大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・042『EXPO70』

2023-07-26 11:32:32 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

042『EXPO70   

 

 

 え、宮之森の人口より多いんですか!?

 

 開場の一時間前から並んでんだけど、人波の中、ゲートの屋根さえ見えない。

 それで、直美さんが気晴らしに話してくれる。

「うん、この分だと、80万人はいくって話だよ」

 万博は夏休みに入って入場者がうなぎ上り、昨日は宮之森の人口に匹敵する75万人の入場者があったそうだ。

「むろん朝の開場から夜に閉めるまでの総合計だから、同時に入ってるのは20万くらいかな?」

「それでも、うちの学校の……200倍ですよ!」

「あはは、そうなるか(^_^;)」

「…………」

 会話が途絶えて、とたんに蝉の声が耳に付く。

 前後左右には、わたしたち同様に開場を待ってる人たちがひしめいているんだけど、ほとんど話声がしない。

 ゲートが開いたら、我先に飛び出してお目当てのパビリオンに行くためにエネルギーを温存してる感じ。

「突撃前の軍隊って感じだね」

「軍隊ですか?」

「うん、戦時中、お父さん中国とか満州で兵隊やっててね、酔っぱらうとよく軍隊時代の話するんだ」

 そうか、この時代、親はリアルに戦争に行ってたんだ。

「耳にタコだけどね、うん、なんか敢闘精神湧いてくるなあ(^皿^)/」

 

――間もなく開場ですが、けして走らないよう、押し合わないようお願い申し上げます。ゲートを入られましたら警備員の指示に従って、合図があるまではけして飛び出さないようお願い申し上げます――

 

 ズズ

 

 開場予告のアナウンスが終わったとたん、何万という人たちが一歩前に出る。それが一斉に起こるものだから、巨大なアメーバーが身じろぎしたみたい。体の中で、何かが目覚めてアメーバーの一部になったみたいに高揚するものがある。

 中二の運動会で、学年女子全員でグランドに入場した時の感じ。それの何千倍もすごい。

 日本人というのはスゴイ。

 怒鳴る人も人を押しのける人も居ない。最前列でガードマンの人たちが暴走を抑止してるんだけど、たった一列。

 全部で十数人のガードマンが横一列になって抑止……っていうよりは『走らないでください』とサインを送ってるだけ。ガードマンはこっちには背を向けてるし、ちょっと押したら、そのまんま乗り越えられ、群衆に押しつぶされて、けつまずいた入場者も半分くらいは圧死する。

「わたしの傍、離れないでね」

「はひ、死にたくないですから!」

 悲鳴のような返事をする。

「左に抜けるから」

「え、あ、はい」

 直美さんは、いつの間にかサブカメラを出して左右と後ろを撮っている。

 インスピレーションなんだろうね。

 きっと、タイトルを付けたら『突撃0秒前!』とかって名作ができると思う。

 先頭のもう一つ前に、サッと旗が上がって、左右にニ回振られる。

 とたんに、ガードマンさんたちがトウセンボウを解いてこちらを向く。ここからはフリーのサインだ!

「よし、走るよ!」

「え、あ、はい!」

 けして後ろ向きにはならないんだけど、振り向き振り向きしながら解き放たれた群衆にシャッターを切りまくる直美さん。

「お代わり!」

「はい!」

 たすき掛けにしていたカメラを渡す。

 それも十秒もかからずに取り終え、さらにお代わり。

 やっと人波が過ぎると、横の植え込みに入ってフィルムの交換。

「パビリオンには入らないんですか?」

「ああ、ごめん。人撮ってる方が面白い。あとで何カ所か周るから辛抱してね」

 いや、わたしはバイトで来てるからいいんですけどね。

 直美さんは出たとこ勝負なんだ。

 写真なんてインスピレーションだから、それでいいんだけど、これまでは結婚式場のルーチンだったから、ちょっと戸惑う。

「月の石とか凄いんだろうけど、やっぱり人だね。目を輝かせてる日本人を、こんなに集団で撮れる機会ってないよ」

「はい、そうですね!」

「よかった」

「え、なにがですか?」

「メグちゃんが、こういうの嫌がる人でなくって」

「はい、おもしろいですよ(直美さんも含めて)」

「しかし、フィルムは考えて使わないとね。今ので四本使っちゃった」

「ああ……あと50本ですね」

「ごめんね、重たいの持たせちゃって」

「いえ、大丈夫です」

 わたしの仕事は荷物持ちだ。

 カメラバッグ二つ、背中には三脚とレフ板。

 並の女子なら三十分ももたないだろうけど、昭和の高校に通うにあたって、お祖母ちゃんが少しばかり魔法をかけてくれた。その全ては分からないけど、とりあえず力持ちなのは、この四カ月で立証済み。

