大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・67『化学分析場地下の戦い』

2023-07-29 12:13:16 | 小説3

くノ一その一今のうち

67『化学分析場地下の戦い』そのいち 

 

 

『地下に続いています!』

「あ、ちょ……」

 

 壁の向こう、えいちゃんはわたしの言葉を待たずに地下への階段を下りて行く様子。

 壁は地下への階段を隠すための擬装だったんだ。

 階段の手前に部屋があったり廊下が続いていたら、えいちゃんはわたしを待っただろう。しかし、直ぐ足もとから階段が伸びていて、見通せるところまでは行ってみようと思ったんだ。

 単なるアシスタントではなく、洞察力を持った助手を目指そうと言う気概を感じた。

 だから、気弱なカンフーみたいに「あ、ちょ……」しか言えなかった。

 

 五分待って、おかしいと思った。

 

 先を見通すには時間を超えている。

 先行した仲間や部下が戻ってこないのは事故があった証拠。並の忍者なら、直ぐにその場を離れる。

 別のルートを探すか、調べ直して日を改める。

 助けに行って自分もやられては任務が果たせない。忍者と言う者は、けして倫理観では動かない。

 

 思わず魔石を握った。

 

 もし魔石の力で壁が開くなら、えいちゃんを助けに行こう!

 心の声に従った。

 と言っても、魔石に開錠の力が無ければ、ただのバカなんだけど。これまでも、何度か魔石に助けられている。

 困った時の石頼み、握った手に力が籠る。

 ジ~~

 魔石が震え、制服を通しても手に熱が伝わってくる。

 ガチ

 手応えのある音がして壁が開いた。

 アチ!

 手を離すと、魔石が直接肌に触れて忍者らしからぬ声が出る。

 一秒だけ立ち止まって気を飛ばす。

 たった一秒だけど、空堀では、この程度の慎重さも失って、まんまと多田さんの目くらましに騙されてしまった。

 コンクリートの階段を下ると、古ぼけてはいるけど、しっかりしたコンクリートの通路が伸びている。

 あ!?

 曲がって直ぐの壁にプリントしたようにえいちゃんが貼り付けられていた。

『すみません、不覚を取りました(;'∀')』

「待って、すぐに剥がしてあげる」

 メリ!

「ごめん、痛かった?」

『大丈夫です、一気に剥がしてください!』

「うん!」

 メリメリメリ!

 …………………!!

 かなり痛そうだったけど、えいちゃんは声も立てずに堪えてくれた。

『すみません、独断専行して、この有様です(-_-;)』

「やっぱり、昨日の多田さんたちだった?」

『気配はそうです。角を曲がったと思ったら、すごい圧を感じて、次の瞬間には壁に貼り付けられていました』

「よし、慎重に進もう……」

 少し進むと下り坂になって、20メートルほどの平坦な通路。地下鉄の向かい側ホームに行く通路に似ている。

 その四倍は長いから……おそらくは、内堀の下を潜って本丸か西の丸に抜ける通路だ。

『頑丈だけど、剥き出しのコンクリート……おそらく、戦時中のものですね』

「……上がった先に何かある」

 傍らの壁の崩れをとって思い切りの力で天井に投げる。

 パシ!

 ブシュッ! ブシュブシュ! ブシュッ!

 消音拳銃の弾が飛んできて、壁や床で爆ぜる。

 三人、あるいは四人。

『牽制してきます』

 言うと同時にカバンを飛び出すえいちゃん。

 今度は大丈夫。なんせ厚みが無い、横を向いて進めば敵からは視認されない。

 翻ってわざと姿を見せたえいちゃんに敵が発砲する。

 ブシュッ! ブシュブシュ! ブシュッ!

 えいちゃんが引き付けてくれている。

 …………!

 声も上げずに飛び出し、えいちゃんとは反対側の壁に周る。

 甲府の地下で見たようなパレットの陰に敵の姿。

 ドス! バシ! ビシ! ドゲシ!

 続けざまに四人ぶちのめし、一人が逃げる。

 シュッ!

 パレットの山を掠めて、一反木綿のようにえいちゃんが飛び出し、敵の脚にまといつく。

 ドシン ズザザーー

「動くな!」

 馬乗りになってクナイを構える。

 プシューー

 とたんに空気が抜ける音がして、敵は空気の抜けた風船のように萎んでしまう。

 傀儡か!?

『こっちも、萎んでます!』

 さっきやっつけた敵も萎んで、僅かな空気の流れにフワフワ崩れ始めている。

『なんですかぁ、これぇ!?』

「傀儡……だと思う。上級忍法の使い手が調子がいいと、こういう魔法めいたことをやるらしい」

『わたしの3D版という感じですね』

「え、ああ……」

 わたしも思っていたんだけどね(^_^;)

『パレットだけということは、敵は、もう運び出したんでしょうか?』

「先を探ろう」

 甲府の隧道でも、枕木やパレットが放置された先に結構な金塊が残っていた。

『こっちに続いています』

「うん!」

 四人目の傀儡を仕留めた先は、曲がったところで行き止まりだったけど、第一の部屋の壁にはパッと見には気づかない扉があった。

 おお!

 視聴覚教室ほどの空間には、荷物を載せていないパレットがいくつも置かれていたけど、奥の方にトラック一杯分ほどの金塊が積まれたままになっている。

 甲府から転送された金塊は、こんな量ではないけど、さすがに運びきれないものが残されたんだろう。

 近寄って見ると、どの金塊にも武田菱の刻印がされている。

 間違いない、いくらかは取り戻せたんだ。

 残念と安心が同時にやってくる。

 えいちゃんが、どんな顔をしていいか分からないという感じで微笑んでいる。

 うん、この微笑みには、ちょっと救われる。

 

 ドッゴーーーン!!

