大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・172『実験プラントのマス桜』

2023-07-25 15:42:46 | 小説4

・172

『実験プラントのマス桜』緒方未来 

 

 

「ほかにご質問が無いようでしたら、時間も押してまいりましたのでお開きにさせていただきたいと存じます」

 

「写真いいですか!?」「サインしてください!」「動画かまいませんか!?」「かわいい!」「握手!!」てな要望が会場中から出て……シンポジウムはアイドルの営業のようになってしまった。

「一列に並んで欲しいのよさ! ご要望にお応えしゅゆのよさ!」

「次の予定も迫っていますので、これで打ち切らせていただきます!」

 ダッシュがマネージャーのように立ちふさがり、わたしがかっさらうようにしてテルを控室に連れ帰る。

「もうちょっとやっててもよかったのよしゃ(^▽^)」

「あんたも調子にのるんじゃないわよ」

「らってらってぇ!」

「らってじゃねえ!」

「控室、しょっちなのよさ!」

「「こっち!」」

 

 控室を素通りして廊下の突き当りのドアを開けると、回しておいた車にテルを抱えたまま乗り込む。

 バタム

 ダッシュがドアを閉めると同時にアクセルを踏んで、文字通りダッシュ!

 ブィーーン!

 

「あ、あ、だましたにゃ! お弁当まだ食べてないのよさ!」

「ここにあるわよ、さっさと食べて」

「おお……で、どこに行くのよさ?」

「あ、えと……」

「え、ダッシュ考えてなかったの?」

「あ、いや、とにかく連れ出さなきゃ、話もできないだろ」

「じゃあ、マス桜観に行こう、もう満開近いよ」

「おお、よし、じゃあ」

 グィン!

「プギャ!」「キャ!」

「おお、すまん」

「もう、急にハンドル切らないでよ!」

「近道を逃してしまいそうだったからな」

「え、こっちってカルデラ出ちゃうよ」

 ピタゴラスは直径130キロのクレーターで、外への出入りは飛行能力が無い限り12カ所のトンネルかカルデラ越えの山道を通るしかない。

「3号トンネルの外に軍の実験プラントがあるんだ。マス桜の固有種もあるし、なによりほかの人間が居ないからな」

「おお、絶景なのよしゃ!」

 ピタゴラスは他のクレーターのようにお皿のような底面ではなくて、すり鉢状になっている。中腹の3号トンネルまでは九十九折れになっていて景色がいい。

 ダッシュもわたしも、月には任務で来ていて、たまの休日は、せいぜい買い物をする程度。

 移動途中とは言え、友だち三人でつかの間のサイトシーングするのは面白い。

 特に観光ルート化されているわけでもなく、10分ほど「おお!」「うわあ!」「しゅごい!」と言ってるうちにトンネルに突入した。

 

 トンネルを抜けて見えてきたプラントは東京ドームほどの大きさで、雰囲気が扶桑城の御庭に似ている。ほら、上様が実験的に品種改良なさっているプライベートガーデン。

 