「よし、アメリカ館とソ連館に行くよ!」

「はい!」

 むろん中には入らない。待っている人たちを撮るんだ。

「ただいま四時間待ちで……」

 アメリカ館に行くと、案内のおねえさんが済まなさそうに説明してくれる。

 いいんですよ、こっちは人を撮るだけだから。

 総じて、大人が元気で若者や子供たちがゲンナリしている。

「お爺ちゃんたち、お元気ですねえ」

「なに、引き揚げのことをお思えば屁でもねえさ」

「南方ですか?」

「満州!」

「満州でいばるな、わしはシベリア帰りじゃ!」

「俺はガダルカナルだ!」

「なるほどぉ(^_^;)」

「女だってね、買い出しで大変だったんだからね!」

「お婆さん、シャキッとなさってますねえ」

「まだ五十五よ!」

「失礼しましたぁ」

「あんた、何年生まれ?」

「あ、二十二年です」

「お父さんは引き揚げ?」

「はい、北支にいました」

「おお、どおりでベッピンさんじゃ」

「北支だとベッピンですか?」

「いや、復員とか引き揚げは溜まっとるからなあ」

「溜まってる?」

「わはは、若い人をからかうんじゃねえわ」

「え、あ、そういう意味ぃ!? アハハハ」

「そっちは妹さん?」

「妹分、こっちはからかわないでくださいねえ」

 結婚式場でもそうだったけど、直美さんは被写体とのコミニケーションがうまい。

 

 楽しくおしゃべりしてるうちに、またフィルム四本使ってソ連館へ。

 

「あなたたち、大阪?」

「うん、そやけど」

「さすがね、ソ連館から周るんだ」

「そら、宇宙開発いうたらソユーズ!」

「そうよね、写真撮りながらでいい?」

「オーケーオーケー」

「ひょっとしてハンパクとか行った口?」

「行った行った!」

「おねえさんもハンパク行ったん?」

「うん、岡林とかタクローとか好きだし。大阪って凄いよね」

「え、そう?」

「そうよ、反戦のための万国博って名乗りでさ、大阪城公園貸してくれるんだもん。東京だったらあり得ないよぉ」

「せやせや、御堂筋デモは五万人集まったしなあ」

「そのポケットから覗いてんのは毛沢東語録?」

「あ、青少年必読の書や」

 10円男といっしょだ(^_^;)

「造反有理だねぇ、三人並んでくれるぅ、え、なんで語録隠すの?」

「ちょっと照れくさい」

「そうか、まあ、いいや。はい、チーズ!」

「「「チーズ!!」」」

 

 パシャ

 

 それから十か所ほど周って、三菱館の前までくると、さっきの御年寄たち。

「ちょっと、様子が変だ」

 近づいてみると、お婆さんがしゃがみ込んでる。

「大丈夫ですか?」

「あ、さっきの」

「あ……だいじょうぶ……ちょっと立くらんで……」

 息が苦しそうで顔が赤い……熱中症だ!

 直ぐにスマホを出して、用心のために入れていた万博会場の見取り図を出す。

 よし、通りの向こうに救護所がある。

「直美さん、ちょっとだけ荷物頼みます!」

「え、あ、うん」

「小母さん、すぐ近くに救護所だから、オンブ、いや、ダッコしますね!」

「それなら、儂らが」

「いえ、大丈夫です!」

 よいしょ!

 小母さんをダッコすると「ちょっと、道開けて下さーーい!」と叫びながら三十秒で救護所に救急搬送!