 

 大音響がしたかと思うと、地下室がグラグラと揺れ、天井からはパラパラと小さなカケラが落ちてくる。

 

 しまった!

 

 地下室は崩れるようなことは無いみたいだけど――してやられた――という気持ちが湧いて来て、急いで地上に出てみる!

『西の丸の方です!』

 レンガ造りの屋上から見ると堀を挟んだ南側の森から光の柱が空に延びている。

 チリチリとプラズマを纏って聳える光の柱は、諏訪湖の真ん中に聳えたそれと同じ。

 つまり、大量の金塊が国外に転送されたしるしなんだ。

 

 また負けてしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:172『アメノヌホコ・1』

2023-07-29 06:17:51 | 時かける少女

RE・

172『アメノヌホコ・1』テル(光子) 

 

 

 ヒルデと二人で手を繋いだ。

 

 手を繋いでいないと、上下も判然としないカオスの中をグルグル回って、いつ離れ離れになるか分からないのだ。

 重力が無いので、髪が大変なことになっている。

 ホワホワとタンポポの綿毛のように広がってしまっている。

「ウ……口の中に入った……」

 ヒルデの方に顔を向けようとしたら、慣性の法則で顔の前に残った髪が口の中に入ってしまう。

 プペ ペッ ペッ

「ジッとしてろ」

 ヒルデがわたしを手繰り寄せ、脚でわたしをホールド。フリーにした手で手際よく髪をまとめてくれる。ヒルデ自身は、いつの間にやったのか軽やかなポニーテールにまとめてしまっている。さすがはヴァルキリアの姫騎士だ。

「なんだ?」

「あ、今までのヒルデはツィンテールだったから」

「あ、とっさにやってしまった。父の戒めも、ここでは半分なのかもしれぬな。しかし、ポニテとひっつめではイメージが似てしまう。ちょっと動くなよ」

「え、変えるのか?」

 肩を掴んで後ろ向きされて、数秒で髪形を変えられた。

 ブルン

 首を振ると、太くてザックリした三つ編みが見えた。

「ドラゴンテールだ、歴戦の戦乙女に相応しい」

「あ、ありがとう」

「なに、無重力の中での間に合わせだ。とりあえず、ここを抜けなければな。それを考えろ……ここは、どこなんだ?」

「ここが神話の世界なら……」

 思い出そうとするが、出てこない。日本神話は冴子のジャンルだ……日本神話の初めはイザナギ・イザナミだったはず……その前というと……?

 アニメなどに出てくるのは、アマテラスとか高天原とか……イザナミは黄泉の国でラスボスのような化け物になり果てて……そうだ、最初はイザナギ・イザナミの二人で島とか神さまとかを産むんだ。

「思い出したか?」

「男神と女神がいるはず!」

 ウワ

 首を動かしただけのモーメントで体がグルグル回ってしまう。

 こんな重力もないカオスの中では、国生みどころか、二人並んでいることもむつかしい。

「あれはなんだ?」

 わたしが、あれこれ考えているうちにもヒルデは首を巡らし目を凝らし、カオスの中に何かを発見した。

 カオスの鈍色が凝り固まって、澱(おり)のようなものが浮かんできた。

 しばらくすると、澱のようなものはボンヤリと人の形をしてくるんだけど、霧の中の提灯のように滲むばかりで、頼りない。

「傍に寄ってみよう」

「だめ、行かない方がいい」

「そうなのか?」

 確証はないんだけども、神話の始まりはイザナギ・イザナミだ。それ以前のものに関わってしまったら、永遠のカオスの中に閉じ込められてしまいそうな気がする。

 

 澱のようなものは七つあって、目を凝らしていると澱の中に文字が浮かび始めた。

 

 クニノトコタチ、トヨクモノ、ウヒヂニ、スヒヂニ、ツノグヒ、イクグヒ、オホトノヂ、オホトノベ、オモダル、アヤカシコネ、

「なにか意味があるのか?」

 ヒルデは北欧神話の神なので、意味を考えてしまう。

 ヒルデが彷徨し始めたのも、父であり主神であるオーディンとの関りに疑問を持ったからなのだ。

「見ていれば流れるか消えていくと思う、始まりは男神と女神の二人の神だ……」

「しかし、名前があると意味を考えてしまう……アヤカシコネとかは、妖(あやかし)に関係する神なのではないか……」

 そう考えながら、ヒルデの空いた手は剣の柄に手がかかっている。

「ヒルデ」

「あ、すまん。未知のものには、すぐに警戒の心が湧いてきてしまってな」

 ヒルデの手が柄から離れると、七つの澱はゆっくりと背後のカオスの中に流れていき、代わりに現れた二つの澱は、すぐに人の形になった。男女二柱の神だ。

 

 現れた!

 

「これが、目的の神たちか?」

「イザナギ・イザナミだ、間違いない」

「眠っているのか?」

「目覚めると思う。これから、二人で国やら神を産むはずだ……」

 数十分も見つめていただろうか、二柱の神は目覚める様子もない……なぜだ?

 なにか足りない……。

 おぼろげな記憶が不足のシグナルを挙げているのだけど、それが何かなのかは、もどかしくも浮かび上がってこない。

 二柱の神は……神は……なにかをかき回していた……その雫が島に……そうだ、かき回す棒のようなものがあったはずだ!

 首を巡らせると、反対側に、今まさに混沌の中に沈みそうになっている矛を発見した。

 

 アメノヌホコ!

 

「あれだな!」

 察したヒルデは、わたしよりも早く突進していった!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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