「ほら、あれがマス桜だ」

「「おお!」」

 満開ちょっと前、まだ花びらが散ることもなく、木にも花にも勢いがある。

「ピタゴラス公園は数は多いけど、こんなのは無いよね」

「大きさ的にはあるんだろうけど、色や勢いでは、こっちの方だろ」

「これも上様の品種改良なのかにゃ?」

「栽培方法が違うんだそうだ」

「でも、日照とかはどうしてるの、オートソレイユ(太陽灯)とかは無さそうだけど?」

 月は自転周期が27日、つまり夜が27日も続くわけで、オートソレイユが無ければドームの中でも植物は育たない。

「ソレイユはこの真上」

「「え?」」

「静止衛星が三つ上がっていて、夜間は衛星を経由して太陽光が降り注ぐ」

「なるほど……でも、衛星でそこまで賄えるの?」

「あ、パルスギ使ってるにゃあ?」

「ああ、パルスギは生成エネルギー量もすごいが、蓄光量も桁外れで、衛星一個分の蓄光でこれくらいのドームプラントを賄える」

「あ、しょれって……」

「ああ、テルのパルスチャージの応用らしいぞ」

「お、おお……テルってしゅごいのよさ! 褒めていいじょ!」

 パチパチパチ

「ハハハ、なんかショボくて悪いな(^_^;)」

「ううん、友だちに認めてもらえるのがいちばんなのよさ(n*´ω`*n)」

「そうだな、これでヒコが居たら同窓会だな」

「ヒコ、まだ隠密課?」

「あ、えとにゃ……」

 テルが言い淀む。

 仕方がない、隠密課というのは、幕府の機密を扱うセクションで、ここに配属されると身内であっても連絡が取れない。

「今は南町奉行所にいるにゃ」

「え、なんかやったの?」

 ヒコは、若年寄穴山新右衛門の息子で、わたしたち同期の中でも主席の成績。

 親の七光りが通用するような幕府じゃないけど(老中の孫娘がパスカルの診療所で働かされてるのでも分かるでしょ!)毛並みの良さと才能に恵まれて、おまけに人柄もいい。隠密課で機密のイロハを学んだあとは外国奉行か勘定奉行所あたりでエリ-トコースの階段を上って行くと思っていた。

 隠密課から町奉行所に行くなんて、ハッキリ言って左遷!

「でも、年番方とか吟味方(裁判官)かなんかだろ?」

 ダッシュでも、そう思う。せめて、町奉行所のエリートではあるだろう。

「定廻同心(じょうまわりどうしん)にゃ」

「え、平同心なの!?」

「えと……ここだけの話にゃ」

「「う、うん」」

「ココちゃん(心子内親王)がにゃ現場の仕事がしたいってにゃ……」

「「あ、ああ……」」

 聞かずとも分かる。

 ココちゃんは、宗主国日本からの大事な預かりもの(絶対内緒だけど)。でも、扶桑に来て四年。あの性格から言っても、いつまでもお客様扱いの資料整理係りじゃ収まらないだろう。

 それで、民政最前線の町奉行所。扶桑は火星の中では最も安定した国だけど、民政の最前線まで下りてくるといろいろある。お姫様一人にはしておけないものねぇ。

「上様は、じゅっと先を観てるにゃ」

「ずっと……」

「先……」

「パルスギはエネルギー革命にゃ、まだ周辺のぎじゅちゅが追いつかにゃいけど、そのうちに人類は光のしょくどを超えて太陽系を飛び出すにゃ。銀河の時代になるにゃ。上さまは、その銀河の時代に立ち向かえる人材や指導者の養成に力を入れはじめたにゃ」

「そうなんだ……」

「よし、今度は、扶桑の飛鳥山で、みんな揃って花見をしようぜ。そのころにゃ、上様も、もっとすごい桜を作ってるかもしれないしな」

「再来年くらいかにゃ?」

「アハハ、テルはせっかちだなぁ」

「いや、分かんねえぞ。テルの頭の中には何が入ってるか分かんねえからなあ」

「あ、もう、あたまクシャクシャはなしにゃあ!」

「アハハ……」

『親子みたい!』という言葉が出てきそうになったけど抑えた。

 修学旅行に行ったころは、こういうじゃれ合いを見て『年の離れた兄妹みたい』と続いたんだ。

 あのころと全然変わらないテル。

 ちょっとずつ大人になっていく私たち。

 テルは……と思って、考えるのを止めた。

 

 見上げるとマス桜の上、ドームを通して星が流れるのが見えた。

 むろん願い事をする暇もなかった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

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RE・かの世界この世界:168『ほとんど元の世界』

2023-07-25 06:18:07 | 時かける少女

RE・

168『ほとんど元の世界』光子 

 

 

 

 学校の中を一通りまわってみた。

 