 

 直美さんが、十数枚写真を撮ってしまって「これは発表しないでください!」と説得するのが大変だった。

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:169『再びの決意』

2023-07-26 06:11:05 | 時かける少女

RE・

169『再びの決意』光子 

 

 

 そうだったの……。

 

 お茶のエッセンスを絞り切るように急須を上下させて美空先輩は呟いた。

「完全じゃないと思うけど、このあたりで手を打つか」

 時美先輩が、見かけのボーイッシュさとは裏腹な優しい手つきでケーキをお皿に移す。

「ハハハ、不思議か?」

「あ、いえ」

「普段は雑だけど、ここ一番という時は丁寧にやるんだ」

「時美はね、思ったよりも見かけにこだわるのよ」

「潰れたケーキってやだろ。三人で食べるんだったら三つとも綺麗にしとかなきゃつまらん」

「そうですね」

 時美先輩のこだわりにホッコリする。

「さ、いただきましょ(^▽^)」

 美空先輩は解れるような笑顔でケーキにフォークを入れる。

「……おいしい」

 久々に(現実世界では二時間ほどしかたってないんだけど)先輩といただくケーキはため息が出るほど美味しかった。

「じつは、目当てのケーキ屋さんお休みでね、別のお店で買ってきたの」

「え、そうなんですか!?」

「うん、ごめんね。最初に言ったらがっかりするだろうって思って」

「言わなきゃ、分かんねえのに」

「い、いえ、ちゃんと言ってくださるのは思いやりだと思います。じっさい美味しかったですし」

「そう、よかった」

「それで、冴子はどうだった?」

「はい、それが……」

 冴子が赤の他人のようになってしまったことを説明した。

 吉野屋文学賞には触れなかった。

「でも、これで、殺すことも殺されることも無くなったわけだ」

「うん、そうね……」

 言葉遣いはちがうけど、美空先輩も時美先輩も等しく労わってくれる。

 異世界疲れしたわたしには身に染みて嬉しい。

「はい、落ち着いて、ここからやり直します」

 美空先輩は穏やかに微笑むことで、時美先輩は「もう一つ食おう」という食欲で賛同してくれた。

 

 一人で下校する。

 

 赤信号で立ち止まったり、電車がくるまでホームで待っていたりすると、無意識にスマホに手が伸びる。

 冴子のメールを意識してるんだ。

 もともと、いつも一緒にいるようなことはなかったけれど、何かにつけてメールのやりとりはしていた。

 正しくはラインというらしいんだけど、違いがよく分からないわたしはメールという呼び方で納得している。ラインは個人情報を抜かれるという噂だったけど、便利で無料だし納得。

 納得を二回も使ってしまう。ほんとは納得していないんだろうか。

 

 郵便受けに新聞が溜まっている。

 

 昨日の夕刊からとり忘れているところへ回覧板や市政だよりが入っている。

 朝刊の折り込みチラシはスーパーワンダイの新装開店。市政だよりのカガミ(表紙)は神社の巫女舞の稽古の様子だ。

 ちゃんと、見知らぬ中学生の女の子が緊張した表情で舞っている。

 ここでは、三年連続でわたしと冴子がやらされることは無いんだ。

 あれこれ見ていると、冴子に電話したくなる。

 でも、もう他人なんだ……。

 なんだか無性に寂しくなる。

 ま、いい。

 ゆっくり時間をかけて……また、なれるものなら友だちになればいい。

 

 あくる日、駅の改札を出ると、ちょっと前を冴子が歩いている。

 

 ちょっと追い越したぐらいのタイミングで気が付いたことにして、ペコリと頭を下げるくらいの挨拶。

 そうだ、一から始めればいいんだ。

 そう思って、少し早足になる。

 すこし横に出て、肩が並ぶ……。

 ドン!

 キャ!

 わたしの後ろから自転車が来て、わたしが急に横に出たものだから、追い越しざまに接触。

 チ!

 自転車の主は舌打ちして行ってしまう。

 グニュ(⊙ꇴ⊙)

 手を着いたところに犬のウンチ。

「あ、ああ……」

 間抜けなため息が漏れる。

 前を歩いていた人たちが振り返る。一番間近に冴子。それも、仁王様のように怖い顔。

「あ、昨日の……!」

 そこまで言うと、ひどく蔑んだ迷惑顔。

「ギョエ!! ちょ、離して!」

「あ!?」

 わたしは、ウンチを握りつぶした手で冴子のスカートを掴んでいたのだ……。

 疫病神を見るような冴子の視線を浴びながら、わたしは、もう一度時空をジャンプする決心をした。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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