大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・039『蝉と葦船』

2023-07-16 09:31:34 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

039『蝉と葦船』   

 

 

 ミーーン ミンミン ミ――  ミーーン ミンミン ミ――

 

 弾道ミサイルの警報か!? というくらい、そいつらは突然に鳴きだした。

 セミ! セミですよ! セミ!

 

 セミなんて21世紀の令和でも鳴いてんだけど、こんな唐突なのは初めて!

 五月の中ごろから開けっ放しの教室の窓から、突然のセミの大合唱!

 1年5組の教室は二階で、五月の席替えで窓際になったわたしの真横、二メートルも離れていない中庭の木でセミが鳴きだした。

 全身がビクッとして、机がガタッって震えた。

 教室のみんなは全然ビックリしていない。

 ソロっと様子を見ると、お仲間のたみ子・真知子・ロコが――どうした?――という顔で、十円男は――バカか――という目で見ている。

 数学の先生は、そういう、わたしとみんなの反応も含めてセミを無視!

 こういう人たちは、どこかの国の核ミサイルが飛んできて、運悪く宮之森の街に落ちても、あっさり死ぬと思うよ。

 で、セミ。

 板書を写す手を休めて考えてみる。

 こんなに驚いたのは、小三の時、ぼんやり道を歩いていたら、十字路で突然原チャが飛び出してきてぶつかりそうになった時以来。

 そう、突然すぎなんだ、セミも原チャも。

 でも、わたしの知ってるセミは――ああ、今年もセミの季節か――って感じで、気が付いたら鳴いている感じで、こんなに暴力的じゃない。

 あ、そうか。

 セミの声って、たいてい部屋の中で聞いている。

 気が付いたらエアコンの音に混じって聞こえてるって感じ。

 そうだよ、窓が開きっぱなしだからビックリしたんだ。

 でも、みんなはビックリなんかしていない。

 慣れてるんだ、戦場の兵士がミサイルや爆弾の音に慣れるように慣れてしまってるんだろうね。

 ミサイルや爆弾に慣れるのは怖いけど、まあ、セミが爆発することはない。

 

 で、気が付いた。

 

 1970年の高校って、エアコンが付いていない。

 令和少女のわたしとしては耐え難いことなんだけど、教室中のみんなが――夏はこんなもんだ――って感じなんで慣れてしまった。

 むろん、放課後は戻り橋を渡って令和の家に戻って、当然エアコンかけまくりの生活してるんだけど、いつの間にか、この切り替えに慣れてしまっていたんだ。

 ああ……でも、思い出すと暑い。

 セミのお蔭でドッと噴き出した汗をなだめながら、一学期最後の数学を受けた。

 

 ちょっと感心した。

 

 例の光化学スモッグが出て体育が散々だった日からテスト一週間前になって、部活動は無し。

 建前的なものだと思ったら、大半の生徒は授業が終わったらさっさと帰る。あるいは図書室で勉強。あるいは教室に居残ってマジで勉強。

 たみ子と真知子が図書室で勉強するというので、ロコといっしょに覗きに行く。

 

 うわあ……

 

 いつもは閑散としている(らしい)図書室はいっぱいだ。いっぱいな割には静かで、鉛筆を走らせる音やらページをめくる音、それに天井の扇風機が穏やかに回る音が微かにするだけ。あいかわらずセミは鳴いているけど、ほとんど気にならなくなった。我ながら順応するのが早い。

 遠慮のない溜息が聞こえたのか、真知子が顔を上げて鉛筆を振った。

「もっと早く来ないと座れないよ」

「あそこ空いてるよ」

 ノッポのたみ子が二つ向こうのテーブルを指す。男子が4人勉強してて席が二つ空いてる。空いてると言ってもカバンや荷物が置いてあるんだけどね。

「あ、いい、いい。二人の様子見に来ただけだから」

「荷物だったら言ってあげる……」

「いいよいいよ、じゃね(^_^;)」

 椅子を立ちかけた真知子を制して図書室を出る。

 

「もっと要領のいい人は街の図書館に行ってる」

 

 図書室を出ながらロコが付け加える。

「え、そうなの?」

 街の図書館は、こないだ行った希望が丘の方で、ちょっと距離がある。

「図書館は冷房が効いてますからねえ」

「あ、そうか……でも、いっぱいなんじゃない。学校終わってからで間に合うの?」

「学校なんかブッチしてますよ」

「そうなの!?」

「三年は受験があるし、二年は内申上げる最後のチャンスですよ」

「あ……そうなんだ」

「夏休みを制する者は受験を制すっていいますからね」

「え、そうなの?」

「はい、この時期、教師の訓話の定番です。ま、じっさいそうなんですけど」

「ま、一年生は関係ないです。一年は好奇心の翼を広げる時期なんです! 好奇心こそ、明日への原動力!」

「あはは、そうだね」

「あ、これ見てください!」

 昇降口を出ようとした足を停めて、ロコは、いつものファイルを出した。

 バサリと一発で開いたページにはピラミッドの壁に描かれているような船の写真があった。

 

「葦船ラー号ですよ!」

 

「葦船?」

「正確にはパピルスです。パピルスは葦の一種ですから」

「え、パピルスって、エジプトとかで紙の原料になってたパピルス?」

「はい、その葦船で大西洋を横断したんです。今月の12日です」

「ええ!?」

 パピルスって丈夫な紙らしいけど、それで船作って、大西洋横断は無理でしょ!

