に着替えた。白地にパイナップルの柄を散らした、いかにも私向けのワンピース。

 二人ともー、早くおいでよ!

 チロルさんが手招きしている。

「うん、いま行く!」

 躊躇したら不自然。

 Tシャツを脱ぎながら二人のいる波打ち際へ。

 二人の目が、瞬間だけど傷跡のあるところに来る。その瞬間の半分くらいの間、もなかさんの表情が曇る。

―― ああ ――

 水着で隠れてるんだけど、傷のある所はパイナップルの柄から外れていて、気にしている二人には、水に濡れたら透けて見えるのかもしれない。

「さ、いっぱい泳ぐぞーーー!」

「「オーーー!」」

 三人の声が揃って、わたしたちのバケーションが始まった。

 最初はショックでも、わたしが元気にしていればいい話なんだもんね!
 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
  •  

 

 

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