 そんなに居るわけじゃないけど、友だちにも声をかけたり視線を向けたり。

 みんな返事をしてくれる、手を振ってくれる、笑ってくれる、ピースしてくれる。

 冴子が他人になってしまった以外は何も変わっていないように感じる。

 クラスの友だちも普通に話しかけてくれるし、席に戻って五時間目の教科書を出すと、表紙の隅に憶えのあるシミがちゃんとついている。

 黒板に目を向けると……今日は日直だ。

 

 そうだ、日直だった。

 

 日直の最大の仕事は黒板を消すことだ。

 改めて確認すると、四時間目の板書はきれいに消してある。

 相棒の戸倉さんがやってくれたんだ。

「ごめん、戸倉さん、ボーっとしてて日直忘れてた(^_^;)」

「いいわよ、寺井さん考え事してたみたいだったし」

「え、あ、ちょっとね(^_^;)」

「よかったら、学級日誌とってきてくれる? ちょっと担任には会いにくくって」

 そう言うと、戸倉さんは手元のプリントに視線を落とす。

 プリントは進路希望調査票だ。文系・理系・就職・その他の四択の欄は白紙のまんま。提出期限は二日前。

「任しといて」

「ありがと(^▽^)」

 事情を察して職員室に向かう。

 うちの学校は規模の割に職員室が狭い。

 半分くらいの先生が担任をやっていても準備室などに籠っている。連携の悪い学校だと思うんだけど、それで回っているんだから、まあいい。そんな中でもうちの担任は朝から職員室に居る。ちゃんとした先生なんだ。でも、戸倉さんは、そういうのが苦手なんだ。

「おう、寺井、ちょっと」

 日誌をとって「失礼しました」を言おうとしたら担任に呼び止められる。

「はい、なんでしょうか?」

「進路希望なんだけど」

「はい」

「『その他の選択』はいいんだけど、異世界・勇者というのはなんだ?」


「え……あ……(;゜Д゜)」


「なにかのナゾか?」

「あ、ラノベとか読んでたんで、ちょっとボーっとしていて」

「ラノベもいいけど、勉強もな。揺れる気持ちは分かるけど、元々は文学部志望なんだろ寺井」

「え、あ、はい」

「基本的な文学作品読まないと、大学じゃ試験対策の小手先ばっかりで四年間過ぎるぞ。『その他の選択』で揺れてないで、シャンと前を……」

「先生、これ! あ、ごめん、寺井さん」

 隣の金沢先生がスマホを手に割り込む。金沢先生は冴子の担任だ。

「うちの冴子が、見てください!」

「お、二宮……受賞したんですか!?」

「はい、高校生じゃ初めての吉野屋文学賞ですよ!」

「すごいなあ……」「え、どれどれ?」「わあ!」「ほんとだ!」

 目を丸くしてスマホを囲む先生たち。
 
 チラっと見えた画面には――大賞『犬のまほろば猫の高天原・二宮冴子』――の文字が他の受賞作を圧倒していた。

 そうだ、ファンタジー手当たり次第のわたしと違って、冴子は日本の古典専門だった。

「書き直します……」

「お、おお……」

 先生の生返事を背に教室に戻り、戸倉さんに「わたし書いとくから」と学級日誌を示して中庭に向かった。

 ここは、ほとんど元の世界だ。冴子が他人だと言うことを除いて、とても穏やかな感じ。この分だと、ヤックンともうまくいってるような気がする。ヤックンと言う名前を思い浮かべても、穏やかに温もって、胸を刺すような痛みは起こらないもの。

 それに、冴子は単なるラノベ好きを超え、オタクの殻を割って文学の階段を上り始めている。

 ラノベ好きと文学まっしぐら、似てるようで全然違う。

 冴子との間に波風が立つこともないだろう。

 いっそ、ここに留まれば……という気持ちもしないではないけど、わたしは数分花壇を前に立ち止まり。そして、空を仰ぐと部室に向かった。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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