「去年もやったんですけど、途中で水が浸み込んできて中断したんですけど、今年再チャレンジして成功したんですよ!」

「……え、この人日本人?」

 八人並んだ中に日本人の名前の男性がいる。

「はい、今年はモロッコと日本からも参加して、頑張ったんです」

「いやあ、大海原の葦船、なんか涼しそうね」

「乗ってみたら、暑いと思いますよ」

「あはは、そうだろうね」

「でも、葦船でできたということは、最初に大西洋横断を成し遂げたのはコロンブスではない可能性があるということです」

「え、あ……そうだね」

「一説によると、アメリカの西海岸で縄文式土器の欠片が見つかった事実があるそうです……」

「え、それって、太平洋横断は日本人が最初ってこと!?」

「はい、可能性はあります!」

「ムムム……」

 子どものように目を輝かせるロコ。

 こいつは、受験勉強には向かないだろうなあ……と思ったけど、口にはしない。

 

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・かの世界この世界:159『デミゴッドの墓地・2』

2023-07-16 05:53:06 | 時かける少女

RE・

159『デミゴッドの墓地・2』ポチ 

 

 

 いくつもお墓は見てきた。

 人と言うのは川沿いに住むもので、お墓も川を臨む丘の斜面とかに並ぶ。

 それにムヘン川は最前線になることが多くて、石を一個置いただけの兵士や犠牲者のお墓もある。

 霊魂と言うのは死んでもなかなか肉体から離れられないもので、お墓の傍に寄ると時どき頭が痛くなったりする。あたしはシリンダーだったので、そういう霊的なものには人よりも鋭いみたい。

 

 ところがデミゴッドの墓地というのはアッケラカンとしていて、霊的なものを何も感じない。

 

「デミゴッドは半神。つまり半分神さまだから、死んだら魂は神界に上って神になるんだ。だから、お墓は抜け殻の肉体だけが葬られている。だから怖くはない」

 うん、怖くはないよ、霊ってご近所の皆さんて感じだったし。

「でもね、中には神であるよりも人の属性を大事にしたいデミゴッドもいて、そう言う人の霊は残っているんだよ」

「え、どこに?」

 広大な墓地を見渡すと、ところどころで墓守さんたちが掃除をしているのを見かけるだけだ。

「おーい、一号さーん」

 彼方の墓守さんにフェンが呼びかけた。この距離じゃ聞こえない……と思ったら、フィルムのコマが落ちたみたいに、唐突に目の前に現れた。

「なんだいフェン、おや、今日は女の子連れてんのかい」

「ちょっと訳ありでね。この子妖精のポナっていうんだ」

「ポ、ポナです」

 ペコンと頭を下げてしまう。

「妖精さんねえ……」

 み、見破られたか!?

「みんな、いろいろ事情があるからね……わたしは墓守一号、よろしくね。昇天しなかった半神と言った方がいいかな?」

 は、半神さん……ど、どうしよう、握手なんかしちゃったよ!

「ここに来たってことは、やってくれるんだね?」

「うん、及ばずながら。逃げてばかりじゃ解決しないからね」

「うん、それでこそオオカミ族の束ねだ。しっかりおやり」

「それで、ソウルを借りに来たんだ」

「ああ、いいよ。こういうこともあろうかと三人分のソウルを用意してある。正体がバレそうになったら心の中で『チェンジ』と呟けばいい。ぜんぜん別の半神ということになるから」

「ありがとう、恩にきるよ。でも二人分あればいいよ」

「向こうの二号戦車で来たんだろ、一つは二号に使えばいい。そうすれば乗り物から足が付くこともない」

「そうか、目につかないように人里では隠しておくつもりだったけど、二号もチェンジできるのならありがたい」

「でも、一つだけ注意しとくよ。けっして三年は超えないこと。三年を超えると……」

「元に戻れない、だろ? 大丈夫、それまでにはスヴァルトアルムヘイムもヨトゥンヘイムも、いや、ユグドラシル全体をまともにしてみせるから」

「大きく出たね。ま、無理をせず、半神のできそこないどもをなんとかしてやっておくれ」

「分かった」

「そっちのお嬢ちゃんも。あんたも流転の星に生まれついてしまったみたいだしね」

「は、はい」

「自分が、なにに属するのか、フェンといっしょにお考え」

「はい」

「じゃ、二人とも目をつぶって口をお開け」

 フェンと並んで口を開ける……すると、なにか暖かい空気のようなものが入ってきて、すぐに体全体が暖かくなってきた。

 目を開けると、もう墓守さんの姿は無かった。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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